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私、ただの料理人なんですけど、どうやら世界を救ってしまったらしいです  作者: 時雨
第一部:能ある料理人は爪を隠したいけど隠せない

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第十話:海竜、その涙の味

「うおおおおお!」

 ガルムが雄叫びを上げて甲板を蹴り、海竜が振り下ろした巨大な前脚をハルバードで受け止める。凄まじい衝撃に船が大きく傾くが、ガルムは歯を食いしばって耐え抜いた。


 その隙に、レオンとクラウスが海竜の巨体に駆け上がる。

「帝国式剣術!『鱗砕き』!」

 クラウスの剣が魔力を帯び、硬い鱗の一点を正確に貫き、砕く。

「そこだ!」

レオンが砕かれた鱗の隙間に剣を突き立て、ダメージを与えた。


しかし、海竜の反撃は苛烈だった。口から高圧の水流ブレスが放たれ、甲板を薙ぎ払う。


「聖なるホーリーシールド!」

クラウスが咄嗟に防御魔法を展開するが、あまりの威力に防ぎきれず、三人は大きく吹き飛ばされた。

「皆さん、しっかり!」

コノハの回復魔法の光が三人を包み込み、傷を癒していく。


「くそっ、キリがねえ!何か手はねえのか!」

ガルムが悪態をつく。その時、コノハが叫んだ。

「水の上です!雷の魔法なら、きっとよく効くはずです!」

「なるほど!」

レオンが膝を打つ。


コノハは両手を天に掲げ、詠唱を始めた。彼女の魔力に呼応するように、暗雲がさらに濃くなり、雷鳴が轟く。


「空よ、怒りを示せ!雷の槍となりて敵を穿て!――サンダー・ジャベリン!」

 幾筋もの雷の槍が、海竜めがけて降り注ぐ。海水を通して増幅された電撃が海竜の巨体を駆け巡り、さすがの海竜も苦悶の声を上げた。



 好機と見たレオンたちが再び攻勢に出る。だが、追い詰められた海竜は、最後の力を振り絞った。その口内に、海そのものを凝縮したかのような、恐ろしいほどの魔力が集束していく。


「まずい!直撃すれば船ごと消し飛ぶぞ!」

クラウスが叫ぶ。誰もが絶望に顔を歪めた、その瞬間。


「――そこですね!」


 コノハは足元にバリアを展開して海水を強く蹴り、空中へと高く跳躍した。その小さな体は、魔力砲の射線から逃れるように、海竜の頭上へと舞い上がる。

その手には、既に最大級の魔法が形成されていた。


「聖なる光よ、天罰となりて降り注げ!――天の裁き(ジャッジメント・サンダー)!!」

 これまでとは比較にならない、天を裂くほどの極太の雷が、無防備な海竜の頭上から直撃した。


 断末魔の叫びと共に、巨大な竜の体は力を失い、ゆっくりとエメラルドグリーンの海へと沈んでいった。


 静けさを取り戻した海上。四人は荒い息をつきながら、勝利を噛み締めていた。

「……やった、のか?」

「ええ、我々の勝ちです」

 船乗りたちの歓声が、海に響き渡った。


 一行は、海面に浮かぶ海竜の亡骸を調べ始めた。

「それで、『海竜の涙』はどこにあるんでしょうか?」

コノハが巨大な頭部を調べていると、クラウスが何かを見つけた。


「コノハさん、ここを見てくれ」

彼が指さしたのは、海竜の巨大な目のすぐ下。そこには、海の光をすべて閉じ込めたかのように、青く美しく輝く雫型の宝石が、鱗の隙間にいくつも付着していた。それはまるで、竜が流した涙が、その場で結晶化したかのようだった。

「これが……『海竜の涙』……」

レオンが感嘆の声を漏らす。



 コノハは、その中の一つをそっと指で剥がし取ると、好奇心を抑えきれずに、ぺろりと舐めた。

その瞬間、彼女の黒い瞳が、星が瞬くように輝いた。

「……しょっぱくて、でも、すごく深くて……美味しいです!これは、最高の調味料になりますよ!」


 満面の笑みで宣言するコノハに、レオン、ガルム、クラウスは呆れながらも、思わず笑ってしまった。結局、彼女の推測は半分当たっていたのだ。


 そしてコノハは、静かに横たわる海竜の巨体を見つめ、にっこりと笑って言った。


「それにしても、こんなに大きな体……きっと、食べ応えがありますよね!船長さん!解体を手伝っていただけませんか?」


 その言葉に、安堵の空気に包まれていた船乗りたちは、皆一様に固まった。

「至高の一皿」の食探求の旅は、まだまだ終わらない。


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