皇帝陛下とご対面
後日、僕はにーにーと共に皇宮に呼び出された。
にーにーは僕の手を握って離さない。
僕はもう片方の手に、うさぎちゃんのぬいぐるみを抱きしめる。
ベルクさんも、僕の後ろをついて歩く。
皇宮で働く人々は、僕らを見てあれが例の…とこそこそ話していた。
「…アイドちゃんのおかげで、大分有名人になっちゃったね」
「そうだね、好奇心や好意的な眼差しもあるけれど…差別意識ばりばりの嫌な目もある」
「そうだね。でも好意的な眼差しもあるだけいいよ」
「アイドには感謝だね」
「ね」
そして謁見の間にたどり着く。
僕はにーにーに連れられて、中に入った。
跪き、首を垂れ、その人が現れるのを待つ。
「…」
「…」
そして、その人は現れた。
「よく来たな、フェーダ。バルム坊もご苦労」
頭は上げない。
まだダメだ。
「そんなに堅苦しくする必要はない。表を上げよ」
顔を上げる。
そこには優しげな人。
でも、きっと見た目ほど優しい人ではないだろう。
「皇国の獅子にご挨拶申し上げます」
「よい。それよりフェーダ。そなたの婚約者…なかなかの美丈夫だな」
「!」
「なに、取って食ったりはせん。そんなに怯えなくてもよろしい」
…この人、苦手だ。
「それよりバルム坊、よく来たな。菓子でも食べるか?」
「いえ、その」
「遠慮はいらぬぞ」
「あの、ありがとうございます。でも」
「ふむ。子供なら菓子で釣れると思うたがな」
なかなか思慮深い子なのだなと皇帝陛下は微笑む。
でも、目が怖い。
断るべきじゃなかった?
どうすればよかったのかな。
「ところでフェーダ。お前の働きは実に見事だ。おかげでこの国は助かっておる」
「ありがたき幸せ」
「よせよせ、世辞ではないのだ」
「…」
「だがな」
皇帝陛下は静かに言った。
「リュキア教から、最近のお前はあまりにも身勝手過ぎると苦情が来ておる」
「身勝手、ですか」
「同性愛、同性の者との婚約、同性愛を語る小説の流布…」
「…私共はただ、己の愛を貫いているだけに過ぎません」
「だがそれが、保守的な考えを持つ者たちを困らせている」
ごもっとも。
でも、僕たちは引き下がる気はない。
「だとしても、婚約は解消しませんし作家の活動も止めませんよ」
「そうか、ここで引いてくれれば助かったのだが」
「無理ですね」
にーにーも引く気はないらしく、毅然とした態度でお断りする。
「ならば仕方あるまい」
「…」
「物理的に引き離す他ないな」
「…!」
にーにーの顔色が悪い。
わかっていたこととはいえ、結局こうなるのかと僕は内心舌打ちしていた。