腐女子の創作物のモデルにされた、本は飛ぶように売れた
相談があるとのことで、アイドちゃんと初の接触を試みることになった。
のだが。
「はじめまして、でいいのかな。よろしくね、アイドちゃん」
「はわわわわ…推しが、私を認識してる…?!」
「引き取った時以来だね、アイド。それで俺たちに相談があるんだろう?とりあえずソファーに座りなよ」
「お、お二人の部屋のソファーなんて恐れ多くて…!」
「柱の影から覗き見してきた子のセリフとは思えないね」
にーにーの何気ない軽口に、アイドちゃんは青ざめる。
「はわわわわ…や、やはり切腹するしか……」
「いやいいから!大丈夫!気にしないで!ちょっとにーにー?」
「ごめんごめん、あんだけガン見してきておいてこんな繊細な子だとは思わなくて」
「てぇてぇ…!!!」
何故か僕らの様子に手を合わせて拝むアイドちゃん。
僕たちの唖然とした様子を意にも介さず、てぇてぇと呪文のように繰り返していた。
確か意味は…尊いだったかな?
ていうかこの子も転生者?
「えっと…君、もしかして転生者?」
「え…まさか!」
「俺とバルムも転生者だよ」
「どちらのご出身で!?」
「僕もバルムも日本出身。関係性も前世とそう変わらないよ」
同郷!いやそんなことよりお二人がてぇてぇ!とまた叫ぶアイドちゃん。
どうやらアイドちゃんも日本出身の腐女子だったそうで。
でも現在の我が国では国教のリュキア教が色々厳しいから生きづらいらしい。
この熱のこもり方を見るに、前世では相当な熱量の同人作家だったんじゃなかろうか。
そりゃあ生きづらいだろうよ…と思う。
「それでですね、相談なのですが…」
「いやだから立ったままじゃなくてまずはソファーにお座り」
「は、はい、失礼します…!」
ドキドキしているのが顔に出てる。
興奮冷めやらぬ様子のアイドちゃんは、少しの間小さく深呼吸してから言った。
「お二人をモデルに創作活動をしたいのですが、本を刷って売ってもよろしいでしょうか!?」
「えっ…」
「はい採用」
「えっにーにー!?」
「その、このアイド…即決で採用していただけて本当に嬉しいです!」
誇らしげなアイドちゃん、楽しげなにーにー、困惑する僕、僕らから露骨に目を背けるベルクさん。
なんとも言えない展開になってしまった。
「ところでその、バルム様は…お嫌だったりしませんか?」
「え?」
「もしご本人たちがお嫌なら無理に活動は致しません。どうでしょうか…」
急にしょんぼりするアイドちゃんに慌てて言う。
「嫌ではないよ!ただ、ほら、こういうのって綺麗な側面ばかりでもないから…現実の対象を創作に活かすのは大変そうだなって」
「大丈夫です!そこは脚色で誤魔化します!」
「そ、そう…」
というわけで、アイドちゃんは連日連夜僕たちをモデルに本を書き続けた。
そして本を自費で刷って売った。
なんとその本は、女性を中心にブームになり飛ぶように売れてしまった、らしい。
にーにーとアイドちゃんの懐は大分温かくなったそうだ。
 




