可愛らしい女の子
ある日、ミノス教に新たに女の子が入信してきた。
その子は行くあてもない状況で、この宗教施設を頼ってきたらしい。
そこでこの子の自立の目処が立つまでは他の教徒たちと同様に面倒を見ることになった。
なのだが…。
「…うーん」
「どうしたの、バルム」
「………ううん、なんでもない」
なんでもある。
が、にーにーには隠し通さなければならない。
というのも、にーにーの嫉妬が怖いからである。
何故ならば。
「………」
「………」
あちらの柱の影に隠れている女の子は、前述の新たな教徒。
可愛らしい女の子なのだが、何故か影から僕をじっと見つめてくる癖がある。
話しかけて来たいのかな、と思ってこちらから近寄るとめちゃくちゃ早足で逃げ去るし。
自惚れだけれど、もしかしたら好意を寄せてくれている可能性があるかもな、なんて思ってしまう。
その場合、にーにーの嫉妬がとても怖いので言い出せないのだ。
「…バルム?あっちになにかあるの?」
「え、あ、ううん。ただちょっと気になっただけ」
「気になった?」
「うん、ほら、廊下の飾りが最近変わったから」
「ああ、バルムが好みそうな装飾にしたからね。気に入ったならよかった」
にこっと微笑むにーにー。
うん、廊下の装飾はレースをたくさん使ったお花のモチーフのものに変わっている。
すごく可愛らしい。
なんなら柱の影から僕とにーにーを見守るあの子にも、よく似合っている。
ちなみにあの子は紫色の長いストレートな髪を三つ編みにして、大きなメガネをかけて、そのメガネの奥に青い瞳を隠している華奢な子だ。
「きっとおしゃれさせたら、可愛いのになぁ」
「うん?誰が?」
「………え、あ、ベルクさんが」
咄嗟にベルクさんの名前を出す。
にーにーがベルクさんをチラッと見る。
ベルクさんはあの子の存在に気付いているらしく、僕があの子を心配しているのもわかってくれているようで、否定の言葉は言わないでくれた。
「…恐れ入ります」
「えっと、うん、おしゃれしたらきっと可愛い…と思う」
「ベルクが可愛い…?せめてかっこいいじゃない?」
「あ、うん、そうだね、かっこいいと思う!」
「………恐れ入ります」
ごめんね、ベルクさん!
あとで僕の分のおやつ一口あげるから!
それはそれでにーにーが嫉妬しそうで怖いけど!!!
などと思いながらちらっとあの子を伺うと、何故か爪を噛んでこっちを見て来た。
えー………本当になんなんだろうか。
「それより巫女様、バルム様。そろそろ急ぎませんとお祈りのお時間に遅れますよ」
「はいはい」
「にーにー、はやくはやく!」
「バルムは可愛いなぁ」
その様子を今度はハアハアと怪しげな様子で見つめていたあの子に、僕らが気付くことはなかった。




