にーにーがブチ切れた!
眠ったバルムを見て、優しく頬を撫でる。
「ちょっとだけ、ごめんね」
起こさないようにベッドから抜け出して、部屋を出る。
当然のようにベルクが待っていた。
「まあ、わかってるよねぇ」
「はい、お守りできず申し訳ございませんでした」
土下座されるのを見下ろして、どうするか考える。
バルムは確かに簡単にバッドモードに入る繊細な子だ。
でも繊細なりに勝手にバッドに入るのではなく、何かしらの理由があってバッドに入る。
つまり理由となる何某かがあったのだ。
「で、なにがあったの?」
「実は…」
とある教徒が、バルムが聞いているとも知らずにバルムを哀れだと断じたらしい。
それを優しく包み込む巫女様は素晴らしいと俺を持ち上げていたらしいが…余計なことをしてくれる。
「土下座はもういいから、後の処理を頼むよ」
「どう致しますか?」
「その教徒は誰か把握してるんだろ?」
「はい、もちろんです」
「処して」
ベルクがぴくりと肩を揺らす。
「………どのように」
「殺したいくらいだけどねぇ…まあ破門して追い出して…二度とバルムに近付かせないだけでいいよ」
ベルクの肩の力が抜けた。
「…それだけで十分なので?」
「不十分だけど、やり過ぎたら痛い目を見るのはこっちだからね」
「そうですか…」
ほっとした顔のベルクに釘を刺す。
「でも、お前が終始気遣うべきはその教徒じゃなくてバルムだよ。優先順位を間違えたらダメじゃないか」
「もっ…申し訳ございません…」
「まあ、次から気をつけてね」
「は、はい」
俺は話が終わると、バルムの元に戻った。
ベルクはまあ、今回の件で気を引き締めたことだろう。
また次があったら雷を落とすかもしれないけどね。
「バルム、ただいま」
小さな声でバルムに声をかけてそっと抱きしめた。
そして掛け布団をかけ直して、眠る。
「バルム、愛してるからね」
「………」
バッチリ聞こえてしまった。
ドアがちょっと空いてたから。
あと周りが静かだから声が響くから。
そしてにーにーがベッドから抜け出した時に僕がちょうど目を覚ましてしまったから。
…あー、ベルクさんごめんね?
破門される教徒さんもごめんね?
でもにーにーがこうと決めたらもうどうしようもない。
南無。
翌日、目を覚ましたら爽やかに笑うにーにー。
疲れた顔のベルクさん。
気まずそうな他の教徒たち。
教徒たちの数がいつもより一人足りないのは気のせいじゃないだろう。
「…バルム?どうかした?」
「ううん、何にも」
にーにーは知られたくないだろうから、知らぬふりをする僕なのでした。




