僕のこと
今世の僕は、まあ恵まれない生まれだった。
僕は記憶を持ったまま転生したので、勉強で困ることはなかったが…父親が酒乱でよく暴力を振るわれた。
母は色欲魔で、男を家に連れ込むことが多々ある。
そんな家で育った僕は、それでも前世で培った良識を活かして真っ当に生きていた。
幼い頃から働きに出されたが、職場では可愛がってもらった。
「多分、憐れまれてたんだろうな」
ぽつりと漏らす。
まあ、憐れみでもなんでも優しくされる分には問題ない。
食事も職場の賄いだけ。
給料は親に全額取られる。
若干七歳にしてこの扱いである。
「まあ、最悪な親だったよね」
でも、捨てる神あれば拾う神あり。
僕を憐れんだ職場の人の提案で、僕はこっそり逃がされて宗教施設に入れられた。
そこはこの世界オイローパの…この国サルペードーンの国教リュキア教…ではなく。
ミノス教の宗教施設で。
そこで、出会った。
「にーにー?」
「君はっ…!」
出会い頭に、ぎゅっと抱きしめられた。
にーにーと僕は、こうして再び出会ったのだ。
「じゃあにーにーは、この宗教施設で【神の愛し子】として崇められているの?」
「そうだよ。今世の俺の名前はフェーダ」
「僕はバルム」
「バルム…バルム。うん、良い名前だ」
「にーにーも、良い名前だね。あ、名前で呼んだほうがいい?」
クスクスと僕の言葉に笑うにーにー。
「慣れないことはしなくていいよ。にーにーでいい」
「にーにー」
「バルム」
にーにーは、今世では親を亡くして天涯孤独の身の上らしい。
この宗教施設の、神の子兼実質的なトップ。
この宗教施設では、巫女様と呼ばれているらしい。
にーにーは神の力を一部借り受けることが出来るらしく、豊穣の力でこの地域一帯を支えて宗教施設を構えたそうだ。
「これからはまた一緒に暮らせるね」
「うん、でもにーにーとはまた十二歳も歳の差があるんだね…」
「大丈夫。この国は歳の差婚にも同性愛にも理解があるから」
「でも両方はさすがになかなかないでしょ」
「まあそこは、俺がどうにかするよ」
出た、にーにーの根拠のない自信。
「にーにーらしいや」
「準備が整ったら婚約して、結婚しようね」
「にーにー、さすがにその話は出会って早々するにしたって…早すぎる」
「でも、いいだろう?」
そう言って僕の頬にキスをするにーにー。
もう、しょうがない人だなぁと僕は笑った。
そんなこんなが、今世の僕たちの出会い。
なおこの後、僕の今世の両親は何者かに襲撃されて病院送りになり酒も男もやめたらしいが…何があったのかまでは、知らない。
多分にーにーの仕業だろうなと思う。