8話、呼ばれない名前とライクな勘違い
[バリオン]の外で久々に揚げ物を作りまくった俺は満足して、夕日に照らされながら、赤髪ツンツンショートと帰路についた。
宿屋に戻ると紫ロングが俺達の帰りを待っていた。
「キンザンさん。待ってたんですよ、どちらに言ってたんですか?」
食堂に座っていた紫ロングが声をかけてきたので、嫌がる赤髪ツンツンショートを連れて、紫ロングに向かって歩いていく。
「よう、ベリーさん。どうしたんだ?」
「キンザンさん、明日の話です。どちらに行かれてたんですか、ニャアさんからは、昼過ぎにはクエストが終わってたと聞きましたのに」
紫ロングを凄い勢いで睨みつけている赤髪ツンツンショートをスルーしつつ、会話を続ける。
「ちょっと、街の外にいってたんですよ。明日の話でしたよね」
「そうそう、明日は朝早くから、出店しますので、場所の説明をしに来たんです」
そこから場所の説明、定番の広場かと思ったが、広場は料理大会の会場になるらしく、出店者の店は街中に決められた場所があるそうだ。
ちなみに紫ロングの店は、宿屋の斜め前の通路だった。
「近いな?」
「近い場所に決まったから、この宿にしたんですよ」
「わかったよ。明日は何をしたらいいんだ?」
「はい、明日は単純に調理済みのお菓子やパンの販売をお願いします。計算は問題ないようですし」
単純に店番だな、時給、銀貨1枚目(1000リコ)だから、いい稼ぎになるな。
まぁ1時間で最低5つは菓子を売らないといけないから、不安もあるんだがな……
焼き菓子が、大銅貨3枚(300リコ)
蒸しパンが、大銅貨2枚(200リコ)
どちらも、普通のパンが銅貨5枚(50リコ)と考えると高めの値段設定に見えるな。
「なぁ、本当にこの金額で俺を雇って大丈夫なのか?」
「あら? 心配ですか、大丈夫ですよ。焼き菓子としては、かなり安くなってますから」
話を聞いたら、この異世界では、焼き菓子は平均銀貨1枚から3枚らしいので、一般向けの値段設定になっているらしい。
食堂で話を聞いていると、背後から急に柔らかい何かに抱きつかれた。
「はにゃにゃ〜キンザン〜」
声でわかる、猫娘だな。
「おわ、ニャアか、びっくりした」
「会えて嬉しいにゃ〜、ムキルさんから注文をとって来るように言われたにゃ〜」
俺は厨房を見ると、ムキルさんが満面の笑みを浮かべて、親指をグッ! っと立てていた。
「はは、なら、俺はウサギ肉のシチューをパン無しで頼むよ」
「なら私も同じで、パンありでお願いします」
紫ロングが同じメニューを頼み、猫娘が赤髪ツンツンショートに視線を向ける。
「肉料理のオススメを2人前とレモのジュース、あとパン」
あれ? さっき、トンカツとか、肉巻きアスパラチーズを大皿で食べてたよな……
「はいにゃ、キンザンがパン無し、ウサギ肉のシチュー、ベリーがパンあり、ミアが肉のオススメ2人前、パンあり、レモのジュースだにゃ〜」
注文を聞いて、猫娘が走っていく。
普通に俺達、呼び捨てだったが他の客にもあんな感じなのか? 少し心配になるな……
注文した料理が運ばれて来ると猫娘が俺を見てニッコリと微笑んだ。
「ニャアは、明日には、この仕事が終わちゃうのにゃ、キンザンは、“食の祭り”が終わったらどうするのにゃ?」
「俺はこの街で冒険者登録したから、この街でぼちぼちやっていく予定だな」
「にゃにゃにゃ〜なら、ニャアも、この街に残るにゃ、キンザンと一緒にゃ〜」
嬉しそうに笑う猫娘、しかし、赤髪ツンツンショートと紫ロングの表情が引きつってやがる。
「あら、奇遇ですね。私もキンザンさんと居たいと考えてたんですよ、同郷のような話しやすさも気に入ってますし」
「いやいや、お前ら、おかしいだろ! なんでオッサンがいるから街に残るってなるんだよ! オッサンを見つけたのはボクなんだぞ!」
急に騒がしくなって、食堂の皆様からの視線が集まる。
正直、気まずい視線なんだよな……オッサンに可愛い女の子達が3人って、嬉しい状況なんだが、今も言い争うのは違うよなぁ……
騒いでいたら、ムキルさんからの注意が入り、俺達は解散となった。
部屋に戻ると赤髪ツンツンショートは、頬をふくらませて、赤髪プンプンショートになっていた。
「怒ってるのか?」
「怒ってねぇし! オッサンがモテても知らないし!」
ベットに座りそっぽを向く赤髪ツンツンショート、
あ、怒ってるわ、間違いないやつだな。
「だいたい、なんで皆、オッサンを気に入るんだよ……オッサンもデレデレだし……断らねぇし」
「悪かったって、ほら、俺はモテるタイプじゃないから、それに皆可愛くて、ついな」
嘘は言ってない。日本では、10数年以上彼女なしの悲しいロンリーガイだったんだからな。
「可愛いけりゃ誰でもいいのかよ! 見損なったぞオッサン!」
「そんなに怒らなくても……」
「怒ってねぇ、わかんないんだよ! なんか、モヤモヤして、オッサンが他のやつにデレデレしてんのが、スゴく嫌で、でもなんで嫌なのか分からなくて……なんか、分からないんだよ!」
……オッサンあるあるだが、勘違いしたら、ダメだ……この先の勘違いは赤髪ツンツンショートとの関係が危うくなる。
「悪かったって、そうだよな、オッサンの俺がデレデレしたら、嫌な気分になるよな……嫌なもん見せちまったな」
そう、オッサンがデレデレしてる姿は、かなりイタいハズだ。
年齢的にも、赤髪ツンツンショートからしたら、モテたように勘違いしてるオッサンの喜びなんか、理解出来ないだろうしな。
言ってて、悲しくなるが、これが現実だな。
「オッサン……」
「どうした?」
俺を見上げながら、さっきまでと違う小さな声で喋り出す。
「ボクは可愛くないよな……男みたいな性格だし、髪も短いし……」
「いや? 普通に可愛いだろ、どうしたんだよ」
「ベリーとか、ニャアみたいに、素直じゃないのにかよ……」
俺は窓を少し開けて、煙草に火をつける。
「いや、素直だろ? ベリーさんやニャアと比べたりすんなよ。人それぞれだしな、今も素直に口に出してるし、俺はそう言うの可愛いと思うぞ?」
「煙草吸いながら、言う事じゃないな……まぁオッサンだから、許すけどさ……あとさ」
「おう、なんだ?」
「なんで、アンリや、ベリーとニャアの名前は呼ぶのに、ボクの名前は呼んでくれないんだよ、ボクが一番最初にオッサンと知り合ったんだぞ……」
ん? 呼んでなかったか……呼んで……ない気がする。
「すまん、なんか、呼んでないな……」
「ボクが嫌いなのかよ、確かに無理矢理を部屋決めたり、口が悪かったり暴力だし……」
声が消えそうだな……だんだん小さくなってるな……
「悪かったな、ミ、ミア……そのなんか、呼ばないまま来ちゃってたな」
「無理に言わせて悪いよな、嫌いなら無理しないでいいぜ、ボクもずっとオッサンって呼んでるし……」
やべぇ、どうしたらいいんだよ。これはどっちなんだ!
ラブなのか、ライクなのか、普通に考えたらライクだよな!
「嫌いなんかじゃないぞ。俺もミアが好きだからな。少し乱暴なのも、なれたら可愛いしな」
「本当か? オッサン、ボクが好きなのか? ベリーよりもか? ニャアよりも?」
疑問形多くないか……だが、不安なお年頃だからな、こんなオッサンでも大切にしてくれる優しさに感謝だな。
「おう、誰よりもミアが大好きだぞ。これからもずっと一緒にいて欲しいしな」
「わ、わかったよ……そんなに言われたら、オッサンの言葉信じるし、ボクが一番なら何人オッサンが好きな奴いても、気にしないしな」
わかってくれたらしいな、両親を早くに失ってるんだから、寂しさとかもあるのかもな。
「ありがとうな。さて、明日に備えて寝ないとな。俺は床に寝るから、ミアはゆっくりベットに寝てくれよ」
「な、なんでだよ、オッサンも、一緒に寝たらいいだろ! それとも、さっきの言葉は嘘だったのかよ」
凄い勢いだな、嘘にしたくないが、狭いベットで、二人寝るのはまずいだろう。
はぁ、仕方ないな。頑張れ、俺の理性……間違えるなよ、フリじゃないからな!
「わかったよ。なら、一緒に寝るか」
「うん、オッサン、ありがとうな……」と、不意に頬にキスをされた。
「へ?」
「な、何驚いてんだよ! 言ったじゃんか、ずっと一緒にいて欲しいって、ボクはそれを受け入れたんだから、当たり前だろ……」
「お、おう……」
「あと、ボク以外に何人女を作ってもいいけど、一番はボクだからな! 約束だからな!」
俺は異世界で嫁が出来ました。
ライクじゃなく、ラブだったみたいだ。
「ミア、俺とずっと一緒に居てくれ」
「なんで、もう1回言うんだよ……照れるだろ!」
「はは、実は……」
俺は正直に話した。最初、ラブじゃないと思ってた事、だが、気持ちに嘘がないこと。
当然、赤髪ツンツンショートは、怒ったが、すぐに許してくれた。
「オッサン、ボクも大好きだからな……」っと、再度、キスをされた。
俺の理性はそこで途切れた。
おもしろい٩(ˊᗜˋ*)و 興味がある|ω・*)
とりあえずもう少し読んでやるか( ˙꒳˙ )
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