6話、水浴び、赤面、ベリーベリーストロングなんだが……
異世界にきて、まさかの宿無しになりそうだな。
日本だったら、適当に漫画喫茶などを利用するが、異世界だとそうもいかないんだよな……どうするかな。
△△△
部屋がない、異世界でいきなり、始まった野宿生活から、街中のホームレスになりそうだな。
「わかったよ。俺も、いきなり来て悪かったな。ムキルさん、別を探すよ」
頭を軽く下げてから、外に向かおうとした時、赤髪ツンツンショートが俺の前に回り込んで来た。
「オッサン、待てよ、何とかするからさ」
「いやいや、部屋がないんだから、しゃあないだろ」
なんか、必死なんだよな、両手を広げた美少女に、行く手をふさがれるなんて、男としては嬉しいがな。
「な、なら! ボクの部屋に住めばいいだろ!」
「な!」
「え!」
俺と宿屋の店主の声が重なった。
そして、俺より先に声をあげたのはムキルさんだった。
「お、お前な、本気なのか! 男と一緒に寝るきか?」
「あん? もう野宿で何回もオッサンとは寝てるから問題ないぞ?」
「な……!!」
口をあんぐりと開いたムキルさんが此方を見たので俺は首を左右に動かす。
「わ、わかった。ただ、ちょっとこい、若いの……」
若いって俺の事か? 俺、赤髪ツンツンショートからずっとオッサン呼ばわりなんだが……
赤髪ツンツンショートに聞こえないような小さな声で囁かれる。
「いいか、絶対に“避妊の魔符”を使えよ……鬼人族は子供が出来たら、鬼嫁になっちまうからな」
「な!」
「わかったな、魔符は、魔導具屋か医療ギルドに行けば、買えるからな、あと、防音の魔導具も買ってやれよ……頑張れ」
ムキルさんの言葉に俺が頭をガリガリ掻いていると、赤髪ツンツンショートが俺を下から見上げるようにしてやってくる。
「どうしたんだよ、オッサン? なんか、髪ぐしゃぐしゃじゃんかよ」
「あ、いや、何とか、他の場所をさが──いてぇ!」
喋ってる途中の全力の太ももキックに、俺はその場に転がり悶絶した。
「ボクが決めたんだから、いいんだよ! さぁ行くよ、オッサン」
痛みで足を押さえる俺を1番奥の部屋まで引きづる赤髪ツンツンショートの姿にムキルさんが手を振ってから親指を立てていた。
そんなムキルさんの小さな囁き「ありゃ尻にひかれるタイプだな」と聞こえた。
赤髪ツンツンショートに連れられた部屋は、畳3枚分くらいの部屋だった。
ベットに小さな椅子、小窓が1つあるだけの部屋に俺と赤髪ツンツンショート。
まずいよな! 年齢的にアウトだよな。
「おい、オッサン、その悪かったな……普段はちゃんと空き部屋があるんだぜ、食の祭りがあるの忘れててさ」
お、しおらしい顔、なんか新鮮だな、じゃなかった!
「だ、大丈夫だ。むしろ、ありがとうな。なんも分からない街で本当に助かったぞ」
「そ、それなら、良かった。なんか、迷惑掛けちまった気がしたから……ボクなりに気にしてたんだ」
「気にしてたのか、むしろ、お礼をしないとな。なんか欲しいモノとかあるか? 砂糖は色々ややこしくなるから、出せないが、他ならいいぞ」
肉がいいとか、フレンチトーストとか言うんだろうな。さて、何がくるかな。
「な、なら、あの甘いヤツくれよ……赤いやつ美味かったから」
少し照れてるのか、頬を赤らめた赤髪ツンツンショートの姿に俺のハートがオーバーキルされそうになるが、軽く深呼吸して飴玉を取り出し、袋をあける。
「ほいよ、おまた──」
「あーん……」
俺の前で口を開き飴玉を待つ、赤髪ツンツンショート……反則だろ。
急ぎ、口の中に飴玉を入れて、俺は明後日の方向をむく。
「オッファン、ありあとな」とニッコリ笑う表情に不意にドキッとする俺はやばいかもしれない。
「お、おう、気にすんな」
「なんれ、こっちみらいんだよ!」
「飴玉入れたまま喋るな、ベロ噛むぞ!」
俺の言葉に退屈だと目線が言っているが、今はスルーをきめる。
飴玉がなくなると同時に「よいしょっ」と、赤髪ツンツンショートが俺の目の前で装備の胸当てを外し始めた。
「な、何を!」
慌てる俺に、赤髪ツンツンショートは何かを理解したのか、真っ赤になって慌てだした。
「か、勘違いすんなよ! ボクは水浴びの準備で装備を脱いでるんだからな!」
慌てて、反対を向くと、カシャリっと、胸当てが外され、その後に腰の装備が外される音が聞こえる。
そして、俺の肩が軽く叩かれる。
「オッサン、オッサンも水浴び行くだろ。場所教えてやるから、一緒にいこうぜ……」
「あ、ああ、いくよ」
よくよく考えると、ずっと胸当てを装備して寝たりしていたのだ。1度だけ外したのは、森での水浴びの時だけだ、そう考えると俺の方が赤面しそうになっていた。
装備無しの赤髪ツンツンショートの後ろを歩きながら、宿の裏に向かう。
宿を囲うように高めの壁があり、井戸の前にはバケツが置かれている。
そして、俺達の前には既に水浴びをしている先客が居た。
腰まで伸びた紫のストレートな髪をした美しい白い肌の女性が水浴びをしていた。
後ろからでも分かるくらいに実った果実が水にぬれた髪の毛越しに見えている。
ほんの数秒、いや刹那と言えたが、赤髪ツンツンショートは俺の視線を見逃さなかった。
本日二回目の太ももキックが俺に決まる。
叫び声をあげた途端、紫ロングさんが俺達の方へ振り向く。
「びっくりした、大丈夫?」っと、予想以上の果実を実らせた細身の紫ロングさんが、一糸纏わぬ、生まれたままの姿で此方に向かってくると俺の意識が限界を迎えた。
意識が戻った時、俺の視線は地べただった。意識を失ったままの体勢だった。
そして、視線を正面に向けた瞬間、紫ロングさんのように、生まれた姿をした赤髪ツンツンショートの姿がそこにあった。
慌てて視線を逸らすと、俺の背後から「意識戻ったんですね」と声がして、俺の心臓が跳ね上がる。
「良かったです。目が覚められたみたいで安心しましたよ」
紫ロングさんが俺の後ろで笑っていた。
既にふわふわとしたワンピースを着ている紫ロングさんは、俺にだけ聞こえるように呟いた。
「黙っててあげましょうか? さっきみたいに、蹴られたら可哀想ですし、どうですか?」
「はは、アンタ、俺に何かさせたいのか?」
俺の前で、わざとらしく、しゃがんで見せる紫ロングさん。
「アンタじゃないですよ。私はベリーです。アナタは?」
「俺はキンザンだ……あと、見えてるぞ……」
視線の先には名前と違い、白い世界が広がっていたので、とりあえず、注意をしておく。
「…………」
「…………キンザンさんは、スケベェですのね……」
まてまて、なんで、日本語? 日本語だよな! いや、そうじゃない……
「俺は紳士なオッサンだよ」
「紳士は、見えても見ないふりをするモノです」
「そう言うやつを俺の故郷だと、ムッツリって言うんだよ」
「…………ミアさん! 目覚めた見たいですわよ!」
この女、会話を強制終了させやがった!
赤髪ツンツンショートがその言葉にビクッと、背中をさせて、頭から水を一気に浴びて、布で身体を一気に拭いていく。
見たらダメだと目をつぶりながらも薄目を開けてしまう俺はダメなオッサンだ。
「やっぱり、キンザンさんはスケベェですね……黙っててあげますから、後で話があるんで付き合ってくださいね」
耳元に囁かれる言葉に俺は黙って頷くしかなかった。
赤髪ツンツンショートが服を急いで着てから走ってくる。
「オッサン、大丈夫かよ……いきなり倒れて、悪かった。強く蹴り過ぎたよな……」
「いや、疲れが出ただけだ。気にすんな。俺も水浴びしちゃうから、先に戻ってて大丈夫だからさ」
「そうか、なら戻るよ。ベリー、アンタもいくだろ?」
「あら、私はキンザンさんに話があるので、まだいきませんよ?」
「な、なら、ボクも行かない!」
何故か二人に見られながら、服を脱ぎ、水浴びをする事になった。
何歳になっても、恥ずかしいという感情から逃れられないんだよな。
水浴びが終わり、二人の元に戻ると、赤髪ツンツンショートは顔を赤らめて下を向いていた。
その横では紫ロングさんがニヤニヤしながら、笑みを浮かべている。
なんだか、訳分からないな……
「と、とりあえず、宿の食堂で話さないか? ベリーさんも俺に話があるんだろ?」
「そうね、ここで話すのもアレですし、行きましょうか」
紫ロングさん改め、紫ロングと赤髪ツンツンショートを連れて、食堂に向かう。
何故かあきらかに不機嫌な赤髪ツンツンショートの表情が気になるが、どうしたんだかなぁ?
食堂の隅に座り、適当に注文を伝える。
ムキルさんではなく、可愛い猫獣人の女の子が注文を取りに来た。
「はいにゃ〜、紅茶1つと、レモのジュースが1つ、コーフィーが1つですにゃ〜」
元気に注文を取るとそそくさと、厨房に移動したムキルさんの元に向かっていく。
俺がコーフィー、赤髪ツンツンショートがレモジュース、紫ロングが紅茶だ。
わかりやすいが、レモはレモネードだな、コーフィーは、コーヒーだ。
紫ロングが話したいと言っていた話を聞いていく。
「実は、キンザンさんに頼みがあるの」
「頼みですか?」
「そうそう、実は“食の祭り”に料理を出すんだけど、試食係を頼みたいのです」
そういえば、食の祭りなんて、イベントがあったな……そのおかげで赤髪ツンツンショートと相部屋だしな。
「はあ、試食係ですか?」
「ええ、簡単な頼みでしょ、お礼もするわよ」と言いながら顔を近づけて、赤髪ツンツンショートに言えないような事を耳打ちされる。
「……ベリーさん、落ち着いてくれ、話はわかったから、お礼は大丈夫だから」
「あら残念です。ふふっ、なら契約成立ですね。時間が無いので今から、私の部屋に来てください。二階に借りてますので」
トントン拍子に話が進む中、待ったがかかった。
「待ちなよ! オッサン、何勝手に話進めてんだよ! 警戒しろよな!」
赤髪ツンツンショートが紫ロングを睨みつける。
「ベリーさん、アンタなんでオッサンに料理食べさせたいんだ?」
「あら、ヤキモチかしら? 私は別に誰でも構わないのよ、ただ、キンザンさんが面白そうだから、頼んだのよ」
結果、三人で紫ロングの部屋に向かうことになった。
2階は部屋の間隔が1階より広く、案内された部屋も赤髪ツンツンショートの部屋よりずっと広い部屋だった。
適当に椅子に座らされると、すぐに紫ロングが幾つかの焼き菓子を渡してくる。
「近くに調理場を借りてるの、そこで作ったものよ」
食べてみて、1つは蒸しパンに似ている。砂糖も卵も使ってないのだろうが、モチモチしていて美味い。
次はクッキーだが、サクサクしていてこれも美味いな。
どちらもココナッツミルクのような味がするので、甘さを出す為に入れてるんだろうな。
「かなり美味いですよ」
「それなら、良かったわ。実は本番の日も手伝いをお願いしたいの、キンザンさん頼めるかしら?」
「あはは、いやあの……」
悩む俺を見かねたのか、赤髪ツンツンショートが立ち上がる。
「ダメだぞ、オッサンはクエストやらないと駄目なんだからな! オッサンも悩むなよな!」
安定のツンツンだな。だが、ありがたい。
「と、言うわけで、すみません、ベリーさん。店の手伝いはお断りします」
頭を下げて、断ると、赤髪ツンツンショートは勝ったとドヤ顔をしていた。
「うーん、なら、依頼ならいいんですね」
人差し指を口に当てながら、紫ロングが笑っている。
さっきまで勝ち誇っていた赤髪ツンツンショートの顔が一瞬で苛立ちにかわる。
「アンタ諦めろよな! 普通、依頼にしないもんだろ!」
「あら、私、人を見る目はあるのよ? キンザンさんが気に入ったの、だ・か・ら、諦めないんです」
流れに押し切られて、今日は休息、明日はクエスト、3日目は食の祭りのお手伝いが決まりました。
紫ロング、コイツ、意外に押しが強すぎなんだが……
おもしろい٩(ˊᗜˋ*)و 興味がある|ω・*)
とりあえずもう少し読んでやるか( ˙꒳˙ )
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