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56話、解放を望むものと望まない者

  まさかの臨時休業を知らされてしまったが、過ぎた事を考えても仕方ないと、悩む頭を無理矢理に切り替えていく。

 寧ろ、必死に切り替えたと言うべきだろう。

 人の感じるマイナスなイメージは本当に粘着質で困っちまうけど、根っからの性格だからしゃあないか。



「とりあえず、仮奴隷の部屋にこれからどうするか聞いていくとするよ」


「キンザンは相変わらず、マイペースだにゃぁ」

「まったくです。ご主人様が早いのは料理の仕込みと、女性を手篭め(てごめ)にする速度くらいですからね」

「よく分からないけど、マスターはマイペースなの」


 言いたい放題言いやがって、まぁ事実だからいいが、それよりポワゾンは後で絶対に叱りとばしてやるからな!


 軽くポワゾンに出来る限り、優しくも鋭い視線を向ける。

 普通なら、叱られる事を想像出来るだろうに、ポワゾンのやつは何故か顔を赤らめて“……ポッ……”ってなってるし、頭が痛いわぁ。


「はぁ、ポワゾン、とりあえず……次のご飯でデザート抜きな」


「え、あ、あの……ご、ご主人様、き、聞き間違いでしょうか? ワ、ワタシの、デ、デザートがナシですか?」

「いや、ナシじゃなくて抜きだ。言葉遊びはしてやらないぞ。少し反省してくれよ」


「ご主人様、ワ、ワタシは、デザートが生きがいです、ワタシに死ねと言うんですか!」

「大袈裟か!」


 こんなやり取りに、溜め息を吐いたミアが俺の手を引っ張り廊下に出されると奴隷部屋へと手を引いて案内してくれる。


「ミア、悪いな助かるよ」

「オッサンはいつも、フラフラしてて、危なっかしくて、なのに無茶ばっかりしてるし……本当に頼りないのに、頼りになるって言うか……」


「褒めてくれてありがとうな。ミア」

「別に褒めてないからな! それよりも、ちゃんと話を決めてやれよな、そうじゃないとさ、奴隷達(アイツ等)も、辛い選択をする事になっちまうからさ」


 ミアの言葉を重く受け止めながら、俺は『レイラホテル』で借りているナギ達のフロアに到着した。


 この『レイラホテル』は中心から“コの字”のように通路が続いており、どちらからでも通る事が出来る構造になっている。

 そんな左右が同じ構造をした1フロアを全て借りているんだから、流石の俺も金銭感覚がバクってきたんじゃないかと感じてしまうな。


 扉の前に立って、一呼吸を入れてから、ノックを数回する。返事が返って来てからドアノブを回す。

 室内には3人の亜人種族(三ツ目族)の女性が共同で使っており、突然の訪問にも関わらず俺を出迎えてくれた。


「主殿、どうなさったのですか?」と三ツ目族の女性が質問して来たので簡単に目的を説明していく。


 説明を聞いてから、三ツ目族の女性達は顔を見合わせてから、全員が頷くと俺に深く頭を下げてくる。世に言う土下座スタイルであり、俺取り乱してしまったが、ミアに脇腹を軽く小突かれた。


「落ち着けよな、オッサンの悪い癖だぞ?」

「あ、あぁ、そうだな。済まなかったな先ずは話を聞かせてくれ、なんでそんなに深く頭を下げてるんだ?」


「は、恐れながら……発言をお許し頂き感謝致します。我々、三ツ目族は一族の掟で郷を抜ければ二度とその地には戻れないのです。ですので……このまま小間使いでも構いませんので傍に置いては頂けないでしょうか、お願い致します」


「「「お願い申し上げます」」」


 結局、3人の三ツ目族の女性達は俺の傍を離れない選択をされた。


 他の部屋に移動して再度、同じようにノックしてから部屋に入る。


 獣人族 (兎人族)(熊人族)(狐人族)の部屋だった。熊人族がずんぐりむっくりの恰幅のいい男性であとは女性という組み合わせの部屋だった。

 3人は厨房調理組だったらしく、話をすると少し困ったような表情を浮かべていた。


 そして、熊の獣人が手をあげる。


「喋っていいよ。意見を聞きたいからさ」


「ありがとうございますだ。オラはダインと申しますだ、他の2人は兎人族がミミ、狐人族がコン、オラ達は皆料理ができます。でも……獣人だから、普通の店では雇って貰えません。解放されても、職につけなければ……」


 名前が、ダイン以外、安直だな……まぁ話を聞いて思った事を伝えるとするか。


「ダインだったな、料理が出来るなら、獣人の集落とかで料理人をやるとか?」


 ダインは、小さく首を振った。


「獣人は基本、奴隷にされたら使い潰されるのが常識ですだ。もし解放されたと話しても信じては貰えねぇですだ」


「そうなのか? 故郷とかなら……」

「駄目だわさ、アッチの故郷、つまり、兎人の里は人間に捕まった奴を信用しないんだわさ」


「コンの郷もっス、戻っても……厄災を招くって言われる。それにコンは家族貧乏だったんっス、それで売られちゃったんっスよね、戻っても、また売られちゃうっス」


 世知辛過ぎんだろ! 奴隷って本当に人生の終わりじゃねぇか!


「わかった。つまり、解放は望まないって事でいいか?」


 3人が首を縦に振った事でこの部屋も解放を望まない結果となった。

 ただ、本格的にこれはマズイんだよな。流石になんか手段を考えないとな。


 次の部屋は狼人族の部屋で3人の狼人族のお姉様方が出迎えてくれた。


「いらっしゃい、新しい主人様。それでどうしたんだい? アタシ達に夜の相手でもさせたいのかい?」


 立派なメロンが6つ並んだ室内にミアが俺を睨みつけて来る。


「おっと、奥様がいるなら、違うみたいだね? 失礼したね。そう言う仕事を任されてたからついね。許しておくれよ」


 美しく艶っぽい笑みにドキッとしてしまう俺は怖い者知らずなのかもしれないな。

 心の中で煩悩退散と数回唱えてから本題を話す。


「へ、主人様、本気なのかい? 酔狂な話だねぇ、でもタダでそんな上手い話があるのかねぇ?」


「いや、普通に解放するつもりなんだが?」


「喜ばせて、落とすってのを楽しむタイプには見えないが……本気なのかい」


 何度目かのやり取りでやっと信じてくれたな、本当に良かった。


「なら、奴隷としてじゃなくて、愛人として囲いたいのかい?」

「なんで、そうなるかな……素直に受け取れよな」


「わかったよ。ならアタシ達は有り難く、解放して貰うとするよ」

「わかった。少し待ってくれよ。確か、念書に──」


 俺はイヤーノから無理矢理譲渡させたい際の念書を取り出し、その中から3人の名前を本人達に選んで貰う。


「なら、ウルグ、フェイ、ファンの3人を解放するっと、よし出来たぞ」


 3人の胸元に刻まれた奴隷印がゆっくりと(もや)になって消えていく。


 奴隷印が消えた瞬間、3人の眼が潤み、自然に一筋の涙が流れ落ちていた。


「これで大丈夫だな。まだ部屋は取ってるから、旅立つ時は言ってくれよ。次があるからいくな」


「主人様、度重なる無礼深くお詫び申し上げます。この御恩はこの身が尽きても忘れる事は無いと誓います」


 深々と頭を下げる姿に俺も頭を下げてから部屋を後にした。


 何処か、獣人や亜人って種族に人間より人間らしさを感じるのが不思議でならないな。


 その後、同じような事が何回かあったが、解放を受け入れる者もしっかりと存在していた。

 冒険者として生きる道を決めた者達は直ぐに[カエルム]を離れると言う者もいた。


 その為、『冒険者ギルド』に行く前に『警備兵団』のブルーノを頼るように伝え、手紙を渡す事にした。


「旅立つなら、装備なんかも必要になるだろうから、資金を渡すよ。素直に受け取ってくれ」


 そんな言葉を掛けながら、金貨10枚が入った皮袋を各自に渡していく。


 普通なら有り得ない行動だろうが、仮でも俺が主人になったなら、最低限の資金は渡してやりたかったからだ。


 そして、最後の部屋の扉をノックする。


 この部屋はナギの居る部屋だ。

 扉を開いた瞬間、凄まじい速度で蛇の尾が俺に巻き付き、一気に引きずり込まれた。


「うわぁぁぁ!」

「お、オッサン!」


 尻尾の先にはナギがおり、ぐるぐる巻きにされたと思った瞬間、頬に頬擦りをされた。


「マイマスター、会いたかった」


 あまりの力に骨が軋むんですが!


「ナ、ナギ、ち、力を緩めてくれ、息が、骨が……」


 ミアも必死に引き離してくれたおかげで何とか解放された。

 解放に来て解放されるなんて、本当になんだかな。


「ナギ、本当にびっくりしたからな、はぁはぁ……」

「ごめん、マイマスター」


 反省をしてくれてから、改めて室内を見れば、蜥蜴人族とナギとは違う蛇人族が隅で静かに座っていた。


 そこから、本題に入り、やはりナギは残る側であり、他の2人は解放を選んだ。


 1番、奴隷解放を望んでた筈のナギが奴隷を選ぶってのも不思議な話だが、それでもそうなったなら仕方ないな。


 とりあえず、奴隷とて残るって決めたメンバーをどうするかって話だな。悩みの種はまだまだ尽きなさそうだな。

読んでくださり感謝いたします。

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