5話、赤髪ツンツンショートが可愛いすぎる件とギルド説明
いつもながら、煙草を吸う自分は、日本では生きづらい側になっていたんだなと感じます。
健康ばかりの世界では、景色を楽しみながら煙草を吸う事すら出来ないしな。
「オッサン、ずっと煙草ばっかりだな? そんな高級品を馬鹿みたいに吸ってると本当に困った時に泣きを見るぞ!」
「悪い悪い、だが、こいつだけはやめられなくてなぁ」
俺と赤髪ツンツンショートが笑いながら話していると先頭を歩くアンリさんが此方に話しかけてくる。
「二人とも、もうすぐ[バリオン]が見えて来るのだよ」
森で二日間を過ごし、やっとの思いで森を抜けた。
俺達は無事に[テピアの草原]を抜けて[ミリミナの森]を進み、[バリオンの街]が見えてくる。
森の入口から見える場所に巨大な門と防壁が円状に作られた都市があった。
「すごいな、東京ドーム何個分だよ」
「トウキャウドウム? なんだよそれ?」
「いや、あまりにデカすぎて、訳わかんない言葉が出ただけだ、意味なんかないんだすまん」
赤髪ツンツンショートの言葉に俺は返答に困ったが適当に言い訳をしてその場を切り抜ける。
「まぁ、いいや、アレがボク達の住む、夢の始まりの街、大都市[バリオン]だ」
「随分とすごい名前だな?」
「まぁ、冒険者や他にも調理師、商人、色んなギルドがあるんだぜ。オッサンの夢ってやつ、アレだ。『フライデー』もできるぞ!」
「夢の叶う街か、悪くないな」
楽しく夢を語る最中、アンリさんが先頭を歩き、門の前で止まる。
入口でのチェックも厳しいものになると考えていたがアンリさんと赤髪ツンツンショートが身分証を提示して、あっさりと門の内側に通されていく。
俺も発行したばかりの身分証を門番に手渡す。
「アンタ、[バリオン]は初めてなんだな? 中で問題を起こした場合、兵士を呼ばれる事になるから、注意するように」
強面な門番さんにそう言われて、直ぐに首を縦に振る。
「あと、初めての者は銀貨3枚が通行料になる。今回は先の二人から話を聞いて、通行料を貰っているが、次からは銀貨1枚が通行料になるから、早く何処かのギルドに所属しろよ。期待してるぞ新人さんよ」
「あ、ありがとうございます」
「言い忘れてたな。ようこそ、夢の始まりの街[バリオン]へ」
さっきまで厳しそうな表情を浮かべていた門番さんが、優しそうに微笑んでくれて、俺は再度頭を下げた。
そう言われ俺は大都市[バリオン]へと足を踏み入れた。
「遅いぜ、オッサン! 早く来いよ」
俺が少しもたついたからか、赤髪ツンツンショートが軽くムクれている。
頬を膨らませらてる感じがハムスターみたいに見えるな。
「すまない、これやるから、機嫌、直してくれよ」
飴玉の袋を開けてから、それを手渡す。
「あふぁーい、なんらよコレ、うまいぞ〜」
赤髪ツンツンショートのハムスター笑顔、いただきました。
アンリさんはギルドへと報告に向かうと言うのでついて行く事にする。
ギルドってさっきの門番さんも言ってたな?
「ギルドについて、教えて貰ったりできますか?」
「ふむ、構わないのだよ。歩きながらになるのだがね、よいかね?」
「はい、お願いします」
ギルドについて、軽く説明してくれた。
[バリオン]には、『冒険者ギルド』『商業ギルド』『薬師ギルド』『農業ギルド』『鍛冶ギルド』の5つが基本の五大ギルドとなっている。
そこから、更に『民間ギルド』『回復師ギルド』『開発者ギルド』『錬金ギルド』『建築ギルド』と職業により、大なり小なり無数のギルドが存在している。
「そんなにギルドってあるんですか?」
「そうなのだよ。ギルドがないと国も都市もまわらないのだよ」
この各ギルドで『民間ギルド』は市民権などを取り仕切る市役所のような機関になる。
[バリオン]の市民権を手に入れる為に登録すると税金と引き換えに市民権が交付される。
他にも各ギルドに所属すると税金と市民権が発生する事になる。
その為、専業主婦や子供などは『民間ギルド』へ登録し、仕事がある者は各ギルドに所属する事になる。
因みに、貴族などは『貴族ギルド連合』と言う、貴族のみが入れるギルドを作っている。
「どうかね、長々と話してしまったが、今の説明でわかったかね?」
「はい、アンリさん、親切な説明をありがとうございます。」
ここまでの説明から、俺もギルドに所属しないといけない事実が明らかになった。
身分証はあくまでも、仮の証明でしかないようだ。
「つまり、俺も何処かに入らないとダメなんだな」
呟きを聞いて、アンリさんが頷き、俺に視線を向けて来た。
「あまり悩まずに考えるのだよ。自分に合うギルドがあればそこに入れば良いのだよ」
飴玉を食べ終えた赤髪ツンツンショートが、悩む俺に声を掛けてくる。
「なら、冒険者ギルドでいいじゃんか? クエストも最悪7日にいっぺんでいいんだしさ、クエストをしてれば、問題ないだろ」
詳しく聞いて見れば、冒険者ギルドは非常事態の際は、強制クエストがあるが、週1クエストを行えば他は自由だそうだ。
アンリさんは採取クエスト、赤髪ツンツンショートは、モンスター討伐などがメインになっている。
そして、数ヶ月に1度、[ヤヌンバの町]の周りに増えたモンスターを間引く為のクエストを受けているらしい。
最後は、アンリさんの言葉に背中を押された。
「それにギルドは必要ならば、三ヶ所まで登録できるのだよ。メインのギルドとサブギルドと言うやつだね。後から変更も可能だから、悩まなくて良いのだよ」
最大3つのギルドに登録できるし、変更可能なら問題ないな。
「なら、まずは冒険者ギルドに登録してみます」
アンリさんが笑って頷き、赤髪ツンツンショートは鼻歌を歌いながら、上機嫌になっている。
「なぁ、オッサン、冒険者は儲かるんだぜ!」
「そんなに儲かるのか?」
「当たり前だろ、オッサンの言ってたアゲモンのフレイレーだっけ? すぐに出来るかもな」
「揚げもん屋『フライデー』だよ。でもそうなら助かるなの」
話を聞いているとあっという間に冒険者ギルドに到着した。
[ヤヌンバの町]の出張所と違って、立派な看板のついた建物の中に入って行く。
冒険者ギルドと言うだけあって、強面の男性達が扉を開いた俺達に視線を向けてくる。
生唾をゴクリっと呑み込むと、赤髪ツンツンショートが前に進んでいく。
「オッサン、止まるなよ。それにギルドなんて、何処もこんなもんなんだからさ、それにさ……オッサン、意外に強いんだから自信持てよ」
堂々と歩いていく赤髪ツンツンショートの後ろを俺はついていく。
奥にあるカウンターへ向かった赤髪ツンツンショート。
俺はアンリさんに案内されて別のカウンターへと連れて行かれる。
「アンリさん、ここは?」
「このカウンターで登録が出来るのだよ。簡単な内容なのだが、文字は読めたりするかね?」
正直、あまり自信がないが、外の冒険者ギルドと書かれた文字が読めたので多分、大丈夫だろう。
笑顔が可愛いギルドの受付嬢さんが業務的な説明をしてくれる。
説明を聞いてから、出された用紙を確認して、内容が読める事に安堵してからサインをしていく。
登録料は銀貨5枚(5000リコ)だったので、金貨1枚をその場に置いた。
「はい、今、お釣りをご用意致しますね。大銀貨5枚と銀貨5枚、15000リコのお返しになります」
お釣りを受けとり、ギルドカードを受け取る事が出来た。
ギルドカードは鉄の板のような物で、角に小さな魔石が嵌め込まれており、魔石に一滴、血を垂らす事でギルド登録が完了した。
俺の登録が終わると赤髪ツンツンショートがやって来た。
「登録出来たんだな。良かったなオッサン!」
その笑みは心から笑っているように見えて俺も嬉しくてニッコリと笑った。
ギルドカウンターから、受付嬢が軽く“ゴホン”と咳払いをされて、説明の続きが開始される。
「いいでしょうか、キンザンさん、ギルド登録が完了しましたら、次にギルドクエストの説明をさせて頂きます──」
△△△
・クエストは7日に最低1つはこなさなければならない。
・クエストを受けるには必要ランクがあり、S・A・B・C・D・E・Fのランクが存在しそれに見合ったクエストを受注できる。
・クエスト報酬から税金が引かれた金額が報酬として渡される。
・クエストクリアはギルドの報告カウンターに報告完了が済んではじめて達成になる。
・税金に対して、引かれる額が足りない場合、強制クエストが発生する場合がある。
・クエストで採取もしくは、手に入れた物については、損傷や品質に問題がある場合、クエスト成功と認められない場合が存在する。
・クエストで怪我や命を失ったとしてもギルドは一切の責任を負わない。
・税金が払えない場合(クエスト実行が困難な場合)、ギルド側は強制退会をさせる事が出来る。
△△△
まぁ、長々とこんな感じだった。
命懸けの仕事だが、税金が絡んでるせいでファンタジー感はあまりないな……
説明後に、『理解しました』とサインを入れて、本当の終了となった。
正直、今日から1週間以内にクエストを受けていかないとならない為、色々と考えてしまうが、何より宿を探さなくちゃな。
「とりあえず、住む場所を決めないとだよな」
「オッサン呑気だな? 最初は普通、クエストでリコを稼いでから、宿を決めんだぜ」
赤髪ツンツンショートはそう言うと立ち上がり、壁際に移動する。
壁には大量の紙が貼られた木の板があり、そこから数枚の紙を剥がすと、此方に戻ってきた。
「ここら辺がいい感じだと思うぞ」
赤髪ツンツンショートが持って来た紙にはクエストが書かれており、どれも新人向けのものだった。
その中の1枚を赤髪ツンツンショートが指さしニヤリと笑って見せた。
「ウルフの討伐クエストがあるだろ、本来はEランククエストなんだけどな、これは一匹の時の話なんだよ、群れならDランク相当のクエストになるんだぜ」
「そうなのか? 俺ずっと、二人と戦ってたけど、あれかなり危なかったって事か?」
「よく言うぜ、オッサン、最初は守られてたけど、最後はウルフを解体しまくってたじゃねぇか」
両手を頭の後ろに組んで、赤髪ツンツンショートがニヤニヤと笑ってくる。正直、悪巧みを考えるお子様にしか見えない。
「つまりだよ、クエストを受けて、討伐部位を渡せば、成功になるんだよ。報酬は安いけどな、報告の保証人はボクがしてやるよ」
「おう、助かるよ。なら、感謝の気持ちだ。ほら、食べろよ」
赤髪ツンツンショートにイチゴの飴玉をあけていく。
飴玉に視線を向ける赤髪ツンツンショートは、まるで猫じゃらしを見る子猫のようだったので少し悪さをしてみる。
飴玉を右、左、と動かすとそれに合わせて、目で追いながら首を動かしている。
「はい、あーん」
「誰がやるかよ!」
「なんだいらないのか?」
少し意地悪くそう言って見ると、悔しそうな表情を浮かべた赤髪ツンツンショートが口を開く。
「1回だけだからな! あーん」と開いたので、飴玉を赤髪ツンツンショートの口に入れてやる。
我に返る赤髪ツンツンショートは真っ赤になり、俺にポカポカと叩き出す。
受付カウンターへと向かい、クエストを受注してすぐに、報告カウンターへと移動する。
「いらっしゃいませ、本日はクエストの報告でよろしかったでしょうか?」
報告カウンターから優しそうな男性職員さんの声が聞こえ、頷いてから、3枚の依頼書を手渡す。
討伐部位をカウンターに置いていく。
ウルフの牙と爪、ゴブリンの耳、角ウサギの角と肉、毛皮を次々に置いていく。
赤髪ツンツンショートが持ってきた3枚のクエストは以下になる。
・ウルフ討伐──討伐部位、牙と爪(5個で1セット)討伐数に上限無し、1体、銀貨3枚。
・ゴブリン討伐──討伐部位、耳、(左耳1本)討伐数に上限無し、1体、銀貨2枚。
・角ウサギ狩り──角ウサギの角(1本)銀貨1枚、角ウサギの肉大銅貨3枚。毛皮品質により変化あり、最大銀貨2枚。
これが赤髪ツンツンショートが俺の為に選んでくれたクエストだった。
ウルフもゴブリンも[バリオン]に来るまでの道中で嫌ってほど襲って来たので数はそこそこにある。
角ウサギも同様に[ミリミナの森]で数匹討伐している。
ウサギ肉は道中でシチューにしたが、それなりに残っているから問題ない。
まだ、血が滴る討伐部位に、カウンター越しに男性職員の顔を引きつるのがわかった。
「あ、あの、すみません。マジックバック持ちの方でしたら、解体場の方で出して頂いて大丈夫でしょうか……」
討伐部位を幾つか出した辺りで、そう言われ、俺はギルドの裏手に案内される。
倉庫の一角に置かれたテーブルへと討伐部位を並べていく。
・ゴブリンの耳──13個(13体分)
・ウルフの牙と爪──牙と爪、各150個(15体分)
・角ウサギの角──5本
・角ウサギの肉──4匹分
・角ウサギの毛皮──5枚
俺が次々に取り出した部位を見て解体場の職員さんが声を掛けてきた。
異世界の解体場で働くだけあって、海外のプロレスラーみたいなムキムキの筋肉と太い腕には驚かされる。
「珍しいな、こっちで受け取るなんてどうしたんだ?」
「すまないな、ディラさん、ギルドカウンターだと、受け取れなくてね」
「受け取れない、どういうことだ?」
「まぁ、ディラさんも、現物を見て貰えたら分かりますよ」
声を掛けてきた解体場の職員さんが出した討伐部位を覗き込む。
「いいマジックバックを持ってるみたいだな、こりゃぁ、新鮮だ。次の報告が楽しみだな、だははは!」
笑いながら、解体場のディラさんは、どっかに行ってしまった。
とりあえず、特別なマジックバック持ちだと誤魔化す事にした。
話してわかったが、この世界にもマジックバックが存在する。『錬金ギルド』や『商業ギルド』などで高いが購入も可能だそうだ。
二人が驚いていた理由は、単純に持ち込まれた討伐部位が新鮮すぎたからだと、理解したので、とりあえず、次から注意しよう。
「とりあえず、討伐部位は問題ないですか?」
「おっと、失礼。問題ありません。ウサギの皮もかなり綺麗に解体されていますので、ご安心ください」
ギルド内に戻ってから、討伐報酬を貰う。
ウルフが銀貨90枚(金貨4枚と大銀貨5枚)、ゴブリンが銀貨26枚(金貨1枚と大銅貨3枚)、角ウサギが本来銀貨14枚と大銅貨2枚だったが、毛皮の質がいい為、銀貨16枚(大銀貨8枚)になった。
結果、6日間で金貨6枚と大銀貨6枚となり、日本なら13万2000円の報酬になった。
1週間で考えたら、普通の仕事をするよりも、おいしいように見える。命懸けだが、嫌味な上司の小言もなければ、クレーマーもいない、最高じゃないか!
手にした金貨を【ストレージ】に入れて、待ってくれている二人の元に移動する。
「無事に報酬を受け取れたようだね。良かったのだよ」
「オッサン、あんまりニヤけんなよ、なんか変だぞその顔!」
二人の言葉に俺は自分が浮かれている事に気づいて、表情を治す。
考えて見れば、いきなり解雇された俺は、最後に振り込まれた退職金とは名ばかりの僅かな金額を思い出していた。
通帳に刻まれた18万3346円……給料かと疑うくらいには、少なすぎる金額だったな。
こんな事なら、嫌味な上司の髪をむしり取ってやれば良かったな。
「はは、稼ぎがあると思うと、何となく浮かれちまったな」
「うむうむ、新人あるあるなのだね。さて、ワシは家に帰らないとなのだよ。宿探しはミアに任せるのだよ」
「は? お、おい! アンリ、テメェ! あ、待てよ!」
アンリさんは、そのまま、冒険者ギルドをから消えていった。
「たく、アイツ、無茶苦茶言いやがって! はあ、オッサン、行くぞ!」
怒る赤髪ツンツンショートに連れられて俺も冒険者ギルドを後にする。
冒険者ギルドから30分程歩いた先で俺達は足を止める。
「ここがボクの借りてる宿だ、安いが裏の井戸で水浴びをタダで出来るオススメの宿だぜ。他の宿に泊まるなんて許さねぇからな、文句はなしだぞ」
勢いよく中に入ると、正面のカウンターに座る強面の男性。
「お、帰ったのか? 今回も無事で良かったな、ミア」
「ムキルさん、戻ったぞ。いつも通り、1ヶ月延長頼むよ。ほい、金貨3枚な」
「おう、確かに受け取ったぞ。また支払いは来月だな、で、そっちの新顔は誰なんだ?」
俺に視線を向けるムキルと呼ばれていた宿屋の店主さん。
「ど、どうも、宿を探してまして、部屋が空いてたらお願いしたくて」
「うーん、ミアの紹介か、泊めてやりたいんだがな……」
「どうしたんだよ? ムキルさん、頼むよ!」
「いや、泊めてやりたいんだがな、3日程、満室なんだよな」
「あ、そっか、忘れてた……『食の祭り』があるんだった」
どうやら、この3日間は[バリオン]で『食の祭り』と呼ばれる料理大会があるらしい。
料理人達が本気で店を出したり、気軽に素人がお菓子を作って売っていたりと、衛生面や食中毒を気にする現代日本では、まず、無理なイベントだ。
しかし、問題は別に存在していた……そう、俺の宿が無いことだ。
おもしろい٩(ˊᗜˋ*)و 興味がある|ω・*)
とりあえずもう少し読んでやるか( ˙꒳˙ )
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