47話、目的地は[癒しの街・カエルム]
食事を済ませてから、いつもの流れで洗い物を済ませて、一服に入る。
外に出て、夜空を眺めながらの一服……何処か一日の終わりを感じさせるこの瞬間が好きなんだよな。
「黄昏てますね。きんざんさん」
「もう、大丈夫か? フライちゃん」
「はい、とても楽しい時間でしたので、本当に元気が出ました」
「ならよかったよ。今なら遠出しても大丈夫そうだな」
「遠出ですか?」
不思議な表情で問い掛けて来たので、俺はニッコリと笑って見せる。
少し不安そうな表情で俺に視線を向けるフライちゃんは次第に、何処か申し訳なさそうな表情へと変化していく。
「せっかくフライちゃんが、転送陣を作ってくれたんだから、フライちゃんも一緒に行こうぜ」
「え、でも、あの……私が行ったら邪魔になりませんかね? 皆さんからしたら嫌じゃないでしょうか?」
なら、皆に聞いてみたらいいじゃないか──素直にそう言おうとしたが、背後からの隠す気のない複数の視線に気づき、俺はクスリっと、軽く笑みを作るとそれを口にするのをやめた。
間違いなく、嫌悪や不快感を感じるような視線じゃなかったからだ。
まぁ、俺の直感だから絶対ではないが、それでも視線は俺の信じる嫁ちゃん達なのだから、疑う気もないのだ。
「盗み聞きは良くないぞ〜皆もこいよ」
振り向きざまに確認すれば、そこには悪戯がバレた時に似た表情を浮かべた嫁ちゃん達が勢揃いしていた。
うん、あれだ! 悪戯がバレた中学が“ヤバっ!”っとなった時の顔に見えるな。
「なんで、分かるんだよ! オッサンにバレないようにボク達、上手く気配消してただろ!」
「甘いな、愛のある視線にオッサンは敏感なんだよ!」
「いや、キンザンさん。それは私でも、少し引くわよ?」
そんな手厳しい意見を心に刻みつつ、俺はフライちゃんの背中を軽く押してやる。
照れくさそうに嫁ちゃん達に視線を向けたフライちゃんは、ゆっくりと深呼吸してから、静かに、しかし、力のこもった声で喋り始めた。
「わ、私も──私も皆さんと同じようにきんざんさんと一緒に出掛けて見たいです……皆さんとも沢山話したいです。
いきなり現れて、そのイヤかも知れませんが、一緒について行ってもよろしいでしょうか!」
「構わないぞ。それに女神フレイ様なんだろ? なら、堂々と一緒に行こうぜ」
「そうにゃ! キンザンは強いオスだから、皆受け入れるにゃ、だから安心するにゃ〜」
「なの! マスターは凄いの! 逃げるそうめんも捕まえられるの! だから、お出かけで迷子になっても大丈夫なの!」
まぁ、こんな感じに、あっさりと女神フライちゃんの心配を吹き飛ばすように嫁ちゃん達は全てを受け入れてくれた。
多少のツッコミどころのある内容だったが、慣れた物でこれも大切な日常だと感じる。
「さて、話は決まったな。なら、明日からの予定をフライちゃんも含めて決めて見てくれ。女の子同士で決めるのが一番だからな、あと、俺の事は気にせずに決めろよ?」
気を使われるは、あまりいい気持ちはしないし、そんなんで皆に気を使わせるのは、ノーセンキューだ。
嫁ちゃん達とフライちゃんが一足先に室内へと入っていく。
煙草に火を灯し、夜の空に煙を軽く吐き出して、一日の終わりを再度感じながら一服を終わらせて室内へと戻った。
リビングで前と同じように楽しそうに計画を話し合う嫁ちゃん達、フライちゃんも加われば更に明るく華やかになっていくのが雰囲気からも察することが出来た為、俺は早々に風呂を済ませて、賑やかな話し合いが続くリビングを軽く覗き、先にベットへと移動した。
夜中に喉の乾きを感じて目覚めると嫁ちゃん達の姿が無いことに気づいた。不思議に思いながらも、階段を静かに降りて行くと仲良く寝ている嫁ちゃん達の姿があり、俺は静かに寝室に戻ると1枚ずつ全員に掛けていく。
「皆、おやすみなさいだな」小さく呟くように言うとリビングから移動して再度眠りについた。
朝目覚めて直ぐ、リビングに降りて行くと既に全員が起きて慌ただしく活動を開始していた。
リビングに入り、既に朝食の並べられたテーブルに腰掛ける。
「はいなの。マスター飲むの」
「ありがとうな、眠そうだな、大丈夫か?」
少し眠そうなドーナが水を持ってきてくれたので、有難く頂く事にした。
並ばられた朝食は食材庫から持ってきたのだろう、オーク肉の薄切りを塩コショウで焼いた物をパンに挟んだサンドイッチ風のパンに野菜の千切りのスープとなっている。
いい香りを纏った湯気に朝を迎えた胃袋を刺激していくのを感じた。
「美味そうだな。皆、朝から頑張ってるな。驚いたよ」
「まぁ、なんか目が覚めちまったんだよ。あと、オッサン……ありがとうな、掛け布団、嬉しかったぞ」
少し照れたような表情の嫁ちゃん達が素直に可愛かった。
朝から本当に役得だな。ミアを始め、皆の表情をニヤニヤとしながら見てしまう。
フライちゃんも同様に照れてる姿を見ていると何故か、そっぽを向かれてしまった。
「あ、あんまり、見られたら……恥ずかしいです」
「あはは、悪かったな」
軽く会話をしていると全員がテーブルにつく。
全員で食事前に手を合わせてから食事が開始される。
シンプルに塩コショウだけの味付けだが、嫁ちゃん達の愛が詰まってると思うと更に美味しく感じるのはなんでだろうな?
ある程度、生活水準が整った世界なら、コンビニ弁当や調理済みのお惣菜なんかじゃ感じない気持ちなんだよな。
自分語りみたいになるが、本当にコンビニ弁当は有り難いが味気ないからな。日本に住んでいた時の自分を考えれば、今の生活は眩し過ぎるんだよな。
忘れてたブラックな人生をこんな風に思い返す日が来るなんてな。こんな考えが出来るくらいには今を楽しめるようになれたんだな。
「──なぁ、オッサン! 何をボーッとしてるんだよ。なんか、しんみりしてるしさ?」
「あ、悪い、悪い。少し昔の事を思い出してたんだ。悪かったな」
「謝りすぎだって、悪くないだろ? オッサンにどんな過去があろうと、ボクは! いや、ボク達がオッサンの傍にいるんだからさ!」
「そうね。キンザンさんの過去より今のキンザンさんと居たいものね」
「そうにゃ、ニアも同じ気持ちだにゃ!」
その場の全員が頷き、俺は心から感謝と嬉しさに軽く涙腺が緩んでしまった。
大の大人が泣く訳に行かないと思いながらも一筋の滴が頬に流れていくのを感じた。
「あ、あれ、変だな。はは、なんか……ありがとうな」
「マスターないちゃったの!」
「だ、大丈夫かにゃ! 何処か痛いのかにゃぁぁぁ」
「ご主人様、直ぐに薬を調合いたします! 症状をお教えください!」
「「大丈夫ですか、キンザン様!」」
「大丈夫だ。本当に嬉しくて仕方なかったんだ。ありがとうな」
「まったく、仕方ないわね。キンザンさんたら、ほら、よしよし、泣かないのよ。大丈夫だから私達はずっといるから大丈夫よ」
その後、すごく慰められたのは本当に恥ずかしかったが、悔しくても絶対に涙を見せないと決めた社会人生活では一度もなかったので自分自身でもびっくりしてしまった。
慌ただしく、皆を心配させてしまった朝食が終わる。
片付けを手伝いながら、心配そうに俺を見つめる嫁ちゃん達に何度も頭を下げながら一日が改めてスタートしていく。
勿論、今日の予定は転送陣を使って何処に向かうかと言う内容であり、俺としては夜通し話しながら嫁ちゃん達が決めた行き先が気になっていた。
「みんなは何処に向かう事に決めたんだ。やっぱり港町にしたのか?」
「いや、ボク達は港町から近い[癒しの街・カエルム]に決めたかな」
「初めて聞く名前だな? まぁ、皆が決めたなら賛成だな。なら俺の方は用意は済んでるから何時でも構わないぞ」
「ボク達も少し用意があるから、オッサンは少しゆっくり待っててくれよ。あと、絶対にリビングから動いたらダメだからな、約束だからな!」
そんな感じにミア達は自分達の部屋に戻ると一人残されてしまった。
なんか、時間の掛かる用意があるのかも知れないな。女性は遠出にしっかりした準備が必要になるみたいだから、ゆっくり待つとするかな。
俺は煙草を吸いながら、リビングで珈琲を静かに飲むことにした。
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