39話、宝石の価値・2人の装備を買いにいく
軽く昼食を済ませてから、周囲に面白い物がないかと見回していると一軒の小さなアクセサリー屋が目に入った。
軽い気持ちで店を見てみると美しい女性の店員さんが声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ。贈り物でしょうか?」
いきなり、そう聞かれた理由は俺の行動を気にする嫁ちゃん達の視線があったからだろう。
「とりあえず、見に来たんですが、大丈夫ですか?」
「構いませんよ、色々な値段と商品を取り揃えてありますので、ゆっくりと見て言ってください」
言われるがままに見ていくと、アクセサリー屋だと思っていたが、宝石店だと言う事実に気付かされる。
普通のリングや宝石のついたモノなど、確かに色々な種類の商品が並んでいた。
ただ、1番高い宝石はダイヤではなく、サファイアやエメラルドといった色の濃い鉱石だった。
俺はそれを不思議に感じて、店員のお姉さんに質問をしてみた。
「この石についてなんですが?」
「グリーンレイについてですか?」
エメラルドはグリーンレイか、覚えないとあれだな。
「これに似た透明な石とかってありますか?」
「え、飾り石のことですか? ありますが、価値がないんで、販売用にはないんですよね……」
「少し見せて貰えないですか?」
不思議そうな顔で、飾り石と言われた石を持ってきて貰い確認する。
「やっぱり、飾り石はダイヤモンドだな、すみません。なんで価値がないんですか?」
「え? それは良く取れるし、それでいて加工ができないダメ石だからですよ。塊を必死に砕いて、使うんですけど、手間ばかりの石ですね」
その流れで原石を見せて貰う、そこには世界最大のダイヤ『カリナンダイヤモンド』を超える巨大なダイヤの原石の塊が置いてあった。
床が抜けないように、魔法陣で浮かされ固定してある為、更に巨大に見える。
「これで幾らなんですか?」
「え、これですか? 店主を呼ばないと分かりませんが……お待ちくださいね」
すぐに店主を連れて、お姉さんが帰ってくると、まずは挨拶をされた。
「いらっしゃい、私が当店の主でガラットと申します」
礼儀正しい、白髪を後ろに束ねた老人だった。
「して、この石の値段でしたね、こちらはグリーンレイやブルーレイを仕入れた際に安くする代わりに渡された物でして……」
早い話が、処分に困った業者に買うならコレも一緒だって、渡された感じか?
「なら、売るとしたら幾らにしますか?」
「売るとしたらで、ございますか? 不思議な質問ですが、正直、飾り石には価値がございません。むしろ、引き取って貰えればこちらが代金を払いたいくらいですからね」
そう言われたので俺はすぐに交渉を開始する。
「なら、無償でお引き取りしてもよろしいですか?」
「ほう? しかし、そちらに何の得があるのでしょうか?」
「俺は変わり者でして、もし可能ならですが、どうされますか?」
俺を見ながら、少し悩むように顎に手をあてる店主。
「私も処分に困っておりましたし、構いませんよ。ですが、タダで処分したとなると此方も後味が悪いので、どうでしょうか、当店で買い物をして頂く際に、割引を無期限でさせて頂くというのは?」
棚から牡丹餅かよ、有り難すぎるな。
「交渉成立ですね、有難く飾り石を貰って行きます」
「少し、そちらを向いて貰っても大丈夫ですか?」
「よく分かりませんが分かりました」
言われるままに後ろを振り向いて貰ったので、その一瞬で飾り石を【ストレージ】へとしまっていく。
「もう大丈夫ですよ。有難く頂きました」
僅か数秒、後ろを振り向いた次の瞬間には既に飾り石の原石が綺麗にその場から無くなっている。
まじかに居ても意味がわからないよな?
理解できないといった表情の店員のお姉さんと店主ににっこり笑顔で、次の交渉を行っていく。
「実は今から出すも見てからでいいので、可能ならリング付きの物と物々交換をしたいんです」
「物を見なければ、何とも言えないお話ですな……それを見せて頂いても?」
“買い物袋”から、安いサファイアを取り出していく。
俺は宝石に詳しい訳じゃない、ただ、安いからとサファイアやエメラルドなんかを買って、バカにされた経験が豊富なだけだ。
因みに知識のなかった俺が初めて買った2500円の激安エメラルドは色が濃すぎて、低品質、更に雑な加工といった粗悪品だった。
だが、こちらでは宝石の加工がまだまだ、洗練されていない事と色が濃い程価値があるというのだから、試して見たくなる。
俺の出した宝石は石のみだ。
「な、なんて、綺麗な加工なんだ……見た事がない、し、失礼ですが、これをどちらで?」
店主の焦る様子から、俺の知る宝石などの価値が真逆になっている部分があるのだと再確認した。
「それを聞かれると、取引は難しいですね……他を当たるとしますか……」
宝石を【ストレージ】に一瞬で移動させてから、立ち上がる。
店主達の目からは、宝石が一瞬で消えたようにしか見えなかっただろう。
「ま、待ってくだされ、ならば、我々は旅商人から宝石を物々交換したと言う事でどうでしょうか?」
店主さんに振り向きながら笑い、再度、席につくと、そのまま交渉を進め、俺が渡した宝石は、7つの綺麗なネックレスへと姿を変えていた。
流石に物々交換で嫁ちゃん達の指輪を買うのは男として、情けないからな……っという事で、全員にあった色の宝石が付けられたネックレスを用意する事にしてもらった。
やはり、宝石のカットは本当に難しいようで、綺麗な形をしていればしている程、価値が上がるようだ。
ただ、此方の世界はスキルや魔法が発達している為、技術で削れる職人がいない。
その結果、俺が渡した宝石の価値は半端ない物となったのだ。
しかし、俺の本命はもう1つの飾り石と呼ばれていたダイヤモンドの原石だ。
“リサイクル袋”は日本での価値で買取り、此方の通貨を出してくれる。
つまり、今まで使った金貨を回収する事が可能になる。
まぁ、確実に使った量よりも多い金貨が生み出されるだろうから、偽造金貨と言われないように注意が必要になるな。
俺の行動を店の外から覗いている嫁ちゃん達の元に戻る。
店を出ようとした際、店主が深く頭を下げた。
「またのご来店をお待ちしております。どうぞ、ガラット宝石店をこれからもご贔屓に 」
「ああ、また来るよ。丁寧な対応に感謝します」
ガラット宝石店から外に出ると、既に何かを察しているような表情を浮かべた嫁ちゃん達の姿があった。
1人1人に俺はシンプルなデザインながら、美しい装飾が施されたネックレスをつけていく。
女性の背中側からネックレスを着けるのが、こんなに緊張するなんて思わなかった。
照れくささと気恥ずかしさに鼓動が普段の三倍で脈打つのを感じながら全員にネックレスをつけ終わる。
「オ、オッサン……に、似合うかな? 変じゃないかな」
緊張した様子で質問するミアに俺は照れくさくなりながらも素直に返事をする。
「すごく似合ってるぞ、ミア、お前の赤い髪とお揃いのガーネットを選んだからな」
そんな答えに赤面するミアを羨ましそうに見る嫁ちゃん達に俺は囲まれながら、照れながらも感想を伝えていく。
人の目を気にせず、俺を囲むように騒ぐ嫁ちゃん達は、嫌でも視線を集めてしまう。
他人の視線が痛いと感じる日が来るなんてな……
オッサンには、少し刺激が強い休日の昼下がりだった。
そこからは、武器屋と防具屋などを覗き、ペコとグーの装備を揃えていく。
前回はちゃんとした装備もない状態で[森の入り口]から[森の終わり]を連れ回してしまったが、本来なら危険な行為だ。
その為、自衛を含め、2人の装備を整えるのが目的だ。
女性なら皮装備や胸当てといった軽装の方が動きやすいと考えていたが、2人が選んだのは予想外にガンドレッドと盾に短めの槍だった。
長身のペコが盾と短めの槍を装備し、逆にグーがガンドレッドを両手に装備した。
俺はグーが盾を装備するのかと思っていたが、すぐにそれが正解なのだと理解する事になる。
武器と盾を手にした2人は普段とは違う冷静な表情を浮かべていたからだ。
「なんか、すげぇ、険しいな……」
「ご主人様、それは当然かと……」
ポワゾンは当たり前といった表情で淡々と語り出した。
「ワタシも含めて、あの2人も暗殺や屋敷の防衛として、教育をされた存在なのでしょう……更に言うならば、彼女達はワタシと違い非合法奴隷だったのですから」
「ガランのクソ野郎は、本当にロクでもねぇ奴だな……」
「でしょうね……ワタシもその意見に全力で同意いたします。あのクズ伯爵は欲の塊でしたから……」
複雑だよな……なんて言うか、生温い日本にいて、戦争とか奴隷とか色々分かってるようで理解してなかったんだって、実感するわな。
「ですが、そのお陰で、彼女達はご主人様の為に戦う力は手に入れています。あの2人が役に立てる事実は、彼女達にとっても喜びかと」
そう言われて、2人の姿を見ていると、背後から数回、肩を軽く叩かれた。
「悪いが、買うなら買ってくれ、あんなに振り回されたら、他の客が逃げちまうよ」
武器屋の店主に言われて、すぐに支払いを済ませて、俺は謝りながら、店を後にした。
2人の装備も整ったので、明日は狩りに行こうと思う。
それにさっきと違い、嬉しそうに嫁ちゃん達と話す2人が自由に戦う姿も見てみたいしな。
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