29話、キンザンが怒る。ペコとグー
店舗で保護した2人を嫁ちゃん達に紹介していく。その際に名前をどうするか悩んだが、ベリーが説明中に2人を風呂へと連れてってくれたので何とかなった。
流石にアレを名前と思ってるのは何とも言えないな……
ベリー以外には聞かせられないな……
一時的な名前を考えないとな、どうするか……
「さて、困ったもんだな……適当な名前か……だが、無いよりマシだよな……」
とりあえず、和名は目立つから、無しにするか?
「なぁ、オッサン?」
考えていると急にミアに呼ばれ手振り向く。
ミアだけでなく、ニアとドーナも一緒だったのでやな予感がする。
「あの二人の名前を教えろよ?」
「教えるにゃ〜」
「教えるなの〜」
やはり来たか……3人できたからそんな気はしてたんだよな……
「な、名前か、えーと、確か……」
悩むが出てこない、頑張れ俺のネーミング!
ダメだぁぁぁ! なんも出てこねぇぇぇぇぇ!
「どうしたんだよ、オッサン? 具合悪いのか」
「いや、色々とあってな、ははは……」
「なら、いいけどさ、それより名前は?」
3人の視線が集まり、俺が冷や汗を流していると、ベリーが2人を連れてリビングに入ってきた。
「お、帰ってきた。お前ら名前なんて言うんだ?」
純粋に質問をするミアと答えを待つニアとドーナの姿に俺は困り果てていた。
「はいはい、落ち着いて、いきなり過ぎると2人が困っちゃうわ。自己紹介の続きだったわね」
ベリーは優しく2人の頭を撫でてから、両手で抱きしめる。
「ペコです」
「グーです」
2人の名乗った名前を聞いてベリーに小さく質問をする。
「どうなってんだ……」
「私は2人に名前の意味を話したのよ……」
「な、お前……いや、遅かれ早かれ、知っちまうんだよな……」
「そうよ、その時にショックを受けるなら、早い方がいいわ」
「嫌な役目を任せちまったな、悪い……」
ベリーに頭を下げると、俺の頭を優しく小さな手が撫でていく。
「いいのよ、私は貴方の妻なのよ、それに皆もね」
俺達が会話をしている間にミア達の自己紹介も終わったようなので、これからの流れを説明していく。
「明日、2人の為に『民間ギルド』に向かう事になる、出来たら屋敷に住まわせてやりたいと思ってる」
2人を住まわせたいと言うとミア、ニア、ドーナの3人が互いの顔を見合ってから首を縦に振る。
「オッサン、ボク達も賛成だよ」
3人が笑顔で笑いかけてくれた為、俺は安堵した。
「ご主人様、ベリー様に頼まれた空き部屋の清掃とベットメイキングが済みました」
そこから、早々に皆で眠りに入っていく。
ベリーとミアの2人が「グーとペコが寂しがるかも」と言って、一緒に眠るそうだ。
夜に何度も泣き声に俺は慌てて、4人が眠る部屋に駆けつける事になったが、不安と緊張がほぐれたからこそ、起こったのだとわかっているので、再度眠るのを見守ってから、俺も再度眠りについた。
△△△
朝になり、俺が目覚めると廊下から足音が聞こえ、見てみるとペコとグーの2人がポワゾンと共に床掃除をしている真っ最中だった。
「おはようございます。ご主人様、騒がしくしてしまいましたでしょうか?」
「お、おはようございます……」
「おはようございます……」
「おはよう、朝から無理すんなよ、それより眠れたか?」
昨晩の事が気になって仕方なかった為、確認する事にした。
そんな2人は俺に再度頭を下げてから「はい」っと返事をした。少しぎこちない返事だったが、それでも確りと返事が聞けた事に満足する事にした。
家族が2人増えたとしても俺のやる事は変わらない。
食事は俺が担当だからだ。
軽く屋敷のキッチンでフライパンを温めてから、魚の切り身を焼いていき、その間に【ストレージ】に入れて置いた水につけた米を土鍋にセットする。
ここで焦ると、米の炊き加減なんかに影響する為、確実に作っていく。
米を火にかけながら、焼きあがった魚を【ストレージ】に一旦しまい、味噌汁を作っていく。
具材は油揚げとキャベツにする。
こんな感じに、朝は味噌汁と魚、漬物と和風を貫いている。
何故かって、そりゃ、これが一番美味いからだな。
全員が起きてきたら、飯の時間になるが、やはりと言うか、ペコとグーは席に座ろうとしないので、ポワゾンに任せる事にした。
「あなた達、ご主人様は我々、奴隷でも一緒の席で食事を食べることを望んでくださいます。おかけなさい」
2人がポワゾンと俺達を見てから、頭を下げると恐る恐るといった感じに席につく。
「ほんじゃ、いただきます!」
「「いただきます!」」
俺達の挨拶に慌てて、手を合わせて「いたたきます」「いたらきます」と言う2人は何とも微笑ましかった。
皆で食べるのに抵抗があったみたいだが、ミア達が優しく教えてくれたお陰で上手く食事が食べれていた。
そして、俺はベリーと2人を連れて『民間ギルド』へとやってきた。
2人は怖がっていたが、ベリーが優しく抱きしめて落ち着きを取り戻していた。
お姉さんって、言うより母親みたいだな?
「キンザンさん、今なんか考えたでしょ?」と鋭い指摘をされて驚いたが、とりあえずはギルド職員にことの顛末を話していく。
「廃棄奴隷ですか……珍しいケースではないので、少し調べさせていただきますね」
俺は所有時が誰だったかも確り伝えた為、ギルド職員はあっさりと戻ってきた。
「確かに、奴隷を所持されていたみたいですが、2人の登録届けが出されていませんね……違法奴隷かも知れません」
「違法奴隷?」
俺は聞き慣れない言葉に困惑すると、ギルド職員が説明をしてくれた。
「はい、つまり、正規の奴隷商を通さずに取引された存在ですね、そのケースだと、本来の街や村が分からないと何とも……」
俺は2人の顔を見るが、2人は話の内容が分からないようで首を傾げていた。
「なら、コイツらはどうなるんですか?」
「そうですね……大変、お伝えしにくいですが、奴隷として、奴隷商に引き取って貰うか、遡って、3年分の税金を払って正式な解放手続きが必要になります」
奴隷として引き取って貰うと言われた瞬間、カウンターを全力で“ダンッ!”と叩いていた。
カウンター越しのギルド職員が冷や汗を流して顔を青くしていく。
「ダメよ、キンザンさん、アナタは冒険者として、オークジェネラルを討伐してるのよ[バリオン]では有名人なのよ、脅しみたいになっちゃうわよ」
ベリーの言葉に俺は奥歯を噛み締めながら、ギルド職員の話を聞いていく。
「と、とりあえず、幾ら掛かるかなどを調べて来ます」と、ギルド職員はカウンターから離れて行った。
俺が怒った事でペコとグーの2人を不安にさせてしまったようで、震える2人の姿に申し訳ないと頭を下げた。
そうしてる間に、俺が待つカウンターに最初とは違う初老のギルド職員が座った。
「話は聞きました。キンザン様、単刀直入に言いますと、2人の税金は免除になります。支払い義務があったのは主ですからな」
初老の男性職員は淡々と説明していく。
早い話が、ガランが払うはずだった税金なので、2人には払う義務がない、ただし、奴隷として働くにしても税金がこれからも発生すると言う当たり前の話であった。
「最後に、冒険者として、活動された方が税金は安く済みますよ。頑張ってください。2人の証明書類も、お渡ししますので」
丁寧に俺に必要な書類を渡してくれた初老の男性職員に礼をして、俺達は冒険者ギルドへと向かう事にする。
『冒険者ギルド』に到着して直ぐに証明書類を渡して、2人パーティーの申請をさせる。
何故、『チームフライデー』に所属させないのかと言うと、2人を所属させると、2人に対して指名依頼を出せないからだ。
指名依頼は拒否も可能な為、俺達以外からの依頼は断れる。つまり、安定して安全な依頼を行える形を構築したかったからだ。
「本当によろしいのですか?」と、受付嬢さんが聞いてきたので頷き、無事に2人は『ツインズ』としてパーティー登録が終わった。
全てが終わり、ホッとした俺は2人に内容を説明していく。
「っと、言うことで、2人は無事に奴隷から解放されて、冒険者パーティー『ツインズ』になったぞ」
住む場所も屋敷の空き部屋をそのまま使わせる事に決めて、俺達は屋敷へと戻る事にした。
屋敷に戻ってから再度、嫁ちゃん達に説明をして、その夜は歓迎会となった。
俺達の屋敷がいつもよりも少しだけ賑やかになった夜だった。
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