3話、異世界でも甘い物は人気みたいです。
皆さん、どうも、キンザンです。身分証って聞いたら、しっかりした証明書を思い浮かべますよね? 此方では、発行前なら名前が自由らしいんです。身分証なのに、名前が自由って、少し、いや、かなりいい加減な気がしますよね……
[テピアの草原]で出会った二人の冒険者、ミアとアンリと俺は草原をひたすら歩いていく。
話を聞いた感じ、[ヤヌンバの町]までは、二日程度、歩かないといけないとのこと、意外に距離がある事実に、無謀な一人行動をしなくて良かったと安堵していた。
「そういえば、オッサンは前、何の仕事してたんだ?」
不意に赤髪ツンツンショートが俺に質問をしてきた。
「俺は料理人って言うのかな? まぁ最後は事務作業の方に追いやられちゃったけど」
実際に就職して店舗の店長などをしていた頃はまだ良かった。昇進して現場から離れてからが本当に地獄だった事を改めて思い出す。
責任を押し付ける相手が欲しかったようにすら感じるデスクワークの日々は本当に吐き気がする。
「意外だな? 料理人なのかよ! ならなんか作ってくれよ。ボクもオッサンの料理食べてみたいし」
「おう、意外だろうが料理に嘘はないからな、二人にも食べて貰えたら嬉しいよ」
楽しい会話が続いていたが、異世界で初めての夜がやって来ようとしていた。
「ミア、ワシらも野宿の用意を、完全に日が暮れると厄介だからね」
アンリの言葉に赤髪ツンツンショートが頷くと、夜を明かす為の場所探しが始まる。
二人は慣れた手つきで場所探しをしながら、枯れ葉などを皮袋に拾っていく。
「オッサン、火を付けられるか、火打石貸してやるからさ」
赤髪ツンツンショートが火打石を手渡そうとしてくれたが、俺はそれを受け取らずに、代わりにライターとポケットティッシュを取り出す。
「ん? なんだそれ?」
俺が取り出したライターとポケットティッシュが珍しいのか、赤髪ツンツンショートがじっと見つめてくる。
「近すぎると危ないんで少し離れてくださいね」
枯れ草の下にポケットティッシュを細く伸ばしていれてから石を置いて固定する。
ポケットティッシュが導火線のようになり、ライターの火が枯れ草へと着火する。
「はい、火がついたよ」
「オッサン、あんた魔法使いだったのかよ!」
「違うよ、これはその、まぁ魔法使いじゃないんだ」
赤髪ツンツンショートの声を聞いてアンリさんが此方にやってきた。
「ミア、どうしたんだ、そんなに慌てて?」
「アンリ、このオッサン凄いんだ! 火打石なしで火をつけたんだ」
「ほうほう、魔法使いさんでしたか、キンザン殿は凄いのですな」
そこから、色々話をして、魔法使いではなく、スキルと言う事で話が収まった。
話が終わると食事の用意が始まるが、赤髪ツンツンショートとアンリさんが硬そうなパンと干し肉を手渡して来た。
「ほれ、オッサンも食えよ」
渡されたパンは石のように硬く、干し肉も木の枝くらいの硬さがあった。
「少し待って貰っていいですか」
とりあえず、この二つを噛み切れる気がしない為、隠れて俺は“買い物袋”に札を吸い込ませる。
今考えているのは[100円ショップ]だ。
水の事を考えたら、税抜きだろう、つまり1000円で10個の商品を買えるはずだ。
最初に取り出したのは小さなフライパンだ。
試しに買ったことのある小さすぎるフライパン、だが、今は凄く丁度いいサイズだ。
次に紙皿の10枚セットと割り箸100本セット。
ここからが食材になる。次に考えたのは[スーパー]だ。過去に買った激安の豚肉100gあたり80円を想像する。
500gで400円の豚肉パックが姿を現すと700円分を消費して最後は食パン6枚切り100円を1つ、焼肉のタレを1つ200円を取り出した。
「よし、待っててくださいね」
手早く、豚肉をフライパンに並べて炒めていく、油は豚肉から出た物のみになる事と火加減の調節が難しいが割り箸を使い、小さなフライパンの中で豚肉をしっかり焼いていく。
そこに焼肉のタレを絡ませていき、さらに香ばしく焼いていく。
赤髪ツンツンショートとアンリさんの鼻が次第に動き、パンを食べていた手が完全に停止する。
俺はフライパンを火から離してそこら辺の平たい石に置くと、紙皿に食パンを3枚並べ、その上に焼肉を乗せていく。その上から食パンで挟み焼肉サンドを作り出し、それをバトルウルフのナイフで綺麗にカットしてから二人に渡す。
「な、なんか凄いいい匂いなんだけど! オッサン、食べていいのか!」
「構わないさ、それしかないが、食べて見てくれ」
赤髪ツンツンショートは全力で焼肉サンドにかぶりつく。目を輝かせて凄い勢いで食べていた。
余程、気に入ってくれたのだろう、俺はその姿に気づくと軽く笑みを浮かべていた。
「オッサン、これなら店が出せるぜ、冒険者なら絶対に買うだろうしな!」
「褒め過ぎだよ。それにやるなら、揚げ物の店がいいな」
「アゲモン? 変な名前だな、どんなモンスターなんだ?」
「モンスターじゃなくて、食べ物だな。まぁ、店が出来たら、食べに来てくれ」
「なら、名前教えろよ! 店の名前が分からないと買えないじゃんかよ」
「名前か、なら『揚げもん屋 フライデー』って名前にするかな」
「やっぱり変な名前だな? でも、オッサンの店なら、いい名前かもしれないな」
会話が終わり、二人は水の入った皮袋の水筒を取り出し飲み始める。
不意に赤髪ツンツンショートが水を飲んでから、俺に水筒を手渡してくる。
「飲めよ! オッサンの料理最高だったぜ」と満面の笑みを浮かべてくる。
「ミアが、誰かに飲み水を渡すのは珍しいですね。余程、気に入られたんですね。冒険者がパーティー以外に自分の水筒から水を渡すのは信頼の証ですから」
アンリの言葉に、赤髪ツンツンショートが一気に顔を赤らめさせると慌てて焼肉サンドを食べていく。
「アンリは、余計な事をいい過ぎだぞ。ボクだって、水くらいあげるし、フン!」
「しかし、これだけの物を貰ってしまうと流石にキンザン殿に、対価を払わないとですね」
「いやいや、アンリさん、助けてもらって護衛までしてくれてるんですから、対価なんて貰えませんよ」
俺の返事に赤髪ツンツンショートが水を飲んでから、俺に視線をむけた。
「オッサン! この料理の味はそんだけ価値があるってアンリは言ってるんだよ。素直に貰ってくれよ」
そこから話し合って、身分証の発行に必要な費用を出して貰うことになった。
その夜は赤髪ツンツンショートとアンリさんが見張りを交代でしてくれて無事に朝を迎える事が出来た。
朝食の用意をさせて貰う事にして、俺は小銭を使い、“買い物袋”から玉子と砂糖、食パン、牛乳500パックにプラスチックのボールを取り出して、フレンチトーストを作っていく。
甘い匂いに見張りを終えて眠っていた赤髪ツンツンショートが飛び起きてくる。
「何この匂い! 甘い匂いがする!」
鼻をクンクンさせながら、幸せそうな表情を浮かべている。
アンリさんも加わり、朝のフレンチトーストを堪能する事にする。
少ないが牛乳も分けて皆で飲んでいくとアンリが赤髪ツンツンショート以上に感動していた。
「なんて、美味しいミルクなんだ! 冷たくて、甘さがあり、濃厚なのに獣臭さがないなんて」
「アンリ、大袈裟だな、ミルクが冷えても変わらないだろ? うっま!」
こんな感じにフレンチトーストの甘さと牛乳を皆で堪能してから、目的の[ヤヌンバ]を目指して歩いていく。
そこから1日かけて、目的地である[ヤヌンバの町]に到着した。
慣れた様子で見張りの男性と話していくアンリさん、会話が終わったのか、此方に戻ってきた。
「話がついたよ。すぐに発行の手続きをしてくれるみたいだよ」
「おお、出来るんですか?」
俺は発行する為に[ヤヌンバの町]にあるギルドの出張所に出向く事になった。
「ギルドの出張所ですか? アンリさん、そんなもんがあるんですね」
「キンザン殿の住んでいた場所にはなかったのでしょうか、小さな村などでは、ないかもですが、町とつくような場所でしたら、大概はありますかね」
話が進むと小さな建物に辿り着く、見た感じは普通の一軒家に見える。
扉を開いた先には小さなカウンターがあり、飲食店のような場所だと言う印象を感じた。
実際に中にはテーブル等が並べられており、数人の男女がお茶や酒を楽しんでいるのが見える。
カウンターで職員さんと軽く会話を済ませるとあっという間に身分証が発行された。
「これが身分証なのか」
「身分証が出来たのですね。よかった」とアンリさんが微笑んでいる。
イケメンの笑顔は本当に眩しいな。
一旦、ギルドの出張所から外にでると赤髪ツンツンショートが俺の脇腹を肘で小突いてくる。
「なあなあ、オッサン、これからどうするんだよ?」
これからどうするっか……確かに俺は知り合いもいなければ、この世界には故郷もないんだからな。
「おーい、オッサンてば? どうしたんだよ?」
「悪い、少し考え事をしてた。そうだな、どうするかな」
「迷子で行先も分からないなんて、オッサンなのに仕方ないな、なら、一緒に[バリオン]まで行かないか」
突然の提案だったが、俺からしたら有り難い申し出だった。
「いいのか?」
「構わないよ! アンリもボクから話すし、多分さ、大丈夫なはずだから」
赤髪ツンツンショートの言う通り、アンリは問題なく俺の同行を認めてくれた。
三人で[ヤヌンバの町]を旅立つ事に決まった。
しかし、問題もある、それは路銀だ。
路銀がない俺は金策をしないと二人に迷惑が掛かるのは必然だ。
「と、言う事で、路銀、つまり金を稼ぎたいんです」
「ん? カネ? リコの事か、前に作った料理を売ればかなり稼げるだろ?」
赤髪ツンツンショートの素敵な言葉に俺は軽く悩んでいた。
簡単に出来て美味い物、しかも安価な素材を使わないとならないなんて、難しいよな……
因みに砂糖や玉子は高級品、小麦粉も質のいい物は高額らしい。
なにより、俺の所持金は1000円しかないのが一番の問題だった。
「なぁなぁ、オッサン、砂糖を売ったら悩まなくて済むじゃんか、ダメなのか?」
「え、砂糖、そんなもんが売れるのか?」
「当たり前じゃんか、仕入れるのが大変だから、売って貰えるなら買うって、店は絶対あるぞ?」
俺は年甲斐もなくガッツポーズを決めるとすぐに、赤髪ツンツンショートに詳しい話を聞いてみる。
ギルドの出張所なら、砂糖を買い取ってくれるらしい。
「因みに、オッサン? 砂糖ってどれくらいあるんだ」
「えっと、この前、フレンチトーストに使ったから、まだ900gくらいは余ってるな」
「お、おい! この前のふかふかのパンにどれくらい、砂糖を使ったんだ!」
「え、砂糖は100gくらいだな、まぁフレンチトーストは、作るのに玉子と牛乳を加えてあるからふかふかになるんだけどね」
説明をしていく中で、赤髪ツンツンショートが次第に真っ青になっていく。
多分、砂糖に玉子あたりで自分が高級品を食べていたのだと改めて気づいたからだろう。
だが、俺はその反応からも砂糖がかなりの高額で買い取って貰える事が理解できた。
そうと分かったら直ぐに、出張所に舞い戻り、職員さんに買い取りをお願いする。
「すみません、これを買い取れますか?」
「買い取りですか? 大丈夫ですが、こちらは岩塩でしょうか?」
職員さんの前に置かれた皮の袋、赤髪ツンツンショートから借りた物だ。
「これは砂糖です、確かめて見てください」
小声で呟きながら、職員さんに指でつまむように耳打ちする。
「い、いいんですか……砂糖ですよ、一摘みでどれだけ価値があるか……」
職員さんの喉がゴクリとなるのがわかった。
その後、砂糖は素敵な金貨に替えられた。白砂糖は金と同じ価値で取引される。
つまり、900gの白砂糖は金貨9枚で引き取って貰う事になった。
この世界では金の価格が地球とは違うらしいが、それなりに価値があるらしい。
砂糖100gが金貨1枚──1万円くらいだろう価値があるんだから、ぼろ儲けだな……
だが、此処で俺は職員さんの説明から、勘違いしていた事実を知った。この世界の単価のおおよそを理解した。
金貨の価値──
銀貨20枚で金貨1枚。大銀貨から10枚で金貨1枚
銅貨100枚で銀貨1枚。大銅貨なら10枚で銀貨1枚
金貨1枚──2万円
大銀貨1枚──2000円
銀貨1枚──1000円
大銅貨1枚──100円
銅貨1枚──10円
パンが1つ、銅貨5枚程度、50円くらいなので正直、砂糖が18万円になった事に恐怖すら感じてしまう。
素早く、ストレージに金貨を投げ入れて、外へと向かう。
宝クジの高額当選した人の気持ちが僅かにわかった気がする。
外で待っていたアンリさんと赤髪ツンツンショートに俺が合流するとすぐに赤髪ツンツンショートが確認してくる。
「おい、オッサン、どうだったんだ?」
「ああ、バッチリだよ。此処だとあれだからさ、良かったら移動しながら話しましょう」
俺達は話しながら[ヤヌンバの町]から移動する事にした。
昼過ぎに[ヤヌンバの町]を出て、1日目の夜がやってくる。
見張りをしてくれてる二人の為にしっかりと料理をしていく。
今回は“買い物袋”に金貨を入れて見た結果、小麦粉に玉子、油に塩胡椒、豚のロース肉、ソースにマスタード、ケチャップ、キャベツ、スーパーのパックご飯を椀飯振る舞いする。
結果から言えば、此方の金貨はちゃんと使えた。
その結果、作ったのはポークピカタだ。
豚ロースを筋切りして小麦粉と塩胡椒を混ぜた粉をまぶしてから、溶き卵に浸して、油を引いたフライパンで焼いていく。
簡単だが、これが美味いんだよな。俺はケチャップよりソース派だが、初めてならケチャップがオススメかもしれないな。
俺が紙皿に千切りにしたキャベツと焼きたてのポークピカタを並べていく。
最初からカットするか悩んだが、多分カットしない方が見栄えがいいだろう。
スーパーの惣菜コーナーの準主役であるご飯パックのご飯も人数分用意したので紙皿に盛り付けて、夕食が完成する。
早速、皆で夕食を開始する。
初めて見るポークピカタの黄色い衣に赤髪ツンツンショートの目が輝いている。
「み、みろよ! アンリ、なんかすげぇよ!」
「わかってるから、落ち着きなさいミア、キンザン殿、ありがたくいただくのだよ」
アンリさんは深々と頭を下げてからケチャップのついたポークピカタをスプーンと割り箸で上手く切り分けながら食べていく。
スプーンはアンリさんの自前だ、切ろうかとも考えたが「切りましょうか?」と聞いてみたが──
「いえ、ワシが切るのだよ。切りやすい硬さの肉は久々なのだよ」と、楽しそうに食べてくれていた。
赤髪ツンツンショートは、やはりというか、全力で肉を髪切りながら、渡した米をグイグイ食べている。
「この白いモチモチも美味いな、なんだこれ! ソースとケチャプも美味いし、本当に止まらないぞ!」
次々に調味料を試していき、食べまくる姿もまた、豪快だが、作り手としては嬉しいもんだな。
結局、赤髪ツンツンショートはマスタードとソースの組み合わせが気に入ったのか、追加で焼いたポークピカタはその組み合わせで平らげていた。
「食ったぞ〜! もう入らないぞ!」
呟きながら、大の字で地面へと横になる赤髪ツンツンショートの姿に俺はくすりと笑い、アンリはなんとも言えない表情を浮かべていた。
「お粗末様でした」っと俺は使った紙皿や割り箸を細かくしてから、焚き火に入れていく。
日本じゃ絶対にしないやり方だが、此方の世界じゃ、飯を食べる際に使った串や枝なんかはこうするらしいので、それに従う。
しかし、美味い料理を堪能したと言う事は、その香りもまた食欲を刺激すると言う事に他ならないのだ。
俺達の周囲を取り囲むようにモンスター達が次第に距離を詰めて来ていた。
「ふぅ、もう少しゆっくりしたかったんだけどな、食後の運動だな、やってやんぞ!」
赤髪ツンツンショートが起き上がって、直ぐに腰へと手を伸ばすとベルトに着いた二本の鞘から剣を抜き、素早く両手で構えをとる。
アンリさんも弓を構えると周囲を警戒する。
そして、俺も確りとバトルウルフのナイフを
握りながら、二人の後ろに移動した。
「オッサン来るぞッ! 絶対に死ぬなよ!」
「お、おう!」
異世界ではのんびりスローライフみたいなのを想像してたんだけど、俺の異世界はハードモードらしい。
おもしろい٩(ˊᗜˋ*)و 興味がある|ω・*)
とりあえずもう少し読んでやるか( ˙꒳˙ )
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