19話、オークリーダーとスキルアップ
赤髪ショートが振り抜いた一撃、しかし、巨大オークはハルバートを手放すと、即座に後ろへと身体を仰け反らせた。
軽々と赤髪ショートの斬撃を回避してみせると不敵に口角をつり上げる。
予想だにしない俊敏な動きに赤髪ショートが慌てて俺の元へと戻ってくる。
「ヤバいぞ、見た目以上にアイツ早いみたいだ」
「みたいだな、だが【食材鑑定】でバッチリ弱点は理解できた。こっからが反撃って流れにしたいもんだが……いけるか?」
「任せろよ。それより、オッサンの方も油断すんなよ? アイツの攻撃、かなり痛そうだからさ」
互いに笑い合うと、最初とは違い俺も赤髪ショートと共に前へ出る。
「ポワゾン、奴らの動きを鈍らせられそうか?」
「はい、いつでも大丈夫です」
「よし、ドーナは周りのオーク達が動けなくなったら、片っ端から捌いてくれ」
「わかったの、マスターの為にやるの!」
ここからは本気モードでオーク達を仕留めにかかる。
「みんな、行くぞっ!」
掛け声と同時にポワゾンが風上に動き出したのを確認して、俺達は足止めをしていく。
巨大オークは、自身でハルバートを手放してしまっていた為、周囲のオークが握っていた槍を奪うようにして取りあげると、俺を狙い勢いよく突き出してくる。
風を劈くような音と共に槍の刃先が俺を狙い放たれ、ギリギリだが、回避をしていく。
「え、うわ、【身体強化】っ!」
発動させた【身体強化】により、ギリギリの回避になってしまったが、俺は内心で巨大オークの攻撃に対して、回避を成功させた事実に喜びを感じていた。
【身体強化】で俊敏になった俺に槍は届かず、巨大オークは苛立ちながら、再度声を上げる。
鼓膜が破けるんじゃないかと思う雄叫びに俺は直ぐに足を前に出し、両手に力を入れた。
「叫んでる暇なんか、ねぇだろうがァァァァァッ!」
握ったマグロ包丁が、巨大オークの脇腹を捉えると同時にポワゾンの麻痺の霧が放たれる。
「ミアッ! ドーナッ! 2人は一旦下がれ、麻痺毒にやられるぞ!」
「わ、わかった!」
「マスター、大丈夫なの?」
「俺はいいから、離れろ!」
指示を聞いて慌てて2人が離れていくのと同時に、麻痺の霧がこの場に集まっているオーク達を包み込む。
鼻を動かし、麻痺毒に気づいたオーク達が逃げようと走り出していたが、そこに追い風が駆け抜けいく。
追い風により加速した麻痺毒の霧は一気に周囲をのみ込むように広がり木々の間を抜けて、オーク達に襲い掛かる。
無数のオーク達が身体を動かせない状態になり、勝負がついたかのように思った瞬間、やはり巨大オークだけは立ち上がろうと両腕で必死にその巨体を立たせようと足掻いている。
少し巨大オークの様子を見つめていると、他のオーク達が完全に身動きが取れなくなった事実を再確認してから、俺は巨大オークの横に移動する。
「プギャア、プギ、プキャプギャ!」
必死に命乞いをしてるのか、俺達を罵倒してるのか、何も理解できないし、理解する気も無かった。
「俺が一人なら、お前が勝っただろうな、でも俺達の勝ちだ。弱肉強食ってやつだな」
「プギピギャ、プギィッ!」
「わりぃ、マジに分かんねえんだわ」
巨大オークの首に、刃を合わせるとスッと、綺麗に引いていく。
オーク達は恐怖を感じたのか、一斉に動く頭を動かして騒ぎ出していた。
ただ、そんな事を気にするつもりもないし、やつにも言ったが、今回は同情や理解する気がない。
「だから、わかんねぇって、ただな、俺の嫁を傷つけたんだから、許してやる義理はねぇんだわ」
巨大オークとの戦闘が終わり、他のオーク達をドーナ達が始末してくれている。
俺は慌てて猫耳娘の元に向かう。
「ベリー、ニアの傷はどうなんだ?」
「安心して、今は骨も繋げられたし、キズも塞がったわよ」
紫ロングの膝の上で眠る猫耳娘の姿に安堵の声が漏れた。
「そうか、ベリー、ありがとうな。本当に助かったよ」
「むしろ、私は【癒しの基礎魔導書】を渡されてびっくりしたわよ」
「俺が使うよりはいいだろ? それに信じて任せたんだ。俺の直感も捨てたもんじゃないな」
周囲を警戒し、他に敵となるモンスターや魔物がいない事を確認してから森の入口へと移動を開始する。
「ニア、大丈夫だよな……オッサン?」
「気を失ってるだけだ、ベリーがしっかり治してくれたから大丈夫だ」
猫耳娘を背負って、歩いている最中も、赤髪ショートは心配そうに確認してくる。
2人とも、普段からずっと一緒だから、心配で落ち着かないんだろうな。
先頭を進む毒メイドが魔物避けの為に薬草を燻ながら進んでいき、俺達は無事に森を抜けた。
慌てて[バリオン]に戻り、猫耳娘を屋敷側に運ぶ。
「悪い、ベリーとポワゾンは、ニアの看病を頼む。痛み止めとかは、ポワゾンなら何とかできるだろ?」
「お任せください。ご主人様、絶対に痛みを消して見せます」
「ああ、こんな時のポワゾンは頼りになるな」
「俺は『冒険者ギルド』に行ってくるよ。怪我人が出た事と巨大オークの報告をしないとだからな」
話を済ませるとすぐにギルドへと向かう。
「ドーナも行くなの!」っと何故か俺の【ストレージ】に入りたがる黒ナースをしまって移動する。
ギルドで報告をすると、オークだけなら問題なしとなっただろうが、俺が持ち帰った巨大オークを見てすぐにギルドは調査を開始した。
「このデカイオークってなんなんだ?」
騒がしくなり始めたギルドで、受付嬢に質問をする。
「さっきのオークですか? あれはオークリーダーと呼ばれる個体ですね、すみません。今は忙しいので」
他の職員と同様に受付嬢も慌てて走っていく。
「オークリーダーか……調べるか」
ギルドの魔物図鑑を開き、調べてわかった事は、オークリーダーは、オーク達の指揮官の1個体であり、ランクで言えば下から数えた方が早いモンスターだった。
オークリーダーは、指揮するモンスターに従い、部下を任されたオークが変異したモンスターだとわかった。
「つまり、このオークリーダーがいるって事は、オークリーダーより格上のモンスターがいるって事か……」
「マスター、こっちにも、オークの強そうなのが書いてあるの!」
「ああ、分かってる。俺達じゃ、倒せないやつがいっぱいだな」
オークリーダーについて、調べ終わると同時にギルドの冒険者達から、オーク殲滅の為に高ランク冒険者が選ばれていた。
オークはEやDランクが基本になり、数に合わせて危険度が変化するモンスターだ。
しかし、今回のオークリーダーに関してはCランククラスのモンスター扱いだ。
討伐ランクを考えれば、冒険者もBランク以上でなければならない。
「とりあえず、冒険者が集められたみたいだな……良かったぜ」
その日の内に討伐部隊がギルドで組織される。
情けない話だが、俺は怪我をしたニアが落ち着くまで寝ずにいた為、討伐部隊への参加を見送った。
朝方には[森の終わり]へと討伐部隊が向かっていった。
屋敷でそんな勇敢な冒険者達の姿を見て、自分の考えが甘かった事を実感した。
「俺があの時、チームを分けなければ、こんな事にならなかったのに、ニアすまない」
「キンザン、ごめんにゃ……役にたてなかったにゃ……」
「そんな事ないぞ、ニアも立派だったんだ。俺もニアも、みんなで強くなろうな、だから今はゆっくり休めよ」
「うん……強く、なるにゃ……絶対になるにゃ」
気持ちを切り替えないとな、俺が強くならないと始まらないからな……
「すまない、少し出てくる。ニアを頼むぞ」
「待って、オッサン、ボクも行く……ダメかな?」
「構わない、なら行こう」
「ベリーとポワゾンには、悪いが留守番を頼む。ミアとドーナは一緒に来てくれ」
3人で向かった先は『鍛冶ギルド』だ。
俺は到着してすぐに、交渉に入る。
「実は、作って欲しい物があるんです」
すぐに紹介されたドワーフの職人に考えを話しながら、イラストを見せていく。
「なんだこりゃ? デカイ剣みたいだが?」
「これはイメージですが、剣や鉈ではなく、包丁として作って欲しいんだ」
イラストを見たドワーフは少し悩んでいたが、軽く“うんうん”と首を動かした。
「つまり、竜切り包丁が欲しいって事だよな? そうなると『調理師ギルド』からも許可がいるな、許可があれば、作ってやれるが、普通の武器じゃだめなのか?」
包丁となると、何故か『調理師ギルド』の許可が必要と言われて、すぐに『調理師ギルド』へと向かう事にする。
「悪い、ミアとドーナは、武器を見たりして待っててくれ、すぐに戻るから」
2人を置いて、『調理師ギルド』へと向かい、到着して、すぐに俺は許可についての話を聞くことにした。
「やぁ、キンザン殿、幽霊屋敷以来かな、久しぶりだね」
「ご無沙汰してます。それで、不躾ですみませんが、竜切り包丁がどうしても欲しいんです。お願い出来ませんか?」
「すごい真剣な話みたいだね、何があったか知らないけど、竜切り包丁は特殊な物でね、とりあえず、幾つか条件をクリアしないと許可できないんだよ」
「条件ですか?」
「まぁ、キンザン殿なら難しい条件じゃないさ、1つは『調理師ギルド』に加入してる事になるかな」
「分かりました。すぐに加入させて貰います。他に条件はあるんですか?」
「2つ目は、料理人としての腕になるが、それは“食の祭り”で優勝してるから、問題ないね。最後はギルドへの貢献度だけど、これも砂糖や他の食材を売って貰ってるし、幽霊屋敷の件もあるから大丈夫だね」
話を聞いてから、すぐにサブギルドとして『調理師ギルド』に加入する。
「キンザン殿、歓迎するよ。約束の許可証と、壊れてしまっているが、ギルドにある竜切り包丁だ。今のギルドに使える人材がいないし、修理もバカにならないから、素材としては問題ないだろうから、使ってくれ」
刃こぼれして傷だらけの竜切り包丁が2本壁に立てかけられる。
思った以上の大きさに驚きながら、それを【ストレージ】へとしまっていく。
「ありがとうございます。次に来た際にお礼の品を持ってきますんで、ルンダさん感謝します」
竜切り包丁の許可を貰い、俺は急ぎ『鍛冶ギルド』へと戻っていく。
戻ってすぐに、ドワーフの職人に許可を見せると素材に何を使うかの話になり、俺は貰った2本の竜切り包丁を取り出す。
「こりゃ、ヒデェ竜切り包丁だな……どんな使い方したんだが……素材がいいのに、勿体ねぇなぁ……」
「なら、これを使って、新しい俺の竜切り包丁を作って貰えないですか!」
「構わねぇよ。竜切り包丁なんて、普通じゃ作れねぇからな、それにコイツはオリハルコンも混ざってる見てえだしな」
「オリハルコン……ですか?」
「僅かでもオリハルコンを使えるなら、職人としては嬉しいもんさ、余ったら、ナイフでも作るかい?」
「なら、余った場合は、双剣か片手剣のどちらかにできますか?」
「わかった、なら、5日後にまた来てくれ。少なくとも竜切り包丁だけはきっちり仕上げてやるからよ」
「分かりました。お代はどれくらいになりますか? 相場通りと、言いたいが……素材の持ち込みとオーダーメイドって事で、金貨300(600万リコ)でどうだ?」
「は、はい、分かりました。それでお願いします」
竜切り包丁がバカにならないって話は本当らしいな、しっかり『調理師ギルド』にはお礼をしないとな。
竜切り包丁を頼んでから、俺達は日常生活で必要な物を買っていく。
そして、俺のもう1つの目的である魔導書を見るべく魔導書店へと入っていく。
店内は外観通り、不気味なもので溢れており、期待を裏切らない老婆が店番をしていた。
「いらっしゃい……女を連れ込むなら、もう少し先の宿屋か、飲み屋にしな、ウチには酒も料理もないよ」
やる気のない口調と言葉に、冷やかしなら帰れと言われてる気分になったが、欲しい物を手に入れる為、本題に入る。
「いや、探してるのはスキルブックで、身体強化より強力な物なんだけどありますか?」
「ほう、ちゃんとした客だったんだねぇ……そいつは悪かったね。それなら、【筋力強化】と【脚部強化】【リミットカット】くらいしかないがどうする?」
2つのスキルは想像ができるが【リミットカット】だけは説明が聞きたいな。
「【リミットカット】ってスキルはどんなスキルなんだ?」
「名前の通り、自分の限界を超えた力を出せるスキルさ、まぁ使ったら、筋肉痛で1日動けないだろうがね」
少し悩むが、悪くないスキルだと思う……どうするかな。
「悩んでるみたいじゃね、まぁこのスキルは自己回復のスキルが無かったら、自殺行為になるからね、よく考えな」
その言葉に更に悩んだが、ある事に気づいた。
「なら、自己回復のスキルってのも、売ってるのか?」
「鋭いね……賢いやつは嫌いじゃないよ……やすかないよ?」
俺の手持ちは、増築と竜切り包丁で既にかなり使っているが、1200枚程度には、金貨があるので、聞くだけ聞いてみる。
「幾らなんだ?」
「【自己再生】のスキルは金貨500、【リミットカット】は買うならサービスしてやろう、どうする?」
「他にそこにある【スピードアップ】を2つと【アースクエイク】【毒作成】も買うって言ったら幾らになる?」
「ハハハっ久しぶりに面白い質問だねぇ、本来なら金貨1200って所だが、即金なら金貨1000枚にまけたげよ、どうするね?」
「買った!」
「ハハハッ即決かい、なら【影縛り】もオマケだよ……どれも売れないもんばかりだからね」
俺は所持金の殆どを失う結果になったが、手元に金貨200を残して即決した。
【リミットカット】と【自己再生】は申し訳ないが、俺が使わせてもらう。
店を出て、すぐに俺は2人に魔導書を手渡していく。
「ミアは、【スピードアップ】を使ってくれ、ニアにも渡すつもりで2つ手に入れたしな」
「いいのかよ? だって、あの金額のスキルブックなんだぞ!」
「だからだよ。俺達は強くならないとダメだからな、だから使うんだ」
そう言って、俺は次に【影縛り】の魔導書を手渡す。
「ドーナには、他のを選ぼうと思ってたが、いいもんが貰えたからな、使ってくれ」
「マスター! ありがとうなの」
俺も心の呼び方を改めないとな……
「さて、帰るとするか」
屋敷に帰ると、ニアが出迎えてくれた。
ずっと待っていたのか、不安そうに震えているのがわかる。
「よしよし、大丈夫か、ニア?」
「大丈夫にゃ、キンザンが起きたらいないから、不安だったにゃ……」
頭を撫でながら、俺はニアに【スピードアップ】の魔導書を手渡す。
「ミアとお揃いのスキルだから、上手く使ってくれ」
「あ、ありがとうにゃ〜」
そこから、ベリーには【アースクエイク】を渡し、ポワゾンには【毒作成】の魔導書を手渡した。
俺はここから強くなると、改めて誓った。
読んでくださり感謝いたします。
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