200話、賑やかな日々に
嫁ちゃん達と語り明かすように夜が終わりを迎える。
昨日のみ、嫁ちゃん達の泊まりが特別に許可された為、夜更かしをしてしまい、結果として往診に来たヒヒ様にこっぴどく怒られてしまった事は言うまでもない。
昼食後に嫁ちゃん達は、王都から屋敷に一旦戻って行った。
着替えや、他にも二号店や本店の様子を見に行ってくれている。
今回ばかりは、俺だけで何とかするのは難しい事もあり、本当に助かっているのだが、自分で動けない事実がこんなに辛いとは思わなかった。
その為、見張りの兵士さんに少し無理を言って、部屋の中に来てもらう。
「すみません、実はこれを解体したくて」っと口にした俺の横になっているベッドの横に置いた二台の自転車を指さす。
「え、あ、あの……コレは? なんでしょうか……」
驚きながら、自転車を不思議そうに見つめる兵士さんに俺はどう説明するべきか悩んでしまったが、そんな時、扉がノックされる。
「すみません。キンザン殿。昨日いらした[ボルドール]のギルドマスター、ジール氏が面会に来られておられますが?」
「すみません。通して頂いて大丈夫ですか」
返事を聞いてから、扉が開き、ジールさんとキールさん、そして、『ヘルハウンド』の面々が室内に入ってくる。
「キンザン殿! キールから話は聞いたぜ! 試作の椅子はオレらにも手伝わせてくれ!」
「おいおい、ダグ? キンザン殿が困ってんだろうが? 大男がいきなり近づいたら、心臓に悪いだろうが」
「あぁ! ダニー、テメェ! 自分がチビだからって、言いがかりか!」
「なんだと? オレは平均だデカブツが! 無駄に力ばっかりのくせによ!」
啀み合う、大男ダグと小柄のダニー、そんな二人が言い争う中、キールさんが仲裁に入る。
「オマエら、本当にいい加減にしてくれよ……今回ばかりは、バカな喧嘩はやめてくれ、ビルとマリーを見習ってくれないかねぇ」
そう呟いて溜め息を吐くキール。
ビルとマリーと呼ばれた青年と綺麗な女性が俺に頭を下げてきた。
「今回は、ウチらの街を救う為に色々ありがとう。それと……力不足のせいで、すまなかった」
「オイラもだ。本当ならオイラ達が先陣を切って戦うはずが、アンタに甘えちまったせいで、許してくれ」
二人がテンガロンハットを取って、俺に深く頭を下げた。
そのやり取りを見ていた、面々も同様の行動をとると、キールさんが昨日の事を思い出したように、手を“パン”っと叩き、空気を変える。
「さあ、ジールさんも含めて皆で作業に取り掛かろうじゃないか、それが恩返しになるなら、早い方がいいだろうからな」
キールさんの言葉に全員が頷き、作業が開始する。
自転車を解体して車輪を外す作業になるとドワーフであるジールさんが感心した様に首を動かして、チェーンやブレーキなどを眺めては、一人で頷いていた。
「コイツはスゲェ技術だなぁ。パーツの一つ、一つが干渉しないようにされてやがる、何処の大陸でこんな技術の代物を見つけたんだって話だな……」
「ジール? そんなに凄いのか?」っとキールさんが質問をする。
「凄いなんてもんじゃないぞ? こりゃ、この技術があれば、鉄の馬車だろうがなんだろうが作れるかもしれねぇし、武具にしてもだ」
自転車から外したタイヤを指さしてそう告げた。
二台あった自転車の前輪と後輪、サイズが多少違うが、二台の前輪と後輪を片方ずつ重ね合わせれば、サイズが同じだからこその驚きだろう。
「全くすべてが同じじゃないか、こんな事あるのか? 防具やなんかだって、量産品なら違いがでるし、こんな複雑な形で二つ同じなんて有り得ないだろう」
結局、自転車解体からの時間がかなり取られてしまったが、そこからの流れは早かった。
「おい! ダグ、力任せに回すな、歪んだらどうすんだ」
「ジールさん、思ったより、この部品の小さいヤツが硬いんだよ!」
やはり、こういった作業になると賑やかで、病室である筈の室内からの音に驚いたのか、見張りの兵士さん達もチラチラと室内を覗きに来ていた。
あれよあれよと、組み上がった試作車椅子に俺はつい、笑顔が出てしまっていた。
試作と言っても、座りやすい椅子に保護として自転車の本体部分を切断したパイプを使い車輪連結部の車軸をつける作業が上手くいき、ブレーキなどは少し手を加える事になったが、そこはドワーフのジールさんがしっかりと解決してくれた。
即席ではあるが、俺用の車椅子が完成したのだ。
昼過ぎから始めた作業が終わりを迎えたのは真夜中であり、ジールさん達に泊まれるように話すと言ったが、やんわりと断られてしまった。
「悪いな、ワシらもあまり長く[ボルドール]を留守に出来ないからな、それにキールの奴がそれを許されないからな」
ジールさんが訳を伝えようとすると、キールさんが止めに入る。
「おい! ジール、今はいいだろうが」
「隠すより話した方がよかろうが?」
そんなやり取りの後にキールさんが何故か深々と俺に頭を下げてから顔を上げる。
「すまねぇ、まだ街の騒ぎなんかが片付いてなくてな、普段なら好き勝手してるんだが、不安だらけの[ボルドール]を留守にしておけなくてな、許してくれ」
そう言われて、俺は軽く頷いた後、少し語らった後に皆を見送った。
「そうだ。キンザン殿。これはワシから個人的にだが、両足がそれだとあれだろう……ギルドにあった義足だが、良かったら使ってくれ、本当にありがとうな」
「ありがとうございます。明日から早速使わせて貰いますね、ジールさん」
改めて別れを告げると長く賑やかだった室内に、そうして、再度の静けさがやってくる。
静かな室内でゆっくりと流れる時間が舞い戻ると何処か寂しさを感じてしまう。
不意に“番の袋”から、何かが入った感覚を感じて、袋の中を確かめると、必要な食材のリストが本店と二号店分、書かれたメモと嫁ちゃん達からの情熱的な恋文が添えられていた。
「明日はみんな、大変みたいだな。なら、リストの物を送るかな……」
“買い物袋”から必要な素材を取り出して次々に“番の袋”へと入れていく。
仕込み済みのフライの材料や、米といった物から、生の食材まで書かれたメモを確認していき、時間があっという間に過ぎていくのを無意識ながらに感じてしまう。
ベッド上に小さなテーブルを取り出して、ベッドのには防水カバーをセットしてから、次につけダレを容器に入れる作業を開始する。
防水カバーをセットしたのは、タレが布団などに付かないようにする為だ。
此方の世界には洗濯機なんてないから、全て手洗いになる為、取りにくい染みなどが出来ない様にしたいからだ。
まぁ、本音をいえば、ベッドで作業するな! ってのが正解だろう。
ただ、今回は許して欲しい──何かしてないと、気が狂いそうになるんだよな、なんて言うか、世界に要らない存在になるのが怖いみたいな感覚なんだろうが……
そんな事を考える俺はやはり、オッサンだなっと感じてしまう。
つけダレ作成と、市販タルタルの容器への小分けがひと段落して、一息つく。
残念ながら、今回は辣油系は市販に頼らざるを得状況だ。レッドスコーピオンから抽出する辣油と違い、油そのままな為、少し申し訳ない気持ちもあるが許して欲しい。
“番の袋”に綺麗に整頓してから、つけダレ達を入れて、やっと俺の作業は終了した。
足があれば楽だったんだろうと、座ったまま、全てを終わらせてから考えてしまうくらいには、やはり足の有難みを感じる時間になってしまったのは言うまでもない。
流石に眠気が厳しくなっていくの全身に感じた。
リストの食材が全て送れた事を確認して、俺も眠りにつく事にする。
久しぶりの一人作業になったが、やはり賑やかな日常が恋しくて堪らないなぁ。
早くみんなとまた、暮らしたいと思う俺はやはり、嫁なしでは生きられないんだろうなと改めて考えさせられる夜だった。
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