199話、後悔と新たな未来
ルフレ殿下が見舞いに来てくれてから、更に時間が過ぎていき、瞬く間に夕暮れから夜までの時が流れていく。
その間も何人かの見舞いがあった。
ルフレ殿下からの連絡があり、急いで駆けつけたと言われた相手は[ボルドール]のギルドマスター、ジールさんとキールさん、ナタリーさんの三人だった。
「具合は大丈夫か……ワシが無理な依頼を出したからか、すまぬ」
「ジール……落ち着けよ。キンザン、話にはきいてたが、こりゃ……」
ジールさんとキールさんが暗い表情で下を向きながら拳を握り、空気が悪くなる様に感じた瞬間、ナタリーさんが一歩前に出て、頭を下げた。
「本当にすまなかったねぇ。アタシ達がアンタの足を犠牲に生き残ったみたいな話だからね」
重苦しい空気が室内を包み込む様に広がる最中、外側から賑やかな、っと言うよりも、慌てたような声が聞こえてくる。
「申し訳ありませんが、今は面会の方が来られておりまして、もう暫くお待ちください。中に確認をいたしますから」
「はあ? ウチらがあの怪我人野郎の部屋に入るのに確認が必要ってのかよ!」
「そうだよ! 僕達はオッサンのその、よ、嫁なんだからさ……」
「ニア、照れてる場合じゃないにゃ? ミトの言う通り、キンザンに会うのに許可がいるなんておかしいにゃ!」
聞きなれた声に俺は今の状況も忘れて、少し大きめな声で扉の外に向けて声を掛ける。
「構わないから入ってくれ。みんなにも会いたかったから、頼むよ」
ジールさん達には悪いが、今の空気も何とかしたいと思っていた為、渡りに船と言わざるを得。
勢い良き開かれた扉、その先には嫁達の姿があり、みんなが一斉に駆け出して入ってくるとジールさん達が慌てて、道を開けるように左右に移動する。
ただ、飛び込んでくる嫁がいなかった事は本当に良かったとホッとした。
正式にはナギが飛び掛かろうとしたドーナをしっかりと捕まえてくれた為、誰も飛び込んで来なかったというのが正しいだろうが……とにかく、俺はみんなの顔が見れた事に安堵する。
考えれば、王都[ウトピア]に来てから、一週間近く俺は嫁ちゃん達の顔を見ていない。
なんなら、“番の袋”を通して、食品なども渡せていない事を考えれば、色々と確認したい事だらけで、あり、俺自身の身体、つまりは足についてもみんなに説明しないとならないだろう。
色々と覚悟を決めないとならない瞬間を目の前に俺は小さく深呼吸する。
「みんな、心配かけて悪かった。何とか生き延びたんだけど、なんて言ったらいいんかな、そのあの──」
語りながら、自然に涙が出てしまい、言おうとした言葉が頭から抜け落ちてしまったかのように全てが頬を流れていく。
「──えっと、本当に、本当に……あの、ごめん」
俺の頭で考えた言葉は全てなくなり、素直に“ごめん”っと呟き、俺は下を向きながら泣いていた。
男だろうが、女だろうが、泣きたい時は泣くもんだって、過去に言われた事があった。
その時の俺はガキだったからなのか、理解できなかったが──
だが、今になってみれば理解できた。
悔しさは、ある程度我慢できる。
辛さも必死に噛み締めて耐えられる。
悲しみも全てを受け入れたなら堪えられる。
ただ、自身の判断ミスにより、誰かに迷惑を掛けた時、つまりはそれを逆に責められなかった時は違った。
俺のミスだと責められたなら、幾らか気持ちも楽になるだろう……ただ、それすら受け入れられて心配された瞬間に自分がどれだけ支えられてるのかを知る事になる。
今、俺の話を静かに聞く嫁達は、なにも疑わず、なにも責めず、ただ頷いてくれている。
それを理解した瞬間から、俺の中で自分が悪く、迷惑をかけてしまった事実ともしかしたら、愛する人が居なくなるかもという不安が溢れ出してしまったのかもしれない。
信用と不安に挟まれた心は自然と涙になっていたのだから、俺ですら止め方が分からないのだ。
「俺は……みんなに、本当に……なんもしてやれなく、なって、ごめん……ごめん……」
一頻り、俺が泣きながら謝罪し続けると、ペコとグーの二人が俺の手を握った。
「「私達は主様をキンザン様を裏切ったりしないです (からさ) だから、大丈夫です!(だよ!)」」
そして、ミア達からも声が掛けられる。
「らしいよ。オッサン、心配しないで大丈夫だし、ちゃんと一緒にいるからさ、ボクってば、オッサンの一番なんだからさ」っと、ミアが笑う。
「ズルいのにゃ! ニアだって、今はキンザンの一番になりたくて頑張ってるにゃ!」
「はいはい、二人とも! キンザンさんは怪我人なんだから、喧嘩しないのよ、まったくもう、でも、生きてたら、それでいいのよ。本当に良かったわ」
「ですね。ベリー様の言う通りです。ワタシもご主人様が生きていただけで、嬉しいですし、もし仮に、死んでいたなら──被害に関係なく最大の毒で周囲を死の大地に変えていたかも知れませんので」
ベリーとポワゾンが笑顔でそう話す反面、危ない発言に生きていてよかったと、改めて死ななかった事に安堵してしまった。
「ドーナは、役に立てなかったの……マスターの影にいたら良かったのにごめんなさいなの……」
「ドーナ、ナギも同じ、あの時、ゴブリン達を捕まえられなかった。死んで謝りたい……マイマスターごめんなさい」
二人の発言に慌てる俺に対して、フライちゃんがそれを窘める。
「アナタ達が二人でそんな事を口にしたら、きんざんさんが悲しみますよ。皆が無事だった事や生きてた事が一番なのですからね?」
「そうだぞ、たく、どいつもこいつも! それにウチらから他の報告もあるだろうが? 寝たきり野郎の旦那様にしっかりと話さないとだろ?」
ミトの言葉にナギ以外の全員が頷き、ナギだけが落ち込んでいるのが目に見えてわかった。
「えっと、ナギだけ、なんでそんなに下を向いてるんだ?」
そんな質問を口にすると、ベリーが苦い表情で理由を教えてくれた。
「聞いてるかも知れないけど、ナギだけは、大会に参加出来なくてね、それで少しネガティブになってるのよね……」
「ナギだけ、マイマスターの役にたてない……ナギはいらない存在になるかもしれない……」
そんな呟きに俺は返事をする。
「なら、ナギには俺を会場に運んだりを頼みたいんだ、ほら、足がないからさ、嫌じゃなければ助けてくれないかな?」
その言葉にナギが嬉しそうに顔を上げる。
「わかった! マイマスターの役に立つなら頑張る!」
少しアレだが、足がないからこその頼みであり、ナギが明るくなった事が嬉しいのも事実だった。
そんなやり取りを見ていた[ボルドール]から来たジール達、三人は「何かあれば言ってくれ」と口にしたので、俺はドワーフであるジールさんにある願いを口にした。
「なら、俺の描いた椅子を作って欲しいんだ。頼めますか?」
ジールに見せたのは、簡単な車椅子の絵だ。
「なんだこりゃ? 車輪付きの椅子って、これが欲しいのか?」
「移動の際に便利そうなんで、ナギに押して貰ったりできますから、車輪は俺が用意しますんで、ダメでしかね?」
「わかった。全力で作らせて貰う。明日また来るから、話は明日で大丈夫か?」
「はい、なら、明日お願いします」
そうして、ジールさん達は[ボルドール]へと戻って行った。
俺は久しぶりに嫁ちゃん達とゆっくり話をしながら、夜を迎えるのだった。
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