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2話、異世界で、赤髪ツンツンショートに出会った日

 異世界ですよ。いつもなら割り切って夢だと思う展開なんだが、先ずは現実だと自分の頭にハッキリ分からせる事に全力を尽くそう。


「異世界に来たってんなら、先ずは持ち物の確認からだな」


 草原で上半身を起き上がらせる。

 気づくと手紙が手に握られていた。


「手紙? 差出人は、誰だ……」って知り合いはフライちゃんしか居ないんだよな。


 中身を確認するとやはりフライちゃんだった。


 これがラブレターだったら、“異世界で女神様が恋人になりました” みたいな展開もあるんだろうが、流石にその展開はなかった。


『この手紙を読まれているのならば、異世界転移は無事に成功しました。

 いきなりだと何かと不便だと思いますので、皆様に異世界転移者の為のお助けグッズをお渡ししています。中身はランダムになりますのでご了承ください。

 この手紙を開いたと同時に周囲にアイテムが出現しているはずなので、確認してください。

 この手紙の付属アイテムは“お買い物袋” “よく切れるナイフ” “非常食の詰め合わせパック” の3点になります。良い異世界ライフをお過ごしください』


 有り難いサプライズだな。

 確認した感じ、“よく切れるナイフ”は護身用として使うとしよう。

 買い物袋ってなんだろうか? さすがにエコバッグ渡されても今は使わないのだが……


「封筒に小さな紙がまだ入ってんな?」


『お助けグッズ説明書』と書かれた紙を手に取る。


 なになに、先ずはナイフについて、読んでいく。


 “よく切れるナイフ”──異世界産のバトルウルフの牙から削り出した逸品。非常に強固な物で刃こぼれが少なく、戦闘でも大活躍な優れ物。


 つまり、いいナイフなんだな?


 “非常食の詰め合わせパック”──そのまま、非常食です。これ一つで1ヶ月は余裕の大増量パック。中身は開けてからのお楽しみ。


「なんか、だんだん、胡散臭くなるのは、なんなんだ?」


 次が最後か、説明をしっかりと確認する。


 “お買い物袋”──今回の大当たりアイテム。自分が買った事のあるアイテムをお金を袋に入れる事で手に入れられちゃうミラクルな袋。欲しいが見つかるお買い物袋。


「おお! なんか当たりっぽいな」


 最初にスキルの使い方を確認する為、ストレージを開いてみる。


「とりあえず、ストレージ!」


 勢いよく叫んでみた瞬間、それはいきなり現れた。


 手のひらに小さな渦が出現している。


 試しにそこら辺の草をむしり、渦に近づけてみる。


 だが、渦に触れても草が消える様子はない……


 次にストレージに入れたい物を想像してみる。勿論、今は“草”を対象にしている。


 渦に触れた草が一瞬で消えたので、すぐにストレージの中身を確認する。


「ストレージ確認」と言うと目の前にゲーム画面のように四角い枠が羅列されていく。

 恐る恐る触るとスライドする事ができた。

 確かめてわかったが何処までも下に続くのでスライドを中断する事にした。

 とりあえず、四角をボックスと呼ぶ事を決めて、草を入れたボックスを確認してみる。


 ・草──そこら辺の草。


 入れた時の印象なのか、ボックスに名前が記されている。


 次に取り出せるのかを調べていく。入れた時の反対で取り出したい物を想像してみる。


 問題なく取り出せたので、その後に草を捨てて、非常食セットを入れて置く。


 忘れてしまいそうだったので、慌てて本来の目的であった持ち物チェックをする。


 よく考えたら、俺はコンビニでいきなり転移者に選ばれたので何を持っているか確認したくて仕方なかった。


 ・煙草──6箱と吸いかけが半箱(10本)

 ・ライター──1個

 ・500の水ペットボトル──1本

 ・ポケットティッシュ──1袋

 ・飴玉──個包装6個 

 ・財布──所持金2800円


 軽い気持ちで、煙草を買いに出たので、スマホなんかは、家に置きっぱなしだ。

 まぁ、異世界じゃ使えないのだからあっても使えなかっただろう。


「そういえば、この世界で円って使えるわけないよな……とりあえず、水が必要だな……なら、試すしかないか」


 徐ろに“買い物袋”を取り出し、財布から取り出した100円を入れてみる。


 “買い物袋”がゆっくりと膨らみ、2リットルのペットボトルが出現する。


「まじか、2リットルだよな、100円で安すぎるだろ、他にもなんか出してみたいが、今は無しだな……いざって時に困るしな」


 とりあえず、何とか生きられる事がわかった。


「さて、まずは人が居る場所を探さないとな……どっちだ?」


 軽く煙草に火をつけて、肺にヤニを補充する。何処の世界でも、ヤニの味は変わらないのだから、素晴らしい。


 煙を吐き出しながら、辺りを見渡すが、やはり、見渡す限り草原だ。


 道らしい物は俺からは見えない。


「困ったな、草が高すぎて道が見えやしないな……」


 その場で立ち止まっていると背後からガサガサと草を掻き分けるような音がする。


「な、なんだ、猫か犬でもいるのか?」


 野良犬とかだと、噛まれたらやばいな……どうするかな……


 ガサガサと音が次第に近づいて来るとさすがに不安になるな。日常生活で野良犬なんかは見なくなったが、ここは今までの世界と違うんだよな。


 そして、音の主が姿を現した。


 全身が緑色の小さな身体。ヒキガエルみたいな顔に鋭い牙のような歯がズラリと並んだ口をニヤリと開けた不気味生物、多分、ファンタジー界隈で有名なゴブリンさんだ。


「ひぇ、気持ち悪!」


 そんな一言が怒りに触れたのか、ゴブリンさんが俺に向けて、手に握った棍棒を振り上げる。


「ま、ま、話し合わないか?」


「グゲガギギガァガァッ!」


「うわあああッ! 言葉わかんないから! し、【身体強化】!」


 話が通じない相手ならとりあえず、全力で走る。


 【身体強化】をした俺をゴブリンが狼に跨り追い掛けてくる。


「ちくしょうーーー! ゴブリン、パネェッ!」

「グガガァァァッ!」


 俺の異世界はゴブリンとの命懸けの追いかけっこから始まった。


 必死に走る俺、【身体強化】しているのにゴブリンと狼はずっと後ろに食らいついてきている。


「俺は美味くないぞーーー! ゴブリンさんよぉーー諦めてくれないか!」


「グゲゲッギギグゲガッ!」


「だから、わかんねんだよッ! どんだけ、“ガ行”が好きなんだよ! クソがぁぁぁ!」


 やばい、肺が、煙草の吸いすぎで、体力がやべぇ、最後にもう一本、吸っときゃよかったな……


 最後の心の叫びがヤニか、本当にしょうもない人生だな……


 くだらない事を考えていたからだろう、足がもつれて、地面に顔面から転倒してしまう。

 鼻が痛い、全身も疲労感がやばい……オッサンは三分以上全力で走るのは無理だな……


「ハアハア、おい、ゴブリンさんよぅ……俺は、美味くないって、言ってんだよ……諦めてくんないか……」


 まぁ、当然ながら、話は聞いてくれない。むしろ、言葉が通じてるのかも分からない。

 近づいて来るゴブリンは、嫌な口角のあげ方をしてニヤリと笑う。


 あんなカエル顔に食われるのかよ。

 俺がそう思っていると遠くから叫び声が聞こえた。


「オッサン、大丈夫かッ! アンリ、矢を早く!」


 なんか、叫んでんな……女の子の声がする。近くに誰か居るんだな、まぁ都合良く助けられたりなんかないよな……異世界主人公なら、助かるんだろうが……俺、モブのオッサンだからな。


 諦めてそんな事を考えていたが「頭を下げろ!」と、言う声に慌てて振り向いてしまった。


「オイッ! こら、頭をあげるな!」


 ん? 振り向いた俺の顔面スレスレを矢が通り過ぎていく。

 風切り音が“シュッ”と耳に抜けた瞬間、鳥肌が全身に浮き出ていた。


「だ、大丈夫か! 馬鹿、頭あげるなって言っただろ!」


 放心状態の俺を目の前に走ってきた赤髪の少女。

 褐色の肌、へそ出し鎧、真っ赤な瞳、髪の毛は短く、ショートヘアのせいもあり、幼さが残る感じがする。


 日本なら、間違いなくスカウトされるくらいには可愛い少女だ。


「お、おい、オッサン大丈夫かよ?」

「あ、ありがとう。なんかゴブリンに追われちまってな」


 軽く頭を人差し指で掻きながら、礼を言うと少女は不思議そうに俺を見つめてくる。


「えっと、なんですか?」


 とりあえず、全身を見渡し、自分でなんか変な部分が無いかを確かめる。


「いや、わるい、なんて言うか。見慣れない服装だしさ、でも……痩せ過ぎてて貴族って感じにも見えないしさ」


「あ、そう言うことか、確かに……この服は目立ちますね、あはは」


 考えてみれば、俺はコンビニに向かうような軽い格好のままだ。上は白い半袖に薄い紺色のパーカー、下は色褪せたジーパン。

 武器もなければ、仲間の姿もない、35になろうという、痩せっぽっちのオッサンが目の前にいて、更に不思議な格好をしてんだから、変な奴に見える事だろう。


「えっと、どうやって此処に来たか、よく分からないんだ。元の場所から、此処に送ってもらった感じと言うか、あはは」


「つまり、オッサン、迷子かよ? 運が良かったな、ボク達が見つけたから良かったけど、奴隷商人なんかに捕まったら、奴隷にされて、過労死か空腹で餓死の二択になってたぞ?」


 奴隷なんてシステムがあるんだな…… 異世界って、やっぱり物騒なんだな。現代社会で奴隷なんて言葉、ラノベの異世界系でしか聞かないもんな。


「とりあえず、オッサン、保護してやるよ、一緒に[ヤヌンバの町]まで向かおうぜ」


 聞き慣れない言葉だったが町まで案内してくれるらしいので俺は頷いた。


 話が纏まると同時に此方に手を振って背の高い男性が走って来るのがわかった。


「おい、戻って来ないから心配したのだよ? おや、その人はだれなのだね?」


 茶髪に長い髭を蓄えている長身の男性。  

 一言で言えば、イケおじだ。

 ドワーフ風の雰囲気を感じるが、俺の知るドワーフとは少し違う気がする。


「おぉ、ドワーフなのか!」 


「なんか、アンリの顔見てから騒ぎ出したし、ドワーフになんか憧れでもあるのかもな」

「ドワーフったって、ワシはドワーフとエルフのハーフだから、モドキなんだがな?」


 いけない、知らない間に話が進んで行くのは、非常にまずい。置いてかれないように頭を下げる。


「助けて貰ってありがとうございます。本当に助かりました」


 頭を下げると目の前には少し驚いたような表情を浮かべた二人の冒険者がいた。


「大袈裟だな、オッサン? まぁよっぽど焦ったんだな」

「みたいだな、まあ、ゴブリンでも油断したら命に関わるからだろうねぇ。本当によかったのだよ」


 ゴブリンとは、油断したらやっぱり死ぬ事もあるモンスターなんだなと改めて感じてしまう。


 とりあえず、感謝と謝罪は大切だから、全力で頭を再度下げていた。


「ああ、そんなに謝らないでくれよ。それより、オッサン、名前は? 身分証とかは無事なのか?」


 赤髪のツンツンショートさんが名前を聞いてきたので、とりあえず自己紹介をする事になった。


「俺はキンザンです。身分証はないですね」



「身分証ないのかよ! まぁいいや、キンザン? 不思議な名前だな、ボクはミアだ。赤髪でわかるだろうが、見ての通り、鬼人族の女戦士だよ。よろしくな!」

「ワシはドワーフ族とエルフ族の混血でアンリだ。よろしく頼むのだよ。キンザン殿」


 二人の名前もわかったので改めて会話を再開させる。


「それでオッサン? 武器とかないのかよ、流石に[テピアの草原]だからって、装備無しは自殺行為だろ」


 テピアの草原?


 ……フライちゃん、意外に鬼畜女神様だったのか?


「悪いんだが、本当に分からないんだ、その[テピアの草原]ってのが今いる草原なんだよな」


「本当に何も知らないようだねぇ、とりあえずワシから説明しよう」


 アンリさんが、説明をしてくれるらしいので、しっかりと聞いていく事にした。


「今いる場所が[テピアの草原]の丁度、真ん中くらいかな、そこから東に向かうと[ヤヌンバの町]で、西に進むと[ミリミナの森]になる。森を抜けると[バリオンの街]になるねぇ」


「ボク達は[バリオン]に帰る途中だったんだけど、運が良かったな。まぁ少し歩くけど[ヤヌンバの町]まで、ちゃんと送ってやるから安心しなよ」


 とりあえず、言われるままに、話が進んでいく。


「ありがとうございます。助かります、ですが、目的地が違うなら、場所も分かりましたし……」


 するとミアさんが、俺を呆れるように見てくる。


「そんなガリガリのヒョロヒョロで何いってんだよ! しかも、死にかけたばかりだろ! それに[ヤヌンバ]で先に身分証の発行しないとじゃんかよ」


「ワシもそれに賛成だよ。[バリオン]に向かうにしても、身分証が必要なのは変わらないからねぇ、先に身分証なのだね」


 なんか、すごい身分証の話をされるんだが、身分証って、俺でも発行出来るのかな?


「待ってくれ、俺は身分証とか発行した事ないんだよ」


「ないのか? 本当に田舎から来たんだな、まぁいいや、とりあえず初回発行でも再発行でも金額は同じだ。それに働くにも身分証は必要になるしな」


 仕事か、俺に出来る仕事ってなんだろうな?


 とりあえず、金を稼がないとダメらしいので、何とかしないとだよなぁ。




読んでくださり感謝いたします。

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フライちゃん、悪魔みたいなことをしますねw 鬼人族の女戦士ってだけでもうかっこいいです、おっさんには色々と頑張ってほしいですね。冒頭のオークカツでお腹が空きました、食べてみたいです。揚げもんや、成功す…
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