16話、幽霊屋敷、白い何かと漆黒の和風ナース、ドーナ
俺達は『調理師ギルド』に砂糖を渡した後、他の食材についても、交渉を重ねていた。
話が進み、最終的に『調理師ギルド』が興味を持った物が決まった。
・砂糖。
・胡椒。
・卵。
・バター。
・イースト菌
異世界では珍しい物にやはり興味があるようで『調理師ギルド』におろす事に決まった。
話が上手くまとまった為、俺達は繁華街の店舗に向かって歩いていた。
「ふぁ、なんとか無事に交渉ができたな」
「オッサン、満足そうだな。ニヤけ過ぎだぞ?」
「にゃあ? キンザン、ニヤけてるにゃ〜」
俺の周りをグルグルと回る2人の姿は、まるで姉妹みたいだな。
「それよりも、キンザンさん。本気で空き家を買う気なの?」
「なんだよ、ベリー? 今更反対なのか?」
「違うわよ! ただ、買えたとして、増築とかに更にお金が掛かるんじゃないの?」
ごもっともな意見だが、今更悩んでもしゃあないんだよな。
「まあ、先ずは買えれば何とかなる!」
「計画性ゼロじゃないのよ……本当に大丈夫なの?」
日本では、夢のまた夢だったマイホームだ。
今までの人生なら、絶対に買えなかったはずだ、それが手の届く距離にまで迫ってるんだと思うと浮かれてしまうのは仕方ない。
俺は異世界で初めて家を買うぞ!
しかし、話は予想外の方向に流れて行った。
俺達は空き家の持ち主を調べる為に『民間ギルド』に向かう。
わかった事実は、何故か物件の所有者が『調理師ギルド』になっていた。
「まさかの逆戻りか、悪いみんな、一旦、宿屋に戻ってくれるか、俺はもう少し、話し合いをしないとダメらしい」
「オッサン、まじかよ!」
「ダメにゃ、絶対にあの銀髪のお姉さんに会いに行く気だにゃ〜!」
「まぁ、会いには行くが、仕事みたいなもんだから、ベリー、ポワゾン、悪いが2人を頼むぞ」
「わかったわ、無理はしないでね」
「はい、かしこまりました。行ってらっしゃいませ、ご主人様」
嫁ちゃんズの2人は少し嫌そうだったが、紫ロングと毒メイドに連れられて宿屋へと帰って行った。
俺は1人『調理師ギルド』の中に向かっていく。
「あれだな……また来ちまったな」
とりあえず、中に入ると、受付嬢さんからも「忘れ物ですか?」っと、声をかけられたので苦笑した。
「実は、繁華街の空き家について、聞きたくて来たんだ」
「え、あの幽霊屋敷ですか……あれは辞めた方がよろしいかと……とりあえず、ルンダさんを呼びますね」
取り引きの事もあり、あっさりと銀髪ボブに話が伝わった。
「やぁ、キンザン殿。早い再開だな。話は受付嬢から聞いてるぞ、まぁ奥で話そうじゃないか」
お茶を入れてくれた銀髪ボブと向き合って本題に入る。
「あの空き家を購入したくて、話を聞きに来たんですが? なんですか、幽霊屋敷って?」
「ああ、あの屋敷の話だな、実を言えば、アレは早く手放したい物件なんだよ。安いからと、買ったんだが、聞かれた通りの幽霊屋敷でね……」
「詳しく聞かせて貰えますか?」
銀髪ボブは、幽霊屋敷について話してくれた。
数年前、屋敷の主が寿命でなくなり、売り物件となった。
しかし、屋敷を買った人から「夜になると、屋根を移動するような音がする」や「鏡に人影が!」など、心霊現象が報告されるようになってしまい次々に主が変わっていった。
何回も除霊や『聖職者ギルド』から人が送られたが、改善どころか悪化しているのが現状だそうだ。
「あの、マジにお化け屋敷なのか?」
「お化けじゃない! 幽霊屋敷だ」
どっちも同じ気がするが、とりあえず、本当にそうなのかを確かめたいな……
「少しで、いいんで中を見たり出来ないですかね?」
「キンザン殿、本気か……」
マジに嫌そうな顔してんな……せっかくの美人が渋い顔で台無しじゃないか。
「頼みますよ。もし気に入ったら買いますから」
「はぁ……わかったよ。因みにあの屋敷は今、金貨500だ。内見した場合は、買わない場合でも、手数料で金貨5枚かかるよ? いいのかい?」
内見に手数料が掛かるのか、ベリーにも来てもらえば良かったか……まぁ嘘はないだろうが。
「分かりました。なら金貨5枚です」っと金貨を手渡す。
「はぁ、アタシは行きたくないんだけどね……しゃあないね」
さっそく、俺達は幽霊屋敷へと移動していく。
手入れのされていない屋敷は夕暮れに照らされて不気味な雰囲気を感じる。
「マジに怖いな……」
「キンザン殿、やっぱりやめないか?」
「ルンダさん、お願いしますね」
「はぁ、やっぱり行くのか」
幽霊屋敷の庭を抜けて、室内に入っていく。
「2階には行かないでくださいね。流石に命の保証が出来ないですからね」
2階がやばいのか……
「わかった、とりあえず1階を見させて貰うよ」
「ああ、すまないが、早めに頼むよ」
幾つかの部屋を見て回るが、荒らされてる様子はなく、どの部屋も綺麗なもんだった。
なんで、ホコリがないんだ?
「あの、ルンダさん……質問が?」
「ぎゃあああああああああ!」
な、なんだよ!
声のする方向に慌てて、走って行くと、ルンダさんが白い何かに追われていた。
「な、なんすか、それ!」
「 アタシが聞きたいよぉぉーーーッ!」
ケッケッケッと笑う白い何かは、突然、俺の方にターゲットを変更してきたので、慌てて【ストレージ】から“マグロ包丁”を取り出す。
「来るならこいやッ! うおぉぉぉッ!」
白い何かに、刃が触れた瞬間、突然それは消えた。
「え、消えた?」
「はぁはぁ、キンザン殿、帰ろう、もうアタシは無理だぞ」
完全にビビってしまった銀髪ボブをその場に残して、俺は2階へとあがっていく。
本当なら、行きたくないが刃が触れた瞬間に何かを切った感覚はなかった。
結局、何がいるかが分からないと話が進まないからな。
「ふぅ、行くぞ!」
1部屋、1部屋、扉を開き、中を確かめていく。
1番奥の部屋以外を調べ終わる頃には、月だけが俺と屋敷を照らす唯一の光になっていた。
「よし、行くか……」
覚悟を決めて、扉を開く。
室内には、天井いっぱいに白い何かが渦を作って回っており、その下で薄緑色の光が両手を天井へと伸ばして必死に白い何かを抑えてるようにも見えた。
「うわぁ、なんだこれ!」
尻もちをつきながら、俺は天井に視線が釘付けになってしまった。
そんな反応に気づいたように、渦から無理矢理飛び出してくる白い何か達。
「よく分からないけど、俺が買おうとしてるマイホームに、お前らは必要ないんだよ!」
立ち上がり、向かってくる白い何かに、マグロ包丁を振り抜いていく。
刃が触れる度、あっさりと消えていく。
「とりあえず、一匹!」
俺の行動に触発されたのか白い何か達が一斉に向かってくる。
「日本の職人魂をなめんなよッ!」
俺も触れられないように、必死にマグロ包丁を振り回す。
白い何か達が、更に数を増やすと同時に、天井にボロボロの御札のような物が貼られているのを発見した。
御札から次々に、白い何かが飛び出して来るのをみて、俺は1つ考えを試して見る事にした。
「お前らは生きてないんだよな……たぶん、なら【ストレージ】ッ!」
白い何かを一気に吸い込んでいく。
最初はケッケッケッと、俺をバカにしていたような、白い何かが、慌てて逃げようとするが、薄緑色の何かが、それを妨害しているように見える。
「助かるぜ! そのまま頼むぞ、薄緑!」
「ハアッァァァァッ!」
一気に全てを吸い込み、御札を対象にする。
「あの札も飲み込め! 【ストレージ】ッ!」
天井から御札が【ストレージ】へと吸い込まれ室内が一気に静寂に包まれる。
「はぁはぁ、やったぞ、さて、あとは薄緑か、お前はなんなんだ?」
薄緑はよく分からないが、手を動かすように、光を動かしてから、最後に手を合わせるような動きをした。
「悪い、分からないな、とりあえず、お前……薄緑は俺に悪意は無いみたいだな」
そんな呟きと同時に、薄緑が眩い光に包まれていく。
「マスター、アリガトウ……ナマエ、ホシイ……」
俺の目の前にいた薄緑の光が人の形になり、緑髪の少女へと姿を変えていく。
「どうなってんだ、人型になった……」
そう呟いた頃には、片言だった声は聞き取りやすい物に変わっていた。
「マスター、名前、ありがとう……記憶見る……喋り方、姿、学ぶ」
何が起きているか、理解出来なかった事もあり、その場で呆けてしまっていた。
緑の光が更に激しく輝き、目を瞑る。
次に目を開いた時、俺の目の前には、ゲームでよく使っていたキャラと同じ姿をした女性が立っていた。
漆黒の和風のナース服だった。ゴーストと大鎌を使い、敵を切り裂く設定の悪霊使いのバトルナースだった。
片目が白い包帯で隠され、白髪の短い髪に手足には縫ったような痕が刻まれている。
「マスター、ありがとう……マスターの好きな姿にウチは、変われたの?」
「えっと、マスター?」っと自分を指さす。
「そう、ドーナのマスターがマスターなの。名前くれたの、ありがとうなの」
名前って「どうなってんだ」「ドーナッてんだ」確かに、犯人は間違いなく俺だな。
「ドーナはマスターの精霊になれたのなの」
「ははは、こりゃ、まずいな……」
とりあえず、1階に移動して、銀髪ボブに訳を説明しに行く。
「キ、キンザン殿! う、うしろ! 後ろ!」
「ああ、大丈夫です……俺の仲間になっちゃったドーナです」
「…………ウチはマスターのドーナなの」
「ア、アタシは、ルンダだ……」
「ルンダは、マスターの味方なの?」
その言葉に全力で銀髪ボブが首を縦にふる。
とりあえず、銀髪ボブは、屋敷を『調理師ギルド』から俺への幽霊退治の報酬として、渡す事を書類にまとめると金貨も受け取らずに、帰って行ってしまった。
そして、俺も胃がキリキリしながら、嫁ちゃん達の待つ、宿屋へと戻るのだった。
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