170話、名も無き神
フライちゃんの重く冷たい声に包まれた言葉、それと同時に放たれた錫杖の一振が大気を震わせると同時に、声の主であるゴスロリツインテールが慌てて回避するようにその身を後ろに遠ざけれる。
大袈裟に見えた回避の距離、しかし、ゴスロリツインテールの回避した直ぐ真横までの範囲が渦を巻くように歪み、ブラックホールが出来たんじゃないかとすら錯覚させ、直ぐにそれは霧散した。
それでも、いきなりのフライちゃんが放った攻撃に俺は自分の目を疑う他なかった。
「フライちゃん、いきなり過ぎないか……」
「きんざんさん、貴方という人は……本当にトラブル体質と言うべきで、なんでしょうか……困った人ですね」
「アイツが誰なのか、フライちゃんは知ってるのか!」
「知ってるの何も、あれは、わたしの後任者です! なんで、あの子が、きんざんさんに近づいたのかは知りませんが、ただ……わたしのモノに手を出した事実を後悔させてあげるのです!」
「結局、アイツはフライちゃんの知り合いって事なんだろ! 話して、何とかなる相手じゃないのか」
俺の発言に同意するように首を縦に降っているゴスロリツインテール、しかし、そんな雰囲気を一瞬で吹き飛ばすようにフライちゃんが、ニッコリ笑ってから「あるえないですね」っと口を開いた。
「ま、待って欲しいのよね……話し合わないで決めるなんて良くないのよ! フライ……冗談でも笑えないのよね」
「冗談に聞こえたなら、残念です……理由なんか知りませんが、とりあえず、売られた喧嘩は買う事にしてますので……いくのですよ“エトランジュ”」
フライちゃんは、確かに名前を口にした。ゴスロリツインテールを“エトランジュ”と呼んだのだ。
「や、やめてってば、謝るから、悪気は無いから! フライのマネも辞めるからゆるしてよ」
「怒ってないですよ。貴女が“ですねぇ”なんて言ってても、怒りませんから!」
明らかに不吉な笑みを浮かべたフライちゃん抜き出しそうなゴスロリツインテール、そして、フライちゃんの、姿が一瞬で視界から消えたと思った次の瞬間だった。
「ちょ、うわあああ!」
悲鳴のようなエトランジュの声が聞こえたと思った瞬間、地面に高速で何かが落下したのが理解できた。
確認するまでもなかった……空には浮遊するフライちゃんの姿があり、手には下向きに握られた錫杖があり、その斜め下には、ピクピクと全身を震わせたエトランジュの姿があった。
「お、おい、大丈夫か?」
取り敢えず、近くにより声を掛ける。
軽率な行動のように思うが、フライちゃんの知り合いみたいだし、なんなら、怒れるフライちゃんの一撃をもろにくらっている為、心配しない訳にはいかない。
「きんざんさん、その子は大丈夫ですよ。頑丈ですからね。それよりもこれで話し合いができますね」
地上に降りてきて、普通にそう語るフライちゃんは、本当に容赦ないと改めて感じてしまった。
それと同時に、エトランジュの叫び声を聞いてミア達が外に集まってくる。
「何事だよ! フライ、オッサンを呼んでくるって言ってから、なんで断末魔みたいな声が聞こえるんだよ!」
「そうにゃ、説明するにゃ! はにゃ、その子は誰だにゃ?」
「はあ、またですか、ご主人様? 新しい女性を見て、興奮して、フライ様に捕らえさせたのですか?」
「ポワゾン違うからな! 俺は襲われた側だからな」
そんなお約束のやり取りをしていると、地面に沈んでいたエトランジュが起き上がる。
「ハァハァ、フライさん! 貴女には女神として、話し合うって考えがないわけ! 本当に有り得ないわよ!」
「アナタなら問題ないと判断してますからね。なんなら、次は全力でやり合いますか?」
全力で首を左右にブンブンと振るエトランジュは、逃げる事を諦めたのか、大人しくなったので、取り敢えず害は無いと判断して、屋敷の中で話を聞くことにした。
「本気ですか! きんざんさんは、危機感がないんですか!」
フライちゃんからは怒られたが、それでも外で話すのは難しいので、強引に話を進めさせて貰うことにした。
他の嫁ちゃん達からも多少は反対される。
「でも、みんながいたら、大丈夫だって信じてるし、俺も話を聞きたいんだよな?」
そう口にした瞬間、嫁ちゃん達が顔を赤らめた。
「まぁ、オッサンがそう言うなら、間違いなく守ってやるし、なぁ、ニア?」
「そうだにゃ、ニアとミアが守ってあげるのにゃ!」
「ドーナも皆とマスターを守るの!」
「「私達二人で主様を守ります!」」
そんな具合に返事をされて、「ナギも守る!」っとナギの尻尾に身体をグルグル巻きにされた俺はエトランジュを屋敷の中に入って貰う。
長テーブルにエトランジュを座らせてから、話を聞いていく事にする。
「それで、えっと、エトランジュさん? は、なんで俺に接触したんだ」
「ゴホン、確かに私とした事が失礼しました。本当に悪気はなかったのはわかってね、アナタが余りに美味しそうな存在だから、ついつい……」
そんな発言をしたエトランジュにフライちゃんが鋭い視線を向け、更に嫁ちゃん達がその視線に続くように睨みつけている。
「いや、誤解よ! 美味しそうってのは、フライさん、睨んでないで説明してよ! アナタから説明が出来るでしょ!」
最初の強キャラ感は既になく、なんと言うか、残念ツインテールになってしまってるな……
「はあ、仕方ありませんね。すみません、皆さん。この人は、エトランジュと言いまして、わたしと同じ、女神ですね」
「「「えぇぇぇ!」」」
嫁ちゃん達が一斉に声を上げると同時に俺も驚きながら立ち上がってしまっていた。
「まじか、なんでそんな人が……」
「わたしも分かりませんが、ただ、エトランジュに関して言えるのは、くだらない理由だと思います。カノジョは本来、この世界に居たら駄目な人ですからね」
「フライさん! なんで、そんなに冷たい言い方するのよ! 私とアナタの仲じゃないのよ」
「アナタをよく知るからこその反応だと思いますが? むしろ、ならば、どんな理由があるのですか」
「えっと、その……余り話すとマズイ話と言うか……あれなのよね……こんな大勢の前で話すべきじゃ無いと言うか……」
「構いません! この場にいる皆さんは、わたしの家族です。むしろ、皆さんに話せない話なら、一切聞く気はありません」
強気な発言で見つめるフライちゃんに対して、軽く溜め息を吐きながらエトランジュが話し出す。
「分かりましたよ……ただ、本当に他言無用でお願いしますよ……実は──」
エトランジュは予想外な話を語り出す。
「フライさんが、転生神を辞めて、新しい転生神が引き継ぎましたよね? でも、それが一番の問題でして、あろう事か、名も無き神に“転生神の力”を与えたせいで、この世界に神が干渉してしまってるんですのよ」
俺は話を聞いてて違和感を感じた。
「え、悪いが、いいか?」
「なんですか? まだ話し初めなんですけど?」
「あ、すまないな、エトランジュさん」
「アナタはエトランジュと呼ぶ事を許して差し上げますわよ。フライさんの知り合いみたいですし」
「そいつは、どうも、それより、フライちゃんも、世界に干渉してると思うんだが、何がまずいんだ?」
「フライさんと、名も無き神である存在では、根本的に全てが違うのですよ」
そう語るエトランジュは、困ったような顔をして、置かれた紅茶に口をつけて、ゆっくりと飲んでいく。
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