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15話、『調理師ギルド』・砂糖と金貨と勘違い、嫁ちゃん達にしばかれる

 △△△


 今、俺達は昼過ぎの冒険者ギルドにいる。


 人の少ないギルドで何をしてるかと言うと、食材になる魔物について質問をしに来ていた。


 朝早くから、店の清掃を終わらせ、これからの流れを考えていた時、不意に紫ロングが問題点を口にした。


「ねぇ、キンザンさん、食材についてなんだけど、唐揚げなんかに使う肉は、(こっちだと)簡単には手に入らない物なのよ」


「え、そうなのか、鳥とか普通にいるだろ?」

「鳥はいるけど、大量に仕入れるのが無理なのよ。ハンターに鳥を頼んでも数日掛かるわよ」


 どうやら、ニワトリなんかを育てて食べたり、卵を取るような仕組みはないらしい。


 養鶏場の知識なんかないからなぁ……


「誰もやらないのか? ニワトリとか居ないのか?」


 俺の言葉に紫ロング以外の嫁ちゃんズ3人が首を傾げていた、どうやら、ニワトリ自体が居ないらしい。


「はぁ、キンザンさん、ニワトリはコカトリスを指すのよ……コカトリスは凶暴な魔物だから、簡単には手に入らないわよ」


 そんなやり取りがあり、幾つかの候補が上げられた。


 まずは、魚だ。俺は普通の魚だとずっと思っていたが、そこは異世界だけあって、魚も魔物らしい。


 “食の祭り”でも、使われていた魚も立派な魔物で、水中から水鉄砲を打ち出すらしい。


 早い話が、人気ゲームの『ポチットモンクだー』のモンスターみたいなもんだな……


 だからこそ、食材は仕入れるより、冒険者として、狩りまくる方が安く済むという結論になり、今に至る。


 コカトリスは、森の奥にいるらしいが、群れで行動しているのでパスだ。


 次は豚型の魔物だが、ボア系かオーク系の2酒類になる。

 ボアはイノシシ、オークは人型の豚と言われたので、少し悩ましい話だ。


「どちらにするかだな……」


「なぁオッサン、普通にオークだろ? ボアなんて、山奥に居て、探すの大変だぜ?」


「そうなのか?」


「当たり前だろ? だから、ボア討伐は、あんまり依頼として出ないんだよ」


「ミア、教えてくれて、ありがとうな。ならオーク探しだな」


 俺達は、オークの生息地を聞いてから、森へと向かう。


 位置的には、コカトリスの生息地が『樹海の入口』と呼ばれ、オークの生息地はその手前『森の終わり』の位置になる。


 [ヤヌンバ]と[バリオン]までの[ミリミナの森]はまだ安全なエリアで、森の中心部から南に向かってあがっていくとオークの生息地[森の終わり]になる。


 なので俺達は[森の終わり]まで一気に移動していく。

 途中、角うさぎ、ゴブリンなどを狩り、どんどん進んでいく。


 川の近くで休憩をする事にして、遅めの昼食として、昨日作ったおにぎりを皆に配っていく。


「うーん?」


「キンザン、どうしたにゃ?」


「いや、このままだと、オークを見つけても、夜になっちまう気がしてな、俺達は野営の準備とかしてないだろ?」


「はにゃ! そうだにゃ、夜はダメにゃ! 寝れなくなっちゃうにゃ」


 そっちの心配か……まぁどちらにしても、夜は魔物も活発になるからな。


「だから、明日、改めて準備をしてから、野宿も考えて来ないか?」


 俺の言葉に嫁達が全員、うなづいたので、[ミリミナの森]での狩りだけで終わらせる事に決めた。


 ただ、収穫を角うさぎだけで終わらせる気は毛頭ない。


「川か……本当はやったらダメなんだけど、しゃあないな、ミア、ニア、石で川にダムを作るぞ!」


 ダムが分からないみたいなんで、分かりやすく、説明をしていく。


「わかった。オッサンが決めた位置に石を置くんだな!」

「任せるにゃ! 力なら負けないにゃ!」


 2人の幼嫁が次々に川に石を置いていく。


「それってあれよね、石打漁(いしうちりょう)だっけ?」

「ベリー、よく知ってるな! 異世界(こっち)なら、禁止じゃないからな」


 準備が出来たので、俺は大きな石に向けて、力いっぱいに石を叩きつける。


「オリャアァァァァァッ!」


 ガンッ!


 激しく岩にぶつかる音が響き、水面に反響する。


 すぐに結果が明らかになる。


「はにゃ……すごいにゃ……すごいにゃ!」

「魚が浮いてるぞ、オッサン!」

「全部、集まって来たにゃ〜! すごいにゃ〜」


 楽しそうに魚を拾いあげる2人の姿に俺はガッツポーズを浮かべた。


 実際に知識はあっても、試すのは初めてだ。ヒヤヒヤしたが上手くいったらしい。


 そこで俺は再度、悩んでいた。


「覚悟を決めるか、はぁ、隠し事は無い方がいいからな、皆、悪い少し話があるんだ」


 俺は自分が異世界人である事、スキル【ストレージ】がある事を嫁ちゃんズ全員に話した。


「オッサン! そんなのもあったのか!」

「いつも、不思議だったにゃ、異空間スキルだにゃ!」

「ご主人様、ステキです……あんな物とか、こんなモノも持ち運べるんですね」


 毒メイドだけ、なんか、反応が違うんだが、まぁいいか。


「はぁ、私もなら、話すわ。皆、私も異世界の記憶があるのよ。秘密にしてて、ごめんなさい」


 紫ロングも、俺が秘密を打ち明けたタイミングで自分の事を話だし、嫁ちゃんズは驚いていた。


 だが、秘密を打ち明けた結果、俺達は本当の意味で心が一つになれた気がする。


 みんなで集めた魚を【ストレージ】に入れて、一旦、1日ぶりに宿屋の部屋へと戻っていく。


 1階と2階の部屋を解約して、俺の借りている大部屋に全員が集まると、話し合いを開始する。


「ここからの話になるが、俺は、あの店舗にちゃんとした居住スペースを作ろうと思うんだ」


 自分の考えを伝えると、全員が賛成してくれた、ただ、問題も当然、浮き彫りになる。


「キンザンさん、話はわかるけど、店舗の広さを考えたら難しいんじゃない?」

「ボクもベリーの言う通りだと思うぞ。オッサン、よく考えて見ろよ。1階に地下倉庫、裏のスペースしかないんだぜ?」


「そうだにゃあ、今のままじゃ、みんなぎゅうぎゅうのつめつめだにゃ」

「ワタシは、つめつめの、ムニムニでも、いいです……ポッ……」


 なんか、変なん混じってるが、スルーだな。


「それなんだが、裏に空き家があるって話でな、販売されてるみたいなんだ」


 俺は店舗の裏にある古い家を手に入れて、増築して店舗と繋げようと思っている事を伝えた。


「いやいや、買えないでしょ? 空き家でも、ここら辺なら、金貨2000枚(4000万リコ)は掛かるわよ!」


「わかってる、だから、俺はズルをしようと思ってる」


 俺のズルと言う言葉に、その場が静まり、次の言葉を待つように視線が俺に向いていく。


「ご主人様、大切な話ですので、少しお待ちください」


 毒メイドが入口に向かうと夜のお約束になっている防音の魔導具を起動させた。


 いつも思うんだが、何処に入れてんだあれ?


「…………秘密です」


 いや、声に出してないよね!


 視線で言いたい事を理解するのは本当にやめて欲しい。


 とりあえず、会話を再開させる。


「俺は砂糖を売りたいと考えてる。その為に信頼出来る人物を探さないとならない」


 俺が売り込もうと考えていたのは、『商業ギルド』と『冒険者ギルド』だった。


 しかし、それに紫ロングが待ったを掛けた。


「ダメね……その2つは、目立ち過ぎるし、後々、問題になった際に逃げ道がないわ」


「ベリー、どういうことだ? 逃げ道ってなんだ?」


「簡単な話よ。『商業ギルド』は、砂糖を買い取ったら、売らないとならないわ、『冒険者ギルド』もね」


「それがどうし……そう言う事か……」


 俺は紫ロングが言いたい事を理解した。


「買ったら、売らないといけない……砂糖だから買いたい奴は、少なくないはずだしな」


「そうね、だから、次々に仕入れたいってなると、砂糖の出処が問題になるわ、最悪の場合、捕まって、拷問なんかも有り得るわよ」


「そんな馬鹿な、ありえないだろ?」

「ここは異世界よ? 私達のいた世界の常識は通じないわ」


 俺が悩み、煙草に火をつけて、考え出すと、紫ロングも同じように煙草をくわえて火をつける。


「だから、ここからが、本題よ」っと、吸った煙を“ふぅ”っと吐き出し軽く微笑む。


「私は『調理師ギルド』に直接、買って貰うのがいいと思ってるわ。ただ、砂糖だけを売るのは良くないから、1度、交渉が必要ね」


 話が決まると、明日の朝イチで『調理師ギルド』に向かう事にして眠りにつく。


 ベットに入ると何故か、嫁達全員が俺に密着して来た。

 プニプニのフワフワで、モフモフでスベスベな感覚が手足に絡みつき、俺はドキドキしながら眠るのだった。


 △△△


 鳥の声と窓からの光に目を覚ます。


 全員で軽く朝食を済ませると、街中を進み『調理師ギルド』の扉を叩く。


 冒険者ギルドとは違い、ホテルの受付を思わせる作りに俺は緊張してしまった。


「いらっしゃいませ。『調理師ギルド』へ、ようこそ。本日はどう言ったご用件でしょうか?」


 俺は明るい受付嬢さんに挨拶をして、予約無しで来てしまった事と、取引きがしたい事を伝えた。


「予約無しですと、少し難しいかと……申し訳ございません」


 当然ながら、断られるが、それは想定内だ。


「分かりました。代表さんは居るにはいるんですよね?」


「はい、ですが……やはり、ご予約がないとお通しは出来ないんです」


「分かりました。この小袋を渡して貰ってもいいですか、取り引きしたかった物です。少し待ちますが、ダメなら、他の()()()に持ち込みますので」


 ここからは交渉だ。少なからず、日本のブラック企業で働いてきたんだ、揺さぶり方はわかってるつもりだ。


 他にも持って行ける程度の品であり、わざわざ、他のギルドより『調理師ギルド』を選び持ち込まれた品だ。


 一瞬、悩んだ受付嬢は「確認して参ります」と裏に走っていった。


 受付嬢の独断で断って、得られたはずの利益が無くなれば、それは大問題になる。そう考えたら、怖いはずだ。


 受付嬢さんには悪いが、これしか無かったんだ許して欲しい。


 しかし、戻ってきたのは受付嬢では無かった。


「あなたが、交渉したいと言われた商人殿……じゃない! 『フライデー』のキンザン殿か! 是非、話がしたい」


 俺に声を掛けてきたのは、スラッとした長身の女性だった。

 白いコックコートを来ており、ボブショートヘアの銀髪で片目を隠している為、片目しか分からないがミアと同じ褐色の肌に青い瞳を興奮させながら俺を見ている。


 俺達の事を知ってるみたいで助かる。案内された応接室で、すぐに本題に入る。


「いきなり来てしまい申し訳ありません」


「いや、構わないさ、アタシは『調理師ギルド』のギルドマスターのルンダだ。よろしく頼むよ」


「改めて、キンザンです。ルンダさんよろしくお願いします」


「こちらも1度、キンザン殿と話をしてみたかったのだ。むしろ、有り難い話だよ」


「さっそくですが、俺達が『調理師ギルド』に買って貰いたいのは砂糖です」

「ええ、分かっています。それで、先程の物と品質は変わらない物でしょうか?」


 前もって入れ替えた砂糖の入った袋を目の前に置く。


「確認しても?」

「はい、どうぞ」


 『調理師ギルド』マスターのルンダさん……長いな……よし、銀髪ボブと呼ぶか。

 


 とりあえず銀髪ボブが砂糖を確認して直ぐに交渉が開始される。


 俺は金貨2000枚分の砂糖を200キロを買わないかと話を持ちかけた。


「200キロ? ははは、キンザン殿、そんな大量の砂糖が手に入るなど聞いたことがありませんが?」


 銀髪ボブは、騙されないと言わんばかりに、鋭く目を細めている。


「まぁ、話だけだと、そうなりますよね? 失礼ですが、『調理師ギルド』に鑑定が出来る方はいらっしゃいますか?」


「いるが? まさか、本当に砂糖があるとでも?」

「もし、あったらどうしますか?」


「ふふっははは、もし、あれば、間違いなく全て買おうじゃないか! アタシ達は『調理師ギルド』なんだ! 最高の品が作れるなら悩むことはしないさ!」


 俺は軽く笑い、鑑定師を呼んで貰った。


 鑑定師も半信半疑だったが、俺は悩まずに“買い物袋”に金貨を握った手を入れる。


「少し待ってください。ミア、廊下に来てくれ」

「なんだよ、まぁいいけどよ?」


 皆を待たせて廊下に移動すると、俺はカゴを手渡す。


「オッサン、ボクに運ばせる気かよ!」

「悪いな、ニアでもよかったんだが、ミアに頼みたくてな」


 軽く機嫌を取りながら、頭を撫でてやり、カゴに砂糖を入れていく。


「お待たせしました。ミア、テーブルに置いてくれ」


 テーブルに次々と袋に入った砂糖が置かれていく、銀髪ボブは、目を丸くして驚くと顔を近づける。


「なんだこれ……透明な袋? 布でも皮でもない……なんなんだ、これは?」


 銀髪ボブが、鑑定師を見るが鑑定師も首を横に振る。


「とりあえず、中身を確認してくれるか」


 鑑定師が1つ、1つ、調べて全て砂糖だと分かると、銀髪ボブは下を向き、震え出した。


「まさか、本当に砂糖だなんて……し、支払いは明日まで待ってくれないか、頼むキンザン殿」


「構いませんが? 無理なら、全部じゃなくても──」

「いや、全部欲しい! 絶対に何とかするし、足りないなら、なんでもする覚悟だ! 頼む、全部『調理師ギルド』におろしてくれ!」


 一瞬、なんでもと言うワードに俺の頬が動いた瞬間、勘違いをした嫁達から、一斉に太ももや、尻、脇腹、背中に攻撃が入り、俺は悶絶した。


「オッサン、また悪い事考えたろ?」

「にゃにゃにゃ、欲望お化けだにゃ!」

「さすがに私もいて、それは無いわよね?」

「ご主人様は、ケダモノ? いえ、野獣ですね……」


 違う、俺は他の食材確保が楽になると考えただけなんだ……


 とりあえず、交渉は上手くいき、後日、約束通りに金貨2000枚が俺に渡された。

 その際に、オーク肉やコカトリスといった肉が手に入ったら、俺達に売って欲しいと交渉し、砂糖をたまに『調理師ギルド』に売る事と、他に流さない事で交渉が結ばれた。

読んでくださり感謝いたします。

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