13話、3人の夜、カツ定食とチビカツサンド
部屋について、俺はベットへと横になる。
「ふぅ、なんか色々あったな……」
実際に、俺は大忙しだった。
領主の屋敷を出てから、帰りに奴隷商館に向かい、奴隷商に金貨を渡し、毒メイドのご主人様ってやつになっていた。
奴隷の主は色々とルールがあるらしく、税金や食事についてなど、色々と別室に案内されて聞かされた。
異世界に来て、初めての奴隷がヤンデレラの毒メイドなんだから、困ったもんだ。
今も、横に立って、無言で目をつぶっている。
無言だと本当に可愛いんだが、ヤンデレラなんだよな……
そこに、2人の嫁ちゃん達が飛び込んで来る。
ベットが激しく揺れ、楽しそうに足をバタつかせる。
「オッサン、フカフカだな、下の部屋とは段違いだな」
「硬くないにゃ〜幸せだにゃ〜」
「お前らな、他にベットがあるだろうが! なんで飛び込んで来るんだよ」
「キンザンは、おこりんぼさんだにゃ〜」
「そうだぞ! オッサン怒るなよな?」
賑やかな2人と俺を細めた視線で見る毒メイド。
「はにゃ、ポワゾンは来ないのかにゃ?」
突然の猫耳娘の発言に毒メイドが一瞬、ビクっと、身体を震わせたのがわかった。
「ワ、ワタシは……けっこうです、メイドですので……」
見てるこっちが恥ずかしくなるくらい動揺してんな、たく、しゃあないな。
「ほら、みんな、寝るぞ? ミアもニアもベットに戻れよ!」
「わかってるよ、オッサンのヘタレ!」
「キンザンのいくじにゃし、だにゃ!」
「いいから寝ろ! ポワゾンもベット使って寝ろよ?」
「ワタシは構いませんので、おやすみくださいませ」
ただ、立ったまま、そう口にするポワゾンは微動だにしない。
「わかったから、ぼちぼち寝ろよ、おやすみ……」
数時間後の話だ……俺が目を覚ました時、手足が動かない事に気づく。
なんだこれ、手足が、声もでない……何が起きてやがるんだ!
必死に視界を手に入れようと首を動かす。
「あれ、目が覚めてるみたいだな?」
「はにゃ……やっぱり、起きたにゃ……」
俺を見下ろすように、視線を下に向ける嫁2人の姿に俺は混乱したが、そんな俺の耳に毒メイドの言葉が飛び込んできた。
「大丈夫です、ミア様、ニア様、身動きは取れませんし、確実に身体が痺れてるはずですから、まさか、口から飲んだ媚薬が聞かないとは思いませんでしたが」
「本当に大丈夫なのかにゃ……」
「何、今更いってんだよ、全部オッサンが悪いんだからいいんだよ!」
なんで嫁2人と毒メイドがタッグ組んでんだよ!
「ミア様、ミア様、説明をしてあげないと、誤解されてしまいますよ?」
「はにゃ! 誤解はダメにゃ!」
「そうだよ、嫌われたりは、いやだぞ!」
「でしたら、説明をお願いいたします」
そこからの説明が、なんとも言えない内容だった。
赤髪ショートは自分が出会った日から、いつまでたっても俺が手を出して来ない事が不満だったらしい。
その事を猫耳娘に伝え、猫耳娘は自分じゃ解決出来ないからとポワゾンに相談したらしい。
タイミングを考えたら、奴隷商で説明を受けてる間か……なら、毒メイドの買い物ってのは、そう言うことか……
入口を見てわかったが、防音の魔導具が置かれている。
そして、何より問題は俺の視線の上にいる2人だ。
服を脱ぎ、生まれたままの姿、下から上にストレートに表情が分かるため、なんとも言えない罪悪感に包まれる。
しかし、そんな2人もどうしたらいいか分からずに、アタフタと話しているので、これ以上の何かにはならないだろう。
しかし、そこに毒メイドがニヤリと笑いながら、近づいて来る。
待て、待て、待て! 何する気か分かる、その顔は知ってるやつの顔だ!
そこからは、何も言えない、2人に混じった毒メイドが教師のように2人へと指導をして、動けない俺の上で色々と運動会になった。
途中から動けるようになった俺は、理性が吹き飛び、溜まった欲望を3人に爆発させてしまった。
朝になり、3人を怒るよりも、酷い罪悪感に包まれていた。
「俺は最低だ……やっちまった……」
「オッサン、気にすんなよ? 男らしくて……その、惚れ直したし……」
「そうにゃ、ニア達はキンザンのメスなのにゃ、大好きにゃ〜」
上機嫌な2人の姿があり、その後ろで、毒メイドが俺を見ている。
「ご主人様、ワ、ワタシも……ご馳走様でした」
その言葉に再度、罪悪感がぶり返したが、2人の嫁ちゃんが毒メイドの手を引っ張り、俺の前に引っ張り出す。
「オッサン、しっかり幸せにしてやるんだろ?」
「そうにゃ、一生の誓いをしたって聞いたにゃ!」
「えっと、順番が逆になりましたが……よろしくお願いいたします……ご主人様」
この世界の誓いは、本当になんとも言えないが、俺の答えを待つように並んでいる3人を一気に抱きしめる。
「わかった。だけど、次からはあんな風に動けなくするなよ……あと、ポワゾン、俺に毒や媚薬を使うのは禁止な!」
「ひゃ、ひゃい、分かりました、ご主人様……」
話が終わり、俺達は眠い目を擦りながら、紫ロングの部屋に向かう。
「おーい、ベリー!」と声を上げると、扉が開かれた。
「朝からどうしたのよ? てか、目のクマどうしたわけ?」
「まぁ、寝れなくてな、それより『チームフライデー』として、手に入れた店を見に行かないか?」
「構わないけど……全員、眠そうね、なに? 遠足の前の小学生みたいじゃないのよ」
「世界観を壊すなよ……まあ、みんな寝不足で、聞いてないからいいけどさ」
紫ロングを加えて、俺達は繁華街にある店舗へと向かう。
街では、“食の祭り”で優勝した事もあり、知らない奴らからも声を掛けられたが、とりあえず、目的地へとストレートに向かっていく。
「凄いな、商店街ってやつか、色んな店があるんだな?」
「あら、キンザンさん初めてだっけ?」
「ベリー、アンタ随分と性格がくだけたな、まぁいいが、そうだな、前に軽く見たが、しっかりは見てないな」
「ふーん、キンザンさんて、この街は長くないの?」
紫ロングの言葉に改めて、俺は考えていた……
「──日だ……」小さな声で、呟いていた。
「聞こえないわよ、どうしたのよ?」
「俺、10日なんだよ……異世界にきてから……」
「え、それマジですか? 10日で2人も女の子を……てごめにとか、最低ですね、やっぱりスケベェですね」
呆れた表情を浮かべる紫ロングになんも言い返せない。
「私なんて、もう、20年もこの世界にいるのよ、彼氏も、恋人も作れない状態で働いてたのに、理不尽だわ……」
「ベリー? 20歳だったのか、もっと大人かと思ってたが」
「うるさいわね、元があるから仕方ないのよ、元が!」
この話題はダメだな、まぁ、機嫌がいい時に機会があれば、聞いてみるか。
珍しく、俺と紫ロングが言い争いながら、店舗に到着して驚かされた。
入口が壊され、店内は最近まで使ってたはずなのだが、酷い荒れようだった。
俺達が店舗に入ったのを見て、じいさんが声を掛けてきた。
「アンタらも、ガランに怒りをぶつけに来たのかい? もう壊すもんなんかないだろ? 昨日はずっと、ガランの被害者が押し寄せてたからねぇ」
じいさんはそう言うと、俺達に「きいつけなよ」とだけ言うとスタスタと歩いていった。
店内のフロア、厨房、倉庫まで、本当に全てがボロボロになるまで壊されていた。
「こいつは、酷いな、ベリー……どう思う?」
「どうするって、これじゃ使えないじゃない、まずは掃除と、厨房の整備ね。食材庫は魔石も壊されてるみたいね……使えないわ」
とりあえず、気合いを入れる為に朝食を食べる事に決めて、俺は厨房の一角を綺麗に片付けていく。
調理台を【ストレージ】から取り出し、手早く準備をする。
水の魔石が生きていた為、水を鍋に入れるとカセットコンロに火をつける。
野菜(白菜や人参など)と豚肉、油揚げ、豆腐、春雨などを“買い物袋”から取り出し、適当にカットしていく。
水からお湯になったのを確認してから、一気に煮込み、味噌と出汁を加えていき、濃いめの味付けにして、火加減を調節してから次の準備にはいる。
フライパンにバターを溶かし、シャケの切り身を5枚、取り出して焼いていく。
ご飯だけは、前と同じで、ファミレスの和食セットの追加ご飯を使わせてもらう事にした。
店に到着してから、ずっと眠っていた2人の嫁が朝食の匂いに気づいて、目を覚ました。
濃いめの味付けをした具だくさん豚汁の火を止めて、水を加えて、飲みやすい温度にしてやり、器に入れる。
焼きジャケ、具だくさん豚汁、ご飯に漬け物を木製のトレーにのせる。
「わるい、ベリー、ポワゾン、運んで貰えるか?」
「わかったわ、テーブルを拭いてるから待ってくれる?」
「なら、ワタシが取りに向かいます、ご主人様、お待ちください」
よく見れば、ミアとニアも、目を覚ましてテーブルを片付けて、倒れたイスを並べてくれていた。
5人前の朝食がテーブルに並べられると俺も席に移動して、醤油を取り出してから、みんなでご飯タイムになる。
「和食なんて、キンザンさん、嬉しいわ」と紫ロングが楽しそうに醤油をかけたシャケとご飯を食べていく。
ミアとニアは相変わらず、ガツガツと嬉しそうに食べていたので良かった。
毒メイドは、初めての和食と、俺達と一緒に食べる事に遠慮していたので仕方なく命令した。
「ポワゾン、これからは俺の家族なんだ。一緒に飯を食うのが当たり前になる。だから、食べてくれ」
「か、家族、は、はい、分かり、ました……」
壊れたラジオみたいな返事だったが、食べ始めてくれたので一安心した。
朝食が終わり、洗い物を済ませてから、本題にはいる。
俺達は、やるべき事を決めて、動き出していく。
「オッサン、壊れた物はどうすんだ?」
「ミア、それなら俺が何とかするから、1箇所に集めるよう、皆に言ってくれ」
「わかったよ!」
俺は壊れた物を全てゴミとして集めて【ストレージ】にぶち込む。
“買い物袋”に金貨数枚を一気に入れて、掃除に必要な物を取り出してから、全員で店を綺麗にしていく。
あっという間に昼になり、朝に作った具だくさん豚汁を温め、昼はトンカツを揚げていく。
香ばしい匂いが広がると紫ロングが俺の横でキャベツを切り出し、毒メイドは皿を用意していく。
ミアとニアの2人は入口付近の片付けをしてくれてるみたいだな。
気合いで、大量のトンカツを揚げていく、揚がったトンカツをサクサクっと切り分けていくと皿に盛り付ける。
スタミナ、トンカツ定食が出来上がり、昼休憩にはいる。
「なぁ、オッサン……なんか、いっぱい人が見てるんだけど」
その言葉に外に視線を向ける。
店内を不思議そうに覗く数人、とりあえず害はなさそうだな。
「な、なにか?」
とりあえず、食べるのを中断して、話を聞いてみる。
「いや、なんか、美味そうな匂いがして、気になってしまって、すまなかったね」
覗いていた人達は、料理の香りに誘われたらしい。
「試食用の品を作りますんで、少し待ってくださいね」
おかわり用に揚げてあったトンカツをソースの入った入れ物へとつける。
トンカツがソースでコーティングされたら、それをサンドイッチ用のパンへとキャベツとともに挟む。
十字に切り分けると、一口チビカツサンドが完成していく。
6枚のカツをカツサンドにして、24個のチビカツサンドにしてから、外から覗いていた人達に渡していく。
「本来なら、銀貨数枚をもらうが、今日はサービスなんで食べて見てください」
俺はそう言うと、皆さんも恐る恐る食べだしたが、その表情は一気に輝いた。
異世界にカツサンドが生まれた瞬間だった。
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