146話、まさかの地獄絵図……なんだが
怒り心頭のミトとドーナ、その前に一歩前へと踏み出したメフィス、互いの視線が重なる。
刹那の沈黙、緊迫する空気が全身に突き刺さる感覚に一瞬が数十秒にも感じる最中、動揺していたルフレ殿下が声を上げる。
「は! 双方、やめるのじゃ! 今、キンザンに掛けられたスキルを解除させる為に部下を集めておる、だから、落ち着くのじゃ!」
ルフレ殿下の言葉を聞いたミトの眉がピクっと動いた瞬間、メフィスが頭を下げて見せた。
「我輩がその場にいながらこの様な事態になった事は、申し訳なく思ってる。絶対に解除はさせて貰うので、落ち着いて貰いたいのです……」
メフィスの額から焦りが見え、必死に訴える姿に俺は両手を振りながら、ミト達にアピールする。
まるで虫の囁きの様な声にしか聞こえないだろうが、全力で声を出していく。
「ミトォォォォ! ストップゥゥゥゥッ! 話を聞くんだーーー!」
そんな声が怒り心頭のミトに聞こえる訳ないのは分かっていても必死に叫ぶ事しか出来ない。
メフィス目掛けてミトの解体用の巨大ハンマーが向けられる。
「クソ馬鹿野郎が、そんな言葉で……納得すると思うなやッ! かち割って、頭ん中──何色か確かめてやんよ!」
メフィスも覚悟したようにミトから視線を逸らさずに両手を広げている。
ミトから見て、ルフレ殿下を庇う様な立ち位置であり、ミトの怒りの表情を見せまいと立ち塞がっているようにすら感じる。
「そこまで、やり過ぎですよ! まったく、少しは落ち着いてください。今やるべきは、きんざんさんの姿を戻す事ですよ」
突然の声に、ミトの耳がピクっと動き、声の主に視線を向ける。
「フライ……今、ウチはかなり機嫌わりぃんだけど! 綺麗事より、アイツらの顔面ぶっ飛ばしてやりてぇし!」
「やめなさい! それをしたら、きんざんさんが責任を取らされます。一旦、止まりなさい。それにメフィスを殴れば、取り返しのつかない重荷をきんざんさんが背負わせる事になるんですよ!」
「むっ、うぅぅぅッ、あぁぁッ! ちくしょうがァァァーーーッ!」
怒りの絶叫が室内に響き渡った後、メフィスを睨むミト。
「保留だ。バカ野郎! ふんッ! 言っとくが、最初に吹き飛ばした奴らの事は謝る気ないからな!」
ドスの効いた声でそう口にしたミトにメフィスが苦笑い気味に頷いた。
「ふぅ、構いませんよ。我輩からすれば、国王陛下であるルフレ殿下が無事なら他は構いませんからなぁ」
メフィスの言葉にダミオへと指示を出した長い髭の老人が激怒して前に出る。
「メフィス殿、些か勝手な判断を下し過ぎではないか、王国騎士団に手を挙げた時点で、国に対する驚異であろう。まして、陛下の御前であるぞ! この物を拘束し極刑にすべきであろう!」
「宰相殿……あまり大きな口を開かれますと、後々閉じれなくなりますよ。
それに宰相殿がどれ程の立場があろうとも、今の現状でキンザン殿の奥方を相手に勝てる者など、誰がおりましょう?」
メフィスの言葉に宰相と呼ばれた長い髭の老人が周囲に視線を向ける。
既にターブルロンド騎士団の団長であるダミオと側近の部下達が吹き飛ばされてしまった現状、一般の兵士達は、武器を構えるも誰一人として、身動きが出来なくなっていた。
その状況に対してフライちゃんが、一歩前に出る。
更に冷たい視線を宰相と呼ばれた長い髭の老人に向けてから、次にメフィスに視線を移してニッコリと笑う。
その瞬間、メフィスが慌てた表情でルフレ殿下に何か呪文を唱えていく。
「魔導部隊は殿下の傍に急ぎなさい!」
メフィスが叫び、一瞬で移動するメフィスの部下達の姿が確認出来た。
次の瞬間、ルフレ殿下とメフィス、メフィスの部下達が光の球体に包み込まれていく。
それを確認したフライちゃんが細めていた瞳をしっかりと開いた瞬間、俺は驚愕した。
メフィス達と俺、嫁ちゃん達以外のその場にいた全員が恐怖の表情を浮かべて、今にも泣きそうな顔で両手、両膝を地べたにつけて、怯えだしたのだ。
「メフィス、見逃すのは今回だけですよ? 本来なら、私の怒りは世界を破壊しても止まらないくらいグツグツに煮えたぎっていますからね……意味、分かりますよね?」
メフィスが忌々しそうな表情を必死に隠しながら、笑みを浮かべて返事をする。
「えぇ、言い分は理解しましたが、それは立場を利用した脅迫ではないですかねぇ……流石に慈悲が無さ過ぎると言わざるを得ませんなぁ」
フライちゃんの表情を確認しながら、ギリギリの会話をしているようにすら見えるメフィスはルフレ殿下をチラチラと確認している。
その視線の先にいるルフレ殿下は、何が起きているか理解が追いついていないのであろう、周囲を確認しながら、慌てて倒れた人に向かおうとするのをメフィスの部下に制止されていた。
「殿下、申し訳御座いません。ですが、今は!」
キミルと他の部下達が必死にルフレ殿下を押さえているがそれでも必死に「離さぬか! 余の命令が聞けぬのか!」っと喚くように声を上げている。
その様子にメフィスが更に大声を上げる。
「殿下ッ! 今はお静かに! 今、目の前のフライを刺激する事は、国の滅亡を意味します!」
メフィスからの予想外の忠告にルフレ殿下が冷静差を取り戻し、直ぐに沈黙する。
「申し訳ありませんなぁ、まさか、殿下の絶対防御を軽くうち破るとは、想像もしていませんでしたよ……まったく、職権乱用をこれ程に形にする方は貴女くらいですよ」
その言葉にルフレ殿下が絶望の表情を浮かべる。
絶対防御スキルの条件は、受けた事がないスキルや魔術を防御する物であった。
だからこそ、ズナッキーのスキルに対して、一度くらっていた俺以外の全員を守る事が出来たとも言える。
そんな解除スキルすら効かないスキルを完全に防いだルフレ殿下のスキルがアッサリと突破されているのだから、その絶望は計り知れないだろう。
「安心してください。私が使ったのは、ただの【威圧】スキルですから、子供でも覚えられるスキルの1つに過ぎませんよ」
フライちゃんの言葉にメフィスが軽く笑う。
「威圧というには、恐ろしすぎる威力ですねぇ、そんな物を人に向けるとは、本当に……キンザンのスキル解除は絶対にしますので、機嫌を直して貰えませんかねぇ」
「分かりました……確かに、解除スキルなどは、私の専門外ですから、その言葉を信じましょう……ただ、嘘偽りと判断したなら、私はフライではなく、闘神として、相手をさせて頂きます……」
フライちゃんは全てを言い終わると【威圧】スキルを止めてから俺の方にやってくる。
「きんざんさん、すみません……私が最初から傍にいればよかったのですが……」
俺はそう語るフライちゃんに軽く笑みを浮かべながら、出来るだけ大きな声で語りかける。
「俺は大丈夫だから! それよりも皆を復活させてやってくれ! 頼む!」
フライちゃんは不服そうに頬を膨らませながら、仕方ないと言わんばかりに、癒しの光を室内に輝かせた。
それから直ぐに室内に戻ってきたエオナ中佐とその部下達が室内を見て、驚愕の表情を浮かべた。
そこには、床にへたり込む兵士達の姿と、壁にめり込むダミオ騎士団長とターブルロンド騎士団の精鋭、更に絶望の表情を浮かべたルフレ殿下の姿があったからだ。
おいおい、どうするんだよ……これ、地獄絵図みたいになってるし……俺はどうしたらいいんだよ、本当に。
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