142話、嫁の圧力とデジャブ、エオナ中佐は美人です。
メイド長エリプエールさんの声掛けもあり、メイドさん達を含めたプリンアラモードの試食会が終わりを迎えた。
俺はそのまま、メイド長エリプエールさんに挨拶を済ませると嫁ちゃん達を連れて、アクティさんの容態の確認をする為、療養中の屋敷へと向かう事にする。
いきなりの大人数での訪問になってしまったが、メイドさんが昨日同様に屋敷の中に案内してくれ、軽くアクティさんの様子を見る。
目をつぶり寝ている事もあり、俺は静かにその場を後にして、お粥は為の食材を幾つか置いていく。
嫁ちゃん達も知らぬ相手ではない為、アクティさんを気遣いながらも、長居しないようにして帰る事にした。
俺達が解体広場に帰ってきた時、何故か、ミトの解体場の前に軍服姿の男性が二人たっており、解体場の扉をノックしていた。
「──留守なのか? どうする」
「いや、何とかして探そう。他の倉庫に居るかもしれんからな」
そんな声が聞こえてきた事からも、俺達に用があるのは明らかのようだったので、俺は相手に聞こえるように声を掛ける。
「おーい? なんか解体場に用事か?」
「あ、失礼。キンザン殿とお見受けしますが間違いないでしょうか?」
「あ、あぁ、間違いないが、どちらさん?」
俺の返事を聞いて、直ぐに姿勢を正して敬礼をすると軍服姿の男が来た目的について、説明してくれた。
「我々は、エオナ中佐よりの命令にて此方にまいりました──『フライデー』リーダーであるキンザン殿をお呼びする様にとの事、どうか、御同行して頂きたく存じます」
深く頭を下げる姿に俺は軽く悩みながら、一緒に戻ったばかりの嫁ちゃん達に視線を向ける。
視線に気づいたミアが兵士に向かって疑問を問い掛ける。
「なぁ? アンタらに命令したエオナって誰なんだ。少なくとも、メフィス達からは聞いた事ない名前だけど?」
「そうだにゃ、ニアも色々な話を聞いたりしてるけど、初耳の名前にゃ? むしろ、にゃんで、キンザンを呼んでいるのか気になるにゃ?」
疑うような視線を軍服姿の男達に向けるミアとニアに俺は軽く注意をしてから、話を聞いていく事に決めた。
「えっと、すまないな。それでそのエオナ中佐さんは何処に俺を呼んでるんだ?」
「はい! 行先はグリド商会の本店であり、既にルフレ殿下の許可も頂いております! 内容については、大変申し訳ありませんが、到着してから話したいとの事であります!」
内容が分からないが来て欲しいって、本当に嫌なパターンなんだが……
「仮に俺が断るとどうなるんだ?」
「……我々が至らぬ点があったと判断され、処罰されますが、無理強いは出来ません……」
明らかに絶望的な顔をする男達に俺は小さく溜め息をついた。
「はぁ、わかった……みんな行くぞ。次はグリド商会だ」
俺の言葉に嫁ちゃん達が頷くと直ぐにグリド商会に向かって移動を開始する。
本来、お客さんが出入りする大きな扉があり、その前には複数の槍を装備した兵士が見張りとして立っており、俺達の姿を確認するとあっさりと中に通してくれた。
グリド商会の入口から入って直ぐにある職員通路と書かれた扉から奥に続く通路。
道なりに進むとそこには無駄に煌びやかな作りの装飾品がこれ見よがしに壁や天井を彩っており、行き過ぎた装飾に溜め息が無意識に溢れ出していく。
過去の成金趣味で作られた取引先の応接室を延長したような通路に頭が痛くなる。
それから案内された会議室と書かれた部屋の扉の前で止まる。
「此方がエオナ中佐がお待ちの部屋になります」
「ルフレ殿下は?」
「はい、ルフレ殿下、並びに、メフィス様方は別室にて、調査などをされている最中で御座います」
軽く説明された後に俺達は会議室の中に通される。
「失礼いたします! エオナ中佐。キンザン殿をお連れ致しました」
エオナ中佐と呼ばれた人の姿を見て、俺は驚いた。
そこには白銀の美しい長い髪を後ろに縛った長身の女性が立っていた。
「よく来られたな。キンザン殿。いきなりの呼び出しという形の無礼、許されよ。此方も急ぎでな……」
なんだが歯切れの悪い感じの言葉に俺はなんと返事をするか分からずにいた。
「そう、緊張しないでくれ、寧ろ、頼みがあり、呼び出す形になっているのだからな」
美人が困った様な表情を浮かべる最中、俺がエオナ中佐を美人と認識している為か、フライちゃんから無言の圧力が向けられている。
エオナ中佐が緊張と口にしたが、事実はフライちゃんから出される威圧感とそれに気づいた嫁ちゃん達からの追撃的な疑いの視線によるものだ。
空気を変えたい俺はとりあえず、話を進める事に決めて質問を口にする。
「なんで俺が呼ばれたか、聞いてもいいですか?」
「そうだな。なぜ呼ばれたか分からないままでは、そちらも困るだろうしな……すまぬが聞いてくれ」
肩の力を落とすように、小さく溜め息混じりの言葉に俺は覚悟を決めて、真剣な表情を向ける。
「実を言えばなのだが……ルフレ殿下がよく分からぬが、キンザン殿のプチンアレモード? を食べれなかったと機嫌が悪くてな、空気がそのせいか、かなり悪いのだ」
「え?」っと、俺はまさかのエオナ中佐さんの言葉に耳を疑ってしまった。
「驚くだろうが、ルフレ殿下は力もスキルも強力であり、思考も立派な方なのだが、その反動のせいか、幼い部分が表に出ると、手が付けられないのだよ……」
再度の溜め息に俺は同情した。たまにいるタイプだな……才能もあり、立派なのに暴走すると止められないタイプ……
普段がいい人過ぎて、恨めないタイプって奴だな。そんな人物が国王って立場なら、どうしようもないだろうなぁ……
「はぁ、分かりました。ただ、プリンアラモードを今更作っても余計に拗れる可能性があるんで、別の形でアプローチします」
「え、アプ? 何をするんだ?」
不思議そうに俺の顔を見るエオナ中佐に俺は軽く愛想笑いを混ぜながら口を開く。
「えっと、別の形で何とか機嫌を取りますから、安心してください。すぐに取り掛かりますから」
イライラしてて、腹も空いてるなら、丼物がいいだろうか?
カツ丼なんかもいいが、今はもっとインパクトのある味がいいだろうな。
俺は少し悩みながらも幾つかの目星をつけている丼を頭に想像していく。
そんな考える俺の姿に嫁ちゃん達は嫁ちゃん達で行動を開始していく。
エオナ中佐に嫁ちゃん達が調理場の場所を聞き、俺を引っ張っていく。
「オッサン。悩むのは厨房でだろ! 会議室で悩んでもいい味には辿り着けないって!」
ミアの言葉に嫁ちゃん達が俺を掴み上げて、調理場へと連れてかれる。
「うわ、ちょ! ナギ、やめ、まってくれ!」
「何とも賑やかな……」
問答無用で連れてかれる俺を見ながら、エオナ中佐が呟く声が聞こえた。
調理場に到着した俺は室内にいた複数の兵士から睨まれながら槍を向けられる。
「何者だ! 何故、此処にきた!」
いきなり、調理場に来てしまった為、話は通っておらず、亜人種を含む嫁ちゃん達を見て焦っているのか、兵士側には緊張の雰囲気が目に見えて明らかだった。
そんな、まさかの状況に背後から声が掛けられる。
「お前達、安心しろ、この方達はルフレ殿下並びに、メフィス魔導中将、エオナ中佐方の御客人だ……それを聞いても槍を向けるならば、軍法会議ではすまぬと覚悟して貰わねばならぬ」
「し、失礼致しました。キミル魔導中尉!」
背後から掛けられた声の主に兵士達が敬礼をする姿を見て、俺が振り向く。
そこにはメフィスの部下であり、警備兵団に潜入していたキミこと、キミルが立っていた。
立派な軍服姿に何処か威圧的な雰囲気は、警備兵団に潜入していた時よりも厳しい物に感じる。
俺の表情がぎこちなかったせいか、明らかに不機嫌そうな目で此方を睨むキミ。
「人に助けられて、ありがとうくらい言って欲しいものですね。それともキンザン殿は、今の顔が感謝の表情だと言い張るのか? そうならば、受け入れるが」
「いや、そんな事は、いきなりでびっくりしたんだよ。キミ、助けてくれてありがとうな。助かったよ」
「まぁ、メフィス様が、キンザン殿が呼ばれたと聞いて直ぐに見張りと護衛を含めて私を送った感じですね。なので、助けるのが任務です」
笑うキミに俺が笑い返すと、何故か、嫁ちゃん達から冷たい視線を向けられた。
エオナ中佐の際もあったが、なんかデジャブな気がする……
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