112話、フルーツ牛乳の価値と魔獣の真実
風呂でメフィス達と合流して、少し経った頃、急にメフィスから話題を振られる。
「今回の一件、貴方は解決と考えておりますかなぁ?」
不意の質問に俺は少し悩みながらも、首を横に振る。
首を横に振った理由は、全ての原因が不明である事といきなり事件が重なり過ぎているからだ。
当然だが、物事には順序や流れが存在する。
嵐と共に現れた海の魔物もそうだが、余りに流れが出来すぎているんだ。
百歩譲って、嵐と海の魔物に関しては、魔物が嵐を起こしたとして、それと同時に出てきた“インク・イナメント”の存在──フライちゃんや、メフィス、ロゼがいなかったら最悪の被害が広がっていただろう。
結果から見ても、“水あたり”の一件だけで最悪な状況になっていた事が容易に想像出来るからだ。
「全部が出来すぎてんだよな……」
「やはり、貴方もそう思いますか。我輩も同意見ですなぁ……嵐からの流れは意図的な何かがあったようにしか感じられませんからなぁ」
俺達の会話にロゼが質問をする。
「ねぇ、なんでそんな難しく考えてるのさ? メフィス君、忘れてるかもだけどさ、“インク・イナメント”って昔に封印された魔物だよ?」
「ふむ? 封印ですか、初耳ですが?」
ロゼの言葉にメフィスが本気で分からないという表情を浮かべる。
「あ、そっか……メフィス君達側には、封印じゃなくて、討伐されたって感じになってるんだった!」
ロゼがやらかしたと言わんばかりに、口に手を当てる。
「ロゼ、詳しく話しなさい! 我輩も知らない情報です! 事と次第によっては、女神フライに直接、確かめねば!」
慌ててメフィスを止める俺にアワアワするロゼ。
「おちつけ、メフィス! 頼むから、やめてくれ! これ以上暴れたら!」
必死にメフィスを止める俺の声に、タオルを巻いたフライちゃんが仕切り壁の隙間から男湯に慌ててやってくる。
「大丈夫ですか、きんざんさん! メフィス、なにを……して……いるの……ですか……」
俺がロゼに詰め寄るメフィスを止めようと背中から押さえている姿にフライちゃんが赤面しながら質問をする。
「女神フライ! 説明しなさい。“インク・イナメン ト”について、封印とはなんの話なのですか!」
フライちゃんに歩み寄ろうとするメフィスに対して、錫杖を取り出したフライちゃん。
「フ、フライちゃん! まって!」
「吹き飛びなさい! はぁぁぁ!」
容赦ない一振りで俺ごと、メフィスが吹き飛ばされる。
「うわぁ、お兄ちゃん! メフィス君、危ない! 【ウォーターウォール】」
壁に叩きつけられる寸前で、ロゼが湯船の湯で巨大なクッションを作ってくれたので直撃が防がれた。
危うく、風呂場で女神のフライちゃんから、人生終了のお知らせを貰う事になると思った瞬間だった。
「フライちゃん、流石にヒドいって」
「あわわわ、きんざんさん! ごめんなさいです……」
「あはは、まあ、後でゆっくり話す事にしようよ。あんまりフライちゃんのその姿を他の男性に見せたくないしさ」
俺の言葉にフライちゃんは再度顔を赤くすると、女湯へと走っていった。
その後は、風呂を出てからの話し合いをする事でメフィスとも話が決まり、俺達は風呂場を後にした。
風呂から出て、話し合いが開始されるまでの間に俺と嫁ちゃん達は風呂上がりの牛乳やコーヒー、いちごミルク、フルーツ牛乳などを楽しんでいく。
当然ながら、メフィスの部下さん達は興味津々だったので、メフィスとロゼも含めて皆に振る舞うことにした。
今回、隠さなかったのは、隠しても部下さん達から報告がいく事を思っての行動だ。
案の定、メフィスが質問してくる。予想通りだな。
「この甘味はなんですか! なんと素晴らしい!」
メフィスが飲んでいるのは、フルーツ牛乳だ。
「料理人の企業秘密だよ。レシピは財産であり、武器だからな。作り方は教えられないが、飲みたくなったら言ってくれよ」
「むぅ、残念ですなぁ……金貨500でレシピを教えて頂けないものかと思っているのですが?」
まじかよ……金貨一枚が2万の価値がある世界で500って、普通なら売るんだろうが……
市販のフルーツ牛乳を家で作るなんて無理だな。
簡単な物なら、出来るだろうが……こちらの世界に缶詰やシロップが無い以上は自作は無理だろう。
「すまないが、レシピだけは無理だな……普通に言ってくれよ。まぁ、必要なら販売もするからさ」
明るい雰囲気で水分補給が終わり、いよいよ、本題に入る。
メフィスもだが、俺も“インク・イナメント”の封印については気になっている。
フライちゃんにその件について質問をすると、口をへの字に曲げてから、溜め息を吐いた後に話だした。
「確かに、かなり昔に“インク・イナメント”は封印という形を取られています。討伐するよりも確実に存在が確認する事が出来たからですね」
どうやら、過去のフライちゃん側とメフィス側で行われた争いの時代まで話は遡るらしい。
当時は互いの神側と魔王側で激しく戦闘を繰り返しており、その際に“インク・イナメント”は神々の畑を腐らせる為に生み出された魔獣のようだ。
何度、倒しても復活する為、討伐ではなく、封印という苦肉の策を取ったそうだ。
メフィスも“インク・イナメント”については不死身に近い存在という以外の情報は持っていなかった為、知らざる事実に色々と困惑をしていた。
封印された魔獣“インク・イナメント”は天界の管理するこの世界に追放されて封印の壺ごと神が選んだ人間の一族に管理が任されたらしい。
そこだけ聞くと、かなりいい加減な話にも聞こえるが、神が管理するよりも当時は何も知らない人族に『災いの壺』として、管理させる方が安全だったようだ。
まあ、世界の不幸が詰まった壺とか、神話のパンドラの箱みたいなもんだな……まぁパンドラは箱を開けちゃうんだがな……
その結果は今まで、封印が解除される事はなく、神々もその存在を忘れ去るくらいには長い時間が過ぎていた。
そんな封印がいきなり、解除された事が一番の問題なんだがな。
話を聞いてから、メフィスが悩みながら、壺の特徴を覚えている範囲で質問していく。
フライちゃんの記憶から、思い出された不気味で悪趣味なデザインを絵に書く部下さん。
その絵を見て、俺は驚いた。
「これってさ……ドゥム子爵のコレクションにあった壺に似てないか?」
俺の言葉にメフィスが直ぐに回収したドゥム子爵の私物を調べていく。
間違いなく話に近いデザインの壺が存在しており、フライちゃんとメフィスが同時に頭を抱えていた。
「なんと言う事か、今すぐにドゥムに壺をどの様に手に入れたか聞き出して来なさい! もし口を割らないなら、我輩が直接、出向くと尋問官にも伝えなさい!」
「はい、すぐに……」っと部下の数名が急ぎ姿を消す。
「まさか、人族の管理が別になってるなんて、予想外でしたね……すみません」
フライちゃんもメフィス同様に困った表情を浮かべていたが、今は封印が解除された事実と流れがわかるヒントが現れた事を喜ぶことにした。
そこからは、元ドゥム子爵の私物だった物にそういった封印などに使われた物が無いかを調べていく。
幸いそういった物は他にはなく。俺達は安堵した。
時間が流れ、メフィスの部下さん達が報告に戻ってくる。
厳しい表情で報告を聞くメフィス。同席を許された俺も軽く緊張感に包まれていく。
「報告ですが、元子爵であるドゥム・ティルキオは、壺をグリド商会から買ったと自白しました。他の物も同様にグリド商会の商人であるアロガンテから買い漁っていたようです」
また、グリド商会かよ……アイツら、砂漠のオアシス都市[ガルド・デゼール]から手を広げ過ぎだろうが……
「わかりました。今回は、我輩自ら、出向くとしましょう……流石に色々と問題があり過ぎますからなぁ……」
「確かに色々、ありすぎるよな、グリド商会か」
「貴方の件もしっかりと関わってますからなぁ、グリド商会の件が解決しないと、貴方を気兼ねない状態で国王陛下の元にご案内できませんからねぇ」
忘れてたが、メフィスの言葉に俺はそんな約束をしていた事を思い出しつつ、苦笑いを浮かべていた。
ただ、グリド商会との因縁をしっかりと断ち切らないと、俺も気分が悪いからな。今回はメフィスの言う通り全力でやらないとな。
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