108話、最後の仕上げ。水源掃除
長く感じた森での戦闘が無事に終わり、次の問題である飲水確保の為、森の先にある水源を目指していく。
その際も目立つカビ等を発見した場合はしっかりと酢水をかけて進んでいく事にする。
一つ、わかった事は、森の全体を見れば、そこまで酷い被害ではなかった事だ。
森の入口付近から始まっていたカビも奥に進むに連れて少なくなっており、“インク・イナメント”の移動経路を記すように小さなカビの道が作られている。
本来は早い段階で退治出来ればたいした問題にならない筈の魔獣だと聞かされたが、俺達が退治した“インク・イナメント”サイズになれば、災害級の魔獣であり、本来はこんなあっさりと解決する事は不可能だっただろう。
今いるメンバーが強かったからこそ、何とかなったが、俺一人でもし来ていたら、考え無しに突っ走っていたらと考えると怖くなる。
そして、俺達は目的の川の上流である湖に辿り着く。
水源地である湖は、緑に濁っており、明らかに飲水として使える状態でない事が理解できた。
「こりゃ、酷いなぁ……」
俺が見たままを口にするとロゼは不思議そうな顔で俺を下から見上げた。
「お兄ちゃんが言うほど酷くないよ? それに水が全部腐ってなければ何とかなるからさ。大丈夫だよ」
ロゼはそう笑うと最初に何をするかの説明を開始してくれた。
最初に水面を覆う水草や汚れを回収して、水面が見えるようにして欲しいと言われた。
俺達はロゼの指示で行動を開始する。水草や藻など、本当に酷い状態であり、災害がなくても、遅かれ早かれ、同様の水質汚染が始まっていただろう事を実感させられるようだった。
「マイマスター? これも食材にするの……」
ナギの質問に悩まずに即答していく。
「今回は食べません! 汚染された水草なんて食べたら、本当に食中毒になっちまうからな」
水草に関わらず言えることだが、淡水で育った植物を生で食べるのは正直、リスクが高すぎる。
実際に注意しながら食べる猛者もいるだろうが、俺も流石に野生に生えている水草を生で食べるような真似はした事がない。
実際に火を通せば毒の無いものは、基本的に大丈夫だろうが、次に問題となるのは寄生虫であり、コレが一番危険だろう。
因みに「火を通せば大丈夫」とだけ言うと誤解される危険もある為、しっかりと言わせてもらうが菌や毒素が熱に強い場合もあるので本当に軽はずみな行動は控えるべきと言えるだろう。
この世界にいるかは分からないが、実際に日本では寄生虫から感染症になるリスクが高い為、改めてオススメはしない。
「ナギ、今回はあつめたら、俺が“リサイクル袋”に入れていくから、悩まずに集めてくれ。あと、素手で触るなよ?」
ナギは性格的に、素手で確かめる傾向があり、なんでも触ってしまう為、注意をしておく。
ただ、今回は水草の清掃という事なので、人数分のゴム手袋をしっかりと渡してある。その為、直接、水草を触る事はないと思う。
俺達は数時間をかけて、水草を撤去していく。
今回は湖の中にも入らないとならない為、少し苦労した。
ロゼはそんな俺達と違い、水の腕を作り出すと水中から水草や藻といった物を根こそぎ引き上げてくる。
改めて、水を操るという能力の凄さを感じた。
それと同様に風の刃を水中に送り込み、水草などを切断するメフィス。
水中に風を送り込む事で擬似的な渦を起こらせる事で水草などを集め、最終的に風にのせて地上に取り出している。
とにかく、この二人が規格外に仕事をこなしている為、俺は今回、完全にゴミ回収のみを行っていく。
「しかし、こんな状態の湖から流れてた水を飲んでいたって考えると改めて水質調査なんかが必要だと感じるな」
俺の発言にフライちゃんが返事を返してくる。
「普通はこうならないんですよ……ただ、今回の一件は、異常としか言いようがありません」
俺はフライちゃんの会話に違和感を感じた。
「“普通は”ってどういう意味なんだい?」
「それに関しては、管轄の問題になるんですが、本来は水質の管理をする神がいるのですが……なんでこうなったのか」
最近、神様が身近になりすぎてる気がするな……
「つまり、その神様が管理しきれてない可能性があるのか?」
「早い話がそうなりますね……心配です」
話を聞く限りは、今まで、こんな事はなかったようなので本当に心配なんだとわかる。
「何とか話したり出来ないのか?」
少し悩んでからフライちゃんは首を横に振る。
「神と神が会うことは余りいい結果にならないんですよ……」
いい結果にならないと聞いて、メフィスとロゼに視線を向ける。
神とは別の存在だろうが……確かに厄介な展開になってるんだよな。
そんな事を考えるとフライちゃんが横で首を縦に振るように頷く。
「そうなんですよ。良くも悪くも神やそれに近い存在は力が強いですからね」
俺達の会話が終わろうとしていた時、ロゼとメフィスも湖に浮かぶ水草を全て排除したようで俺の元に大量の廃棄物となった水草を運んでくる。
「我輩達ばかり働かせて、何をしているのですかねぇ。本当に困った方々ですなぁ……」
「あはは、メフィス君は素直じゃないよね? 僕達だけで終わらせる為に頑張ってたクセにさ」
「ロゼ、貴方は黙ってなさい! ゴホン、水草に藻など、すべて片付けました。これの処分を頼みますよ」
ロゼに軽く注意をしながら、メフィスは俺の前に風で宙に浮かべた水草を指さす。
「ああ、ありがとうな。直ぐに片付けるよ」
俺は“リサイクル袋”に全てのゴミを入れていく。
それから直ぐにロゼが湖に向かって、両手を広げて集中するとロゼの全身から水の雫が溢れ出すように浮かび上がっていく。
雫が勢いよく湖の中に飛んでいくと着水した部分から巨大な渦が出来ていき、瞬く間に湖が無数の渦となっていくのがわかる。
初めて見る光景に、俺の目は無数の渦に釘付けになり、視線を離せなくなっていた。
次第に渦の中心にドス黒い塊が姿を現す。
それを見て直ぐに質問を口にする。
「あれは何なんだ、ロゼ」
「お兄ちゃん、アレがこの湖に溜まってた汚染だよ。毒素や汚れ、全ての汚染の元凶を集めた感じかな?」
俺はそれを聞いて息を呑んだ。見た目からもわかってはいたが、予想の何倍も酷く濁った黒い塊。
「直ぐに回収するから、アレをこっちに持って来れるか?」
「出来るけど……触れたりしたらダメだよ? 本当に危ない猛毒の塊だからね」
ロゼの説明を聞きながら、俺は頭の中にポワゾンの姿が浮かんでいた。
ポワゾンなら、あの毒の塊を欲しがっただろうな……
そんな事を考えながら、俺は“リサイクル袋”に汚染の塊を入れていく。
驚いた事に、汚染の塊は金貨数十枚に変化して“リサイクル袋”から吐き出されていく。
俺以外の面々も金貨が袋から吐き出された事実に不思議な表情を浮かべていたので、俺は慌ててその場を取り繕う。
「やばい! 入れてた金貨が……たいへんだ」
明らかに嘘くさい演技にメフィスの鋭い視線が向けられる。
「はあ、誰にでも話せない秘密の一つや二つありますからなぁ、今回は見なかった事にします。ただ、もしも、その力を国の不利益に使えば許しません。分かりますなぁ?」
メフィスの目がマジだった為、悩むような時間すらまずいと考えて直ぐに首を縦に振る。
その反応にメフィスは軽く頷くと、指を“パチンッ”と鳴らす。
金貨が風で集められて空中で縦一列に並べられる。
「早くしまいなさい。金貨をチラつかせるのは余り褒められた行動ではありませんからねぇ」
言われるままに、金貨を【ストレージ】に収納していく。
こんな事をしている間に、ロゼは一人で水の浄水を行っており、最初の渦で取り切れなかった微細な汚れを抽出していた。
普段が陽気な雰囲気のせいもあり、真剣なロゼの姿に俺は驚きを感じてしまった。
ロゼの活躍もあり、作業は瞬く間に終わりを迎える。
近代日本では絶対に出来ないスピードでの浄化作業に俺は再度、驚きを感じる事になったのだった。
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