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103話、ロゼとメフィス

 川沿いを急ぎ進む俺達、最初こそ、もたついたが改めてメフィスと部下の人達の移動速度には驚かされた。


 俺はナギに背負ってもらったまま、そう感じていた。

 獣人という身体能力の塊のようなウルグ達を容易く置いていくような凄まじい速度で移動していく。


「ナギ、悪いな、大丈夫か」

「マイマスター。大丈夫、ただ、どんどん水の臭いが酷くなってる。最初よりも嫌、すごく嫌な感じになってく」


 俺には水の臭いまでは分からなかったが、ウルグ達の表情を確認して、鼻のいい獣人達には感じ取れるくらいの悪臭に近いものが出ているようだった。


 そんな俺達は馬よりも早い速度で一気に移動していく。

 ナギが居てくれなかったら、これ程の速度で俺が移動するのは無理だっただろう。


 舗装されていない道は普通に歩くのも難しいくらいに歪んでおり、俺達が通っているルートは商人達が通らない上流への道で馬車が通る道と比べたら本当に酷いものだった。


 それでも速度を落とす事なく進むナギに感謝しかない。


 見晴らしの良かった川沿いの道が終わり、森の中に繋がっていく。

 人の手入れがされていない森は川の水以外を全て阻むように広がっており、南国の楽園を思わせていた[カエルム]のイメージをガラリと変えるには十分なインパクトを俺に与えていた。


「皆さん! 今から木々の上を飛びながら進みます! 女神フライを背負ったままでは難しいでしょうから、この場に獣人の皆さんは待機してて貰います!」


 メフィスの言葉に俺は考えたが、別の選択肢を探そうとしたが何も浮かばなかった。


 そんな時、不意に首に掛けていた雫型の水晶を思い出す。


 ダメ元で俺は雫型の水晶を川の水につけてみる。

 当然だが、何も起こる様子はなかった。


 少し期待していた反面、流石にそんな事は起こらないと現実と向き合った瞬間だった。


「やっぱり、無理だよな。流石に……」


 俺は[バリオン]で出会ったロゼと名乗った少年が助けてくれないだろうかと僅かな期待をしていたが、やはり、そうはならないと落胆した。


 水に水晶をつけている姿をみたナギが不思議そうに質問をする。


「マイマスター……ロゼ、呼ぶの?」


 ナギは口数は少ないが本当に記憶力が凄い子なんだよな。


 ナギの発言に俺の影に潜っていたドーナが顔を出す。


「マスター! ロゼって誰なの? また新しい女の子を捕まえたの!」


 ムスッとした顔を影から出すドーナに慌てて説明する。


「違うからな、なんで女の子を捕まえたとかって発言になるんだよ……[バリオン]で知り合った男の子で、なんかあれば助けてくれるって約束でな……」


 約束と言いながら、現実はそうならないと改めて感じた瞬間だった。


 しかし、俺が諦めた瞬間、川の水が波紋を描くように振動した瞬間、広がる波紋に汚れが押しやられるように弾かれると水の柱が空高く吹き上がる。


「やぁやぁ、こんなに早く呼ばれるなんてびっくりだよ。お兄ちゃんたら、僕に会いたくて仕方なかったんだね〜」


 川の水面に立つロゼは冗談を言うように俺に笑いかけてくる。


「ロゼ、本当に来てくれたんだな!」


「当たり前じゃないか、僕とお兄ちゃんの約束だからね。それで……ここは何処? それにかなり酷い水の香りだね。正直びっくりだよ」


 ロゼはそう言うと、俺達の前に“ひょい”っとジャンプして飛んでくる。


「あはは、お兄ちゃん達、面白い集まりだね?」


 ロゼがそう口にしたと同時にメフィスがやってくると何故か、俺の襟首を掴み、力任せに後ろに引っ張られた。


「ぐぁ、ゲホゲホ、いきなり何すんだよ!」


 一瞬の事に俺は驚きながらもメフィスを見ると真剣な表情でロゼに冷たい視線を向けていた。


 最初に口を開いたのはロゼだった。


「あれ〜! 久しぶりだねぇ〜メフィス君じゃないか、なんで君が此処にいるんだい?」


「相変わらずの口調ですなぁ……ただ、今は貴方に構ってる時間はありません。忙しいのでねぇ!」


「ふ〜ん? まぁ、いいけどさぁ……僕とお兄ちゃんの会話を邪魔しないでくれる? 僕、怒っちゃうよ?」


「ロゼ、貴方は少し成長したようですが……やはり、再教育が必要でしょうかねぇ!」


「再教育〜? よく言うよ。引き分けだったんだからさ、むしろ。あんまり強がると負けた時に格好悪いよメフィス君?」


 俺は訳が分からずに見ていたが、二人が知り合いで仲が悪い事だけは理解できた。


 そんな二人が涼しい顔で互いをディスる最中、俺は急ぎたい気持ちを我慢出来ず、会話に割って入る。


「二人ともストップ!」


 間に入った瞬間、仕方ないという顔をするロゼとメフィス、互いに黙ったが目は未だに火花を散らしているように見えた。


「二人に何があったかは知らないけど、今は協力して欲しいんだ。頼むよ」


「はぁ? 我輩がコイツと協力ですと、有り得ませんなぁ! コヤツが何者かも知らずに話しているようですが、先に言っておきます──我輩はコヤツを許す気はありません」


「僕は構わないよ。まぁ、メフィス君は僕が嫌いらしいからさ、僕だけで何とかしてあげるよ」


 メフィスと対象的な反応のロゼ、しかし、何故かメフィスがその瞬間、俺とロゼの間に入ってくる。


「好き嫌いの話ではありませんでしょう? 自分が何をしたか、思い出してから言いなさい!」


 俺は埒が明かない為、ロゼに問いかける。


「何をやらかしたんだよ……」


「あはは、それが──まぁ、ちょっとね」


 ロゼは全てをはなさなかったが、簡単な説明をしてくれた。

 話を聞いて俺は驚いた。かなり古い話だと口にしたロゼ。


 メフィスとは古い友人であり、互いに昔は仲も良かったようだ。


 ただ、1つのきっかけで、その友情に亀裂が入ったと少し悲しそうに語るロゼ。


「まぁ、僕が約束を守らなかったのが悪いんだよ。まぁ、守ってたら、メフィス君も僕も多分変わっちゃってたから……後悔はないんだけどね」


「なあ、本当に何があったんだよ」


「うーん、知りたがりなんだね。まぁ、今更だから、教えてもいっか、お兄ちゃんだから、特別にね」


 そう言うと、ロゼは一瞬、離れた位置にいるメフィスを寂しそうに見つめた。


「お兄ちゃんは、メフィス君がどんな存在だったかとか、聞いてるかな?」


 突然のメフィスの過去に対する質問に俺は首を横に振る。


「そうだよね。メフィス君と僕は幼い時は仲良かったんだ。将来は一緒に世界を手に入れようって約束してたんだよ」


 いきなりの物騒な話に俺は苦笑いを浮かべながら、話を聞いていく。


「ただ、僕とメフィス君は、別々の立場だったんだよね。そのせいで、約束を守れなくなっちゃったんだ」


 過去にロゼ側とメフィス側の指導者による争いがあり、その結果はメフィス側の指導者の敗北で集結した。


 その際、ロゼとメフィスも対峙し、互いの全力を出してぶつかりあった。


 ただ、メフィスはロゼを倒せなかった。ロゼもまた、メフィスにトドメをさせなかった。


 両者が最後の瞬間を覚悟した瞬間、メフィス側の指導者が敗北を認め、勝敗が決まり、互いに生き延びたがそれ以来、二人は疎遠になったとロゼは語った。


 話が終わると同時にメフィスが怒りに満ちた表情で俺達の前に立った。


「なにを、ふざけた昔話をしているんですか! 我輩が、お前に怒ったのは──あの時、我輩を始末すれば、お前は立場を失わなかった! もっと上になれただろうに!」


 メフィスがロゼの服を掴み、掴んだ拳が震えているのが理解できた。


「なんで、手を抜いたのです! 手を抜かれて敗北した我輩は──お前に分かりますか……信頼していた存在に手を抜かれて負けた挙句、生かされる気持ちが!」


「それは君も同じだろう! 僕にわざと負けようとした君が僕を責めるなよ!」


 俺からすれば、互いに割り切れなかったんだ……ただ、互いに相手を守りたかっただけの話なんだと思う。


「我輩は、ロゼ……貴方に死んで欲しくなかったのですよ……だからこそ、死を覚悟していた! それを気づいていて、手を抜くのがどれ程の侮辱で屈辱か分かりますか!」


「わかるか! 君が大人しく死んで手に入れた手柄なんかいらないし、それで処分される覚悟だってあったよ!」


 かなり重たい話になってきた為、俺はどうするべきか悩んでしまった。


 そんなピリついた空気を吹き飛ばすようにウルグが走ってくる。


 日陰で一度、休憩させていたフライちゃんが目を覚ましたとウルグが報告にきた。


 俺は二人をそのままにするのは良くないと思いながら、フライちゃんが気になり、離れる事にした。



読んでくださり感謝いたします。

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