1話、異世界転移って、言うか人攫いですよね?
いらっしゃいませ。気楽にどうぞ(^ω^)_凵
大都市[バリオン]の繁華街にある俺の店、揚げもん屋『フライデー』開店は週1だが、店を開いたなら、何処よりも美味いモンを出していく。
味だけなら、何処にも負けないという自信がある。
「マスター! 次の『オークカツ』を持ってくの〜」
「おう、ドーナ頼む! 次も揚げてくから、出来たら運んでくれ」
「オッサン、次の追加が入るぞ〜『メンチ』と『ラビカラ』三人前頼む!」
元気な嫁達の声で、厨房の俺も気合いを入れて、揚げ物を油に入れていく。
「ミア、任せろ! 先に『オーコロ』5枚と『魚のフライ』出すぞ」
「は〜い!」
店内の雰囲気を彩るように嫁ちゃん達が走り回り、俺の揚げたフライを運んでいく。
「人生捨てたもんじゃねぇな。ベリー! レジを頼む」
「わかったわ、任せてキンザンさん」
俺はこっちの世界で、最高の揚げもん屋になってやる!
△△△△
「キミはクビだ。無能なキミでも理由はわかるな?」
イヤミな上司のニヤリ顔、まるで弱い物を見下すようなそれは俺に向けられている。
現実は残酷だ、ミスの全責任を追わされて、俺は会社から追い出される事になった。
俺は金山幸大、三十代のただのオッサンだ。
上司のハゲと違い、フサフサの黒髪も気に入らなかったんだろう。
彼女無しの現実、童貞の三十代なら魔法使いの夢も見れたが、生憎、経験は済ませてしまっている。
現在はロンリー、ボッチー、グロッキー、煙草が生き甲斐のオッサンだ。
しかし、夏のイベント、ザ・揚げもんフェスティバルに出店が決まった事で、すべてが終わりに向かっていく。
何を隠そう雑な扱いをされていた俺が長年かけて、会社から貰った最大のチャンスだったからだ。
「金山、君にこのイベントの責任者を任せる。これが取引先のリストだ。わかったな」
「はい、全身全霊で必ず成功させて見せます」
責任者に選ばれ浮かれていた。成功すれば人生がバラ色に変わるんじゃないかと心のそこから思えた瞬間だった。
やっと評価されたんだと思うと、煙草も普段より美味く感じる。
「夏の揚げもんフェスティバルまで1ヶ月か、時間がないな、急がないとな」
ただ、がむしゃらに取引先と連絡し、金額を照らし合わせ、多少の無理も上司に小言を言われながら通していく。
「何日目の徹夜なんだかな、朝までにやらないとな、よしゃやるぞ!」
フェスティバルまで残り四日、食材と調味料、紙皿などフェスティバルの一週間を絶対に成功させる為に準備をしていく。
予算は大分上乗せされたが、会社が許可を出してくれたお陰で何とか上手くいった。
「あとは当日まで油断しない事だな」
だが、ダメだった。会社が経営する飲食店で食中毒が出てしまったのだ。
最悪なタイミングだった。
追いうちをかけるように、取引き先の産地の偽装があきらかになる……
俺は取引先の産地偽装など知らなかったが会社はそれを許さなかった。
会社の金だと言えばそれまでだが、責任者である俺への会社からの追及はひどいものだった。
「うちの会社に無能は要らないんだよ、分かるね金山君……」
そして、クビを言い渡された。
退職金も大幅カットとなり、ゼロではなかったが、俺の十数年が終わりを迎えた瞬間だった。
はぁ、神様か女神様か知らないけどさ……さすがに酷すぎねぇか?
俺は、こんなに嫌われるほど、悪さをした覚えは無いぞ……
やる気が無くても煙草は切れる。
煙草を買うためにコンビニへと向かう。
見知った顔しか居ないような小さな町で俺を見た奴らが、ヒソヒソと話す声が聞こえる。
いつものコンビニすら、行きにくい……
普段と反対側に歩いていく。
30分くらい歩いていると見たことのないコンビニを見つけた。
個人店なんだろうか、コンビニだと分かるが海外の文字のようで、名前がわからない。
店内に入り、エアコンの風に出迎えられる。
軽く店内を物色しようと思った俺の視線はレジへと釘付けになっていた。
見慣れない青色の髪をした学生さんがレジに立っており、珍しい髪の色のせいか、店員を凝視してしまい慌てて視線を逸らす。
少し気まずさを感じた為、直ぐに煙草の番号を伝える事にする。
「煙草いいですか、184番を3つ、いや、5つください」
カートンで買おうか迷ったが、歩きで煙草を抱えて帰るのを誰かに見られるのが嫌だった。薄手の上着についたポケットに入るギリギリの個数だ。
「ありがとうございます。5点で三千円になります。移転キャンペーンで500円で1回クジが引けます。6回どうぞ」
よくあるやつだ、最近はよくクジを引くが、当たりらしい当たりは引いた試しがないな……
一枚目をめくる、当然、ハズレだ。ちなみにハズレは飴玉が三個だった。
二枚目はどうか……ポケットティッシュだった。
三枚目、500のペットボトル(水)
まぁ、水は悪くないな……
四枚目はまたハズレ、飴が六個に増えたな。
五枚目、ボールペン型ライト
六枚目……めくると、そこには【S】とだけ書かれていた。
「えっと、Sって、なんですか?」
「…………」
無言の女性店員に俺も沈黙する。
いや、なんか反応が欲しい。お客さんが質問したら、とりあえず返事して欲しいんだが……
無言だった店員がカウンター下に手を伸ばすと一枚のA4サイズの封筒を取り出す。
でっかく『S』と書かれた封筒から、紙を取り出すと説明をされる。
「おめでとうございます。[バッカス]へのシングルチケットが当たりました」
「海外ですか?」
「国外ですね。当たってしまったので、受け取りサインをお願い出来ますでしょうか?」
「あ、はい、これ、絶対行かないとダメなやつじゃないですよね? まぁ行けるなら嬉しいけど」
「はい、ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです……では、コチラにサインをお願いします。名前だけで大丈夫ですので」
受け取り証明書に名前を書いていく。
「1番最後の部分にアンケートがありますので、そちらの記入もお願いします」
言われるままにサインを入れてアンケートを見る。
『あなたは、異世界に行きたいと思った事がありますか YES、or、NO』
YESにマルをして、アンケートが終了する。
「はい、確かに確認できましたので、賞品をお渡し致します」
そう言いわれ、女性店員を見るとカウンターに赤いボタンが置かれていた。
「え、なんすか、それ?」
「良い異世界生活を、行ってらっしゃいませ。金山様」
女性店員がそう言うとボタンが押される。
急にひらいた穴の中に落下する。
気絶してたのか、ここは何処だ……頭イてぇ。
俺が意識を覚ましたのは、壁も柱も存在しない白一色の何も無い空間だった。
「夢か、此処はどこなんだ……最近、寝れてなかったから、変な夢を見てるのか」
その場で考えるが、やっぱり目覚める様子はない。
「そもそも、いつ寝たんだ? むしろ、煙草を買いに行った辺りから夢だったのか……」
「あ、あの……もしもし、考えてる最中にすみません、お話いいですか?」
目を瞑りながら考えていた俺の背後から、突然、弱々しい女性の声がした。
そちらに視線を向ける。視線の先には全身白のワンピースを来た長い髪の女性が立っていた。
カラコンだろうか、黄色い目がくりくりしていて、可愛い美人さんだ。
自分の表現力の無さを申し訳なく思うが可愛いは正義くらいしか、言葉が思い浮かばなかった。
「えっと、あの……全て聞こえてます……」
「…………」
「…………」
可愛いって思った事が伝わっているんだろうか?
「あわわ、あ、あの照れます……」
急に赤面してあわあわしている目の前の可愛い女性に俺も姿勢を正すことにした。
「本当に聞こえてるんだな?」
「はい、あと、可愛いという表現はその恥ずかしいです……え、えっと、話を進めていいですか……これ以上、言われると、身体が熱くなって話が出来なくなっちゃうので」
「それはごめんな、話を聞かせてくれ」
「はい、私は転移担当の女神フライです。この度は、転移者として、選ばれたようでおめでとうございます」
「よく分からないが、とりあえず話を聞くよ」
「悩まずに受け入れてくださりありがとうございます。すごく助かります」
ニコニコしながら、両手を前で合わせる姿は天使に見える 。
「それで、俺は何をしたらいいんだ?」
「はい、世にいう流行りの転移者になってもらい、私の管理する世界の住人になってもらいたいんです」
「ほうほう、つまり、勇者になれと?」
「いいえ?」
「ん? 魔法とか剣の世界は?」
「ありますよ。でも、勇者とかは、今は必要無い段階でして、素直に住人として生活してほしいんです」
「ふふ、わかった帰らせてもらっていいかな?」
「待ってくださいーーー! 帰らないでくださいーーー!」
可愛い美人がだだを捏ねて、足につかまる姿はレアだが、異世界に行ってまで住民Aをやる気はないんだよね。
「ちゃんと、色々ありますから、特権つけますから、金山さんに断られたら私、もう世界を維持出来なくなっちゃうんですーーー!」
「とりあえず、話を聞くから泣かないでくれますか、罪悪感がすごいんで……」
「だって、だって……いきなり帰るっ言うから……」
とりあえず、泣いた女神様を宥めつつ、話を聞いていくことになった。
飲み物と菓子を出してもらい、白い空間に似つかわしくないちゃぶ台を挟んで話を再開する。
「それで、なんで俺が断ったらダメになるんだ?」
「私、今回が初めての転移担当なんです、神にも交代の時期がありまして、今回は私が任命されたんですが……皆さん「勇者じゃないなら嫌だ」とか、「スマホが使えないとか無理」とか言われて、断られてばかりで……」
あー、何となく理解できた。確かに今の時代なら、そう言うパターンもあるんだろうな……
「その結果、召喚回数がどんどん減ってしまいまして、何とか、二人は転移を決めてくれたんですが、ノルマの三人まで、あと一人足りなくて、金山さんが最後の一人なんです……」
確かに死んで転生とか、転移なら、文句も言わないんだろう、コンビニでいきなり攫われて、転移しろは無理がある。
早い話が異世界転移って言うか、人攫いですよね?
「違うんですよ、誰でもいい訳じゃないんですよ……今の世界にこのまま居たら、酷い未来しかない人を集めて、助けるつもりだったんですが……」
「つまり、俺もその対象なのか……」
「そうですね、生命の危機に繋がる不幸が押し寄せてました。あのままですと……」
「はぁ、わかったよ。その代わり、特権はちゃんとくれよ。期待してるからさ」
「ありがとうございます。金山さん」
表情が明るくなるのが目に見えてわかった。可愛く見えるフライちゃんを泣かせるのは、違う気がする。
「フライちゃんなんて、初めて言われました。なんか照れくさいです……じゃなかったですね。特権を選んで貰わないとですよね」
「何があるんだい?」
「はい、特権はオプション1つとスキルが5つになりますね。最後に引いたクジの枚数で決まります。先ずは基本の【言語理解】です。こちらはオプションなのですみません……」
まぁ、仕方ないな……言葉が分からないと生きられないしな……
「それと定番の【ストレージ】がオススメになります。鑑定系は【食材鑑定】しかありませんが」
ん?
「なんで、食材鑑定なんだ? 普通の鑑定はないのか?」
「すみません、普通の鑑定が今、品切れでして、先の二人が鑑定スキルと鑑定眼を選びまして、すみません」
まぁ、確かに食材だけでも鑑定出来たら、何とかなるか。
「わかったよ。ならその二つを貰うよ。あとは何が貰えるんだ?」
「あとの3つは……むしろ、ストレージを諦めたら、少しはマシなスキルになると言うか……」
どうやら、スキルにもランクがあるみたいだな、ストレージは、かなりいいスキルなんだろう。
他の二人がストレージを選ばなかったのもそれが理由なんだろう。
「ふぅ、元がただのオッサンだからな、貰えるだけでもありがたいって思わないとな」
「今の段階で選べる物を確認してみますか?」
「え、フライちゃん、いいのか?」
「はい、本来はダメですが、今回の金山さんが最後ですから、サービスです……」
【水魔法】【火魔法】【風魔法】【土魔法】【回復魔法】【鷹の目】【身体強化】【筋力アップ】【料理時短】【掃除時短】【獣化】【槍術】【剣術】【弓術】【短剣術】【斧術】【盾術】【双剣術】【探知】【解体】【念話】【扉開け】【透視眼】【調理器具マスター】【掃除用具マスター】【メイドマスター】【速読】【動物語理解】【快眠体質】【異常耐性】
思ったより、いいもんがなかったな……
とりあえず、スキルの説明を聞いていくか……
「フライちゃん、スキルの説明を頼めるか?」
「はい、先ずはわかりやすいものからですね、【火魔法】や【水魔法】と言った物は、後々、魔術ブックや才能があれば、鍛錬で習得できる物になります」
「つまり、剣術なんかも同じなの?」
「はい、【剣術】なども、才能は必要ですが、訓練などで習得可能ですね……なんか、すみません」
「いやいや、大丈夫だよ。その情報も大切だから助かるわ」
ただ、そうなると、後から手に入る物を最初から持って有利を得るか、後から手に入らないレア物を取るかになりそうだ。
「【鷹の目】ってのはどんなスキルなんだ?」
「はい、鷹の目は目が良くなります! 望遠鏡がなくても、しっかり遠くが見える感じですね」
少しドヤ顔なのが可愛いが、鷹の目はいらないかな……次だな……
そこから、次々にスキル内容を聞いていく、どれも余り物なだけあって、いい物はなかった。
なので、後で簡単に取得出来るものと本能的にいらない物を除外することにした。
悩んだのは、透視眼だが、フライちゃんの手前、絶対に使い方を想像しなかった。
それに説明を聞いたら、随時、衣服などが透明化してしまうそうで……
俺も男だから、女性ならウェルカムだが、野郎がマッパはノーサンキューだ。
なので、俺は【解体】【身体強化】【調理器具マスター】を選ぶ事に決めた。
【異常耐性】も気になったんだが、このスキルは、食中毒が少し楽になるとか、麻痺しても指が僅かに動かせる程度の効果しか期待出来ないらしい……それでは使い物にならない。
「決まったんですね。【言語理解】【ストレージ】【食材鑑定】【解体】【身体強化】【調理器具マスター】ですね。攻撃スキルとかないですが、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。【身体強化】スキルで何とかなるさ、こう見えてオッサンは腕っ節強いからな」
「なら、安心ですね。では、早速、スキルを固定しますね」
フライちゃんがそう語ると俺の身体が輝き、体内に熱い物を感じた。
サウナの中に入った時のような感覚が過ぎると水風呂に入った後の整った感じがする。
「これがスキル取得です。転移先でも、同じ感じになりますから、安心してくださいね。あと最後に女神の祝福を授けます」
女神フライが両手を俺に向けた。
「祝福って、何をくれたんだ?」
「はい、[バッカス]でお酒や食べ物で困らないように何でも食べれるようになる加護です。食中毒、麻痺、毒と何でも大丈夫になりますよ」
「なら、異常耐性より良い内容じゃないか」
「はっ、そうですね……私とした事が……」
少し抜けてるが可愛いからありだな
「ありがとう、フライちゃん。スキルも貰えたし、これから、どうしたらいいんだ?」
「私が金山さんを転移させたら終わりですね。あと名前ですが、金山は発音が難しいかと……どうしますか?」
名前か、あんまり変えたくないんだよな……
「なら、キンさんとか? キンザンなら、多分、通じますよ」
「はは、なら、キンザンって名乗るよ。本当にありがとうなフライちゃん」
「いえいえ、キンザンさん、そろそろお別れですね。素敵な人生にしてください」
「オッサンのセカンドライフか、悪くないな……ありがとう」
俺の全身が光に包まれて眩いフラッシュが起こったと思うと俺はだだっ広い草原に寝っ転がっていた。
「本当に転移したのか……草の香りがリアルで意識がしっかりする……やっぱり、夢、じゃないんだな」
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