高級娼婦 出題
子供がなにしてんでしょうね
娼館、これで2軒目じゃないですか、レリクスくん
世の中、暇人が多いというか、物好きがいるというか。男のスケベ心は不滅というか。
件の娼婦目当てに来た人間が10人ぐらいいた。
僕らを抜いてね。
若いのから年輩までいるけど、まあ、身分を隠した貴族に富裕な平民。
時間と金のあるスケベ。
さすがに僕は目立ってるね。
娼館に子供って、普通来ないから。
来ちゃ行けないってルールはないよ。ただ、僕だけなら帰れと言われてたろうね。
店が業種が業種だし、その中でも格の高いところ。娼館でも高級店になると身元が不確かな人は駄目とか、一見さんお断りってルールがある。特にここみたいに上位貴族がお忍びで通うような店はね。
今回はデュパンさんが一緒だから入れただけ。
たぶん、他人の眼には、貴族の男の子に女遊びを教える親戚のおじさん、って風に見えてるんだろう。
いくらなんでもちょっと早いけどね。
でも貴族だと10代前半で結婚ってのも十分ある話だし、平民だってやろうと思えばやれる。
18禁なんて概念ないから。
件の娼婦への面接試験は集団でやるらしい。
そりゃ、客1人1人やってたら面倒で仕方ないだろうね。
それにしても、試験に通らなければ会えもしないのに、10人もよく集まったなあ。
受験料金貨1枚もかかるのに。
「その歳で女遊びとは大したもんだな」
どこかの貴族らしい若い人が声を掛けて来た。
「俺はただの使いですよ。リヴィ嬢と会って、良い人なら身請けしろと言われてます」
どこかの大物の使い、という設定。
デュパンさんの親戚設定より、僕はこっちがいい。
「へえ、それはまた凄いお大尽もいたもんだ」
高級娼婦となれば、そこらの娼婦とは身請けにかかる費用は桁が違う。
しかも、今噂になってる売れっ子となると相当に吹っ掛けられるのは分かり切ってる。
一夜の夢を見るだけでも平民の数ヶ月分の収入に匹敵する金額だからね、身請けとなれば、まあ、かなりの額。
そんなことができるのは余程の大店か羽振りのいい貴族か。
「小僧さんのご主人がどなたか知らんが、彼女を身請けするぐらいなら店ごと買った方がいいとさえ言われてる。
そして、ここは王族もお忍びで通う超一流店だ。要するに、身請けなんて無理だよ」
そう言って笑った小太りの若い男は大店のボンボン。
前にハゲ狸のところに親と一緒に来てたのを見たことがある。
向こうは覚えてないみたいだけど。
父親はそれなりの商人でハゲ狸とも付き合いあるけど、この小太り男はそうじゃない。商人としても二流、いや三流かな。このボンボンの代になったら、あの商会は危ないだろう。
でも言ってることは間違いじゃないな。
この店、入るだけで審査がある。
一見さんお断りだし、入店料がいるし、武器類の持ち込み不可。
デュパンさんが顔馴染みってのがね、もう身元明かしてるようなもん。
さすが大貴族の息子、こういう店にも顔が利くんだ。その辺は、僕は気付いてませんよ、という顔をしとく。互いのためにね。
普段の姿見てると大貴族の血統だって忘れそうになるけどね。
実を言えば、こういう高級店に来るってのは結構リスクがある。
王宮に出入りしている貴族が来てる可能性もあるからね。
中には僕の顔を知ってるのもいるかもしれない。
騎士団長や将軍が来てたら非常に面倒臭いことになる。
あの2人がこの手の店に通ってるとは聞いてないけど、興味がないとも行ったことがないとも聞かないから。
まあ、あの2人ならどうとでも口止めできるけどね。
というか、お互いに彼らの娘には知られたくないから沈黙を選ぶことになる。
僕、娘も妻もいないんだけどね。
ううん、別に僕は欲望を満たしに来てるわけじゃないんだけど。リアルテ、ちゃんと説明聞いてくれるかな、というか、全部説明するのはちょっと。あの子、頭良くてもまだ子供だから、あんまり秘密を抱えさせちゃいけない。
そうでなくとも小さい頃に色々あったんだから、余計なストレスは掛けたくないよ。
なら僕がこんな場所へ来なけりゃいいんだけど、そういうわけにも行かなかったから仕方ない。……どう納得させようかな。
決められた時間になったのか準備が出来たのか、まだ見習いらしい少女が来て僕らを別の部屋に案内する。
うん、じろじろ見ないで。
別に何歳以上じゃないと入店禁止とかないんだからいいでしょ。
通されたのは結構広い部屋で、最奥とは御簾みたいなカーテンで区切られてる。シルエットが見えるから、あれがリヴィ嬢当人なんだろうね。
「こんばんは、皆さん。今宵も私のためにお集まりいただき光栄に存じます。今宵は、取り分け若い方もいらっしゃるようで」
カーテンの向こうからの綺麗な声。
ちょっとアクセントに癖がある。南方の人が、そんなアクセントで話すんだったかな。
それはそうと、できればイジらないで欲しい。目立ちたくないから。
……娼館に来てる時点で目立ってんだけどね。
微笑みかけられたような気がしたので僕も微笑み返しておいた。そして一礼。
紳士として女性には礼儀正しくしないとね。
見習い少女が凄い眼で睨んで来た。
ガキの分際で色気づくな、とでも言いたいのかな。
「リヴィ嬢の美しさは子供も惑わせる」
どっかのおっさんが気の利いたこと言った、って顔して自己陶酔。
いいよ、どうでも。
「すいません、門限があるんで始めて貰っていいですか?」
周囲から笑いが起こる。
失笑と嘲り。
リヴィ嬢は失笑の方みたいだね。ならOK。彼女に受ければ後はどうでもいい。
どうせ赤の他人だ。
「小さな紳士のために始めましょうか。でもいいの? 門限があるなら合格しても私と会う時間ある?」
お気遣いどうも。
「門限を守るような善良な子供は、この店に来ないんじゃないですかね」
また失笑。
楽しんで貰えているなら問題無し。
「リヴィ嬢、こいつの見た目に騙されちゃいけない。性格の悪い魔法使いが子供のフリしてるだけだ」
何故デュパンさんが余計なことを言うのか。
フレンドリーファイアか!
いや、誤射じゃないからただの裏切りか。
「失礼な。正真正銘の10歳児ですよ」
「嘘吐け。おまえみたいな子供がいてたまるか。賭けてもいいが、もし今夜、誰か1人だけが拝謁の栄を賜るとしたら、こいつだよ」
何故だろう、褒められてるはずなのに、酷く馬鹿にされてる気がする。
しかも、それって他の人がみんな僕より馬鹿だって言ってない?
なんか急に空気がギスギスし始めたんだけど。
なんで余計なことを言うかな、この人は。
「それはとても良いことを聞きました。彼は一番私好みな紳士です」
リヴィ嬢の穏やかな声で緊張が解ける。
場の空気を扱うのが巧いね。
でなけりゃトップレベルの高級娼婦になんてなれないか。
教養、話術、社交性、そういう一流サラリーマンみたいな要素が必要らしいからね。
「それでは、お聞きします。
12の冒険譚で知られる英雄カノス。彼の最初の冒険はなんであったか」
リヴィ嬢からの出題。
皆に緊張が走る。
カノス、知りません?
レリクスの国の人なら知ってるんだけどねえ
予定より長くなったので、「高級娼婦」まだ少し続きます




