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可愛い婚約者は、どこか変  作者: S屋51


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閑話 頑張れヴィンスくん~ルメイユ公爵家の空騒ぎ

長きに渡るルメイユ公爵家との因縁の始まり

 ヴィンセントはルメイユ公爵家の4男に生まれた。

 長子相続が基本のこの国にあって、4男の役割と言えば兄を支えるか、男子のいない分家の養子になるか、有力な他家へ婿入りするか。

 幸いにして貴族は男子不足。後継者問題で頭を悩ませている家は多く、公爵家の肩書があれば婿入り先に困ることはない。

 それでもヴィンセントは勉学も武芸も努力した。

 公爵家当主、つまりヴィンセントの父親である現公爵は厳しい人間であったが長子相続に関しては懐疑的だった。例え何番目の息子だろうとも、優秀であれば後継として指名する、と息子たちに宣言していた。

 だから次男以降は後継者となるために、長男は弟たちに追い抜かれないようにと努力を重ねていた。

 父にとって息子は家を継ぐためのものでしかなく、親子らしい会話などはなかった。それでも、10人近くいる娘たちよりは恵まれていた。

 公爵にとって娘は他家との縁を繋ぐための存在。

 家のためにより良い家に嫁がせる。これはなにもルメイユ公爵家に限った話ではなく、貴族全般がそういう風潮だった。家同士を繋ぐための駒。その駒に対して親子の情がどれほどあるかは個人差があり、公爵はそこが他家に比べて希薄だったとは言えるかもしれない。

 公爵と娘は日常生活では殆ど会話もない。娘は年頃になると前触れもなく父の執務室に呼ばれ、どこへ嫁ぐかを淡々と告げられる。殆ど会社で人事異動の辞令を受けるようなものだ。公爵の娘の中には、嫁ぎ先の説明を受けるときが父親と一番長く話した、という者もあった。

 それぞれ公爵令嬢として過不足ないものを与えられ、生活に困ることなどなに1つなかったが、しかし父親の愛情だけはどの娘も得られなかった。いや、愛情という面では息子たちも同じことだ。

 領主として領地を盛り立て、王の臣下として仕え、有能な貴族ではあっても人間味がない。王に対してでさえ躊躇いなく苦言を申し立てる。

 現公爵はそんな男だった。


 ヴィンセントは8歳で婚約者が決まった。

 伯爵家の中でも序列の高い家の娘。成人した後はその伯爵家に婿入りして伯爵位を得る予定だった。

 公爵家の跡取りとしては認められなかったとも言えるが、伯爵家への婿入りは悪い話ではなかったし、お相手のイリア嬢のことは気に入っていた。

 プライドが高く、気の強い娘。

 イリア嬢はヴィンセントを気に入ってはいなかったが嫌ってもいなかった。貴族の娘として親同士が決めた縁組に文句を言うこともなく、ただ受け入れていた。

 それに、互いにまだ子供。大人になるまでにどんな変化があるかは分からない。とにかく、伯爵家を潰さない程度の才覚ある男ならそれで良かった。

 ヴィンセントとイリアには温度差こそあったものの、どちらも縁組に文句を言ったりしなかった。

 月に1,2度は顔を合わせ、2人の関係は問題なく進んでいた。

 それなのに……。


 父の執務室に呼ばれたヴィンセントは緊張で倒れそうだった。

 日々の報告は夕食の席でするのが通例だった。それ以外で父に呼ばれるのは特別ななにかがあるときだ。

 そして、今日のヴィンセントにはお叱りを受ける以外に心当たりがなかった。

 庶民の店に出向き、賭け事をしたのみならず危うく家の名に傷をつけるところだった。

 平民の子供にいいようにあしらわれた。貴族子息として有ってはならない失態。

 ただの叱責で済むのならマシだった。

「呼ばれた理由は分かっているな」

 重々しい父の声音。

 ヴィンセントは父の声を聞くと自然と身が竦む。いつまで経っても慣れることのない、こちらを押し潰しそうな声だった。

「はい」

「金貨20枚の出費をどう思う?」

 それはヴィンセントが犯した失態の代価だ。

 賭けの場で、ヴィンセントは危うく家の紋章入りのメダルを賭けねばならないところだった。それを無かったことにするのにそれだけの金がかかった。

 庶民で言えば数年分の生活費になり得る大金でも公爵家にとっては問題にならない金額。

 それについてどう思うかの問いにどう返答すべきか、ヴィンセントは悩んだ。

「高い勉強代だったかと思います」

 どんな家庭教師でも金貨20枚ということはない。

 家庭教師なら月に金貨1枚で十分高給取りの部類に入る。

「そうか、おまえは高いと思うか」

 父のその言葉でヴィンセントは間違えたのだと分かった。「おまえは」ということは父は違うということだ。

「もし、メダルが他人の手に渡っていたらどうなったと思う?」

 貴族家の紋章入りの品は身分証になる。

 それを持っているとなれば、その貴族家の関係者である証。

 他人に渡って悪用されたならどれだけの損害が出ていたか計り知れない。

 金貨20枚の被害で抑えられたと考えれば安く済んだ、という見方もできる。

 それはヴィンセントにも分かっていた。分かっていたが、それはヴィンセントが口にしていいことではなかった。

 ヴィンセントの失態がなければ発生しなかった支払いだ。例え金貨1枚でも高いと言わねばならない。

「おまえが小遣いでなにを買おうと、なにをしようと五月蠅く言うつもりはない。カード遊びも社交の一環として覚えておくのもいいだろう。使用人や取り巻き相手のゲームで調子に乗り、平民の店で遊ぶのも構わん。

 問題は家の名に傷を付けるところだったということだ。

 しかもそれを防いだのはイリア嬢の機転だ。おまえは無様に狼狽するばかりで、なんの行動も起こせなかった」

 あのときは、いつの間にかメダルを賭けることになってしまい、ヴィンセントは酷く狼狽えた。賭けるわけには行かないものを賭けると言わされた。どうすればメンツを失わずに場を切り抜けられるか。良案が浮かばず泡を食っていた。

 それは事実であるから反論のしようがない。

 言いたいことはある。

 そんなつもりはなかった。あれはあの少年が罠に嵌めたのだ。詐欺師紛いの話術で誘導されたのだ、と。

 けれど、そんなことを言ったところで意味はなかった。そんな話に乗ったヴィンセントが迂闊だったというだけの話だ。

 相手を自分より年下の平民と侮り、出された条件の裏も考えずに受け入れてしまった。

「金貨20枚の勉強代。それだけの価値がおまえにあるか?」

 父からの冷たい視線にヴィンセントは背筋が冷たくなった。

 ここで価値がないと認めてしまえば父はヴィンセントを切り捨てるだろう。貴族籍から抜き、平民として生きて行けと家から出されてしまう。

 それはヴィンセントにとっては死刑宣告にも等しかった。

 兄たちに負けないように努力をして来た。学校でも優秀な成績を修めた。公爵位は継げずとも、伯爵家に婿入りはできそうだった。王宮で官僚として働く話もある。

 公爵家に繋がりのある貴族でいる限りは将来に不安はなかった。が、言い換えれば公爵家から出されてしまえば先がないということだ。

 平民として生きるためのツテがない。

 まして公爵家から出されたという烙印があっては商取引もうまく行かないだろう。

 思うところあって自分から家を出るのと、追放されるのではまるで話が違う。

 追放されたものには誰も係わろうとしない。係わることは、追放をした公爵家に対して異を唱えるようなものだからだ。

 この時点で、ヴィンセントの選択肢は多くない。

 平民になるための準備がない彼にとってはなんとしても貴族である必要があった。

「3年、いえ、1年だけ時間をください。金貨20枚の価値があると証明してみせます」

 これは完全にその場しのぎの言い訳でしかない。

 具体的な案はなにもない。ただこの場を切り抜けるには、ヴィンセントはそう言うしかなかった。そして、言ったからには成果を出さねばならなかった。

 そうしなければ容赦なく放り出されることをヴィンセントは知っていた。

 公爵に対して親子の情を求めても無駄なことだ。公爵家にとって役に立たないものに温情はない。まして、損害を与えた者など、まだ弁明の猶予を与えられただけでも不思議なぐらいだった。

 暫しの無言。

 公爵も傍らに立つ執事もただ無表情にヴィンセントを見ていた。

 まるで1年の猶予を与える価値があるかどうかを値踏みしているように感じられた。

「言ったことは守れ」

 重々しい父の言葉にヴィンセントはただ頭を下げ、退出の許可を得て部屋を辞した。


 息子が部屋を出た後でルメイユ公爵ラスタードは眉間に皺を寄せ、

「詰まらないものに引っ掛かったものだ」と呟いた。

「まだお若いのですから、これを糧になされば正しく勉強代としては高くはないかと。ヴィンセント様には金貨以上の価値がありましょう」

 執事のそれはヴィンセントに対するフォローというより、ただの事実の指摘でしかなかった。

 人は失敗する。

 その失敗にどう向き合うか。問題はそこだった。

「それより問題は相手だ。やったことは詰まらぬ詐欺のようなものだが、ヴィンセントよりも幼いとか」

「10歳程度、と聞いております」

「小賢しく、腹立たしい」

「腹立たしい?」

 執事は意外な言葉を聞いた、という顔をした。

「ヴィンセントを罠に嵌めただけなら小賢しくもあるが、その年齢にしては見事だと褒めてもいい。その才覚を在野に置くのは惜しいとも言える。だが、その子供はヴィンセントに温情を掛けた」

「金貨20枚を失っていますが?」

「それはこちらからの和解案でしかない。ヴィンセントはメダルを出すことを躊躇った。だが、ゲームは既に始められていた。

 衆人環視の中でルメイユ家のものが口約束とは言え口にしたことを守らないなどあってはならない。もし強く迫られたなら、ヴィンセントはメダルを出さざるを得なかったろう。紋章を見せれば我が家の縁者と周知される。

 そして、もしメダルを奪われたならその被害は計り知れない。例え金を出して買い戻すことができたとしても、ヴィンセントの将来は完全に潰れる。紋章入りのメダルを賭け金としたこと自体が公爵家の名に泥する行為だからな。

 メダルを実際に人目に晒さずに済んだことで、どこかの貴族の失態で済んだに過ぎない」

「ヴィンセント様が賭けに勝つ、ということも……」

「運が良ければ、か」

 ラスタードは自嘲的に笑んだ。

「ヴィンセントはその重圧に耐えられなかった。仮にゲームを進めたとして、正常な判断ができるわけがない。すべてを運任せにするなら、カードなどという時間のかかるゲームではなく、コイントスでもすればいい。

 そんなもので勝ったところでなんの価値がある?

 相手の口車に乗った時点で主導権は相手にあった。ヴィンセントを徹底的に潰すことだとてできた。そうしなかったのは貴族のメンツをそれ以上潰せば取り返しがつかないと考えての温情だ。ヴィンセントに退く余地を与えた。肝心のヴィンセントはそれにも気付かず、実際に交渉したのはイリア嬢だがな。せめて、最後の交渉を自分で行ったのであればまだ救いはあった。

 そこでも相手には交渉に応じない道もあった。あっさり応じたのは、ヴィンセントを潰すことで我が家と敵対するのを避けるのと、最初からそれが目的ではなかったからだろう。

 自分たちのテリトリーでおいたをしている貴族の小僧を懲らしめる。その程度のつもりだったのかもしれん」

「しかし、それでも敵対行為に近いのでは?」

「それで、公爵家が報復するのか? 温情を掛けられ見逃されておきながら、家の権力を振り翳してその子供を潰すのか? 当然、噂が立つだろうな。ルメイユ公爵家が子供一人を追い込めば、その理由も探られるだろう。その詮索の結果発掘されるのはヴィンセントの失態と、我が家の度量の無さだ。

 既に名が出てしまっていたなら徹底した報復にも意味があるが、現状での報復行為は折角の小さな傷を広げることにしかならん」

「そこまでご理解しておられるのでしたら、腹を立てることもありますまい」

「腹立たしいのは、すべてがその子供の思惑通りということだ。ヴィンセントに仕置きをし、その匙加減でこちらからは行動できないようにした」

「それは、買いかぶりというものでは。その子供がどこまで計算していたかは分かりかねますが、たまたまでは?」

「恐いのは、そうでなかった場合だ。そこまで頭の回る子供を放置して、後々反貴族側にでもなれば厄介なことこの上ない」

「だから、今のうちに取り込む、と?」

「調べたのだろう?」

 ヴィンセントの失態を聞いたときに、執事がすぐに相手の子供について探らせたことをラスタードは承知していた。それぐらいできねば執事になど務まらない。

「名はレクス。分かったのはそれだけです。まだ時間がなかったこともありますが、どうにも誰もその子供については詳しいことは知らないようで。

 いつの頃からか姿を見せるようになったものの、塒はどこなのか、親はどうしているのか。誰も知らない。

 それと、関係があるかは分かりませんがレクスの周辺で面白い人物が見つかりました」

 執事に名を告げられ、ラスタードは形のいい眉を歪めた。

「侯爵家の放蕩息子が?」

「或いは、レクスの後ろにはあの方がいらっしゃるのでしょうか?」

「いや、違うだろうな。人を後ろから操るより、自分で出て来るタイプだ。その場にいて自分がゲームに参加しなかったのなら、レクスの後ろ盾ではあるまい。

 他には?」

「店の権利を賭けられる立場だと言っていたようです。事実かどうか分かりかねますが、あの店の経営にはいくつか不明な点がございます。

 表立ってのオーナーはニマール商会ですが、ニマールは出資の取り纏めをしただけのようでもあります」

「ニマールか。あの古狸、ここ数年で急速に手を広げたらしいな。最近では王宮とも関係しているとか」

「王宮御用達というわけではなく、第3王子殿下との個人的な取引だとか」

「後ろ盾のない落ちぶれ王子のどこにそんな金があるのか」

「後ろ盾もなく、才もなく。学校へ通う年齢に達しても入学もできないとも聞きます。王も第3王子殿下には構わないとか」

「そう、公式行事のとき以外では接触すら余りない。王位継承権を持つ者と他の貴族との係わりを王の後ろ盾たる侯爵がいい顔をしないのだろうな。侯爵は孫である王太子殿下を玉座につけたくて堪らないからな」

 正妃の実父である侯爵は、王太子が玉座を継げば国王の外祖父となる。そうなれば今以上の権勢をほしいままにできる。

 現・王太子の邪魔者となり得るものを良く思わないのは当然と言えば当然と言えた。

「しかし、第3王子殿下はどうにも捉えどころのない王子だ」

「と言いますと?」

「昨今話題になる竜公女、森の主、その主から使わされたエルフたち、聖女、すべて第3王子殿下に繋がる」

「殿下はどういった方なのですか?」

 執事は第3王子を噂でしか知らなかった。

 王族なのだから王宮外の人間が見知る機会は少ない。特に第3王子は王子たちの中でも余り人前に出て来ないので知られていた。

 だがラスタードは公爵の地位にある。公式行事では王族の側に立つ。当然、第3王子とも面識があった。

「為人は分からぬな。挨拶程度しかしたことがない。浪費ばかりの怠け者とも聞けば、上級官僚顔負けの働きをするとも聞いた。一時、神童だなどという噂も立ったが実際はどうであるのか。

 宴などのときも目立たぬようにしていたように思う。人前に出る自信がないのか、それとも敢えてそうしていたのか。そう、実に判断に迷う相手だ」

「珍しいですね、閣下が相手を図りかねるというのは」

「必要を感じなかったというのもあるが、そう思わせるのも殿下の狙いだったのかもしれぬ」

「それでも、話題の者たちの側には殿下がいらっしゃるのでしょう」

「確かにそうだ。だが、聖女や竜公女との縁組はカリステラ伯爵家とリンドバウム公爵家に対する罰であって第3王子殿下の功績ではない」

「そう言えば、第3王子殿下の母君のご実家を滅ぼしたのは両家でしたな」

「そう、言うなれば第3王子殿下にとって竜公女も聖女も仇の一族だ。だが聖女とは赤子の頃から良好な仲だというし、竜公女に至っては自分の宮に住まわせ、欲しいものをなんでも買い与えるほどの溺愛ぶりだとか。

 年齢的に殿下は母君の家についてご存知ないのかもしれないがな。それとも知っていてもなにもできぬだけなのか」

「リンドバウム公爵家が傾いた頃、第3王子殿下と諍いがあったという噂もありましたな」

 竜公女の実家であるリンドバウム公爵家は散財して家が傾いた。

 その頃、竜公女はまだ竜公女ではなかった。第3王子が婚約者である彼女を引き取るかどうかでリンドバウム公爵と揉めた、との話があった。これは噂というよりは少しばかり信憑性のある話だった。

 それからリンドバウム公爵家はそれまでのツケを払う羽目になった。

 現在のリンドバウム公爵家は位はあっても力はなく、金もない。現公爵が王弟であるために取り潰されてはいないが、竜公女が成人したら現公爵は引退、竜公女が女公爵として後を継ぐことになっている。

 王家とリンドバウム公爵家の間でどんなやりとりがあったのか、その詳細は外には漏れて来なかった。同じ公爵家であるルメイユ公爵ラスタードも、ただその決定を報されただけだ。

 竜公女を引き取った当時、第3王子は当時10歳に満たない年齢だった。そんな子供がなにかしたというより、ただ公爵家が財政を失敗したと考えるのが自然だろう。

 けれど、本当にそうなのか?

「現リンドバウム公爵は能ある男ではないが、それでも10歳足らずの子供が没落させたというなら空恐ろしい話だ。

 王が次の代になる頃、第3王子殿下は今は名しか残っていない公爵家を復興させ、妻たる竜公女はリンドバウム女公爵となる。公爵家2つが第3王子殿下のものとなる。国をひっくり返すことのできる勢力だ」

「ですが、かもしれない、というだけの話です」

 こういうことも考えられる、という仮定の話でしかない。

「確かになんら確証のない話だ。

 第3王子殿下は将軍や騎士団長の娘も婚約者に加えているが、これも偶然軍部との繋がりができただけと考えるのは、些か危機感が無さ過ぎるというものだろう。

 公爵位2つと軍事力。近い将来、王をも上回る可能性がある」

「それは、そうですが……」

 第3王子が意図的に自らの勢力を拡大している、と見えてしまう。そして、その目論見通りになったのなら、その力は王家にも匹敵する。

 第3王子がそう狙っているとの確証はどこにもない。けれど、物証はなくとも情況証拠がこれだけ揃ってしまうと無視できない話だった。

「それに、おまえは第3王子の名を知っているか?」

「確か、レリクス殿下……レリクス……」

 執事は首を傾げた。

 つい最近、どこかでその名を聞いたのではなかったか。

「ヴィンセントを負かした少年は10歳ぐらいで、レクスと言うのだろう」

「レリクス、レクス……いや、そんなまさか」

「こうなると、ヴィンセントとの接触も偶然であったかどうか怪しくなって来るというものだ。

 1度、第3王子殿下とお会いすべきだろう」

 ルメイユ公爵ラスタードは知らない。

 レリクスの将来の夢が、片田舎の領主としてのんびり余生を送ることであると。

 ルメイユ公爵ラスタードは知らない。

 軍部との繋がりは、流れでそうなっただけでなんの策略もないことを。

 ルメイユ公爵ラスタードは知らない。

 第3王子が自分が生まれる前のことなどどうでもいいと思っていることを。

 ルメイユ公爵ラスタードは知らない。

 第3王子が玉座になんの興味もないどころか、そんな面倒な仕事はしたくないと心底願い、なんなら王太子派になってもいいとすら思っていることを。

 ラスタードは公爵として細部までに眼を配る男であったが、第3王子に関しては考え過ぎていた。それもこれも第3王子の微妙な立場と、奇行のせいであるのだが、当の第3王子は自分の行動がラスタードをどれほど悩ませることになるか知りもしない。

 ラスタードは第3王子と会おうとするが、のらりくらりと逃げ回られ、面会が叶うのは数年後になる。


ルメイユ公爵は考え過ぎてドツボにハマるタイプ

ヴィンセントは致命的に第3王子と相性が悪いタイプ

どちらも当人の努力ではどうしようもありませんので諦めてください

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