表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可愛い婚約者は、どこか変  作者: S屋51


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/90

魔術・下

「?」×2

 リルもアルもなんの話だと首を傾げた。

「今のところ、実用に足るだけの魔力を注入できる人間は希少でしょ。

 となると、例えば部屋を暖める道具を作ったとして、魔力を込めるのがネックになる。それをこなすのを仕事とするなら、エルフたちには仕事ができることになる」

 魔力が多く、巧みに扱える。

 それだけで大きなアドバンテージだ。

「そういうことか。でもどうかな。人間との交流を好まないから森に引きこもってるんだから」

 それはそうだろうね。

 世間ではエルフなんて伝説的存在。

 極少数、人間社会で生活してるらいしけど、僕が会ったのはリルたちが初めて。

 リルたちがフードをせずに王都を歩くと注目されるぐらい珍しい。

「となると、やっぱり公開は慎重にしないといけないかな」

「なんで?」

「僕は君たちの協力でここまでやれた。一般化、量産するとなると魔力供給関で、人間だとどうしても手が足らなくなる。魔力をきちんと認識して扱える人が限られてるし、魔力が多い人なんて滅多にいないからね。でも、エルフにはそれができる。

 となるとね、良からぬことを考える人間が出かねないんだよ」

 エルフは見目麗しい。

 それだけでも価値があるのに、魔法の道具を作るのに有用となれば価値が跳ね上がる。そこまで価値が上がると、

「エルフ狩り、エルフの奴隷化、なんてことを考える連中が出ないとも限らない」

 魔力を供給させるための奴隷。

 リルが綺麗な顔を引き攣らせた。

「成る程、確かにそういう懸念もあるね。ずっと昔にも、エルフをペットかなにかと勘違いした連中がいたそうだし」

 昔話、傑物や悪党の逸話の中には、エルフを奴隷としていたなんて話がちらほらある。

 エルフたちが森に引っ込んだのも、人間が良い隣人じゃなかったからだろうね。

 エルフに比べて遙かに短命だけれど繁殖力で勝る人間たちは、数を増やして地上を我が物顔で占領して行った。

 それだけならいいけど、エルフとか他種族に寛容な人ばかりじゃなかったのが問題。

 人間が労働力が欲しいから人間の奴隷を働かせるのは、倫理的問題はともかく人間同士の問題だけれど、エルフを捕まえて労働力にすると種族間の問題になる。

 種族同士の対立になると、例えばA国がエルフを奴隷化してB国はしていなかったとしても、エルフからすればA国民だろうがB国民だろうが同じ人間という括りだ。

 まあ、人間側もエルフの○○族、XX族って分けて考えないで『エルフ』って括りで考えちゃうから、種族間でのトラブルになると人間vsエルフってことなる。

 昔々もそうだった。

 個人同士の問題でも、国籍が違うと国同士の問題に発展したり、人種間での問題になったり。

 なにより、僕の行動の結果、奴隷に落とされるエルフが出た、なんて事態は絶対に避けたいところだよ。

 エルフが率先して人間と係わりを持ち、外貨を稼ぎたい、というなら悪い話ではないんだけどね。森の奥での生活で完結しちゃってるんだから、外との交流なんて必要ないよね。

「今は状況が変わったから、案外取引できるならしたいと考えるかも」

 アルが以外なことを口にした。

「そうなの?」

「少なくともダークエルフでは、人間との付き合いを見直そうかという話が出てる」

 へえ、そんなこともあるんだ、と思ってたら。

「お酒、美味しかったから」

 ん?

「ああ、そういうことならうちもやりたいんじゃないかな。謝礼は金銭よりもお酒とか、チーズとか、調味料や調理道具とか」

 んんん?

 なんか、リルまでおかしなこと言い出した。

「味噌、醤油欲しい。できればレシピ。それにミンサー。ハンバーグもソーセージも美味しい」

 美味しいってことは、沖縄の織物ではない。いや、当たり前だけど。

 うちの子たちの要望でハンバーグ作ること多いから、ミンサーを作ったんだよね。

 図面引いて、専門職に投げたんだけど。完成までに色々あったよ。でも、お陰で挽肉が簡単に作れるようになった。

 まだ市場に出回ってないけどね。

 僕の手元に試作品含めて数台、それに王都の店で使ってるのが数台。

 合わせても10台ないんじゃないかな。

「いや、種族間抗争にすら発展しかねない話なんだけど」

「それはこれまでもあったから、みんな気を付けてる。

 殿下が主様たちに奉納したお酒、少量だけど分けていただいてるから、里に人間のお酒は美味いって知れ渡ってるの。

 普段は飲まない、という建前はあっても好きな人は好きだから。是非取引したいって人たちはうちの里にもいる」

 エルフって、飲兵衛?

 酒に拘るのはドワーフってイメージは、まあ、僕が勝手に抱いてるだけだけどね。

 リルもアルも、良く食べるし良く飲むんだよね。

 ハンバーグもソーセージも気に入ったんですか、そうですか。

 餃子教えたらどうなるかな?

「それで、殿下。いつから取引する? なににどれだけ魔力付与すれば、どれだけお酒貰える?」

 早い早い。

 まだ魔法道具だって未完成なんだから、産業化するかも分からない。

 安定して安全に使えるものができたらパパンに奏上して相談しないと。

 魔力を込めて貰うにしても、どんな形になるか。

 電池みたいな形にできれば便利かな。

「そういう取引するにしても、まだ何年か先だよ」

 僕だって、この研究ばかりやってるわけじゃないからね。

「じゃあ、すぐね」

 数年先は、人間にとっては長いけど、エルフにしてみればちょっとした時間なの忘れてた。

 僕らの何倍も生きるからね、リルたちは。

「それも不確かだよ。軍事利用されるようなら、あんまり進めたくないし」

「疑問なのだけれど、軍事利用が嫌だという割に、こうして危ないもの作ってるよね。作らないって選択肢はないの?」

「ない」

 ここは断言させて貰う。

「なにができるかどうかの検証と、その技術をどう使って欲しいかは別物。

 刃物は便利な道具だけど人も殺せる。悪用を恐れて技術を発展させない選択をすると、新しいことはなにもできなくなる。

 それに僕が思い付いたことは、いつか誰かも思い付く。物理的に可能であるなら、必ず誰かがそこに辿り着く。そのとき、こっちがその技術と知識を持っているかいないかで対応がまったく別物になる」

 僕が自重しても、世界のどこかでは新しい技術開発に腐心する人たちがいて、彼らの歩みに関して僕はどうしようもない。

 怠惰のせいで後れを取れば、大きな犠牲を出すことにもなりかねない。

 倫理や道徳を捨てる気はないけど、立場上、怠けは許されないからね。

 僕個人の感情より優先すべきこと。

 最低限の備えだけはやっておかないとね。

 昔々、世界には人を殺す知識と道具が溢れていた。そのいくらか、今現在の技術で実現できそうなものを作るだけで世界を獲れ……そもそも、大魔王と聖女いるし、なんなら魔王にドラゴンもいるから、昔々の知識関係なく世界獲れんじゃね?

 いやいや、うちの子たちにそんな真似させたくないから。

 リアルテの身に危険が迫れば、ラーラは容赦遺憾躊躇なく力でねじ伏せるだろうけど。

 うん、そういう状況なら僕も止めないな。

 別にリアルテだけじゃないよ。うちの子たちの安全のためなら手段を選ぶつもりはないよ。

 皆の安全のためにも敢えて、そう、敢えて危険物も知っておかないと。

 決して、僕の個人的な趣味じゃない。

 こうね、昔々見た符を使う術士のシーンを再現したら格好いい、とか、皆の手前攻撃手段の1つもないと格好悪いとか、そういうことじゃない。

 ……でも、やってみたいよね。

 今回の実験で光明は見えた。

 魔力さえなんとかできれば、札に魔法文字で書いた命令を実行させられる。

 威力の安定、遠隔での起動(今は時限式のみ)

 改良点はいくつもある。

 今度、ひょっとしたら遠出しなきゃいけないから、それまでには完成させておきたいな。

 実はもう1つ製造中のものがあるけど、今回の実験を踏まえればあっちの威力向上にも繋がるかもしれない。

 符に術式を書き込んで、それを魔法として起動さられた。

 言ってしまえばそれだけ。でも、世界史に残りかねない技術の第一歩。

 うまくすれば数々の便利アイテムを科学の進歩を待たずに作れるかもしれない。

 軍事転用もできそうな技術だけど、生活向上の役にも立つんだよね、こういうのは。

 完成にはまだまだ実験しなきゃいけないけど、問題は魔力をどうするか。

 実を言えば、リルたちに頼ったのがバレてリアルテが拗ねたんだよね。

「他人に頼るぐらいなら、わたしに言ってくださればいいではありませんか。夫を支えるのは妻の役目です」

 って。

 うん、まだ妻じゃないよ。

 ミリアはミリアで、

「いや、リア様にわざわざ頼まずとも、第1の親友であるボクが引き受けるよ」

 とリアルテを煽る。

 自分が聖女だってカミングアウトしてないくせに、なに言ってんだが。

 リアルテは、むうう、と可愛い金で拗ねるしミリアは実に楽しそうに笑ってた。

 困ったもんだ。

 まあ、軍事転用されそうなものに係わらせたくなかったんだよね、うちの可愛い大魔王さまたちには。


魔術を身につけたとしても、婚約者たちの方が強いんじゃ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ