魔術・上
この世界には魔法がある。
あるんだけど、昔々のフィクションであったように火の玉を飛ばし合ったり、一瞬で巨大な氷の壁を出現させたりってのはできないらしい。
長い詠唱と集中でやっと少しの奇跡。
ただ、これは人間の話で、エルフはもうちょっとファンタジーっぽい魔法が使える。という話だったんで、折角だからリルフィーネとアルティーナ、エルフ種の2人に魔法を習って見た。
まあ、精霊の言葉やら魔法の言葉、呪文なんかを教わっただけだけどね。
2人が言うには人間というのは身に宿した魔力が少ない上に扱いが下手だから、彼女たちのような魔法は使えないらしい。
ふと思ったんだけど、魔力ってのは昔々で言うところのダークエネルギー的なものなのかもしれない。存在してても人間には知覚できない。エルフなんかの種はそれを感知、操作する特別な器官を持ってる、とか。検証してないから思いつきレベルの話だけどね。
人間じゃ熟練の魔法使いでも戦闘なんて即時性を求められる使い方は無理。
ただ時間をかけていい戦略的な使い方なら行けるらしい。
攻城兵器の代わりぐらいにはなるけど、何人も魔法使い集めて、安全を確保の上で詠唱して~とかやるより、普通に攻城兵器使った方が良くね、という話で、戦争じゃあんまり使われてない。狙われ易いしね。
なにより、攻城兵器は汎用性が高い。魔法は特定の人だけ。壊れた攻城兵器は直すなり新規に作れば良いけど、魔法使いの欠員を埋めるのはかなり大変。
魔法使いになるには修行が必要。魔法使いは通常肉体的な鍛錬不足で、兵士としては並以下。魔法を使うと1回でへばる。(何発も打てれば、また違うんだろうけど)
種族特性としてMP上限が低いのかね?
長い詠唱必要。接近されると無力。持続性がない。連続性もない。数を揃えるのが大変だが少数では役に立たない。と、まあ、兵として扱うには非常に使い勝手が良くないからね。
ま、戦争のことはどうでもいいんだけど、魔力なるものがあるのなら、それがいかなる力であったとしても使い方を工夫すればなんとかなるんじゃないか、と考えたわけだ。
リルが言うには僕自身も魔力には恵まれていないみたいね。
リアルテはどうか聞いたら、あっはっはっ、と笑って答えてくれなかった。
まあ、大魔王だから、恐いぐらいあるんだろう。
非才の身では羨ましいとさえ思えるよ。
それじゃ僕には魔法は使えないのかって話。普通で考えたらそうなんだよね。魔力の乏しい者は魔法は使えない。
本当に?
100キロのバーベルを持ち上げるにはそれを可能にする筋力がいる。
それじゃ、腕力の乏しい者は100キロのバーベルを持ち上げられない?
単純に自分の力だけでやろうとするならね。
別に重量挙げじゃないんだから、道具使ってもいいんだよ。自分の身体だけでやれって縛りなんてないんだから。
これを魔法に置き換えると、魔力が少ないからって諦めることはない。
自力で無理なら道具使うって方法がある。
人間は様々な道具を生み出して使いこなすから発展したんだよ。
この世界にだって魔法の道具と呼ばれる物がある。
うちの国の宝物庫にも雨雲を呼ぶって言われてる代物がある。酷い干魃のときにだけ出されるらしいから、まだ見たことはない。
そういうのが本当なら、魔法を道具に落とし込むことが可能なんじゃないか?
賢人会(賢人というより変人の集まりだけど)に問い合わせたら、世界各地にそういう物はあるらしい。希少過ぎて実際に運用されてはいないらしいけど。
それで、どれも仕組みも製造方法も不明。
「そういうものの作り方も失伝してしまっとるからな。物によっては使用方法すら不明になっとるよ。エルフたち長命種の間でも、そういうものを作る技術があった、という話しか残っておらんようだ」ということらしい。
リルたちにも当然聞いてみた。
「ああ、なんか2世代ぐらい前にはそういうの作るのを手伝ったって人がいたって聞いたかな。でも、実際に作ったのはエルフじゃなくて、エルフは飽くまでもお手伝い。だから作り方とかは伝わってない」
とのこと。
そもそも、エルフは人間より遙かに巧みに魔法を使えるんだから、道具の補助なんて必要ないんだろうね。
でも、そういうものを作る技術があったのが確かなら、再現できる可能性もあると分かった。
参考にするために魔法の道具の実物を見てみたかったけれど、簡単に借りられるものじゃない。王族であってもね。
賢人会にスケッチしたものがあったから見せて貰い、いくつかの魔法の道具の共通点、文字のようなものが刻まれているのを見つけた。
ルーン文字よりエノク文字に近いかな。
表意文字らしいから解読が面倒。
幸い、何十年か前に賢人会に所属してた賢人の一人が研究資料を残してくれてた。
文字は今は使われていないもので、エルフの古代文字に近いとのこと。
解読は少ししかできていなかった。
いくつかの国の言語は学んだけどね、さすがにエルフの古代文字なんて知らない。幸いエルフが近くにいたから聞いてみたら、うろ覚えながらリルが知ってた。
そりゃさ、今は使われてない古典の文字とか、知ってても全部読み書きできるわけじゃないよね。専門家でもなけりゃ。
魔法道具のスケッチが正確である前提で解読。
どうも、単純にどういう動きをすべきかを書いてあるみたいだった。
その文字を使えば魔法が発動するのか、と実際書いてみたけど、まあ、それだけで動いたら誰でも作れるよね。
それなら物に魔力を込めたらどうか。
リルに聞くと、通常、物に魔力を送ってもすぐに抜けてしまうとのこと。
魔法文字を刻んであるとね、一瞬発光するんだけどすぐに消えてしまう。
魔法文字に魔力が反応しかかっているようには見えるんだよ。発動する前に魔力が抜けちゃうだけで。
ギアを回す圧力が途中で抜けて力が足らない、みたいな。
それなら、圧力が漏れないようにすればいい。という単純な話ならいいなあ、と魔力を貯めるための魔法文字を追加。
全部こんな感じで、試行錯誤した結果……なんということでしょう。
「うわお」
リルが半分ふざけて驚いた。
僕らの目の前には直径10メートルぐらいのクレーター。
ちょっとした実験だったんだけど、予想外の威力。
良かった、わざわざ郊外に来て。
僕は基本王宮から出ない生活を送ってる。表向きは。
今回は実験のために許可を取って、それでも他人様に気付かれないよう、こっそりと王都を脱出。身分的には本来わんさか護衛を引き連れてないといけないけど、人間より強いリルとアルが一緒だからね。留守番させたリーチェは拗ねてたけど。
軍の演習にも使われる平原にまで来たのは念のためだったけど、正解だった。
王宮でこんな大穴空けたら大騒ぎだったよ。
「殿下は、これをどう使うの?」
僕が使ったのは1枚の紙。
符だ。
昔々、フィクションの世界で陰陽師とかがお札を使うの見てたから、使ってみたかったんだよね。
まさか、ここまで威力が出るとは思わなかったけど。
これはちょっと強過ぎる。
「発掘作業、土木宇工事なんかには便利かな。威力の調整しないとね。うまく応用できるならもっと多くのことが出来るようになる」
「発掘作業……殿下は戦争には使わないの?」
アルが不思議そうに問いかけて来る。
「戦争? なんでそんなもの」
「ちょっと前まで、人間達は土地の奪い合いしてたでしょ。やめちゃったの?」
「やめてはないかな」
どの国も疲弊し、飢饉や疫病で戦争どころじゃなくなった。
だから休戦してるだけだから、まだ戦争やりたい国はあると思う。
お隣とか、お隣のお隣の帝国とかは特にそうじゃないかな。
それでもいきなり仕掛けられるってのはないだろうね。
うちはそれなりに大きい方だから、攻める側にも準備が必要。国境辺りなら小競り合いも珍しくないらしいけど、本格的な戦争の予兆はない。今のところは。
折角今は平和なのに、いつ戦争が始まるか分かりゃしない。ま、人間社会なんてそんなものかもしれないけどね。
昔々だって、決して絶対的な安全なんてなかったから。
国の責任者一族としては、常に戦争に備えておくのは必要なことだ。
だから、軍事転用できそうな技術は本当なら積極的に軍に提供しなきゃいけない。
やらんけど。
レベルの違う兵器を作れば、うちの国を軍事大国にすることだって不可能じゃない。ただ、その先に待ってるのは大殺戮。
僕が残す兵器は僕が死んでも無くならない。ずっと、人を殺し続ける。
重いよ、はっきり言って。
「今やってる実験に関しては、戦争で使うのは難しいかな」
「そう?」
リルは不思議そう。
人間は戦争好きのどうしようもない生物、ってのがエルフとしての見解らしい。アルも同じ。
「現に、僕は自分だけじゃどうしようもないから君たちに協力を仰いでる」
人間は持ってる魔力が少ないし、扱いも下手。
この大穴を作ったのもリルたちの協力あってのものであって、僕だけじゃ無理だった。
これを再現しようと思ったら、人間の魔法使いがどれだけ必要になるんだろうか。
それに、まだ安定しないんだよね。
これの前は同工程で作ったはずなのに、符だけが燃え尽きた。
地面にでかい穴を空けたり、符だけが燃えたり、こんな不安定じゃ実用には程遠い。
今の段階でも凄い発見なんだけどね。いや、過去の事例を参考にしてるから再発見かな。
これを安定させて、技術として確立したら……火薬並にヤバいかな。
公表したら、絶対軍事転用させろって話になる。
「当面は、僕だけの技術かな」
もし本当に戦争が始まってしまえば、そんなことも言ってられないだろうけど。
「日常的に使う道具に応用できたら、君たちの種族としては僕らと交流するつもりはある?」




