リチャードの受難・上
「大魔王に聖女、ですか。殿下はなにをなさるおつもりなんです?」
ちょっとリチャード、真顔が恐い。
「なんで僕?」
「いえ、聖女と大魔王を妻にして、なにをなさるのかと」
「僕が選んだみたいに言わないで。
シーナもリアルテも僕が選んだわけじゃないから」
家格とか、派閥とかね、そういうのを考慮した上での人選。
最終的にどうするかは会ってから決めていいとは言われたけどね。
3番目でも王子だから、あんまり身分が低いのはNG
見た目や性格も重要だし、親がどこの派閥であるかも。
これからの国家運営に益があるような縁組じゃないといけない。
貴族の結婚って政治の一環だからね。
聖女やら大魔王だから僕の婚約者になったんじゃなくて、家柄なんかで選んだらたまたま大魔王や聖女だった、と……そうはならんやろ。
普通いないでしょ。婚約者が魔王とか勇者パーティーとか。
「大魔王復活に合わせて勇者たちも誕生するって、ありそうな話ではあるけどもさ。
僕の婚約者に2人もいるって、どういう確率?
ジャンボを連続当選するより難しそう」
「ジャンボ?」
ああ、こっちにはジャンボ宝くじないんだった。
宝くじ自体がないか……今度作ろうかな。
「とにかくさ、偶然そうなっただけで、なにか計画があるわけないでしょ」
偶然……
本当に偶然だよね?
「そうですかね。殿下なら、狙ってやってそうですけど」
僕をなんだと思ってるんだ。
「誰を聖女にするかとかはさ、神様の領分でしょ。僕の手に余るよ」
なんで疑われるかな、そんなこと。無理に決まってるのに。
「しかし、そういう訳ありと分かっても婚約破棄しないところが殿下らしい」
「そりゃしないでしょ。
別に害があるわけでもないんだから」
無いよね、害なんて。
大魔王だからって、なにかしないといけないわけじゃないってリアルテ言ってたし。
ちょっとステータスのジョブ欄が『大魔王』になるだけ。(ないけどね、ステータスウインドウなんて)
だから大魔王だろうと聖女だろうと、勇者だって外見から判断なんてできない。
角とか羽が生えて来たらどうしよう。
あ、でもリアルテならそういうのもアリかもしれない。小悪魔系コスプレとか似合いそう……威圧感たっぷりの魔王コスプレだったら、ちょっと漏らすかも。
美人に真顔で睨まれると恐いんだよねえ。
「ないんですかね、害?」
「教皇にそれとなく聞いてみたけど、大魔王復活とか、そういう伝承は特にないみたい」
建国神話がそもそも政治的な思惑の絡んだ話だからね。
魔王とか大魔王と呼ばれる者たちがどういう存在だったか、本当のところは今ある資料からじゃ分からないよ。
勝者が都合よく歴史を書き換えるなんて、どこだってやるでしょ。
現実的な話として、まだ婚約者候補の段階なら問題がある相手とは婚約しないって手はある。
でも、リアルテやシーラって既に正式な婚約者なんだよね。
婚約者としてお披露目はまだだけど、それでも貴族界隈には僕の婚約者として認知されてる。
破棄なんてしちゃったら、悪い評判が立っちゃうよ。
王族から婚約破棄されたなんてなったらさ、他に嫁ぎ先なくなっちゃう、冗談抜きで。
だから王族が婚約破棄するとなると、余程のことなんだよね。
大魔王は、多分破棄相当の理由になるんだろうけど。
「聖女と大魔王がいるなら、勇者も殿下の婚約者にいますかね」
ぽつりと恐いこと言わないで、リチャード。悪ふざけが過ぎるよ。
にやにやしない。
「そういうこと言うのやめてくれるかな。言霊ってものもあるんだから」
「コトダマ?」
「口に出した言葉が現実に影響を与えるって、呪いの一種」
ここじゃない世界の、だけどね。
「相変わらず、殿下は訳の分からない知識をお持ちですね」
「お餅でもオカキでもいいよ。とにかく、不用意な発言はしないように。……僕も薄々そんな気がしてるんだから」
「やっぱり、勇者と言えばミリア嬢ですか」
「だから、やめてって」
ホント、やめて欲しい。
聖女と大魔王がいるだけでも気苦労が多いのに、この上勇者だなんて。
神さまは僕になにをさせたいの?
僕だってね、リチャードに言われるまでもなく、ちらっとそんなこと考えたよ。
婚約者候補は数多いけど、正式な婚約者は少数。
そのうちの2人が聖女だ大魔王となると、残りも……。
ミリアなら、勇者でもしっくり来ちゃうんだよね。
口にはしないよ。現実になるのが恐いから。