告白
いつもよりちょっと長いです
あ、と思ったときにはざっくり
「レリクス様!」
いや、リアルテ、そんな血相変えなくていいから。
テラスでの楽しい昼食会から一転、血飛沫で彩られた惨劇の場へ。
ちょっと……うん、深いかな、手を切っただけなんだけど。
あ、結構大事かな。血が止まらない。動脈も筋も切れてないとは言え、止血はしないとまずいかな。
傷を心臓より高く上げて、と。
「レリクス兄さま、治癒魔法を……」
「修行中なんだから人には使わないようにね」
魔法を使おうとするシーラを止める。
気持ちはありがたいんだけどねえ。
雌化するか同性愛になるか、そんなおっかないのは勘弁。
「殿下、どうぞ」
さすが軍人の娘、カミラは落ち着いた様子でハンカチを渡してくれる。
けど、貴族子女の持つハンカチって上質な布に刺繍もあって、止血に使うには凄く気が引けるんだよね。
昔々の庶民感覚が抜けない僕としては、できれば別のものでお願いしたい。
「殿下、こちらを」
慌てた様子のメイドがナプキンを持って来てくれた。
「指も取れてないし、太い血管も無事。これなら綺麗に治るんじゃないかな」
今日はリーチェがテーブルについていたから、代わって護衛をしててくれてるリルが傷をざっと見て僕と同じ結論を出す。
そりゃ切ったわけだから血は出てるけどね、そんな大騒ぎするような傷じゃない。
僕は受け取ったナプキンを傷に当てて取り敢えず圧迫止血。
一番単純で、よく用いられる方法だね。
清潔な布なんかを当てて押さえるだけ。
おお、結構出るな。
白いナプキンが赤く染まって行く。
「レリクス様、レリクス様」
ううん、見た目があれだからね。リアルテが半泣きになってる。
うんうん、血が一杯で驚いちゃったね。
「リアルテ、大丈夫だから落ち着きなさい。カミラ、リアルテを頼むよ。僕はちょっと縫って来る」
カミラにリアルテの相手を任せる。まあ、ラーラがついてるから大丈夫と思うけどね。
で、向かうは実験や研究を行う僕専用の小屋。
あそこには色々置いてあるからね。
僕お手製の救急セットもある。
消毒液や傷を縫う道具もある。
問題は、右手だけでうまくやれるかどうか。手を怪我するとこういうとき面倒だよね。実質手が片方しか使えないから、細かい作業とかやりにくい。
真っ青なメイドたち、それにカミラに宥められているリアルテ。
彼女たちの動揺の理由は、実はちょっとズレてる。
リアルテはね、純粋に僕を心配してくれてるんだよ。
でもメイドたちは、僕の心配もあるけど半分は自分たちの心配かな。
王族たる僕が怪我をしたとなれば、現場にいた使用人たちは責任を問われる可能性が大きい。
減給とかならまだいい。解雇でもマシだ。
王族の怪我となると物理的に首が飛ぶ案件。
「ボクも行くよ」
なにを思ったかミリアもついて来る。
そりゃ、怪我した王子様が単独行動って駄目だろうけど、そんな離れた場所に行くわけじゃないんだけどね。
「ねえ、それ痛くないの?」
「痛いに決まってる」
切り傷なんだから、そりゃじくじくと痛むよ。
血も止まらないし。
って、ミリア、なに首を傾げてんの?
「前から思ってたけどさ、レックって泣かないよね」
「泣いても治らないからね」
「いやいや、そういうんじゃなくて、痛かったら泣くのが普通でしょ?」
「そうなのか?」
そういうものだっけ?
「前から思ってたけどさ、レックは転んでも頭打つけても、痛いとは言うけど泣かないんだよね」
「無駄な労力だからね」
「うん、やっぱりレックはおかしい」
だって、泣いたって駆け付けてくれる親がいるわけじゃないし、痛いの和らいだりもしないし、傷の手当てとかやるべきことあるし。
小屋につき、中に入ってドアを閉める。
これで外と隔離された。2人きり。
もうちょっと年頃ならこれから甘い時間とかもあるんだろうけど、小学生同士だからなあ。
しかもミリアは少年みたいな服装だし。
「それより、分かってるか?」
「なにがさ?」
「王族が怪我したって、かなりまずい状況なんだけどね」
「ボクらにお咎めあるって?」
「心配もしてないな、その様子じゃ」
「そりゃしないよ。だって、ボクらにお咎めありそうならレックがどんな手を使っても庇ってくれるでしょ?」
おうおう、余裕だな。……なんか腹立つ。
「みんな、それを分かってるからそんな心配してないんだよ。メイドたちは別だろうけど」
そう言えば常識派のカミラもそういう心配はしてなさそうだったな。
「ミリーたちがいつまで経っても淑女らしい振る舞いをしないのも、僕が舐められてるからか」
消毒液を探す。
どこやったかな。
救急セット、同じ箱に入れておいたはずだけど、その箱をどこへやったか……。
「嫌だな、レック。侮ってるなんて酷い誤解だ。みんな、レックを信じてるんだよ」
そう言われると悪い気はしないけど、本当のところはどうなんだか。
僕が婚約者たちに甘いのは見抜かれてるからなあ。
ミリアが僕の左手、傷のある方の手を取って傷を覆う布を取る。
「まだ血が止まってないんだけど」
「ねえ、レック。ボクはさ、誰よりレックを信用してるよ。
一番の親友で未来の旦那様」
ミリアがにこりと微笑む。
珍しい屈託ない笑顔。
「だから、誰にも、父さまたちにも言ってないボクの秘密をレックだけに教えるね」
「秘密?」
ミリアが僕の傷に手を翳した。
「ミリー?」
ミリアの手が輝き、その輝きが傷を照らす。
深く切れていたのに、すううっと傷口が閉じて行く。それどころか、痕さえなく綺麗に無くなった。
治癒魔法?
魔法は存在する。
治癒魔法も使える人間は使える。けれど、ここまで即効性のあるものじゃないはずだ。
こんな真似ができるのは余程の上級者。
「ボクもね、夢を見たんだよ。それで言われたんだ」
やっぱり、ミリアは勇……
「ボク、聖女なんだって」
……………………………………
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打った、大きい、大谷51号ホームラン……
線状降水帯の影響で1時間に90ミリの~
本日千秋楽、3敗同士の巴戦~
物価の高騰は止まらず、エンゲル係数が~
猛暑の影響で米が不足となり、5kg6000円の~
寿限無寿限無、五光で親の総取り~
これは1人の人間にとっては小さな1歩ですが人類とっては~
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………………………………いかん、余りのことに思考が乱れた。
昔々の記憶とかが、こうゴチャっと来た。
で、話を戻すと……
え、聖女?
「勇者じゃないんだ?」
「勇者? なんでボクが?」
うん、いや、そうなんだけど、別にミリアが勇者である必要性も必然性もないんだけど、なんとなく……。
いやいやいやいや、聖女ってのもおかしいでしょ。
聖女、もういるから。間に合ってるから。
「聖女って複数居たんだっけ?」
そう言えば勇者パーティーって言うけど、結構な人数いたんだよな。
そりゃそうだ。
強い敵と人類存亡かけて戦うのに、数人とかおかしいから。
回復役の聖女も何人かいたし、騎士やらなにやらも複数人いたはず。
軍勢で戦い、大魔王まで辿り着いた人数は少なくなってはいても一桁ってことはない。
戦争に人数制限ないしね。
勇者が率いる軍で、一緒に大魔王にまで辿り着いた人たち全部が勇者パーティー。
大魔王だってなにもタイマン勝負かましたわけじゃない。
なんにせよ、聖女(2人目)ゲットだぜ!
……でいいのか?
「いつ聖女に?」
「シーラが言い出した頃かな」
「なんで今まで黙ってたの?」
シーラが聖女になってかなり経つ。
ミリアも同時期に聖女の神託を受けたなら、そう言えばいいのに。
「聖女より聖騎士が良かったから」
ああ、ミリアならそうかも。
と思わないでもないけど、
「本当のところは?」
付き合い長いから、嘘はすぐ分かる。
「だってさ、ボクが聖女って、なんか違うよね」
ううん、見た目美少年だからねえ。
髪はここのところずっと伸ばしてるけど、後ろで束ねてるから貴族男子では珍しくない髪型で、性差は感じさせない。解くと綺麗な銀髪(深い黒のリアルテとは対照的に輝く白銀。これはこれでとても綺麗な髪)だから、ドレス姿に良く合うんだけどね。女性用の衣服はたまにしか着ないんだよね。
性自認が男ってわけでもなさそうだけど、昔からミリアは男の子の服装を好んだし、今日も着てるし。
平民なら男女で似たような服装してることもあるけど、貴族だと男女がはっきり出ちゃうからね。
聖女だなんだってなって、教会が口出しして来ると余計に服装とか言われそうではある。
ミリアが自由にできてるのは、僕の影響も少しはあるんだよね。
僕の婚約者であり、僕が容認してるから。
他の貴族と婚約してたら、そろそろ男の子の格好はやめろとか言われるだろうね。厳しいところなら、小さい内でも女の子らしくしろとか言われるかな。
「誰にも言ってないの?」
「レックが初めて」
そこまで信用されるのは正直嬉しい。
「伯爵には相談しておいた方がいいと思うよ。ミリーが隠しておきたいと言うなら、その意向を尊重してくれるでしょ」
ミリアの父親は真面目な人だ。
貴族としての役目のため娘を第3王子の婚約者に差し出すぐらいに。
でも、決してミリアを道具としか見てないわけでもない。
娘が聖女であるのを黙っていたとしても、それは法的になんら問題がない。貴族としての務めとも相反しない。
教会は渋い顔をするだろうけどね。
貴族のルールと教会のそれは違うから。
ミリアが世間に知られたくないと願えば、伯爵は聞き入れるんじゃないかな。僕も口添えするし。
「でも、なんか悪いことしてるみたいだから」
「ああ、相談してしまえば伯爵も巻き込むことになるから」
うん、と頷く。
聖女なんてガラじゃないことは嫌だけど、黙ってるのは悪いことのように思えるんだ。
伯爵なら自分を守ってくれると思ってても、だからこそ、悪事に父親を荷担させるようで悪い、と。
……僕はいいのか?
「レックは生まれたときからボクとは共犯じゃん」
声に出してないのに心を読まれた。
付き合いが長い弊害だね。
しかも、共犯扱いだし。
「それで、自分だけで練習してたのか?」
「練習?」
おい、待て。
なんでそこで首を傾げるの。すっごく嫌な予感するんだけど。
「今まで治癒魔法を使った経験は?」
「今さっき1回使った」
「……まさか、ぶっつけ本番?」
「うん」
うん、じゃないだろう、うん、じゃ。
やけに良い顔をしてるのが余計に腹立つ。
「ミリー、シーラの話は聞いてたろ」
「聞いてたよ」
「その上で、練習なしに僕に使ったわけ?」
女性化とか、同性愛化とか。おかしな副作用があったらどうしてくれる。
「大丈夫、大丈夫。シーラみたいな真似はやろうと思ってもできないよ」
いやそうなんだけどさ。
普通、どんなに治癒魔法失敗してもああはならないだろうけどさ。それでも、身近に失敗例がいるのに、ぶっつけ本番ってどういう神経?
しかも王族に。
たぶん、僕が王族だとかはまるで意識してないんだろうけど。
「それにさ、ボクがレックの安全に係わることで失敗するわけないじゃないか」
「いや、それ根拠ないから」
みんな、失敗するとは思ってなくても失敗してんだよ。
「聖女ってことは、あの貫通する矢も聖女の力なのか?」
「ううん、どうなんだろ。たぶん、そうだと思うよ。同じような感じで使えるから」
以前、狩猟祭のときにミリアは不思議な能力、矢の貫通力を異常に上げることができるようになった。
安定して使えるようになったのは後になってからだったけど、今では自在に使えるらしい。
「同じような感じ? 発動条件が同じってこと?」
単純な質問なのに、何故かミリアは一瞬、間を置いてから顔を赤くして、
「レックのスケベ」
……なんで?
実験小屋から食事会の会場へ戻る。
と、テラスでリーチェが正座させられているのが見えた。
そして淑女らしからぬ姿、仁王立ちになってるリアルテ。
小学生に正座させられる中学生の図。あれ、リーチェの年齢だと高校になるのか?
どっちにしろ、まだ幼さの残るリアルテに詰められてる。
「あれ、なんでリーチェ師匠があんなことになってんの?」
「そりゃあれじゃないか。僕の怪我の原因がミリアとリーチェが暴れてたせいだからじゃない?」
2人してピザを取り合っていた結果、果物の皮を剥いていた僕にぶつかり、僕が手を切った。
王族なのに手ずから果物の皮を剥く僕も常識外れと言えばそうだけど、まだ子供とは言え淑女として教育されてる2人が食事の場でバトルってのもどうなん。
ちなみに、ピザの最後のピースはどさくさに紛れてシーラがゲットし、カミラと切り分けて食べてたのを僕は見ていた。治療のために席を外すときにね。
リーチェとミリアが取り合っていた場合、年少のシーラは割り込みにくい。けど、2人が戦線離脱すりゃ話は別だ。
シーラは一番下だからちゃっかりしてんだよね。カミラに分けたのもさ、親切心じゃなくて責任を分散させるため。
「あれは……ちゃんと数を用意しなかったレックが悪い」
「十分に用意したよ。君らが食べ過ぎなだけ」
かなり余裕を持たせたつもりだったんだけど、食べ盛りの子供の食欲は凄い。
最近は、残り物でご相伴に預かりたいメイドたちが僕らが食べるのを羨ましそうに見てる。貴族たちが残したものなら高級品でも使用人の好きに出来るからね。普段は食べられないものにありつけるわけだ。
可哀想だから、使用人分は別途用意させてる。人数制限ありだから、誰がありつけるかは彼らが決めることだけど。
「でもさ」
「その言い訳をリアルテに言ってみるんだね」
「リア様、怒ると恐いんだけど」
そりゃ、大魔王だからね。
ああ、ミリアは聖女だから天敵? みたいな。
「庇ってよ」
「なんで被害者が加害者を庇う必要があるの。リアルテも命までは取らないから、確り怒られるんだね」
「ボクだってレックの婚約者なのに、いつもリア様だけ特別扱いは不公平だ」
心外だな。
僕はちゃんとミリアたちも特別扱いしてる。リアルテとは接してる時間も多いけど、差をつけて……るつもりはないよ、うん。
ま、やっちゃったことは仕方ないんだから諦めな。
それより……勇者っているの?
婚約者に2人も聖女がいるってどうなの?




