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可愛い婚約者は、どこか変  作者: S屋51


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シーラの魔法事情 Lv2・上

 僕に面会を求めて正式な手続きを踏む人ってのは多くない。

 それでも皆無でもない。たまにはいる。たまにはね。

 一応王族だから、気軽に会える人間じゃないんだよ、これでも。

 本来なら面会申し込みをして一ヶ月とか待ってから、やっと面会の場が設けられる。

 普通の王族ならね。

 僕の予定なんて公式には空きまくり。実際は仕事一杯あっても、それらは非公式のものが覆いからね。公務ではあるけど未成年だから非公式。

 パパンが面倒な仕事を投げて来るってのもある。

 ま、だから面会申し込みすれば割とすぐ会える。場合によっては当日ってのもあり。

 それで、簡単な用なら王宮内の面談室、談話室でも使えばいい。

 ただ、そういうところは公的な場所ってことで面会の記録が確り残るけど。

 非公式に会いたいときは別の場所を使う。そうすると、隠し通せればいいけど誰かに見られたら、あいつら密談してた、と噂になる。

 うん、駄目だね。

 まあ、あれだ。

 適当なそれっぽい理由をでっち上げて面会室とか使えばいいだけなんだけどね。

 難しく考える必要なんてない。

 面会室を使用したとして、誰かに監視されるわけでもないからね。少なくとも表向きは。

 面会した、という記録は残っちゃうけど。

 会ったことすら隠したいなら、やっぱり誰にも見られない場を作るしかない。

 けど、これが難しいんだよ、王宮内だと。

 メイド、庭師、衛士、文官、武官などなどあちこちに人がいるからね。彼らの誰にも見られないで移動するって至難の業だよ。

 まあ、今回の面会は別に悪巧みするわけじゃないから、堂々と会うだけだけど。

 なにも隠す必要がないからね、場所は僕の宮。

 客はトワプ神官。

 シーラの先生。


 トワプ神官は位階は司祭になった。

 ただ聖女の教育係をしているから実質は司教扱いだとか。

 彼女自身はあんまりそういうの気にしてなさそう。

 聖職者でもね、色々いるから。

 トワプ神官はどの位階にあっても勤めを果たすだけ、って考えらしい。

 教皇派の神官はそんな人が多い気がする。教皇が政治に興味ない爺さんだからね。

 教会と言っても組織なら政治とは無縁でいられないだろうに、そんなところのトップになりながら爺さんは政治は面倒そうだった。

「古い知り合いが、是非やれって五月蠅くてな。嫌だと言ったんだが担ぎ上げられた。無理矢理人を教皇にしておいて、先に死んじまったがね」

 どうして教皇に? という僕の質問に爺さんは昔を懐かしみながらそう答えてくれたことがある。

 きっと、その人とは親しかったんだろう。

 僕が教皇と交流を持ってるのは彼の本質が好々爺だから。立場上嫌でも政治に係わらないといけないけれど、爺さんはいつも教会と信徒たちの安寧を考えてる。

 世の中には布施を集めて金ぴかの僧衣を着てるようなのもいるんだけどね。

 今の教会の救いは、上層部がまともなバランス感覚を持ってるってことかな。

 腐敗がまったくないとは言わないけど、自分たちの役回りは確りと抑えてるし、神の教えを都合良く解釈するような罰当たりなこともしてない。

 戦争難民や疫病の罹患者たちに国の垣根を越えて救いの手を差し伸べてる。

 賢人会と一緒でどこか特定の国に肩入れしたりはしない。教会内に政治はあっても、国の政には係わらない。

 今現在、一番力のある教会はそういうところであり、トワプ神官は出世欲のない人間の集団と言われる教皇派。

 良識人

「第3王子殿下におかれましては……」

「公式な面会でもないんだから堅苦しい挨拶はいいよ」

 僕の宮だからね。

 使用人たちも心得た者ばかりだから、トワプ神官が多少礼儀に反する行いとしたところで咎めたりしない。

「はあ」

 と言いながら、トワプ神官は僕の隣の席に視線を送る。

 僕との面会なのにリアルテが居て不審がってるんだろうね。気持ちは分かる。

 僕も同じことを聞きたい。何故ここに?

 トワプ神官の面会申し込みが来たときリアルテも近くにいた。そして、僕と同席すると言った。

 トワプ神官はシーラに聖女としての指導を行っている人であって、リアルテとは直接関係しない。

「初めまして神官殿。リンドバウム公爵の娘リアルテと申します」

「お初にお目にかかります、公爵令嬢。司祭のトワプと申します」

 トワプ神官は挨拶を返しながらも戸惑ってる。

 だよねえ。

「リアルテ嬢は将来僕の正室となる。だからシーラのことも把握しておく必要がある」

 あるのかなあ?

 いや、リアルテがそう言って強く同席を求めたんだよね。

 確りした子だから、単なる好奇心とかじゃなさそうだったし、彼女が言うことにも一理あるから納得はしたものの、ちょっと強引な気はしなくもない。

「そう遠くない日に、共にレリクス様をお支えする者同士。シーラ嬢のことは知っておく必要があると判断しましたので、レリクス様に無理を言って同席させていただきました」

 立派な口上だけど、トワプ神官の戸惑いは拭えない。

 ううん、無感情に一気に喋ってるから無機質に聞こえちゃってるのもいけないかな。

 リアルテは人見知りするから、本当は同席なんてしたくないはず。

 いや、どうなんだろ。

 シーラの情報は欲しい、けど他人と会うのは嫌ってところかな。

 喋り方が堅いのも貴族令嬢として威厳を出してるんじゃなくて、実は内心テンパってるから。

 テーブルの下、トワプ神官から見えない場所でこっそり僕の手を握ってる。

 余裕あるそうに見えて、まったく余裕ないんだよね。

「リアルテ嬢は聡明だから、見た目で判断しない方が良い」

「それは第3王子殿下で理解しております」

 ん?

 リアルテのフォローのつもりで言ったのに、なんか飛び火した?

「殿下が認めておられるなら、私から申しあげることはありません」

「それで、シーラのことだよね」

「はい。シーラ様の治癒魔法について進歩がありましたのでご報告を」

「……あんまりいい話じゃないんだよね?」

 普通に上達したとか、以前あった問題点が無くなったというなら直接会う必要はない。手紙でもくれればいい。わざわざ面会を求めて来たということは、なんらかの問題があったからだろう。

 以前聞いたときにはシーラの治癒魔法を受けた個体が雌化するというものだった。

 ……。

 いや、なんでだろうね。

 傷を癒やすための魔法で雄が雌になるとか、理由がさっぱり分からない。これは治癒魔法の専門家であるトワプ神官でも同じだった。

 そんな症例聞いたことがないそうだ。

 だから当面は人間への使用は不可にした。

 動物実験を繰り返して正常になるまでは駄目、と僕の権限で。

 幸い、シーラは僕の言葉なら素直に従うからね。

「シーラ様の治癒魔法は既に上級に入っております。並の者なら生涯かけてもそこまで辿り着けるかどうかの域です。

 まったくもって驚くべき才能、さすが神託の聖女と言えるでしょう」

「でも、と続くんだろ?」

 だよね。

「雌化は治らなかったの?」

 と、トワプ神官に質問してから、リアルテは事の次第を知らないことを思い出して簡単に説明する。

 僕が説明する間、トワプ神官は黙って待っていた。

 貴族に対する接し方を心得た人だ。

「以前の問題に関しましては改善致しました。しかし、今度は別の問題が少々」

 また別の問題かあ。

 前の問題もおかしな方向に振り切れてたけど、トワプ神官が曇った顔をしてるってことは、前のと同じ程度におかしな問題なんだろうなあ。

 ホント、あの子はおかしなチート持ちだ。

「どんな問題?」

 僕が尋ねるとトワプ神官は複雑な顔をして、ちらちらとリアルテを見やった。

「その、ご令嬢の前ではちょっと」

「ああ、そういう系統ね。それなら」

 どういう系統か分かってるわけじゃないよ。

 なんとなく、子供には聞かせられない奴って思っただけ。

 リアルテはまだ子供だからね、聞かせるのを憚ることもある。

「リアルテ、悪いけど……」

「どうかお気になさらず。私はレリクス様の妻、レリクス様とは一心同体です。レリクス様に話して差し支えないことであるのなら、私も大丈夫です」

 うん、妻じゃないよね。

 そりゃさ、リアルテは凄く飲み込みの早い子だし、知識で言えば既にそこらの大人以上かもしれないけど、子供だよ、まだ。

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