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可愛い婚約者は、どこか変  作者: S屋51


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侯爵令嬢アンネローゼの失脚・中

 そもそもさ、僕と長兄って別に争ってないからね。外野が五月蠅いだけで。

 むしろ応援してるまであるよ。

 長兄がやっていることで僕に手伝えることがあるなら喜んで手伝う用意はあるけど、協力要請は来ないんだよね。

 長兄は母君に頭上がらないから。

 そしてその母君、王后殿下が僕を毛嫌いしてる。殆ど会話らしい会話をしたこともない相手をさ、よくそこまで嫌えるよね。

 僕は長兄の宮に入ったこともない。

 前に一度会いに行ったんだけど、居留守使われたんだよね。ちゃんと先触れも出してあったのに、急な用で出掛けているって。後から次兄に聞いたら、長兄はそのとき居たらしいんだよね。それも、長兄は僕が来たことすら伝えられてなかったって。

 王太子宮の使用人たちがグルになって僕を敬遠してるもんだから、普通に会いに行っても会わせて貰えない。

 王宮本宮の方で仕事のときに会ったりするけど、偶然時間が合わないとそれもない。

 会えば普通に雑談もするんだけどね。ま、大抵お付きの人間なんかが邪魔をして来るから、結局短い会話で終わっちゃう。

 長兄と5分以上話したのはいつが最後だったか分からないぐらい。

「大体、僕とちょっと話したからってなんだって言うんだろうね。アンネローゼ嬢は小さい頃から王太子殿下の妃となるべく努力を重ねて来た人なのに」

「それは、王太子派の人間としては面白くないのではないでしょうか。第3王子殿下は、今のところ王太子殿下に対抗する唯一の勢力ですから」

「勢力って……。僕の派閥があるわけでもないのに」

 厳密に言えば派閥はあるんだろうね。

 ただ、僕と関係ないところで政治的思惑から第3王子が次の玉座に座る方が遣りやすいって人たちの集まり。

 僕個人じゃなく、後ろ盾のない軽い王子を担ぎたい人たち。

 長兄、王太子がこのまま即位すれば王后は王太后となってがっちり権力を握る。その実家も栄えるだろうから、そこら辺と仲の悪い家は次兄だったり、僕が次の王になる方が都合がいいわけだ。

 ならないけどね。

 長男が継ぐってルールがあるのに、争ってその座を奪ってもさ、面倒なだけだよ。

 貴族たちはルールを破るなって突き上げて来るだろうし、後ろ盾がないから貴族たちへの根回しも大変。

 国王って言ってもさ、沢山の貴族を纏めてる頭領みたいなもんだよね。で、貴族たちは別に一枚岩じゃない。いくつかの仲良しグループと、それらに属さないのがいる。

 もちろん、王族支持の貴族もいる。この王族支持者が一定数いないとなにをするにも反発食らってやりにくい。

 王家は権威付けして、いかにも神代の代から自分たちが国を束ねてる神聖不可侵な存在だって顔をしてるけど、実際そんなことはないってことを王家が一番良く知ってる。

 下剋上やっても神罰もなんにもないんだよね。

 だから、王家を妥当できるような勢力が育たないよう調整するのも王の仕事なわけだ。王家の味方であるはずの王統派であっても、権力を持ち過ぎないように監視してなきゃいけないんだから、敵だらけだね、王家。やったね。

「殿下は本当に玉座に興味はないので?」

「ないよ、あんな座り心地の悪いもの。大体、僕は大人になったらのんびり過ごしたいんだ。政なんてやってる暇はないよ」

 休むのに忙しいんだから、政治なんて面倒臭いことやってられるか。

 ハゲ狸は、なんだか珍獣でも見るような眼で僕を見ていた。


 アンネローゼ嬢と会うときは彼女から連絡が来るのが常だった。

 と言っても正式な書簡のやりとりは一度もしたことがない。そういうの残しちゃうと、後々まずい。ほら、政治家のおじさんたちも良くやってるでしょ。領収書の要らない金だって。領収書残ると困るもんね。

 そんなわけで証拠書類は残らないようにしてた。

 けど、珍しく正式な先触れが来て、僕と面会したい旨が伝えられたから、余りいい予感はしなかったよ。

 だって、面会記録が残るようなことをするとまずいから、これまでずっと非公式に会ってたのに、このタイミングで記録を残す形で面会なんて、なにかあると思うでしょ。

「突然の面会申し込みを受けてくださり、ありがとうございます、第3王子殿下」

 僕より4つ年上のお姉さんとは言っても、まだ小学生の年齢であるのに、ロゼのお辞儀、いやお辞儀だけじゃなく所作すべてが洗練されてる。

 真面目に淑女教育を受けて努力して来た人ってのはこうなれるんだね。

 リーチェは同じ年頃なのにロゼとは雲泥の差だ。

 どっちが雲でどっちが泥かは敢えて言わないけど。

「ご覧の通り、僕の宮はボロでね。使える部屋も限られてる。こんな執務室での面談で申し訳ない。満足におもてなしもできないのは許して欲しい」

 人手も足りないしね。

 何日か前から言ってくれりゃ、メイドや従僕も集めておいたんだけど。

 リアルテの世話をする人員は最低限揃えてあっても、普段来ない客の応対用の人間はいないんだよね。

 いや、手の空いてる人にお茶の準備して貰ったけどね。本来ならリアルテの世話以外は業務外だよ。みんな快くやってくれたのは、僕の日頃の行いだろうね。

 ……給料弾んでるから。

「ま、楽にしてよ」と椅子を勧める。

 僕が勧めてあげないと座れないんだよね。

「それで、今日はどうしたの?」

「はい、殿下におかれましては私が王太子殿下のお側を離れることになったのはご存知でしょうか?」

 やっぱりその話だよね。

「うん、聞いてるよ。残念だね。あなたを義姉と呼べると思っていたのに」

 社交辞令じゃなく本音だよ。

 僕も次兄もね、長兄の婚約者候補の中ではロゼを推してたんだ。

「申し訳ございません。すべては我が身の不徳の致すところです」

「謝罪が欲しいわけじゃないよ。それに、アンネローゼ嬢の責任でもないでしょう。言ってしまえば、あのお方との関係改善を先延ばしにしてる僕のせいだね」

 先延ばしにしてるというか、別に王后殿下と仲良くなるつもりはないんだよね。

 争う気はもっとないよ。

 兄の母であって僕の母ではないのだし、なにも無理に仲良くなる必要なんてないからね。

「殿下のせいだなどと、そのようなことは」

「あるでしょ。いいよ、気にしないで」

 僕との接触が危険だとロゼは承知していた。その上で僕と会ってたんだから、自業自得と言えなくもない。

 けどさ、彼女は長兄のため、国のための事業について僕のところへ相談に来てたわけで、それをただ僕と会っただけで咎めるなんて酷い話だよ。

「それで、これからの予定はあるの?」

 ロゼはたぶん生まれてすぐの頃から王太子の妃になるよう教育を受けて来た。

 真面目で才能もあった彼女は厳しい教育を吸収して、早くから才媛と呼ばれるようになってた。

 これまでの人生を賭していた目標が突然消えてしまったわけだから、普通でも戸惑うところだろうね。それだけでも心配だけど、僕が危惧してるのはそこじゃない。彼女は高位貴族だからね。婚約者候補から外れました。だけじゃ済まないんだよ。

「はい、此度の不始末で家にも迷惑を掛けましたので、余生は神のお側にお仕えしようかと思っております」

 余生って、11歳が使う言葉じゃ無いよね。

 それに、神に仕えるってのは要するに出家する、修道院に入るってこと。

 修道院って、不始末をやらかした貴族女性が入る隔離施設みたいな役割があるんだよね。もちろん、本当に信仰に目覚めて修道女になる人もいるし、ちょっと厳しく礼儀作法を学びたい人が入ることもあるけど、貴族令嬢が入るときは大抵訳あり。あ、ちなみに男が不始末しでかしたら即処分されたりするから。出家する人もいるけど、大抵はね。男の方が権力がある分、ペナルティもでかいのかな。貴族男子が不足してる今でも、

 不始末=処刑

 ってのはあり得る。

 幼少期以外で女性が修道院送りになると問題児とレッテル貼られるから、貴族籍は残っててもね、貴族としては社会的に死んだようなものになる。

 元に戻せるのは余程力のある家か王家ぐらいだろうね。

「それは、信仰心から? それともお家からの命令?」

 あんまり突っ込んだこと聞くのもあれなんだけど、他ならぬロゼのことだからね。僕もちょっと積極的になる。

「王后殿下のご機嫌を損ねた者がいては、お家の障りとなります」

 ううん、自発的か家からの命令か曖昧だな。いや、家長の胸の内を察して自分からってこともあるか。

「修道院で貴族の勤めは果たせる?」

「その義務は既にありません」

 つまり、貴族籍は失ってるってこと。

 王后の不興を買ったから、熱りが冷めるまでロゼを修道院に押し込めて置こうというのではなく、勘当して修道院に監禁同然にしようってことなんだろうね。

 そこまでやるか?

 こういうときは取り敢えず修道院に入れて、頃合いを見計らって家に戻すことが多いんだけどな。

 そうすれば訳ありとなっても、なんとか嫁ぎ先は見つけられる。貴族籍って失うと簡単には取り戻せないからね。とにかく籍さえあれば特典が多い。だから貴族籍だけは残すんだよね、普通。

 一度問題児として認識されちゃうと、還俗しても良縁はさすがに無理。それでも。どこかの後妻とか、側室とかなら貴族の夫人になる道は残る。

 ずっと独身ってのは恥って文化だから、どんな相手でも嫁げるならまだマシ……なのかな?

 貴族は結婚して家のために子供を作る。が、常識な社会だから、未婚だと肩身が狭い思いするらしいんだよね。さすがに僕はまだ子供だからそんなことないけど。

 女性の場合だと20歳過ぎても一度も結婚してないとなにか問題を抱えてるんじゃないかと陰口叩かれる始末。

 男はね、今現在は不足してるから割と楽なんだよ。

 貴族男子が不足する前だと、ある程度の年齢になれば嫁取りをしろと身内から五月蠅く言われ、外の人間にも問題ある人間のように扱われる。以前は4男5男と男が多いのも珍しくなくて、でも家督を継げるのは長男だし、その補佐役をするのは次男、精々が3男まで。残った男は婿入り先が見つからなければ食い詰める。

 貴族社会も結構厳しいんだよね。

 とにかく成人したら結婚、結婚したら子供(跡取り)

 その図式が定着してるから。

 まあ、王家だと何人兄弟だろうと貴族や他国との政略のために婿入りしたり、嫁取りしたりが勝手に決まって行くわけで、結婚に困ることはあんまりない。

 僕だってね、知らんうちにミリアやシーラ、リアルテと婚約してたからね。

 この婚約には文句はないよ。みんな良い子だからね。大魔王と勇者側の聖女だけど……。


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