伯爵令嬢シーラ・上
王子と言っても3番目だから、かなり楽なはずなのに、なんか最近お仕事増えてる?
7歳児にやらせる量じゃないなあ。
そうは言っても、庶民の子供だって家の手伝いや出来る仕事で稼ぐのは普通の世界だからね。
仕事すること自体は普通なんだよ。
問題は量!
公務が段々多くなってる。
仕事量が多くなったからって給料出るわけじゃないし、そもそも小遣いもない。
あっても一人で街に行けない(たまにこそっと行くけど)
生活レベルからすれば、この程度の仕事じゃまだまだ足らないかもしれないけどね。
王族の生活だから、24時間働いても普通できないから。
それにまだ余裕はある。
これが毎日分単位のスケジュールとかなったら嫌だけど。
もしそんなことになったら家出してやる。
さて、今日はシーラとのお茶会だ。
シーラは由緒ある伯爵家のご令嬢。
年齢はリアルテと同じだけど、幼く見える。
違うか。リアルテが大人びてるだけだ。
シーラとは物心つく前からの付き合い。
僕の場合、乳幼児の頃から物心ついてたけど。
シーラは生まれて三ヶ月ぐらいで僕の婚約者に内定した。
大人しいというか、どこかふわっとしてるらしい。普段は。
確りした子のはずなのに、僕といるときは気が抜けるのかポンコ……ちょっと放っておけない子になる。
最近デ……ぽっちゃりしちゃったのは、どうも僕のせいらしい。
スイーツ作ってあげたら美味し美味しいって食べてくれるものだから、ついつい上げすぎたみたい。
今は伯爵家とも相談してスイーツは僕とのお茶会だけってことにしてある。
ぽっちゃりはいいんだよ。
でも、子供って大人がコントロールしてあげないと加減ができないでしょ。太り過ぎたら健康にも問題が出るから、調整しようってことで。
だから、僕とお茶するときは一杯用意してあげる。
毎週のようにお茶会やろうと言って来るのは、スイーツ目当てじゃなく僕に会いたいためだと思いたい。
「それでですね、レリクスお兄様」
シーラはいつも近況報告をしてくれる。
王家とのお茶会でしか食べられない秘伝(殆どが僕が提供したレシピなのに、秘伝もないと思うけど)のスイーツを食べたいし、喋りたいしで、いつも喋りながら食べるという淑女としてどうかということになってしまう。
まあ、一所懸命話しながら忙しく食べる様も可愛いんだけどね。
普段はぽわんとしてるらしいのにね。僕はこう、落ち着きのない彼女しか知らない。
忙しく喋って動いて、転んで、とやらかすから庇護欲をそそられる、みたいな。
もうね、婚約者っていうより、妹感覚。
「ほら、シーラ、クリームがついてる。
君もそろそろ淑女として食事マナーをきちんとしようね」
思わず口を拭いてあげる。
普通お茶会だと令嬢は僕の正面の席に座るんだけど、この子はナチュラルに僕の隣。
むかしっからの定位置だから今更誰もなにも言わない。
僕もね。
「家ではちゃんとしてますわ」
心外だ、とシーラはふんと鼻を鳴らす。
自宅でだけ行儀良くても、それじゃ意味ないんだけどね。
どうもシーラやミリアはちっこい頃から馴染んでるから、僕に対して結構失礼だな。礼儀正しくされたら、それはそれで嫌だけど。
「そんなことより聞いてください、お兄さま」
「今日はなに? 野良猫に笑われた? それとも雀が君をスパイしてた?」
シーラはどうにも想像力豊かというか、お話をでっちあ……創作することがある。
悪気はない。
ただ想像力豊かなだけ。
「違います。先夜、ご神託をいただいたのです」
「ご神託?」
信託預金とかの信託じゃなく、神託?
オラクルって奴か。
この世界じゃ稀にそういうことがあるらしい。
夢に神様だか光る正体不明の物体だかが現れて、色々偉そうに宣うらしい。
明日の天気から疫病の予言まで、内容は様々。
明日の天気をわざわざ神託で報せるって、どんだけ暇なんだか。
報告事例の全部が本物ってわけでもないだろうけど、見分けようがないからね。なにしろ、個人が見た夢の話なんだから。
強いて言えば、当たったら神託だった可能性高いかな。
シーラの場合も本当に神託なのか、ただの夢なのか。
シーラの侍女さんに目配せすると、黙って頷いた。
つまり、神託と思われるものがあったのは本当なんだ。
「それで、どんな神託だったの?」
「私、聖女なんです」
…………。
リアルテと言い、どうしてみんな僕にマーライオンを実演させようとするのか。
必死に表情を誤魔化して呼吸を落ち着ける。
「聖女? って聖なる乙女的な?」
「もう、兄さま、他にどんな聖女がいますの」
性女、はアダルトギャグだから封印。
「教会にいる聖女様?」
この世界には魔法がある。
その中でも治癒魔法特化で人々に施す人を聖女と言い、大抵教会がスカウトする。
「教会というか、元祖聖女さまです。魔王討伐隊の勇者一行の」
……、最近どっかで聞いた単語だ。