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リアルテについての報告会・下

 ……。

 うわ、空気が凍るってこういうのか。

 ピシッて音が聞こえた気すらしたよ。

 ラーラは答えないし、顔には柔和な笑みを張り付けているのに、内心はそうじゃないのが手に取るように分かる。

 照明のランプの炎が揺らめいて、彼女の影をおどろおどろしいものに見せる。

 こわっ!

 返答しないって、時にはこれ以上ない返答だからね。

 あ~あ、当たっちゃったか。

 そうじゃなければ良かったのに。

 面倒だけどリアルテに係わることだから、いつまでも避けてばかりはいられないからね。

「どうして、そのようにお考えに?」

「そこ重要?」

「気になると夜も眠れなくなりますので」

 ……冗談かな?

 魔王ギャグ?

「まあ、それほど大したものでもないよ。いくつかの事実から大胆に推測しただけで、行ってみれば当てずっぽうだよ」

「できれば詳細を」

「公爵家で不遇だったリアルテに、君はずっと親身だったろ」

「はい」

「貴族家の使用人が主人一家の意向に従わないのは厳しいものがある。下手をすれば職を失う。いや、もっと酷いことにだってなりかねない」

 公爵家なら気に入らない使用人の1人や2人消しても大して問題にもならんからね。

 階級社会は恐いよ。

「リアルテに対する同情心? そりゃ心の中では気の毒に思う使用人だっていただろう。でもさ、君は魔王問題についても知っていた。普通、そんな話を聞かされたら一歩引いちゃうでしょ」

「殿下が仰っても説得力がありませんが」

「その辺に関しては普通じゃない自覚はあるよ」

 昔々の常識があるせいかな。

 魔王を恐れないとかじゃなく、そもそもが不信心なんだよね、僕。

 神さまを馬鹿にする気は無いけど、個人的には信じてない。よって対立軸にある悪魔やら魔王やらも畏れない。

 ここには少なくとも魔物と呼ばれるおかしな存在がいるのは以前遭った蛇とかでも確かなんだけど、どうにも神仏に対する畏れが湧いて来ない。

 だから、リアルテに関してもね。目の前に居る、か弱い、庇護すべき女の子以上の感想はないんだよ。

 今現在のリアルテからは何ら危険性も邪悪さも感じないってのもあるかもしれない。

「ま、その辺の基準がどっかおかしい僕はともかく、普通はみんな恐がったりするでしょ。まして主家で腫れ物扱いされてる、決して愛想が良いとは言えない子供なんて。

 だからね、なんで君がそこまで親身なのかな~って不思議だったんだ。大魔王の話を信じてない風にも見えないし、信じているにしては態度がおかしい。特別な思い入れがあるような関係という話も見えて来ない。でさ、ふと思ったんだよね。

 大魔王には47人の部下がいる。大魔王が存在するのなら、そいつらも存在するんじゃないか、と。そいつらなら、覚醒前の状態であっても大魔王に対して合理性を無視して忠実なんじゃなかろうか、と」

 誇れるような推理でもないう。

 大雑把な読みでしかない。

 だから、「なにを仰ってるんです?」と否定されること前提で尋ねたわけだけど……。

 そっか、魔王、いるんだ。

「それじゃ、今後もリアルテのことお願いね」

 なんか神妙な顔をしていたラーラが一気に脱力した。

「はふぇ?」

 なに? 変な声出して?

 自分でもおかしいと思ったらしく、ラーラは口を押さえてから軽く頭を下げた。

「失礼しました。予想外のお言葉だったものですから。

 それで、あの……それだけですか?」

「? なにが?」

「わたしは魔王なのですが」

「うん、聞いたよ。大魔王、つまりリアルテには忠実なんでしょ? なら、安心して任せておける。

 今日はもう遅いから、詳しいことは後日聞かせて」

 魔王と大魔王の関係性は今一つ分からないけど、下手に使用人を雇うよりずっと安全だろう。

 あれ、なんでラーラはそんな難しい顔をするの?

「殿下におかれましては、やはりどこか……なんと言いますか。変ではありませんか?」

「心外だな。なんで?」

「分からないところが既におかしいかと。

 普通、魔王と名乗った者に対してはもっと聞くべきことがあるでしょう。隔離するとか、兵を呼ぶとか」

「なんで? 君、国を乗っ取る予定や国民を虐殺する計画でも?」

「いえ、ありません」

「法を犯すつもりは?」

「ありません」

「……なにが問題だと?」

 法を遵守して問題行動を起こさないのなら、別段問題視することはない。

 うちの国、種族に関する規定って特になかったはず。

 そもそも大魔王であるリアルテを問題無しとしてるのに、魔王を問題にするわけがない。

 リアルテもそうだったけれど、大魔王や魔王だからと言って世界を征服するとか、人類を殲滅するという使命を帯びていたりはしないらしい。

 敵対すれば問題というなら敵対しなければいい。

 当たらなければどうということはない論法

 ラーラがなにか言い掛けたとき、寝室へ続くドアが開いた。

 ドアのところにリアルテがいた。

 眠いらしく、眼がちゃんと開いていない。

「ああ、リアルテ、ごめんよ。五月蠅かった?」

 大声は出さないようにしてたけど、人の話し声って結構耳につくんだよね。

 リアルテの眠りを妨げたなら申し訳なかった。

 リアルテは首を横に振り、僕に向かって真っ直ぐ走って来る。

 僕は慌てて椅子から降りて彼女を受け止め……ようとして倒れた。

 どうも、今の僕に女性を抱き留める力はなさそうだ。

 もうちょっと大きくならないとね。

 ま、リアルテと床の間でクッション役にはなれたようだからいいよね。

「リアルテ?」

「レリクスが足らない」

 うん?

 僕に確りと抱き付いたリアルテは寝惚け眼で呟いてから僕の胸に顔を埋める。

 そんな満足そうな顔されても困るんだけど。

 足らないって、僕の頭が足らないとか、そういう意味じゃないよね?

 ううん、僕ってバッテリーじゃないんだけどね。

 いいよいいよ、それで君が元気になるなら、好きなだけ充電してって。僕もリアルテ成分充電しておくから。

 ほら、子供ってさ、お気に入りのものに執着するでしょ。

 タオルだとかぬいぐるみだとか。とにかく1つのものを手放さない。

 今のリアルテにとって、僕がそうなのかもね。

 リアルテはベッドに入っていたからか、それとも子供だからか、随分と温かい。

 人の体温は安心する。リアルテを抱っこすることで、僕も気持ちが和らいで行くのが分かる。

「そういうところですよ、殿下?」

 仰向けになってる僕をラーラが見下ろす。

「?」

「こういうときは、ちゃんと叱っていただかないと」

 子供が起きてる時間じゃないって?

 それとも屋内で走るな? 異性に抱き付くな?

 淑女としてあるまじき行いは一杯あった。でもさ、リアルテは寝惚けてるんだよ。お説教なんてしても無駄でしょ。

 それに、幸せそうに僕の胸で寝てるの見ると、怒れないよね。

「そういう君もさ、止めなよ」

「殿下が受け止めて下さると信じてましたから。それに、殿下を欲してるお嬢様を邪魔すると嫌われそうなので」

 おい、侍女さんや。それでも止めるのは君の役目では?_

「手を貸しましょうか?」

「そうだね。ここで僕が抱えて運んであげられたら格好つくんだけど、無理そうだからお願い」

 僕とそう背丈変わらないからね、リアルテは。

 僕の力じゃ彼女を持ち上げるのはかなり厳しい。なんとか持ち上げられたとしても運べない。

「失礼します」

 と言うが早いか、ラーラがひょいとリアルテを抱き上げた。

 僕ごと!

 え、見た目より随分と力持ちだね。

 そりゃ、僕もまだ軽いけど、それでも2人同時ですか……。

 成人女性ってこんなもの? それとも魔王だから?

 なんにしても、恥ずかしいから下ろしてくださいませんかね。

 僕の羞恥心など無視して、ラーラは僕らを最近ぬいぐるみに占拠されつつあるベッドへと運んだ。

 リアルテ、ぬいぐるみ飾るなら自分のベッドにしてくれないかな。

そのメイド、魔王につき

魔王手当はつきますか?

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