リアルテについての報告会・中
「なにかあるなら言っていいよ」
「恐れながら、殿下のお陰をもちましてお嬢様はなんの不自由も不安もなくなりましたが、少しばかり過保護ではないでしょうか?」
「過保護? リアルテは公爵令嬢だよ。次期女公爵でもあるんだから、それほどやり過ぎてるとは思わないけれど」
「生活環境全般に関してはそうかもしれません。ですが、少しばかり殿下への思い入れが」
「ああ、依存度が高い?」
ラーラの立場じゃ言いにくいよね。
でも、ラーラしか言う人がいない。
なにしろ、常駐使用人の中では一番立場が上なんだから。
この離宮の主人は僕であり、ラーラの主人はリアルテ。
最年少の子供2人が立場的に偉いもんだから、大人たちは色々言いたくても言えない。
歪んでる気もするけど、貴族社会ではありがちなことなんだよね。
身分制度がある社会だと年功序列が通用しないってのも珍しくないからね。
通常権力を持った子供には後見人とかつくものだから、この離宮はレアケースではある。
「先の魔法の件もあり、お嬢様に置かれまして殿下への思い入れはより強いものとなったと推察します。
お二人はご婚約なさっていますから、仲睦まじいというのは大変結構なことではあるのですが」
「細かく言わなくてもいいよ。甘い自覚はあるから」
僕はラーラの言葉を遮った。
「でも、生活環境を整えたと言っても彼女の身分から言えばまだ不足ぐらいだし、君だってリアルテのドレス用意するの楽しいでしょ」
「楽しいだなんて、仕事ですから」
「本音は?」
「至福です。ただ、お嬢様におかれましてはどんな衣装でもお似合いになると言いますか、すべて衣装が負けてしまうと申しますか……」
あ、スイッチ入っちゃった。
ラーラにリアルテを語らせると長いんだよね。僕も負けてないけど。
なんにせよ、趣味と実益兼ねられて良かったね。
「こっちで色々用意はしてあげるけど、リアルテは我が儘言わないでしょ」
「はい」
これまでの環境のせいで我が儘を言う習慣がないのか、思いつきもしないのか。
あれが欲しい、これが欲しいというおねだりは聞いたことがない。
ああ、ぬいぐるみとかは欲しがるか。でも、高い物を買ってくれとかじゃなくて、お針子メイドと案を出し合って作ってるだけだからなあ。我が儘とはちょっと違くね?
「それでも、唯一お嬢様が我が儘を仰ることはあります」
「?」
「殿下のことです。
お帰りが遅いときなどは不機嫌になられて……いえ、そうは言っても感情的に行動される方ではありませんので、少しそういう風に見受けられると言うだけです」
あれかな、仕事とわたし、どちらが大切なの、みたいな?
「使用人たちを困らせるようなこともありません。皆はむしろ、もっと自由に、我が儘を言っていただいてもいいとさえ」
「そう」
うん、なんかちょっと嬉しいかな。
たぶん、ここへ引き取って保護してあげたからリアルテにとって僕は信用できる保護者みたいなものなんだろうけど、懐かれて悪い気はしないよね。
本来は無条件で守ってくるはずだった親があれだったから、甘えていい相手ってのがいなかったんだよね。
僕がどこかお父さん気分であるように、リアルテもそういう風に見ているのかもしれない。
「昼間、勉強をなさっているときもどこかお寂しそうで」
それは、可哀想だよね。
僕としてもできるだけ一緒にいてあげたいんだけど、忙しいんだよね。もちろん、リアルテと仕事のどちらが大切かなんて言われたら考えるまでもないことなんだけど。
今のところ、昼間は公務で離宮を離れていることが多い。
ここ最近はいつもより忙しくてね。それでも朝食は一緒に摂るし、夕食後も時間を作ってる。
昼間はミリアやシーラが訪ねて来ることもあるけど、基本、同年代の子が居ないからなあ。
一応、王族の土地だから普通の貴族が気軽に来る場所でもない。結果、安全だけど同年代の友人がいない状況。
僕の姉妹を紹介するのもちょっとね。
友好的なのもいるけど、性格悪いのも居るから。
僕の姉妹は立場的にリアルテより上だからね。なにを言われるか分からないし、言われても反論できない。
それに下手に動き回って王后殿下なんかに眼をつけられたら厄介この上ない。
僕にもどうしようもないんだけどね。
「殿下、お気持ちはお察ししますが、顔が崩れていますよ」
……。
ごめん、リアルテに悪いと思いながら、やっぱり嬉しいとも思っちゃう。
だって、僕が側にいないのが寂しいんでしょ?
いじらしいにも程がある。
「それで、どうかな。長くリアルテを見て来た君としては、僕は彼女に見合うかい?」
これも普通の使用人なら答えにくいことだろうね。
でも聞いてみたいし、ラーラは僕がこの手の返答で不敬に問うたりすることはないともう分かってるはずだ。
なにより、ここ数ヶ月彼女を見て来て、主人のためにならぬと思えば自分の立場も顧みずに行動する人間であることを僕は知ってる。
ラーラのリアルテに対する忠誠心はとても高い。異常なほどに。
「わたしが知る限りにおいて、いえ、想像できる限りにおいて最良以上かと」
「それはまた、過分な褒め言葉だね」
「お嬢様の苦境を知るや行動されたこと、お嬢様の内なる資質を聞いても臆することがないこと、実際にその片鱗を目の当たりにしながらも受け入れる胆力と度量。
殿下以上にお嬢様を幸せにしてくださる方はいないかと存じます」
まあまあ、寿司食いねえ、とか言いたい気分だね。
寿司ないし、森の石松ネタなんて知ってる人いないかもだけど。
そもそも江戸っ子がいない。
エドゥという街なら隣国にあるけどね。
前に地理の勉強で知ったんだ。隣国の王都に次いで大きい街だって。
行ったことはない。
「まだ少し先のことになるけど、リアルテには学校に通わせようと思うんだけど、どうだろう?」
「それは、殿下もご一緒に?」
ラーラは少し考える仕草をした。
「いや、無理だと思う。籍はおけても、通ってる暇はないと思うよ。たまに顔を出すぐらいはできるけど」
勉学のために通うってのは無理だろうね。
……なんか、ますます会話がお父さんとお母さんになって来たな。
必要なことだから仕方ないんだけど。
「お嬢様は人見知りされますので」
「知ってる。それもね、ずっとそういう訳にもいかないでしょ。少しは社交性がないと」
「それはそうなのですが……」
リアルテには人付き合いの経験値が圧倒的に不足してる。
それもこれも実家のせいなんだけど。
学校で同年代の子たちと触れあうのは大切だと思うんだ。
公爵令嬢だし、将来は公爵夫人と同時にたぶん女公爵にもなる。
人の上に立って指示を出さないといけない。
できるだけとサポートするけど、まったく自分ではなにもできない子には育って欲しくないんだ。
「ミリアたちを付けるから、知らない人ばかりということにはならないし、させない。僕ら以外にも友人を作っておくのはリアルテにとってもマイナスじゃないと思うんだ」
擦り寄ってくる人間とか、敵対する人間。そういうののあしらい方も実践しておかないとね。
「それは確かにそうですね。分かりました。それとなくお嬢様に聞いておきます」
「うん、そうして」
そこで一度会話が途切れる。
僕もラーラもリアルテの話題のときは比較的距離が近づく。
僕らはリアルテが好きだからね。
「そうそう、話は変わるんだけど、君に一度聞いておきたいと思ってたんだ」
できるだけにこやかに、爽やかに、親しみを込めて、
「なんでございましょう?」
「君、もしかすると魔王の1人だったりする?」




