閑話 側近との会話・下
「僕は3番目だからね。これぐらいでちょうどいいんだよ」
物分かり悪かったら、まず間違いなく兄たちと王位争奪戦になってたろう。
僕は王位には興味ない。責任の重さを知ってるからね。
次兄もそうだと思うけど、周囲はどうかな。僕らはそれぞれ母親が違う。つまり、違う後ろ盾がいる。
その後ろ盾の意向は無視でないんだよね。で、次兄の母親は息子を王位に就かせたいらしい。
うちの国じゃ原則として継承権一位は長男
長男が健在なら多少能力差があっても次男に席が回ることはない。
そこがミソなんだよな。飽くまでも健在なら。
身内同士で血を流すなんてやめて貰いたいんだけね。
「あんな可愛い大魔王なら、むしろご褒美だよ」
「どんなご褒美ですか。いいですか、外でそんなこと言わないでくださいよ」
「言わないよ」
「まあ、殿下は裏表の使い分けできる方ですから大丈夫と思いますから」
「そこは公私の別を付けれると言ってよ」
裏表って、言い方悪いな、もう。
いや、裏表あるけどもさ。
「大体さ、魔王とかってお伽噺でしょ。なんでみんな、そんな過敏になるかな」
「一般常識として、悪魔や魔王は恐いものだからですよ。建国神話だって、普通は信じてるんです。少しは自分がおかしいと自覚してください」
いや、あるよ、自覚は。
あるけどさ、大昔の建国神話なんて王族が権威付けに作ったものでしょ。
そりゃ魔物とかいるけど、魔族はいないじゃないか。
大昔に絶滅したとかいう話。本当か嘘かは知らない。見たことないからね。
僕は神様だって実在を信じてない。王族って立場上公言したらまずいけどね。
この世界の人はまだまだ信心深い。
それが悪いことだとは言わないよ。でも、悪魔だ魔王だって騒ぐのはどうかって話。
「とにかく、今論じても仕方ないことだよ。なにも起こってないんだから。
実際にリアルテが大魔王になって国の敵になってから考えればいいよ」
「そのときは被害甚大ですけどね」
だからってどうしろってのさ。
リアルテはまだなにもしてないし、大魔王って言ってるのも彼女だけ。
それで投獄でもしろって?
「この話はおしまい」
僕は強権発動で話を打ち切った。
「殿下、分かってると思いますけど、神様なんていないとか、外で言わないでくださいよ」
さっきと同じフレーズ。
僕がちゃんと裏表あるって知ってんだから、余計なことに気を回さなくていいのに。
「王族、それも王位継承権を持つ人間が神を否定なんて、外に漏れたら大問題ですからね」
「継承権は形ばかりじゃないか。次期国王は兄上なんだから。
この前だって、ラズロ兄上に会ったら『王太子は俺だ』って意気込んでたよ。
毎日毎日勉強励んでるんでしょ。熱意ある良い王様になるよ、きっと」
前は遊んでくれたこともあったよ、あのお兄ちゃん。
悪い人じゃないよ。
でもここ二年ぐらいは忙しいらしくて、顔を合わせるのも稀になっちゃった。
時間を惜しんで次期王様としての勉強に打ち込んでるんだって。
熱心なのはいいけど、身体壊さないか心配だよ。
僕は気楽にやらせて貰ってるから、ちょっと罪悪感もある。
「殿下、そういうところですよ」
?
なんでそんな呆れ顔されるんだろう?
「それより、今日はなにを作ってんです?」
「顕微鏡。単純な奴だけどね」
「顕微鏡?」
この世界、まだ顕微鏡ないからね。リチャードが知らないのも無理ない。
いや、知ってる方が恐いわ。
「この前、バルムステッド博士と話してて、こういうものがあると言ったら是非欲しいと言われたんだ。
職人さんたちに無茶振りしてレンズを作って貰った。ま、倍率は低いけど、それでも100倍ぐらいはいけるかな」
「賢人バルムステッドと会話が成立する7歳児ですか……いつも思うんですが、殿下はそういうものをどこで知るんです?」
どこって、そりゃ……
世界初なら本には載ってないから……
「神様のお告げ?」
「何故疑問形?」
だって、神様信じてないし。
嘘だから仕方無い