リンドバウム公爵家問題 真相・上
「え、リンドバウム公爵家の話、陛下がなさったことなんですか?」
僕が辿り着いた結論を話すとリチャードは意外そうな顔をした。
リアルテの実家であるリンドバウム公爵家は多額の借金を抱えていた。
その債権を纏めることで僕が優位に立って、リアルテを虐待してた毒親たちを締め上げてやったわけだけど。
……どうにも話がうますぎると思ってたんだよね。
「そりゃ、僕が利用したニマール商会の会頭はやり手の古狸だよ。
それでも貴族トップの公爵家に弓引くからにはそれなりの理由がいる」
「だから、それは殿下が……」
リチャードのもっともな疑問。
僕は首を横に振る。
僕が依頼した、だけじゃ弱いんだよね。
「僕もね、調子乗ってうっかりしてた。順調過ぎたんだ」
そう、僕の思うように話は転がった。
そこでおかしいと思うべきだった。
世の中そんなに甘くない。
「公爵でもあり王弟でもある人の家が傾くほどの借金となれば生半可な額じゃない。
陛下の耳になにも入っていないわけがない」
もし知らなかったとすれば、それは王としての資質を問われかねないことだ。
貴族たちの動きをチェックするのも王の務めだからね。しかも相手は大貴族だ。そんな家の動向を、知らなかった、は通らない。
「知っていてなにもしなかったとするなら、相応の理由があるはずでしょ。
公爵は前々から陛下に反発するところがあった。だから陛下は根回ししてたんだよ。穏便に、自分の手を汚さずに潰すためにね」
最終的には借金まみれで自滅するか、それを理由に降格させるかするつもりだったんだと思う。
「でも、リンドバウム公爵を抑え込んだのは殿下ですよね?」
「結果的にそうなっただけだよ。
僕がリアルテのことで動き出したから、陛下はそれを利用したんだ」
あ、なんかリチャードが疑ってる。
まったく、困るよ、それじゃ。分からないかな。
「どこの業界でもあることだけど、いきなり出て来た若手がすぐに信用されるわけがない」
「どこの業界でも若過ぎるって突っ込むでしょうね」
そういう要らん合いの手を入れないように。
「信頼を得るには実績を積み上げるしかない。それには時間がかかる。僕にはそんな経験がないからね。
そんな僕が自分で公爵家の借金を纏めようとしても、協力を渋る連中が出て難航したと思うよ。
ニマール商会、そして恐らくは陛下の根回しが効いてたんだよ」
リチャードは今一納得できないと言った顔。
「陛下が公爵家の力を削ぎたいと考えていた。そこはあり得る話だと思います。
でも、殿下に黙って裏から手を回す必要性が分かりません。
殿下が動き出したのを知ったときに、殿下にお話があって然るべきじゃないでしょうか?」
「それはね、飽くまでも僕が自主的にリンドバウム公爵家を追い込んだ、という形にするためだよ。
それに、もし陛下が僕に協力を持ち掛けた場合は僕から見返りを要求されかねない。それでもそれほど問題じゃないんだけど、黙って流れだけ作っておけば、僕が勝手にそれに乗って良い結果を生み出すんだ。なにも自分の出費を増やす必要もない」
100円より10円、10円よりタダ
同じ商品を得るための経費は少ないに越したことはない。
「これによって陛下はまったく表に出ずにリンドバウム公爵を抑え込めた。
貴族たちの口に上るとしても僕だから陛下が非難されることもない。そして、僕の私財を放出もさせられた」
「? なんで殿下の私財が関係するんです?」
「僕が貯め込んでるのを良く思わない人たちの溜飲が少しだけ下がるんだよ」
まったく下らない話だとは思う。
単なる隠居後の予算なのにね。
曇った眼で見る人からすれば、なにか悪巧みのための資金に見えるらしい。
それを多く支出すれば、僕の影響力がそれだけ弱くなった、と思わせることができる。
実際はさ、元々僕には大した影響力なんてないんだよね。
お金は飽くまでも将来のため。家族のために使うものであって、政治活動の資金じゃない。
それでも僕が資産を減らすことで安心する人がいる。
僕に不満を持つ人、疑惑を持つ人たちへのガス抜きみたいなものだね。
……迷惑な。
まあ、無意味な支出じゃなかったし、パパンの思惑がなくとも同じことしたんだからどうせもいいけど。
3番目でも王族だから特権もあるし生活困らないしで良いことも多いけど、継承権を持ってるもんだから煩わしい話も付いて来る。
これはちょっとやそっとじゃ消えてくれない。
長兄が王位につけば、僕を警戒する誰かさんたちも安心するんだろうけどね。
でも、パパン元気だからなあ。
一番若い愛人なんてまだ10代だよ。
しかも、その人妊娠してるし。
パパン、頑張りすぎ。
単に女好きなだけなんだろうけど、今の情勢では貴族は子沢山が望まれるという大義名分があるから、やりたい放題。
若い頃にハーレム作ろうとして周囲から止められた実績があるらしい。
なにを考えてるんだか。
愛人、愛妾を作ることはどうでもいい。というか、僕が口出しすべき問題じゃない。口出しする権利もない。
権力で強引に、なんてやってたらさすがにあれだけど、そうでないなら好きにして。
僕の姉妹の中にはパパンの女性問題に反感持ってるのもいる。
王后や王妃方も呆れてる人や諦めてる人、王たるものそれぐらいは、と容認してる人といるみたい。
この辺は聞いた話だから本当かどうかなんとも。
王妃方と話す機会、あんまりないからね。
特に王后、長兄の母上からは嫌われてるから顔を会わさないようにしてる。
周囲も気を遣って、公式行事以外では僕らがバッティングしないよう配慮してくれてるよ。
王后は僕だけじゃなく、次兄も敵視してるからね。
次兄の場合は盾になってくれる母君がいるからまだいいけど、僕はもろだから。
困ったもんだよね。




