狩猟祭 後始末・下 その2
リアルテが無表情で立っている。
何故だろう。無表情なのに背後に怒りのオーラが見えるようだ。
「ミリア様、私たちは確かにレリクス殿下の婚約者ではありますが、婚姻を結ぶにはお互いまだ幼く、教養も礼儀も足りてはいません。
いずれレリクス様が領主となって領地を治められるとき、今の私達では足手まといにしかなりません。まだまだ学ぶことが多くあるのに、結婚など早過ぎます」
うん、正論だね。
婚姻を急がないといけない政治的理由もないんだし、今やるべきは将来のために学んでおくこと。
リアルテもこれまで満足に学べなかったのを取り戻すように毎日勉強してる。
家庭教師たちは彼女の物覚えの良さを褒めていた。
相変わらず口数は少ないし、表情は乏しいけれどね。うん、なんか今日は饒舌だね。
「なにより、順番というものがあります」
ん?
なんの順番?
「殿下の正室候補は私です。そこは決してお忘れなきよう」
にこりと微笑んでるけど……恐い。
ミリアも完全にビビっちゃってる。
なんというか、子供でも女性は怒らせちゃだめだよね。
「も、もちろんです、リア様。リア様を差し置いてボクが先になんてありえませんよ」
まだ調子が戻ってないのか、ミリアの歯切れが悪い。いや、ここ一ヶ月の躾の結果?
さすが将来の大魔王
すっかりミリアを支配下に置いてる。
将来の女性陣の纏め役はリアルテに任せて大丈夫だ、と頼もしいと考えていいんだろうか?
美少女2人が僕のために争ってくれるってのは正直ちょっと嬉しい。
けど、子供だからね、まだ。
大人は誰もこれが本当の修羅場だなんて思ってない。子供同士の微笑ましいじゃれ合いにしか見えてないんだろうね。
リアルテの侍女ラーラも微笑んでるだけ。
子供時代はあの子が好き、誰々ちゃんと結婚するって言ってても、大人になる頃には気持ちが変わってる、なんてことはざらにあることだからね。いや、むしろそれが普通か。
僕ら貴族がちょっと特殊なだけで。
落ち目の3番目王子を見限らないでいてくれると嬉しいけど、どうだかな。
実家に戻る前にミリアがおかしな質問をして来た。
「ね、レックはボクが、その、ドレスとか来たら嬉しい?」
ミリアは常日頃は美少年にしか見えない服装をしている。
顔立ちの良さは分かってるから、ドレスを着たらきっと素晴らしい美少女になるのは分かり切っていた。
「そうだね、たまにはそういうミリーを見たいかな。いつもの格好良いミリーもいいけどね」
「そう」
そしてミリアは実家に帰り、僕は伯爵夫妻から何度も礼を言われた。
後日、両親とともに改めてお礼に来たミリアはとても可愛らしいドレス姿だった。
「どうかな?」という彼女ははにかんでいた。
「レリーは凄いね。ミリアを女にした」
うん、リーチェは黙ろうか。
ミリアは次に会うときはきっといつもの服装に戻ってるだろうけれど、たまに、そう、ごくたまには僕にだけドレス姿を披露してくれるに違いない。
彼女の将来がとても楽しみだ。
たぶん、僕は成長したミリアを一度見ているんだけど、それは当分内緒にしておくことにした。
それは本当にミリア?




