閑話 側近との会話・上
今日は時間ができたから久しぶりに工房で作業。
自室で色々やってたらごちゃごちゃして来ちゃって、パパンにお願いして離れを建てて貰った。
凄いでしょ。
空き部屋を貰うとかじゃないんだよ。スペースが欲しいって言ったら、それならって、ほい、と小屋建てちゃうんだから。
それも平民の平均的な家より大きいというね。
さすが王族。感覚がバグる。
2回ぐらい吹き飛ばしたのは内緒ね。
なにも贅沢な趣味で税金を無駄にしてるわけじゃないよ。
僕のはちゃんとした仕事。公益性のある研究をするための工房。
まだ7歳なのに結構役に立ってるんだよ、凄いでしょ。
ま、人よりちょっと知識が多いからね。それでできることやらないと。
別に善意だけじゃないよ。
将来のスローライフのためにも国には豊かになって貰わないとね。
「良かったのですか?」
リアルテとの初顔合わせの顛末を話すと、側仕えのリチャードが不安そうな顔をした。
僕より5つも年上だというのに、心配性だな。
リチャードは元は一番上の兄上、王太子の側近候補だった。
が、どうも兄上とうまく行かなかったららしく、僕へと回された。降格・左遷、みたいな。
現・宰相の息子でお家は侯爵家。
将来の国王側近となるには申し分ない家柄で、当人も優秀なのに、第三王子の側近なんて完全にエリートコースを外れてしまってる。
なにがあったか知らないけど、気の毒な話だ。
2番目の兄上なら、まだ国王になる可能性もあるし、王弟として将来王宮で活躍するかもしれないのに、3番目じゃね。
いずれ地方領主になる僕なんかの側近になっても、いいことないだろうに。
前に2番目の兄上に口利きしようかと言ったら断られた。
やっぱり、王太子と不仲になって王宮に居づらいのかな?
「なにが?」
僕は作業の手を止めず、リチャードを見もしなかった。
「将来の大魔王なんて、問題だらけだと思いますけど?」
「なんで?」
「虚構ならリアルテ嬢には人格的問題がありますし、そうでなかったら人類の敵じゃないですか」
「嘘だとして、子供の言うことだよ。人格だなんだって大袈裟だしょ。夢見がちでも問題ないじゃない。
パルメ叔母様なんて30超えたのに白馬に乗った王子様が迎えに来るまで結婚しないとか言ってんだから、それに比べたら幼児の戯れなんて可愛いものじゃないか」
リアルテは確りしているように見えても6歳だよ。
小学校一年生が少しばかり突飛なこと言ったって、そう問題じゃないでしょ。
まだ騒ぐ段階じゃない。
「子供でも、妙なこと言ってると教会に眼をつけられますよ」
「子供の空想に付き合うほど教会も暇じゃないでしょ。むしろ、教皇が知ったら面白いからどうなるか観察しよう、とか言い出すよ」
教皇の爺ちゃんとは何度も会ったことがある。
というか、月に一回教皇自らの講義、という名のお茶会してる。
なんか、妙に気に入られてるんだよね、僕。
会って、世間話して、お菓子や料理食べて、将棋さして。
まあ、暇な高齢者の退屈しのぎ、みたいな? 教皇だからって自分の孫と好きに会える立場の人じゃないからね。本物の孫の代理感覚なのかもしれないね。
僕としても、将来のことを見据えて人脈はありがたい。……あの爺ちゃんが僕の将来に絡むほど長生きするかどうか微妙だけど。
結構話の分かる面白い爺ちゃんだから、大魔王の話なんて聴いたら面白がるに違いない。
枢機卿の中には原理主義みたいな人もいるけど、少なくとも教皇は違う。
「そう言えばさ、ミリアたちとはもっと小さい頃から一緒だったのに、リアルテだけ顔合わせが遅かったのはやっぱりあれがあるからかな」
ミリア、それにシーラは僕の幼馴染みで婚約者。
それこそ、おむつ履いてはいはい競争した仲だ。
婚約者筆頭がリアルテで正妻、ミリアたちは側室ってことになるのかな。
正室が複数でもいいらしいけど、実家の家格とかもあるからね。
本当ならリアルテとも、もっと早くから面識があってもおかしくなかった。彼女は生まれた瞬間、僕の婚約者になってたんだから。
これまでなんだかんだと先延ばしになってて、やっと会えた。
「まあ、娘が大魔王うんぬん言ってたら、会わせにくいでしょうね」
「大魔王、そんなに駄目かな」
「駄目に決まってるじゃないですか。どこの点で大丈夫と思ったんですか? 教会内の過激な連中に知られたら危険ですよ」
「子供の話に目くじら立てるなんて、暇人が多いんだね」
「自分は子供じゃないみたいな物言いはやめてください」
「王族だからね、早熟が求められるんだよ」
なにかにつけて仕来りだの決まりだの。
王族は早く大人にならないとやってられない。
「殿下の物分かりの良さに、みんな不気味がってますよ」
おい、リチャード、言い方
どうにも年齢差のせいか、リチャードは今一敬意に欠けてる。
一番身近に仕えてくれることになるんだから、ずっと堅苦しいよりはいいんだけどね。