狩猟祭 後始末 上
狩猟祭3日目!
最終日、今夜は打ち上げ!
の、予定だった日、僕は一足早く王都へ引き返した。
楽しい楽しい焼き肉パーティーも不参加。王都でのお祭りも不参加。
やることが多過ぎた。なにより、ミリアのことがあったからね。
怪物たちと別れてから本拠に戻り、事の次第をパパンに報告、10年後からの森への感謝式(仮)、動物の慰霊に関してはすんなりOKが出た。
まあ、僕だけじゃなくあの場には騎士たちもいたからね。証言者には困らなかった。
問題は、それじゃ来年からでもやれ、と言われたこと。
「来年から……というか、僕は許可が欲しいのではなく、やる必要性についてお話したと思うのですが?」
僕がやるなんて一っ言も言ってない。
「問題の発端はなんだ?」
「ミリアによる虐殺」
「ミリア嬢はおまえのなんだ?」
「婚約者です」
「怪物と交渉したのは誰だ?」
「……僕です」
「他に適任者がいるか?」
はい、ぐうの音も出ませんでした。
婚約者に無理強いされて狩りに参加したら、大蛇と猪に挟まれて、公務が増えたでござる。
もうね、自分でもなに言ってんだって話だよね。
というか、僕って悪くなくない?
ミリアがどうしてもと言うから狩猟祭に出て、思わぬハプニングに見舞われて、頑張って死者が出ないようにしたんよ? なして僕ばかり罰ゲーム?
もっと評価されても良くね?
大体、7歳児のやらかしたことなら親が責任取るべきだと思うんだけど、なにか間違ってる? なんてことをパパンに言ったら最後、今かなり自由裁量でやらせて貰ってることの大半を禁止されそうだから言わんけど。
パパンの勝ち誇った顔にワンパン入れてやりたかった。
やったら大問題になるからやらんかったけど。
気軽に親子喧嘩もできないのが王族って身分。場合によっちゃ、謀反だ国家反逆だとか言われるからね。やるなら人目がないところで。
とにかく、死者が出なかったのは不幸中の幸いだった。
死人が出てたら事はもっと大きくなってただろうからね。ミリアのやらかしも誤魔化せなかったかもしれない。
世間的には森の主たちが狩りするのはいいけど、ちょっと加減せい、と怒って来たことになってる。
実際には、ミリアのチート能力に関しての苦情だった。
「そっただ力、反則やないの。聞いてへんわ。ええ加減にしとかんと、怒るよ、ほんまに」と言ったところだろうか。
ただそのまま素直に報告するとミリアの責任問われちゃうからね。ちょっと曲げて、全体の責任ということにしといた。
だから、森では無闇に命を奪わない、森に感謝する、狩った動物たちを慰霊する、って流れになった。
王家としては森に棲まう怪物たちを敵とはせず、奇妙な隣人として一定の理解を示す形。ここで権威に拘って討伐だ、とかアホなこと抜かすなら僕としては面倒臭いことになるところだったけど、パパンはそこまで馬鹿じゃなかった。
狩猟祭をやめることはない。だが、森という資源の宝庫保護のためにも乱獲は禁止。元から王家の管轄の森だからね、それをより厳しく管理する、みたいな形。
自分のプライドや権威のためだけに相手にするには、あの怪物たちは厄介だと判断したんだと思う。
騎士たちの証言もあったから、少々の討伐隊じゃ手に余ると理解したんだろうね。国を挙げて森の怪物と敵対してもメリットは少ない。森の権利は俺にある、他は認めない、ってことで挙兵してもいいけど、あんな怪物を討伐するならこちらも相当な被害を覚悟しないといけないし、それで得られるのは自国の森に怪物が棲まうことを認めなかった、ということだけ。
実利は薄いどころから、損失が大きいだろうね、そんなことしたら。
平和な時代であっても、うちの国がそんなアホなことで兵力を損耗して弱ってたら、隣国とかが黙ってないだろうね。そんな確変大チャンス、見逃すなら為政者じゃない。
軍を動かし、兵を死なせる理由としては弱いんだよね。森の怪物退治ってのは。
怪物が民を襲ってるなら話は違うけど、今回はちょっと警告して来ただけだから。
まあ、僕が殺されたりしたらまた話は全然違っただろうけど。
そっちは一応の決着でいいと思う。僕が指揮を執って今度から狩猟祭最終日に供物を捧げないといけないのが面倒ってだけで。
問題はミリアだった。
活きの良い少年にしか見えなかったミリアは、あの大蛇が余っ程恐かったのか、あれ以来すっかり塞ぎ込んでしまった。
どころか、直後から僕にべったりで離れようとしない。
僕が離れるとパニックを起こして、僕が戻るまで収まらない。
父親の伯爵もすっかり困って、暫く僕のところで預かってくれないかと言って来た。将来はどうせ僕に嫁がせるのだから問題はない、と考えたみたい。
いいんだけどね。ミリアがそれで落ち着くなら全然構わないんだけどね。
離宮に戻ってから暫くは、なんだか凄く気まずかった、いや、僕がリアルテに対して。
浮気した夫って、こんな気持ちなのかな、と思いながらミリアを連れ帰ってリアルテに引き合わせた。うん、あんなの二度と御免だね。
浮気したわけじゃないし、病人の治療みたいなものであって疚しいところはなにもないんだけど、非常に心苦しかった。
それに、ミリアはほんっと僕にべったりだったから。
事情を話すとリアルテは分かってくれた。年齢の割に聡い子だから。
それでミリアの面倒をみるのにも協力してくれるようになった。
……でも、僕がミリアと一緒に帰ったとき、リアルテの眼が一瞬鋭くなって冷たい色を浮かべたのを僕は見逃してないよ。うん、小さくとも女の子だね。怒らせちゃ駄目だ。




