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可愛い婚約者は、どこか変  作者: S屋51
幼少期

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狩猟祭 2日目 その7

「ミリア、気分悪いなら戻って休む?」

「だ、大丈夫だから」

 やせ我慢だな。顔が引き攣ってる。

 かと言って、戻れと言っても絶対に意固地になるしな。子供っぽ……いや、子供だから変なところで意地張るんだよね。

「殿下、よろしいでしょうか?」

 護衛騎士の1人が声を掛けて来た。その騎士の背後には案内人がいる。どうやら、なにか言いたいのは案内人らしい。案内人って身分的には平民、良くて下位貴族だからね。直接僕に物申すのは恐れ多いってことなんだろうね。僕は気にしないけど、貴族社会のルールは色々と面倒なんだよね。

「なにかあった?」

 僕は騎士にではなく案内人に直接質問した。

 僕に直接声を掛けられるとは思ってなかったのかな。案内人の中年の狩人は驚いた顔をしてから騎士と目線を交わして頷き合い、

「今日は、ここで終了としてはどうでしょう」

「どゆこと?」

 彼らの仕事は僕らの案内をすること。

 続行するかやめるかの決定権は僕ら、というか僕にある。そして、僕が帰りたいとでも言わない限りは彼らは黙って従う義務がある。

 僕に直接言うことすら躊躇う案内人が自分から中止を促すというのはなにか理由があるはずだった。疲れたとか、サボりたいとかはあり得ない。そんなことを言ったら首が飛びかねないのがこの世界だ。

 案内人はとても話しにくそうにしてもじもじしてる。いや、おっさんのそんな姿は可愛くないから。

「なにか理由があるなら言って。不敬に問うたりしないから」

 僕がそう免罪を与えると、案内人はやっと意を決したように口を開いた。

「さっき、倒木がありました」

「あったね」

 森の中だ。倒木もたまにはある。

「お気づきじゃねえかもしれませんが、こうね、倒木が3本重なってるってのは、あんまりいいことじゃねえんで」

 案内人は手で三角形を作る。

 気にしなかったけど、倒木がそんな形になってたのかな。

「この森にゃ化け物みてえな猪が何頭かおりやして、滅多には見ねえですし、この辺りにはいねえはずなんですが、ああいう倒木は昔っからそいつらからの警告だって言われとりますんで」

「警告?」

「あの猪どもは森の主だとか、精霊だとか言うもんもおりやして」

 猪神?

「狩りをしてると怒るとか?」

 いや、そんなことだったらこの狩猟祭自体が成り立たない。もっと前に問題になってるはずだ。

「そだったらことはねえです。ですが、森で無体を働くとあの猪どもに襲われる言うんが、この辺りの常識でして。

 だから、地元のもんは、ああいう倒木見たら」

「逃げるんだね?」

 案内人は、へい、と頷いた。

 森の主とか、そんなものいるか、って迷信扱いはできないんだよな、この世界。魔物ってのもね、いるからね。

 けど、これまでそんな話聞いたことないんだけど。

 でもなあ、普通の動物でもびっくりするぐらいビッグサイズがいたりするんよ。

 前にダンプカーぐらいのヤギ見たことがある。小さい頃のことだから、実際はそこまで大きくなかったかもしれない。それでも象ぐらいあったんじゃないかな。

 ヤギってすっごく冷めた眼してるんだよね。でっかい図体で、あの感情がない眼で見られると恐いのなんの。見た目が普通のヤギだったからまだいいけど、ダマスカスヤギだったら間違いなくチビってたと思う。ダマスカスヤギも子供の頃は凄く可愛いのにねえ。

 狩りの中止は大袈裟に思えるけど、この森の生態系に詳しくない僕には分からないことでも管理を任されてる地元の人間にとっては常識なのかもしれない。だとすれば、馬鹿馬鹿しいと一蹴するのは危険だ。

「足跡とかはないの?」

 それだけビッグサイズだと、しっかりしたものを残しそうなものだけど。

「足跡は、見つかることもありゃ、ないこともありますんで。足跡とか気配ねえからって油断してっと、急に目の前に出て来たりして、襲って来ますんで」

 足跡をつけずに移動できるとなるとやっぱり通常の動物じゃなく魔物の系統なのかな。

 転移系の魔法なんか使うんだと厄介だな。そんな魔法があるかどうか知らないけど、あり得ないとは言い切れないし。

 それとも足跡を消すだけの知能があるとか。

 熊だって、戻り足とか使うって言うしね。

 なんにしても、そいつらが出る前兆みたいなものが見つかったなら無視するのは危険かもしれない。案内人たちも不安そうだし。

 王子の強権発動で今日の狩りは終了すべきかな。ミリアもリーチェも、僕が言えば逆らえない。

 みんなの安全のためなら強権発動も仕方ないよね。

「レリー、下がって」

 案内人との話を終えて、決定を伝えるべく振り返ろうとした僕にリーチェの声がかかった。

 うん、ちょっと遅かったみたい。

 どこから来たのか。

 いつ来たのか。

 それが現れるまでたぶん誰も気付かなかったんじゃないかな。

 森の中だよ。

 でっかいものが移動したら絶対に木々にぶつかって物音立てるはずなんだけど、そういうの一切なかった。

 本当にね、急にそこに現れた感じ。

 この世界の生物学がどうなってんの?

 鼻先の高さが大人の顔ぐらいの位置にある猪って、大物って言うべき?

 まさか、この世でオツコトさんに出会うことになるとは思わなかった。


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