狩猟祭 2日目 その6
「はい、そこの虐殺姉妹。ちょっと止まろうか」
新たな犠牲獣を仕留め、更に次へ行こうとする二人の脳筋を呼び止める。
ミリアたちは、なに? という顔をして僕を振り向いた。
見た目だけは可愛らしい子たちなんだけどなあ。
君ら、今まで僕の存在も忘れてただろ。
「ちょっとペース落とそうか」
「ええ、なんでええ」
リーチェ、年上なんだからそんな不満顔を7歳児に向けるな。
僕は吐息して、
「なんでもなにもないだろ。君らは殺しまくるだけでいいけど、それらの後処理やる方の身にもなれ」
獲物を殺して放置はできない。
貴重なタンパク源なんだから、全部回収して食用に回さないと。
そのために案内人が処理をするけど、数が多いんだよな、この2人。で、今日は人足も3人増やした。それでも追いつかない。
ゲームなんかだと、どれだけ敵を倒してドロップ品があってもアイテムボックスとかあるし、なんなら放置してっても問題ないから楽だけど、現実はそうも行かない。鹿1頭を処理するだけで労力がかかる。
ミリアもリーチェもそういうの考え無しで次から次へと獲物を求めて仕留めてる。
2人とも貴族令嬢だからね、護衛や案内人たちじゃ文句も言えない。無計画に進む2人に必死でついて行くだけ。
結果、僕が制御するしかなくなる。
祭りなんだから楽しく遊ばせてあげたいとは思う。でもね、だからって仕事しててくれる人たちを省みないのは駄目。
正直な話、今のところは立場とかあって僕でも止められるけど、将来彼女たちが僕の妻という立場になったら、止められるかどうか自信がない。
ガチの腕っ節じゃ完全に負けてるしね。(家族に暴力なんて使う気ないけど)
1人でも勝てないのに、2人でタッグを組まれた日にはどうなるか。
……
あれだよね、僕の婚約者の中で僕が勝てそうなのって、シーラぐらい?
いや、あの子も聖女だから今後どれだけ力つけるか分からないからなあ。
リアルテは大魔王覚醒したら絶対勝てないだろうし。
え!?
ひょっとして、僕って最弱?
所詮奴は我がファミリー最弱、とか言われちゃう?
僕だって剣術も魔法も習ってるし、まだ伸び代あるよね? ……駄目だ。どれだけ伸びてもみんなに勝てる気がしない。
おかしい。みんな可愛いのに、なんで僕より強そうなん?
将来はのんびりスローライフしたいんだけど、みんなのパシリ?
君臨したいとか、亭主関白したいとかはないんだけど、最弱ってのもちょっと悲しくない?
……うん、みんなに尊敬されて、頼りにされるよう頑張ろ。戦闘力以外で。
「ええ、まだまだいけるのに~」
快進撃を止められて2人とも不満顔。
こういうところは子供だ。……いや、僕もだけど。
「良い機会だから、ミリアも解体を覚えなよ」
獲物の処理にかかろうとしていた人足が驚いた顔をした。いや、邪魔だろうけどこれ以上獲物増やされるよりいいでしょ。それに、学んでおくのは悪いことじゃないからね。
「ええ、面倒臭いよ」
ミリアが子供らしい反応を示す一方で、リーチェは、やるやる、と乗り気だ。
リーチェ、眼が爛々と輝いてるのが気になるんだが、スプラッタ趣味じゃないよね?
同行してる大人たちは安堵してるのが多い。2人のスピードが異常だから、手配が間に合わないんだよね。
大体、獲物の遭遇率もおかしい。
いくら獲物が多い森の中でも、5分歩けば獲物がいる、みたいな状態なんなん?
モンスターパレードでも起こってんのかってぐらい。
いや、そんなのに遭遇したらさくっと死ねるけど。
昨日、他のグループの話を聞いた限りじゃ、こんな異常事態にはなってない。獲物は毎年そこそこ獲れるらしいけどね。
まあ、御貴族様のお祭りのために管理されてるような森だから、優良な狩り場であるのは間違いないんだろう。
にしても普通じゃないよ、今日の遭遇率は。
レベリング推奨マップじゃないんだから。
見敵必殺できてるミリアたちも異常なんだけどね。
ミリアのコンポジットボウがおかしいのは分かってる。けど、リーチェが通常の弓で劣らない戦績なのはどゆこと?
さすがに貫通は真似できてないけどさ。
リーチェが引いてるのは僕には引けないレベルのものだ。リーチェだってまだ子供なのに、大人用の強弓って……。源為朝か。
そう考えると、ちょくちょくハグされるときは手加減してくれてるんだな、一応。いや、淑女として人前でハグとかあり得ないけどね。
……。
あの、リーチェさん。貴族の令嬢が、そんなに嬉々として動物を捌くのはどうかと思うんですがね。
やるよう促したのは僕だけど、いかん、リーチェが乗ってる。
獲物を狩りまくるのも令嬢としちゃアウトだけど、獲物を笑いながら解体するのは場外ホームランだ。まさか、リーチェがここまで血に酔うなんて予想外だし。
あれかな。最近は淑女教育とかも頑張ってると言うから、そのストレスの反動が出たのかな?
ミリアはスプラッタは駄目らしくて、さすがにちょっと引いてる。
獲物を解体するのも食育というか、僕らが食べ物を得るための大事な工程の1つとして学んで欲しかったんだけど、これはちょっとなあ。




