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公爵令嬢リアルテ・下


 婚約相手が好みのタイプってのは非常に運がいい。

 いや、幼女がタイプじゃないよ。リアルテは間違い無く美人に育つ。各パーツの形や配列からするに、僕の好みど真ん中だ。

 実はこの国だと黒髪はあんまり人気がない。僕は昔の記憶があるから、逆に好きなんだよね。

 リアルテは髪を派手に飾るのが好きじゃないのか、控え目だし。

 長い黒髪の良さがよく出てる。

「一応聞いておくけど、リアルテはこの婚約に不満はない? もしなにかあるなら、今は遠慮なく言ってもいいよ。僕が気に入らないとかでも、不敬には問わないから」

 僕はリアルテが気に入ってる。

 でも、僕だけが気に入ってても駄目だ。

 リアルテが僕をどう思ってるのかも大事。政略だからね、熱烈な愛情なんてなくていい。ただ生理的に合わないとか、そういうのがなければ。

 僕はとても彼女が気に入った。将来結婚するのが今から楽しみなぐらい。

 それでも、彼女の意志は尊重したい。王族同士の話だからね、じゃ辞めます、と簡単な話じゃないけど、彼女が嫌だというならできるだけのことはするつもりだ。

「不満はないのですが」

 どうしようかな、とでも言うようにリアルテはちょっとだけ、本当にちょっとだけ首を傾げた。

「なに? 遠慮は要らないよ」

 僕は紅茶を一口飲む。

 僕が厳選しただけあって美味しいお茶だ。お菓子はシフォンケーキ。

 美味しいお菓子と美味しいお茶。可愛い婚約者。とてもいい日だ。

「実は、私は将来大魔王になる予定なので、レリクス様の伴侶となるのは難しいのではないか、と」

「そっか、魔王になる予定があるんだね……」

 ………………

 ………………

 今、なんつった?

 危うく紅茶でマーライオンするところだった。

 冗談、かと思ったけどそんな冗談言う子じゃないし、当人は涼しい顔でお茶飲んでるし、後ろの侍女さん真っ青になってるし……。

 ああ、たぶん本気なんだ。

 で、日頃からそういう言動をしている、と。

 侍女さんは事情を知ってたんだろうね、きっと。で、お嬢様には僕の前でそういう話はしないように言い含めてあったのに、どういうわけかリアルテ嬢は言ってしまった。

 侍女さんはお嬢様を止めたいだろうね。

 でも、僕の前で勝手な発言や行動をするわけにも行かないから、ただ真っ青になってるわけだ。

 しかし、どういう意味だろう。魔王になるって。

 大魔王は建国神話に出て来る。

 魔物を率いて大地を支配し、人々を苦しめていた存在。

 子供でも知ってるお伽噺。

 大人びて見えたけど、リアルテ嬢はそういうのを信じてるんだろうか。

「魔王というと、建国神話の?」

「魔王ではなく、大魔王です。魔王は全部で47人」

 赤穂浪士かな?

「そのトップです」

 うん、それは僕も知ってる。

 魔王って言うと47人を指すけど、大魔王となるとたった一人。

 にしても多いな。ああ、でも、ソロモン王の悪魔は72体、全部魔王って呼ぶこともあるっけ。

 それに比べれば少ないか。

「それで、どうしてリアルテが?」

「どうしてというか、そう生まれたからです」

 リアルテの表情は変わらない。つまり、無表情。

 ううん、なに考えてるか分かんないな。

「そっか、大魔王になるのは変えられないんだ」

「はい、決まってることなので」

 厨二病かな。

 そういう感じでもないけど。

「それで、僕との婚姻になにか問題がある?」

 今度ははっきりと小首を傾げた。

「大魔王ですから」

「大魔王ってさ、なにをするの?」

「さあ。特には決まっていません。ただ、大魔王として覚醒することだけが決まっています」

 なんでそんな風に思い込んだんだろ。

 深窓の令嬢が抱く妄想って言うと、こう、もっと甘ったるい、白馬の王子様的なものが普通なんじゃないかな。

 いや、そんなお花畑な子でも困るけど。

「なら、別に問題ないんじゃない?」

「……そうでしょうか?」

「うん、だって公爵夫人、あ、僕は多分今は絶えてしまった公爵家を再興させることになるから、君は必然的に公爵夫人ね。

 で、公爵夫人になる条件に大魔王は駄目ですってのは国法にもないからさ」

 そんなことが書いてある法律は、たぶんどこの世界にもない。

 リアルテが首を傾げて考え込んでる。

 ひょっとして、僕は凄いレアな光景を見てるのかも。

「それとも、大魔王は結婚しちゃ行けませんとか、そういう決まりがあるの?」

「いえ、無いと思います」

「なら、問題無しだ」

 問題大ありです、と周囲の大人達が声に出さずに総ツッコミして来る。

「大魔王ですから、47人の魔王を従えますよ」

「いいんじゃない。公爵家だもの。使用人がそれぐらいいても、どうにかなるよ」

 僕の侍従から物凄くなにか言いたそうな雰囲気が伝わって来る。

 リアルテとの婚約は見送れとでも言いたいのかな。

 嫌だよ、こんな可愛い子。

「そういう問題でしょうか?」

「そういう問題だよ」

 うん、全然違うだろうけど、いいよ、どうでも。

 この話がリアルテの想像なら結婚する頃には黒歴史になってるだろうし、本当だったら……まあ、いいんじゃないかな。

 リアルテは可愛いから。

 可愛ければ、他のことは全部些細なことだよ。


可愛いは正義!!

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