狩猟祭 1日目 その7
ミリアはとても満足してる。どうしてそんな威力が出るかさっぱり分からなくても気にならないらしい。
拳銃の仕組み知らなくても、撃って当たりゃ問題ない。そんな感覚なのかもね。
作った僕としては気になるけど、調べてもなにも出ない。
「ほら、あれだよ。ボクとレックの愛の力」
意味分かって言ってんのかね、この子は。
しかし、冗談抜きでさっぱり分からないな。
もしかして勇者補正によるパラメータ上昇?
そんなものあるかどうか知らんけど。
リアルテは大魔王、シーラは聖女。
僕やリチャードはミリアは勇者じゃないか、と勝手な憶測をしてる。
これはミリアの王子様っぽいルックスからの話であって、そもそも勇者がいるのか、それがまたもや僕の身内なのか。
なんの根拠もありゃしない。
ミリアは、確かに幼馴染みの中では一番勇者っぽい。
剣術も馬術も僕より先を行ってる。
それでもね、子供なんだ。
ミリアの身体能力が高いのは周囲の大人も認めてる。
でも神童ってわけじゃない。飽くまでも、同年代の子供に比べては、というだけの話だ。
そういう意味じゃリーチェの方が余程バケモ……神童だろう。
そう言えばリーチェは案の定というか、予想通りというか、夕飯のときに僕のとこへ来てベソかいてた。
僕が貸してあげたコンパウンドボウを壊したからだ。
耐久性は疑問だったし、リーチェの馬鹿力で大丈夫かと思ってたよ。それに、通常の弓と違う注意点もあるからね。
リーチェに貸した時点で無事戻らないのは想定内。
まだテスト段階のものだから壊れたことにはなんの問題もない。怪我がなくて良かったと言ったら抱き付かれた。
淑女教育が仕事してない。
僕より年上なんだから、もう少しなんとかならんかな。
婚約者になったことで前よりもスキンシップに恥じらいが……前からあんなものか。
「ところでミリー、いつまで居るんだい?」
手入れも終えたのにミリアは退出する気配がない。
「?」
「いや、もう夜なんだから、自分のところの天幕に戻らないと」
ミリアのところの伯爵家も来てんだからさ、親のところへ帰りなよ。
「今日はここに泊まる」
へえ……って、聞いてないから。
「ミリー、もう小さな子供じゃないんだよ」
……いや、まだ小さな子供だった?
以前は良くお泊まり会みたいなのしたな。
ミリアとシーラが僕のところに泊まって、夜更かしして遊んで怒られて。
さすがに最近はなくなった。
そらそうだよね。
男女7歳にしてって言葉も……こっちではないけど、そういう考えはある。
「お父上に怒られるよ」
「なんで? レックのところで寝るって行ったら、頑張って来いって」
保護者はちゃんと児童を保護してください。
というか、頑張ってってなにをだ。子供になに期待してる。
ミリアは意味も分かってないだろ。
ミリアにしてみれば、僕はまだお友達なんだよ。そりゃ婚約者だなんだってことは知ってても、男女って意識が薄い。
だから無防備なんだけど、このぐらいの年齢ならそうだよね、普通。
リアルテも寂しいと僕と一緒に寝るし、それが悪いことだとは思ってない。子供同士がそういうじゃれ合いするだけなんだけど、親は監督しないと。
いつまでも子供じゃないんだから、このまま成長して間違いでも起こったらどうすんですかねえ。
……そのときは、僕が手順は踏めって怒られるだけで特に問題にならないな。
子供に興味ないし、僕だって子供だからまだ性欲的なものないけど、お互い思春期に入ったら自制できるか不安だ。
そうなっても、ミリアは男友達、って感じで居そうだけど。
「それに、ここの方が広いんだよ。さすが王族だよね」
そら、腐っても王子様だからね。
簡易ベッドの敷物もふかふかだし、ランプを贅沢に使ってるしね。
ランプ、というか油が結構貴重品だから庶民じゃ天幕にランプを持ち込むなんてできない。そもそも天幕無しの野宿が普通。
ランプだってね、まだ出回ってないよ。
あるにはあるけど、油じゃなくて蝋燭仕様。
照明=蝋燭
が主流だからね。
高価な油のうち更に高値の植物油を使ってるのは王宮ぐらいじゃないかな。
普通は皿に油入れて、芯を浸して火をつける簡素なもの。
言うなれば灯明だね。
そして油の種類によっては臭う。そのせいか、蝋燭の方が普及してる。
ランプ、それもガラス製のランプってものがなかった。
ここに持って来てるカンテラも僕の作。
一般的なのは拡声器みたいな形したものの内部に蝋燭って構造のだね。
ガラス自体がまだ贅沢品だから仕方ない。
王子権限で割と高価なものでも生活用品として使えるのは幸いだった。
ここには他の王子様たちはいないし、余計僕の扱いが丁寧になる。
それも独立するまでだけどね。
地方に行っても大貴族ではある。庶民とは比べものにならない生活はできる。
でも、さすがに王族並の生活は無理だろう。
いやいや、この水準を超えるものが普通になるように国を富ませればいいんだ。
発想の転換だよ。
文化水準が低いのが嫌なら上げてしまえばいい。
一朝一夕でできることじゃないけど、もう暫くは時間があるからね。
長兄が王位を継ぐタイミング、或いは長兄に子ができるタイミングで僕は王子ではなく臣下に成り下がる。
王宮を出ちゃえば完全にただの貴族。王族とは一線を画する。
血縁である事実は消えないとしても、法的には臣下。
長兄と会うにも色々と手続き踏まないといけなくなる。
そうそう会う用事もないだろうからいいけど。
次兄はどうするんだろ。
形式上臣下になるのは一緒でも、王宮に残って要職に就くのかな。そういうのが普通だからね。
リアルテのところの公爵家もそう。
王弟であり公爵でちゃんと仕事上の肩書もある。
この前の騒動で要職からは離れるっぽいけど。
「レック」
「ん?」
考え事してたらミリアが僕を見てた。
「レックはあれだよね。時々考え事に夢中になると周りが見えなくなるよね。
お菓子を前にしたシーラみたいに」
それには異議申し立てたい。
野生の子リスみたいなのと一緒にしないで。
「そろそろ寝よう。明日もあるんだから」
「そだね。明日は熊を狙おうかな」
それはやめてください、お願います。
そのコンパウンドボウが異常なのは分かるけど、原理が分からないってのは、いつも同じ出力を得られる保証がないってことだ。
それに、急所外したらさすがにやばい。
熊さんに美味しく食べられたくないです。
「おやすみ」
僕はランプを消す。
ベッドは1つでも大人サイズ。
僕ら子供なら2人でも余裕で寝れる。
はしゃいでいて疲れたのか、すぐに隣から寝息が聞こえて来た。
ミリアの呼吸のリズムを聞いているうちに僕にも眠気が訪れる。
こっちの世界では、こういうのを眠りの妖精が……
眠りの妖精がどしたん?




