狩猟祭 1日目 その4
「それよりさ」
話題を変えるなよ。
「ボクはいつになったらリアルテ嬢に紹介して貰えるんだい?
シーラはもう会ったんだろ?」
リアルテは人前に出して貰えなかったからね。
そりゃミリアたちだって正式に社交界に出てはいないけど、子供だけの集まりとかで同世代にはそれなりに知り合いがいる。
会ったことのない人でも、2、3人介せば情報は集まる。
普通なら。
リアルテは噂話もあんまり出回ってなかったからね。
なのに『人形姫』って、褒め言葉かどうか微妙なのは知られてた。
誰かの悪意によるものだろうね。
そんなリアルテを僕が王宮に引き入れたって話はすぐに広まって、それを聞きつけたシーラが紹介して欲しいと言ったからこの前引き合わせた。
別に隠しちゃいない。
あの子の場合、とにかくお茶会したかった、お菓子食べたかった可能性も微レ存。いや、もっとあるか。
「そのうちね」
「えらくもったいつけるね」
「そんなつもりはないよ。ただ、僕は忙しいんだよ」
「別にレックはいなくてもいいんだけど?」
「リアルテはちょっと人見知りするから、最初は僕抜きじゃ駄目」
リアルテは人との交流が苦手なところがある。
侍女のラーラによれば、僕とのお茶会であれだけ喋ったのも驚きだったとか。
育った環境を考えればそういうのも仕方ないかもしれない。
「シーラが言うには、綺麗で素敵なお姉さま、だったと妙に懐いてたけど?」
「それは別に会話が上手だったとかじゃなく、単にリアルテが自分の分のお菓子をシーラにあげたからだよ」
「ああ、餌付けか」
シーラのことを良く知るミリアは余計な説明せずとも納得してくれた。
こういうところ、幼馴染みは楽でいい。
シーラとリアルテのお茶会。
結果としては成功だったんだろうけど、内容的にはかなり一方的だった。
リアルテは必要な受け答えはできる。けれど、自分から率先して会話を弾ませるタイプじゃない。
一方シーラは言わなくていいことまで思い付いた言葉を全部口にするところがある。
シーラがほぼ一方的に喋って、リアルテは頷いたりするだけ。
会話というか、独演会というか。
僕はリアルテの精神安定剤代わりとして隣にいるだけで、極力会話を邪魔しないようにしてた。シーラにも置物と思うように言っておいたら、本当にガン無視された。シーラさん、さすがにちょっと寂しかったよ。
自分から言った手前、僕から会話に入るわけには行かなかったから余計にね。
話が途切れたと思えば、シーラは自分のお菓子を食べ尽くしてしまい、まだ手つかずだったリアルテのお菓子を物欲しそうに見ていた。
令嬢にあるまじき振る舞いだけど、まだ小さいからね。
もう少ししたら、そういうの駄目だと言わないといけない。いや、家ではそう躾けられてるはずなんだけどな。
いつもなら僕の分を上げるところだったけど、リアルテが自分のをあげちゃった。
マナー的には問題ありでも誰も咎めなかった。閉鎖空間での、それも子供同士の些細なことだからね。
シーラの善悪は簡単だ。
お菓子をくれる人=いい人
シーラにとってお菓子は凄く大切な宝物だから、それを分けてくれる人はいい人に違いない、というロジックなんだと思う。
そういう経緯でシーラにとってリアルテは優しいお姉さんになった。
いや、いいんだけど。
シーラはどこまで食い意地が張っているのか。
あの子だって令嬢なんだけどね。
食いしん坊でお喋りで、しょうのない可愛い婚約者。
本質が善性だから嫌味がなく、大抵の人には好ましく迎えられる。
持って生まれた性分で得してるんだよね、あの子は。
シーラとリアルテの発した言葉の比率は10:1ぐらいかな。
いや、20:1だったかもしれない。
しかもリアルテは相槌を打つ程度の言葉だから、一言がとても短い。
「大丈夫? あの子の相手は疲れたろ」
シーラとの茶会が終わった後でリアルテを労ると、彼女は僅かに頬を緩めて首を横にゆっくりと振り、
「とても、お可愛らしい人です」と呟いた。
まったく性質の違う2人。
けれどリアルテはシーラを気に入ったようで、シーラもリアルテに懐いた。
まあ、小動物系だからね、シーラは。
リアルテはペット感覚で気に入ったのかもしれない。
なんにせよ、反発するよりは上々の結果だった。




