狩猟祭 1日目 その2
武官と言えば、今日はリーチェの護衛はお休み。
何故かと言えば、騎士団の馴染みたちと参加してるから。
「一番の獲物を殿下に捧げます」だって。
僕も参加者ってこと忘れてないか?
リーチェが一番を取ると、僕は2位以下ってことになるんだが、そこは主人に譲らんかね?
リーチェにそんな気遣いなんて高等技能求めるだけ無駄だろうけど。
って、リーチェ、こっち見て手を振らないように、恥ずかしいから。
僕より年上なのに、残念系美少女のリーチェは、なにか思うところがあったらしく最近では淑女教育も真面目に受けているらしい。
その効果がまったく見受けられないけど。
それでも騎士団長はこれも僕のお陰だと顔を合わせる度にいつもは厳めしい顔をほころばせて礼を言って来る。
武勇に優れた鬼の騎士団長さんも娘には手を焼いてたみたいだから、まあ、良かったね。
長兄のお相手予定だった頃より、今の方が生き生きしてるらしい。
長兄は立場もあってかちょっと神経質なところあるからね。リーチェの相手は大変だったと思うよ。
王太子の側室なんかになるよりは僕のところへ来た方が長兄にもリーチェにも良かったってことだね。
……僕だけババ引いてない?
いやいや、ババなんていくらなんでもリーチェに悪いよね。
見た目だけは美少女なんだから。
うん、見た目だけは。
…………ほら、リーチェもまだまだ子供だし、これからだよ、これから。
大人になる頃には立派な淑女……までは望まないから、もう少し常識と落ち着きを身につけてくれる、と嬉しいな。
つけてよ、お願いだから。
今日のリーチェは僕用に作ったコンパウンドボウを持ってる。
僕はクロスボウを使うことにしたからね。
ミリアのコンパウンドボウを見たリーチェがもの凄く物欲しそうにしてたから、無言のお強請り上目遣いに根負けした。
絶対に人に貸したり、騎士団でバラして研究しないと約束させてね。
ただね、サイズが子供用だし、張力も僕が扱えるようにしてある。リーチェの馬鹿力に耐えれるかが心配。
当然威力も弱めだしね。
機巧での補助があるから保持は楽だけど、引くにはやっぱり相応の力は要る。
それでも狐程度なら問題ないとは思う。
テストも最低限しか出来なかったからデータ不足。
騎士団に触らせないのは、そういう理由もあるんだ。
いつかは広まる技術でも、もう少しテストを重ねてからにして欲しい。
できれば、こういう狩りや競技のためだけに使って貰えるとなおいい。
まあ、複雑性から戦場には向かないものだと思うけど。
しかし、あれだね。
リーチェと話してるとどっちが子供か分からなくなる。
僕より年上で、身体も大きいのに、中身は子供だから。
「殿下が老成してるだけですよ」
リチャードはそんな失礼なことを言ってたかな。
年齢より落ち着いてると言って欲しいね。
どうにも、みんな僕に対して結構無礼だよね。
堅苦しいよりゃいいけどさ。
時々うっかりするんだけど、僕だってまだ子供なんだよね。
多少のことは見逃して欲しいよ。
僕だって婚約者たちに完璧は求めてないよ。みんな、まだ子供なんだから。
でもさ、
リアルテ=大魔王
シーラ=お喋り食いしん坊聖女
リーチェ=ポンコツ脳筋
なんで、こうも癖のつ……個性的な面々ばかりなのか。
貴族令嬢って普通の子いないの?
そりゃさ、みんな良い子だよ。嫌いじゃないよ。
でも、なんかさ、こう……。
普通を求めるって、そんなに高望みでしょうか?
みんな、家柄もいいし、見た目もいい子たちです。贅沢なのは分かってます。決して彼女らが駄目だというのではありません。
でも、でも、でもですよ。
1人ぐらい普通の子、いませんか?
国王の挨拶も終わって参加者たちがそれぞれ定められた区画へとばらけて行く。
好き勝手に狩りをするとお家同士の衝突にもなりかねないから、いくつかに分けられてるらしい。
大物狙いか、そこそこ楽しむだけか。
熊や狼系の危険生物はこの狩猟祭で数を減らすのが目的になってる。
人や家畜を襲うのは殖えすぎると困るからね。
全滅かってぐらい狩っても、中々そうは行かないみたいね。
まあ、全滅させたら全滅させたで生態系がおかしくなりそうだけど。
「レック」
普通じゃない婚約者の筆頭格が爽やかな笑顔とともにやって来た。
身体は僕より少し大きいだけなのに、馬をなんとも巧みに操ってる。
どこかの王子様、にしか見えないオーラを振りまきながら親友にして悪友が近づいて来る。
はっきり言って、並んでると僕の王子様としての存在感が酷く薄くなるんだよね。
っつか、リーチェもそうだけど、そんな風に呼ぶのを許可した覚えないんだけど。
レックと聞くと、昔々観たホラー映画思い出すんだよね。
あれ、僕のこと普通に名を呼んでくれる婚約者って、ひょっとしてリアルテだけ?
一応シーラは名で呼んでくれるけど、「お兄さま」が優先だし。「お兄さま」だけのときも多いし。逆に「レグルスさま」は無いな。
いやいや、問題は僕が認めてない愛称で呼んでること。
レックとレリーとか。僕は一度もそれを許可してないのに勝手に使ってる。
普通なら目くじら立てるようなことじゃないけどさ。王族なの、僕は。体面はとっても大事なの。
僕だけの問題じゃなく、王族の権威の問題にもなりかねないからね。
何度注意してもやめてくれないし、大人どもはにそにそして見てるし。
「またなにかグダグダ考えてるだろ」
あ、心を読まれた。
はいはいしてた頃からの付き合いだから、お互いに多少は相手の考え分かる、か。
「レックという呼び方についてだよ」
「いいじゃないか、ボクとレックの仲なんだ」
「どういう……いや、婚約者だけどもさ」
「なら、愛称で呼んでもなんの問題もないじゃないか」
端から見ると少年同士がじゃれ合ってるようにしか見えないだろうけど、こいつ女だから。




